
劇団スタジオライフの代表作『トーマの心臓』が上演中だ。
1974年に発表されてから今尚、読み継がれ、愛され続けている萩尾望都作品『トーマの心臓』 。
スタジオライフは 1996年の初舞台化から繰り返し上演を重ね、劇団結成40周年のスタートに、一挙手一投足を至近距離で晒し、息つく暇も許されない緊密な緊張空間である小劇場、なにより『トーマの心臓』初演の舞台であるウエストエンドスタジオで11度目の再演、まさに原点回帰。メインキャストに若手を起用し、次世代への扉をウエストエンドスタジオから、演者と観客が境を越えて一つになれる小劇場ならではの密接な空間で。
ほぼ何もない空間、スタジオライフはキャストのパターンが複数あるので、演じる俳優の組み合わせで空気感が違ってくる。『トーマの心臓』は今回は3チームだが、オスカー役(鈴木翔音)とエーリク(千葉健玖)はシングルキャスト。
安定した演出、物語の設定は1974年、今からおよそ50年前、原作が発表されたのも1974年。これだけの年月が経過しているにも関わらず、色褪せないどころか、むしろ現代的な側面のある名作。ストーリーはトーマ・ヴェルナの自殺から始まる、という衝撃的な出だし、列車の爆音。よってタイトルロールのトーマはそのあとは一回も出てこないが彼の死が登場人物たちの”人生”を翻弄する。そのトーマにそっくりの転校生・エーリク、皆、はっと息を呑む。だが、性格は自由奔放で思ったことを口にするタイプ。
メインキャラクターはユリスモール、エーリク、オスカー、この”カルテット”にシュロッターベッツ・ギムナジウムの面々が絡んでいく。キャストが若手起用になっており、演技に勢いがある。特にフェンシングでの対決シーンは相当稽古を積んだ様子で、アクロバット的な機敏な動きも見せて迫力満点。また、”生徒4人組”のわちゃわちゃ感が楽しく、客席から笑いも起こり、4人4様の性格もはっきりしている。また、今までの公演ではメインキャストを演じていた面々が脇に周り、お茶会のシーンも客席から笑いが起こる。
深いテーマ、ユリスモールの黒い髪、彼の父はギリシア系ドイツ人、そのため祖母から疎まれる、自分に向けられる差別に対抗して優等生であろうとする。エーリクは母親とずっと2人暮らしだったため、少々マザコン気味、オスカーは兄貴肌、だが、彼もまた複雑な家庭事情を抱えている。オスカーが好きなアンテ・ローエ、物語の後半に登場するサイフリート・ガスト、シュロッターベッツ高等部を放校された不良生徒、だが頭はすこぶる良い。どのキャラクターも”主人公”になり得るぐらい深い人物像。ここが作品の魅力であり、人が人を想う心も、人に見せたくない闇も丁寧に描いている。休憩なしのおよそ2時間半の上演時間、もっと細かく描こうとするとかなりの長い尺になりそうだが、そこをうまく舞台にのせて作品の真髄を見せる。萩尾望都原作作品では、この『トーマの心臓』を始め『訪問者』(オスカーがギムナジウムに来るまでの話)、『メッシュ』『11人いる!』『エッグ・スタンド』『なのはな』などを舞台化している。
ラスト近く、かたくなだったユリスモールは心を開く、自分の本当の想いをエーリクに打ち明ける、涙が流れる。舞台上の音楽で、もっとも繰り返し流れていた曲は「アヴェ・マリア」、ラテン語、直訳すると「こんにちは、マリア」または「おめでとう、マリア」を意味する言葉。澄んだソプラノの歌声が作品世界を彩り、透明感を醸し出す。少年たちの大人になりきらない、揺れ動く心と清々しいまでの澄み切った心が劇場いっぱいに充満する。公演は23日まで。
物語
冬の終わりの土曜日の朝、一人の少年が自殺した。彼の名はトーマ・ヴェルナー。そして月曜日、一通の手紙がユリスモールのもとへ配達される。トーマからの遺書だった。その半月後に現れた転入生エーリク。彼はトーマに生き写しだった。人の心を弄ぶはずだった茶番劇。
しかし、その裏側には思いがけない真実が秘されていた。
概要
日程・会場:2025年3月14日〜3月23日 ウエストエンドスタジオ
原作:萩尾望都
脚本・演出:倉田淳
出演
青木隆敏 鈴木翔音 千葉健玖 伊藤清之 前木健太郎 大沼亮吉 船戸慎士 曽世海司 笠原浩夫 藤原啓児
ミヤタユーヤ 馬場煇平(1 カラット) 横田陽介(舞夢プロ) 星野司 長岡悠輝(劇団ネコ脱出) 佐藤祐亮(トキエンターアライヴ)
※チームにより出演者・配役が異なります。配役詳細はHPを。
問合:03-5942-5067(平日 11:00-16:30)studio-life@studio-life.com
スタジオライフ『トーマの心臓』特設 HP:https://studio-life.com/stage/thoma2025/
劇団 HP:https://studio-life.com
※次回公演は『ガラスの動物園』、6月19日より29日までウエストエンドスタジオにて。
舞台撮影:宮坂浩見