
ミュージカル『薔薇王の葬列』が新宿のスペース・ゼロにて開幕した。
原作は菅野文によるファンタジー漫画『薔薇王の葬列』、シェイクスピアの有名な史劇『ヘンリー六世』と『リチャード三世』を原案とし、『月刊プリンセス』で2013年11月号から2022年2月号まで連載された。2022年にテレビアニメ版が放映、同年の6月にストレートプレイ化され、今年はミュージカル化。
白薔薇のヨーク家と赤薔薇のランカスター家の王位を巡る戦い「薔薇戦争」を描いている。シェイクスピアの原作ではリチャード三世は醜悪不具として描かれているが、ここでは男女両方の性を持つ人物として描かれている。
モノローグ、そして声が響く「悪魔の子」、そしてオープニング、この時代に生きた人物たちが続々登場、そしてジャンヌ・ダルク(明音亜弥)も、異端の判決を受けたジャンヌは、19歳で火刑に処せられてその生涯を閉じた。この物語ではジャンヌ・ダルクはリチャードが見る幻影。そして物語が始まる。
リチャード(飛龍つかさ)の父・ヨーク公・リチャード(良知真次)、威厳に満ちた風貌、めっぽう強い。リチャードは父のように強くなりたいと願う。ヨーク公はランカスター家から王座を取り戻すべくウォリック伯爵(鎌苅健太)と共に戦いを決意する。リチャードには大きな秘密があった。それは男女両方の性を持っているということ、兄弟すら知らない、母・セシリー(今井かなこ)は「悪魔の子」と罵る。ケイツビー(川上将大)は世話係、リチャードの秘密を知っているが、リチャードを支え続ける。リチャードは父が王冠を手にすることを強く望んでおり、父・ヨーク公はそんなリチャードを可愛がっていた。だが、戦乱の世、リチャードは森の中で羊飼いの青年と出会う。名前はヘンリー(RIKU(THE RAMPAGE)、冨岡健翔、Wキャスト)、優しげでソフトな印象の青年、お互いに何処か惹かれ合うものを感じるが、素性は知らない。ヘンリーはリチャードに言う「僕と友達になってくれないか」と。運命の出会い、平和な世の中だったら、と観客は思う。だが、薔薇戦争の真っ只中、イングランド中世封建諸侯による内乱、戦いに次ぐ戦いの日々。
陰謀、策略、欲望、王位を手中にするためなら、どんなことでもする、権力への欲望、王冠をめぐる血生臭い争い、そんな中でリチャードは両方の性の狭間で苦しむ。惹かれあった友達・ヘンリー、羊飼いではなく、宿敵、ランカスター家の当主・ヘンリー六世だった。彼は争いを好まない優しい性格、身分を隠していた。妻・マーガレット(天寿光希)に引きずられるようにしてヨーク家と戦っていた。そんな状況に嫌気がさしていたのは想像に難くない。羊飼い・ヘンリーでいるときは彼は”自由”。
物語はリチャード、ヘンリーが主要人物だが、彼らの傍にいる人物、主人公になりうるだけの”物語”を背負っている。だからサイドストーリーも目が離せない。ヨーク家の長男のエドワード(山田ジェームス武)、前向きな性格だが、女性好きで、美貌のエリザベス(傳谷英里香)を見初め、結婚。
だが、当のエリザベスの目的はなき夫の復讐に燃えており、ヨーク家を滅亡させたいと思う。その結婚はエドワードを王にしたいウォリック(鎌苅健太)の顔に泥を塗ることになる。こういった動きがさらに内乱を複雑なものにしていく。また、リチャードの母・セシリー、現代なら、いわゆる”毒親”、息子をネグレクト、こういった親子関係も影を落とす
舞台セットはシンプルで、転換もスピーディー、多彩な楽曲で物語を雄弁に語る。リチャード役の飛龍つかさ、佇まい、アクション、カッコよく、そして愁いのある表情が印象的。対するヘンリー、ゲネプロでは冨岡健翔、ソフトな風貌が役柄にピッタリで、時折、悲しげな空気感がヘンリーの哀しみを感じさせて好演。そのほか、川上将大演じるケイツビーの控えめさ、押しの強いキャラクターが多い本作の中にあって、アクセントに。
激しい気性のマーガレット、天寿光希が怖いくらいな王妃に。その息子・エドワード王太子(KANJI)、ヘンリーとは異なる形でリチャードと出会い心惹かれていくキャラクター、最後のシーンは印象的。鎌苅健太演じるウォリック伯爵の最期、瞬きできない。チームワークの良い座組、また総合演出・振付の良知真次、圧倒的な雰囲気でヨーク公・リチャードを。そして亡くなった後も登場、シェイクスピアの名作『ハムレット』の父の亡霊をイメージさせる。児玉明子の演出も冴えわたる。
物語は区切りの良いところで終わっているが、原作はまだまだ、その先がある。シェイクスピアの作品が原作だが、オリジナルな部分(特にリチャードが両性具有)も多く、仮に原作を知っていたとしても、先が読めない展開がファンを惹きつける。公演は27日まで。なお、ストレートプレイ版を観た観客は、演出の違いも楽しめること、請け合い。千秋楽は配信が決まっている。詳細は公式サイトを。
<2022年ストレートプレイ版の『薔薇王の葬列』レポ記事>
物語
中世イングランド。
白薔薇のヨーク家と、赤薔薇のランカスター家が王冠をめぐって争う薔薇戦争時代。
ヨーク家の三男として生まれたリチャードにはある秘密があった。
それは男女二つの性を持って生まれてきたこと。
その秘密のため、実の母からは「悪魔の子」と疎まれてきたが、同じ名を持つ父・ヨーク公リチャード
からは深い愛情を受けて育つ。
そんなリチャードの願いは、敬愛する父・ヨーク公が王冠を手に入れること。
しかしその願いが、イングランドに大きな混乱をまき起こすことになる。
戦争の最中。傷心のリチャードは、森で不思議な羊飼いの青年・ヘンリーと出会う。
互いのことを知らないまま、束の間、心を通わせる二人。
この出会いが全ての始まりとは知らず―。
度々出会うヘンリーとの絆や、王冠を巡る血塗られた争いの中、「男」と「女」二つの性の狭間で苦し
むリチャード。
王冠と愛に囚われていく、美しくも残酷なリチャードの運命とは。
概要
日程・会場:2025年4月19日(土)~4月27日(日) こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ
原作 :菅野文(『薔薇王の葬列』秋田書店「プリンセス・コミックス」刊)
演出 :児玉明子
脚本 :日月立
作曲 :鎌田雅人
総合演出・振付 :良知真次
出演
リチャード 飛龍つかさ
ヘンリー RIKU(THE RAMPAGE)冨岡健翔 ※Wキャスト
アン 小田えりな
エドワード王太子 KANJI(XY)
エドワード 山田ジェームス武
ジョージ 舟木健(NORD)
ケイツビー 川上将大
エリザベス 傳谷英里香
イザベル 三田美吹
ジャンヌダルク 明音亜弥
ウォリック 鎌苅健太
セシリー 今井かなこ
マーガレット 天寿光希
ヨーク公リチャード 良知真次
岡本麻海、高倉理子、寺島レオン、浅野郁哉、三原大知、山﨑由晏
公式HP
https://worldcode.co.jp/m_baraou2025/
公式X
https://x.com/musical_baraou
企画・製作:World Code
こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ 提携公演
Ⓒ菅野文(秋田書店)/ミュージカル『薔薇王の葬列』プロジェクト