
短編演劇オムニバス公演『ふたり芝居縛り』が上野ストアハウスにて7月1日より6日まで上演される。
本作では、登場人物は「2人のみ」という縛りのもと、1つひとつまったく異なる世界観を描き、観客を新たな物語の入り口へと誘う。この『ふたり芝居縛り』、表現者たちがジャンルの垣根を超えて、制限の中から生まれる豊かな物語、役者同士の緊密な空気感を、間近で味わえるのも魅力のひとつ。配信やサブスクが当たり前の時代だからこそ、“言葉の体温”と“濃密な時間”を観客との距離が近い小劇場から届けたい――そんな想いから本公演が企画。
この企画の発端や見どころ、面白さなどを企画立案の村木藤志郎さんと盟友であり、9本のうちの1本『数式の鳥』の作・演出・出演を担う西田シャトナーさんとのスペシャル対談が実現した。
ーー企画の発端ですが、”2人で何かやりたいね”というお話をしていたのが2011年の夏だそうですね。その段階では何か具体的な話ではなくて、漠然と何か面白い芝居をやりたいねというお話をなさってたんでしょうか。
西田:そうなんです。すぐにでもやれるなと思ったんすけど、2人とも何となく『自分が仕切りますよ』とは言い出さないまま…長く眠ってしまった企画になりました。
村木:私はシャトナーさんの脚本で、演出でやりたかった、シャトナーさんの演出に溺れたかった。
西田:私はプロデュースする能力がないのと…また、舞台『弱虫ペダル』の直前で忙しい時期だったんです。
ーー舞台『弱虫ペダル』の初演が2012年でしたね。
西田:この頃にはもうプロジェクトが始まっていて、その2年後の2012年に公演がスタートしました。
村木:2人芝居っていうのをやりたいっていうのを私が持ちかけて…2人芝居をおっさん2人でやりたいねって言ってまして。
ーー2人芝居にこだわる理由というのは?
村木:演劇の最小形態が1人芝居じゃないですか。でも、会話劇が好きなので1人芝居より2人芝居ですね。
西田:僕は何人芝居でも別に変わりはないんです、100人芝居でも構わないし、1人でも同じだし、うん。なんならお客さんゼロでも1人でやってたら芝居だと思ってるんですけどね。
村木:最小単位は1人芝居ですが、それが嫌で(笑)、基本的に会話がしたいんですね。
西田:ネガティブな動機?
村木:そうです(笑)。
西田:一番シンプルな芝居をやりたかったけども、それが2人芝居、ということですね。
村木:最初の案では3人芝居にして、あと4人芝居にしてやっていったらどうだろうと言ったら、それは普通の芝居ですよって言われました(笑)。
西田:出演する皆さんはそういう話があったらぜひ乗るよっていう感じの方々と思います。私も2人芝居に興味があって藤志郎さんに一緒にやらないかって言われたのが当時嬉しくて、『うん』って言ってた。
ーー村木さん的には2人芝居が”最小”ということなんでしょうか?
村木:会話を見せたい、会話を聞かせたい、会話を見たい。ただ、お客で行ったときの自分の感覚だと、1人芝居を9本観させられたら、多分死ぬと思うんですよ(笑)。
ーー確かに2人芝居だと会話のキャッチボールになりますね。
村木:1人芝居を否定しているわけではなく、自分としては会話がしたいので、それで2人芝居。
ーーそれで今年の夏前に2人芝居やりたいねっていうお話を村木さんの方から西田さんの方にお話をして、企画が動き出したという流れで合ってますでしょうか?
村木:これ正直に言うと、先に2人芝居をやりたいっていうのがアーツカウンシルで採択されたんですよ。それでシャトナーさんにやってくれないかなって声かけたら、意外に二つ返事で『やります!』って言ってくれて『やった!!』って(笑)。
西田: オムニバスのうちの1本というのも気楽でよかったです。
村木:いろんな人に声かけたんですけど、スケジュールが合わないなどの理由で結構断られてしまいまして…急だったものですから。例えば、今から1年後って言われて企画立てたらもうちょっといけるかもしれなかったかも、ですね。年に1回、シャトナーさんと2人芝居ができたら、こんないい老後はないですよ(笑)。
西田:とはいえ、僕は先のことを考えず、とりあえず、眼の前のこの1本に集中したいですね(笑)。
村木:成功させたいですね。
ーー村木さんと西田さんの2人芝居が西田さん作・演出の『数式の鳥』ですね。西田さんが演じてみたいと思っていた作品だそうですが、ネタバレにならない程度にどんな感じの戯曲なんでしょうか?
西田:マトリックス世界と言いますか、人類が増えすぎて、自分たちの人格をデータ化して生きている世界で、ある日、用意されている回路内のデータ容量よりも我々の人数が増えすぎてるってことに気づいた学者が学生と議論する話ですね。村木さんと僕のどちらかが学生をやるんですけれども。2人とも、そもそもあの存在していないデータかもしれないし、どこかに眠ってる体があるのかもしれないしっていうデータパーソンです。
ーーSF的な感じでしょうか。
村木:面白いですよ。会話自体は別に普通の人間同士の会話です。
西田:SFかもしれないけど、現代では実際、我々が実は仮想世界に生きてるデータかもしれないっていうことを真面目に議論している学者たちもいます。
村木:そうなんですか。
西田:自分としては割と現実的な話だなと思ってるんですよね。この登場人物たちのいる大学の標本室にはデータではない実物の鳥の化石が設置してあって、死んでいても実物の鳥と、生きていてもデータの我々は、触れ合えるのか…というようなお話です。
ーーお稽古はこれから?
村木:もう稽古しているチームもありますし、ほとんど出来上がってるチームもあります。
西田:私の『数式の鳥』は、2004年頃の脚本をちょっと今回書き直して、もうちょっと教授と学生が喧嘩できるような内容にしようと思ってるんです。藤志郎さんの江戸弁と西田の関西弁で。
ーー全体の企画としてはずいぶん盛りだくさんな印象ですね。いろんなチームがあって楽しそうです。
村木:私がプロジェクトの仕切りをやってまして、作品の内容に対してはこちらから一切言わないっていうのを決めてまして、そこはおまかせしています。条件は30分の2人芝居という”縛り”以外はもう、何やってもいいですよと。後は、あんまり照明を使わないで欲しいとかそういうことは言ってます(笑)
西田:この企画はこれが初回なので、僕は藤志郎さんの個性が全体的に色濃く出ると思います。藤志郎さんが演劇というのをどう考えてるのかっていうことがどこかで出てくるんじゃないかと。私も同い年なんですが、演劇人生40年選手の藤志郎さんが演劇をどう考えてるのか、2人芝居縛りのフェスティバルですが、それが全体ににじんでくるんじゃないかと思います。
藤志郎さんは演劇だけではなく、演芸の世界や音楽の世界も渡り歩いてきた方なので、そういう面も色濃く反映されるかもしれませんね。
村木:2022年に、『1秒だけモノクローム』っていう、宇宙船の中の芝居を再演いたしまして。シャトナーさんが見に来てくれて、その時の感想で『演劇にはあるまじきゆるさで進んでいく』ってブログか何かで書いてくれて、この悪口とも取れかねない「演劇にはあるまじき『ゆるさ』という表現がとても嬉しかったのです。
西田:その『ゆるさ』は、僕たち演劇人がなかなか自分に対してコントロールできない領域で、相当緻密に深く考えてないとできない。それを藤志郎さんはおやりになって…今回も我々各参加チームには2人芝居っていう縛りだけ守ってもらえたらあとは自由いいですよと言われながら…でもさっき、照明はあんまり使うなとか(笑)。
村木:それはね、仕方なくはない(笑)。
西田:作風に関しては特には注文されないけど、全体として結局その『ゆるさ』の中で出来上がってくるのは藤志郎さんが培ってきた演劇とは何か、あるいは出し物とは何かみたいなこと…。
村木:身近な演出スタイル、多分、リアルな会話のところもあればもっとカチッとした会話もあれば…(例えば)『いやあ、こんにちはどうも』っていうタイプと、さらにきちっと正面切るタイプと、もう芝居は日常会話に近ければ近いほど、『それ演技じゃないんじゃないの?』って思わせたい。『どこまでアドリブなの?』って言われるんですけど、アドリブなんか一切やってないのに会話がリアルすぎて、でも一方で『嘘だ~』って思われるんですけど。
西田:このプログラム全体、一見、『これ誰も仕切ってないんじゃないの?』みたいなものになるかもしれない(笑)。
村木:仕切ってないかもしれないですね(笑)。『バラバラな〜』みたいになるんじゃない?そういう私の個性が色濃く出ちゃいますね。
西田:そう捉えてこそ、見つかる良さっていうのがある、芸術というものはね。
村木:皆さんに協力していただいて頑張ります。
ーー要するに2人芝居であるという縛りと、それからハード部分、照明ですとかそういった部分の若干の縛りはあるけれども、それ以外はもう全て自由。
村木:そこはケチっているのではなく、時間かかっちゃうんですよ、リハーサルとか…なので、できるだけシンプルにお願いしますって言ってるだけです。
西田:チケット代金のクオリティを演技で叩き出せっていうことだと思うんですよね。照明とかで叩き出すもんじゃないよっていうことを言ってるんだろうなと思って。それは皆さんはしっかりとそれぞれのジャンルで活動してきた方なので、多分みんなわかってるはずです。
村木:みんなそういう覚悟だと思います。
ーーお時間が許せば、全部見た方が面白そうですね。
西田:もちろん全部見た方が面白いと思いますが、それぞれ、自分の作品を1本見てもらっただけでも面白い、そういうものを作るという心構えですね。
村木:何となく何か気になったのを見てもらえればという感じですね。
西田:各チーム30分のものを1本持っていくルールなんですが、15分を2本作って、合わせて1本としているチームも2チームありまして、それが面白そうなんですよね。『一縷の花』と『大黒地蔵』の浅野さんチームと、『ぬくもりの予感(冬)』と『ぬくもりの予感(春)』の白井ラテさんチーム。冬が『ぬくもりの予感』なのは春がもうすぐ来るから。『ぬくもりの予感(春)』は次は夏が来るから。どんな話になるのか、興味わきます。
村木:『一縷の花』、それから『大黒地蔵』は怪談です。
西田:怪談?
村木:本当に怖い、本当に幽霊出る(笑)。
西田:『一縷の花』と『大黒地蔵』、タイトルだけでも怖い。
村木:この原作を担当している浅野さんが民俗学をやっている方で、怪談とかが大好きなんです。
西田:浅野さん(浅野泰徳さん)とめちゃ話したい(笑)。



西田:『17歳の君へ』は、80代の俳優(桜井昭子さん)と20代の俳優(染木彩花さん)の2人芝居だとか。振り幅がすごい。楽しみです。ほかにも、『食べない自信』、個人的に興味があります。フライヤーの写真を見ると、郵便ポストの扮装してたりして、何をやろうとしているのか、もう想像が追いつかない。『コールガールとアサシン』は、ちょっとハードそう、でも面白そう(笑)。『最後の再会』は人生を感じさせる物語でしょうか。『素直になれば』は、タイトルはまさに素直そうな印象ですけれど、母の遺品を巡る物語だそうですから、けっこうエグりこんでくるんじゃないでしょうか。『See you next』はこのタイトルで夫婦モノというところに、ひとひねり味わいがありそうです。
ーー最後に読者へのメッセージをお願いいたします。
村木:皆が腕のある俳優さんと実績のある作・演出の方たち、また、これからっていう方々、とにかくバリエーションに富んでいるので、どれか1本目、観に来て下さったら、後の2本は確実に楽しい、そうしたら他のも見たくなっていただけるかなという感じです。とにかくどれでもいいので、1人1つ、気になる俳優さんでも、作家の方でも、演出家でも、何でも良いので、1本観に来てくださる感覚で。そうしたら、意外な発見があるかもしれません。演劇を観にくる方々はお目当ての1本だけ。同時に他の作品を観ることがあまりない。例えば、バンド、目当てのバンドじゃないのはどんな感じなのか不安になることはすごく多い。
西田: 9本とも予想がつかない面白そうさです(笑)。
村木:とにかく見ていただきたいんです!
ーーありがとうございました。公演を楽しみにしています。
概要
うわの空・藤志郎一座『ふたり芝居縛り』
会期会場:2025年7月1日(火)~7月6日(日) 上野ストアハウス
公演スケジュール
2025年7月1日(火)~6日(日)
7月1日(火)19:00A
7月2日(水)12:00C /15:30A /19:00B
7月3日(木)12:00A /15:30B /19:00C
7月4日(金)12:00B /15:30C /19:00A
7月5日(土)12:00C /15:30A /19:00B
7月6日(日)12:00B /15:30C
※全15ステージ(A・B・C各チームが日替わり)
※受付開始は開演の1時間前
※上演時間:約120分予定
チケット料金
前売:一般 4,500円 学生 3,500円
当日:5,500円(全席自由・日時指定・税込)
https://www.confetti-web.com/events/8327
作・演出(50音順)
浅野泰徳、小野寺誠、小森義大、植田中、小山内らむね、白井ラテ、西田シャトナー、原田光規、村木藤志郎
出演(50音順)
大里冬子、風祭鈴音、小泉匠久、古賀圭太、こはる、今沙栄子、桜井昭子、佐藤梨菜、關根史明、染木彩花、高橋奈緒美、竹田直央、田中飄、☆★朋★☆、長尾一広、西田シャトナー、野本有希子、秦ありさ、日野アリス、藤原得次、松原大典、村木藤志郎
スタッフ
舞台監督:大久保正通
舞台美術:装景舎ラムダ
照明:釣沢一衣
音響制作:ff SOUND
音響オペレーション:川上杏菜
衣装:縫処てふてふ
フロアサポート:林俊行
写真撮影:川口满
映像撮影:座馬幸宏
広報アドバイザー:小野寺誠
フライヤーデザイン:studio FLY
制作協力:BACK-HUG
製作:ソアラセンド
主催:うわの空・藤志郎一座
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京【東京ライブ・ステージ応援助成】