ミュージカル「アメリ」、“近づかないで、離れないで”、不器用な恋愛模様は温かくて優しくて

 

渡辺麻友主演のミュージカル「アメリ」が開幕した。舞台上のセットはモノトーンのおしゃれなイラスト調で、開演前の音楽が、フランスっぽい、手回しオルガンのような音色、開演5分前の鐘の音もなんとも風情がある。それから曲調が変わり、始まる。まずは子供のアメリ、おかっぱ頭が可愛らしく、テンポよく、ストーリーは進行する。学校に行かなくなった理由や金魚のエピソード、母親の突然の死などがスピーディに展開する。

 

そして時は流れて1992年、アメリは大人(渡辺麻友)になった。子供アメリと大人アメリが同じ舞台上に立って会話、ここは舞台ならではのマジックだ。学校にも行かず、同世代の友人もいないアメリが、なんとスーツケースを持って家を出る。そしてパリのモンマルトルのカフェで働くことに。アメリの言葉でカフェの同僚や常連客が歌で語られる。皆、個性的でユニークな面々だが、心優しい人々だ。コミュニケーション下手なアメリだが、持ち前の空想力が彼女らしさ。そして、この年、フランスにダイアナ元皇太子妃がやってきて、あの世界的悲劇が起こる。それをテレビで観るアメリ。彼女は思う、人を助けたい、幸せにしたい、と。アメリの一種のレボルーション、映画でもそうだが、突然のインスピレーション、一見、奇抜な感じもするが、誰でも直感で「これだ、きっと!」と思うことはあるだろう。そんな共感も感じる。

 

振付も可愛らしく、楽曲はキャッチー、特にエルトン・ジョンが出てく下りは、楽曲が、あの時代のエルトン・ジョンっぽいメロディーラインで、作曲家の洒落が効いている。ノリノリのシーンなので、ここは目一杯、楽しんだ者勝ちな場面だ。通路から白い衣装を着た聖歌隊風味な人々が登場するので、賑やか。あの時代の大きなメガネをかけて歌うアメリ、なんだか楽しそう。

 

それから、映画を観た人なら知ってる、あのスクラップブックのエピソード。この写真に心惹かれるアメリ。スクラップブックとまではいかなくても、「これの所有者はどんな人なんだろうか」と思う瞬間は誰でもあるに違いない。例えば、ハンカチなど、その人の趣味や性格が垣間見えることはよくあること。そんな『小さな発見』はともすると人生を大きく左右することもなきにしもあらず、だ。

 

そしてそのスクラップブックの持ち主であるニノ(太田基裕)、大事な大事なスクラップブック、そんな彼もまた純朴で不器用な青年だ。“アメリが誰かに恋してる”、カフェで働く仲間や常連たちは薄々気がつく。風変わりでちょっとイっちゃってっる感のある人々だが、性根は優しい。そして映画でも印象的な「矢印」のシーン、コミカルでアップテンポに展開、とにかくほとんど歌が途切れず、次々とよく知っているシーンが万華鏡のように出てくる、出てくる。映画でも出てくるが、ルノワールの絵の老人(藤木孝)、一風変わっていてちょっと仙人ぽいが、彼の言うことは蘊蓄がある。ところどころで子供アメリが登場するが、アメリは様々な気づきをする。したり顔の子供アメリ、こういった見せ方は場面の輪郭をはっきりさせてくれる。

 

 

そして、2人の出会いまで、映画もそうだがなんともまどろっこしく、「いつになったらリアルに会えるんだ?」という、この時間のかかり方が「アメリ」、時間がかかる方が観ているこっちも色々と空想できる。そんな出会い方もいいもんだと納得してしまう。

恋に奥手なアメリとニノ、「近付かないで、離れないで」と歌う下りは妙に共感できる心情だ。

結末なんか改めて言うのも野暮というもの。気になるなら劇場へ!

主演の渡辺麻友、AKB時代よりも歌唱力がアップした感があり、今後もミュージカルシーンで活躍してくれそうな予感。相手役の太田基裕、ミュージカル「手紙」など、多くのミュージカルに出演、安定した歌唱力と演技、その他のキャスト陣は一人で何役もこなす。皆、芸達者で七変化、縦横無尽に活躍する。映像はアクセント的な使い方で、絵画的でポップ。なお、生演奏なので、じっくりと音楽も堪能したい。

王道なミュージカル、観た後はきっとちょっと幸せにハッピーになれる、今年の上半期のミュージカルの注目作品であることは間違いない。

 

なお、ゲネプロ前に簡単な囲み会見があった。登壇したのは渡辺麻友、太田基裕、演出の児玉明子。渡辺麻友は「まだ、先だと思ってたのに・・・・・・緊張と不安と・・・・・・頑張ります!」と正直なコメント。太田基裕も「いよいよ開幕、『アメリ』の世界観を・・・・・・不思議な舞台になると思います」とコメントしたが、なんともファンタジックな舞台、その不思議とも言える世界観、「アメリ」ならではの、ちょっぴりシュールな世界も感じられる。演出の児玉明子は「映画の世界観をどうわかりやすく舞台で表現するか、ですが、(皆さんの)頑張りもあって幸せな気持ちになったりしますが、そんなところが見どころです」と胸を張る。続けて「麻友ちゃんの成長があって、これから公演を重ねるごとに成長するので・・・・・・」と言ったところで渡辺麻友は恐縮しきり。また同じ舞台に上がる、とは言ってもAKBの現役時代とは少々勝手が違うようで、またAKBという看板が外れたことに対して「不安は大きいけど、やっていかなきゃ。舞台は生もの、自分自身が楽しむことも大事」と自分に言い聞かせるように語ったが、やはりAKBの中心メンバーだっただけあって臆することなく堂々とした演技であった。最後に公演PRということで「『アメリ』、本当に素晴らしい作品になっています、素敵に仕上がっています、心が温かく、幸せな気持ちに!是非、ご覧になってください!」と締めて会見は終了した。

 

映画『アメリ』

2001 年に公開された映画『アメリ』は、フランス映画としては稀にみる大ヒットを 記録した作品で、2001 年 4 月末にフランスで公開されると、1 週間で 120 万人もの観客を動員し、7 月には動員 800 万人を超している。日本でも興行 収入は 16 億円を突破。パリのモンマルトルを舞台に、空想が大好きな ちょっと変わった女の子アメリの日常と恋をチャーミングに描いた心温まるロマンチ ックコメディーで、この物語は多くの人の共感を呼び、クレーム・ブリュレをスプーン でたたく人や髪型をまねる人が続出し、一躍社会現象となった。

ミュージカル『アメリ』

映画に基づいて作られたミュージカル『アメリ』は、2017 年 4 月に米ブロードウェイで上演された。 この時のアメリ役は、フィリッパ・スー。ミュージカル『ハミルトン』で主人公の妻を演じ、トニー賞にノミネートさ れた実力派ミュージカル女優である。脚本は『巴里のアメリカ人』『キスへのプレリュード』等で知られる劇作家のクレイグ・ルーカス、音楽はミュージカルオリジナルで、米ブルックスのネオフォークバンド『Hem』の作曲 &キーボード担当のダン・メッスが手がけている。なお、ミュージカル版『アメリ』の初演は 2015 年秋、米バークレーで上演されており、この時のアメリ役は映 画『レ・ミゼラブル』(2012 年)でエポニーヌを演じたサマンサ・バークスであった。

 

<物語>

想像力は豊かだが、周囲とのコミュニケーションが苦手な少女・アメリは “妄想の世界”が一番の遊び場だ った。22 歳になり、モンマルトルのカフェで働いている今でも、周りの人々を観察しては日々想像力を膨ら ませて楽しんでいたが、ある出来事をきっかけに、他人を幸せにすることに喜びを見出し始める。 彼女なりの方法で他人を幸せにしていくアメリだったが、自分の幸せにはまったくの無頓着だった。 ところが、スピード写真のボックスに残された他人の証明写真を収集している不思議な青年ニノに出会っ たアメリは、たちまち恋に落ちてしまう!しかし、自分の気持ちを素直にうち明けることが出来ず――

 

【公演概要】

ミュージカル『アメリ』

期間:2018年5月18日~6月3日

会場:天王洲・銀河劇場

期間:2018年6月7日~6月10日

会場:森ノ宮ピロティホール

原作:『アメリ』

(ジャン=ピエール・ジュネとギヨーム・ローランによる映画に基づく)

脚本:クレイグ・ルーカス

音楽:ダニエル・メッセ

歌詞:ネイサン・タイセン&ダニエル・メッセ

翻訳・訳詞:滋井津宇

演出:児玉明子

音楽監督:斉藤恒芳

企画・製作:ネルケプランニング

キャスト:渡辺麻友

太田基裕、植本純米、勝矢、伊藤明賢、石井一彰、山岸門人、皆本麻帆、野口かおる

叶英奈(Wキャスト) 藤巻杏慈(Wキャスト) 、明星真由美、池田有希子、藤木孝

 

公式サイト: http://musical-amelie2018.com

公式 Twitter: https://twitter.com/musical_amelie

 

©ミュージカル『アメリ』製作委員会 2018

 

文:Hiromi Koh