ミュージカル「オペラ座の怪人」ケン・ヒル版 開幕 

究極のクラシック・ミュージカルが6年ぶりに来日。
ガストン・ルルーの小説『オペラ座の怪人』初のミュージカル化として、ロンドン・フリンジの鬼才と呼ばれた劇作・演出家ケン・ヒルが生んだ大ヒット・ミュージカル。アンドリュー・ロイド=ウェバー版に先立つ1976年に初演され、母国イギリスを始め、アメリカ、カナダなどで上演。
1991年のロンドン凱旋公演ではオリヴィエ賞最優秀ミュージカル作品賞/演出賞にノミネート。日本では`92年から`18年まで6度の来日公演が開催され累計28万人以上を動員。6年ぶりとなる今回の来日公演では、ファントム役にイギリスのミュージカル俳優ベン・フォスター、ファウスト役はイギリスのオペラ歌手ポール・ポッツ。

有名なシーン。(c)ヒダキトモコ

開演5分前のアナウンス、「オペラ座へようこそ」、ここは東急シアターオーブかと思ったら(笑)。それから始まる。場所は舞台裏、中央に大きな脚立、練習に余念がない若いダンサー。劇場としてはありふれた光景から始まるが、この劇場には大きな秘密があった。客席通路からオペラ座の新しい支配人と秘書が登場、客電は降りてるので当然、足元が暗い。つまづいたりしながらも舞台上に上がる2人。原作が怪奇小説なので、もっと怖いのかと思いきや、ユーモラスな雰囲気で始まる。新しい支配人は鉄道会社での手腕を買われ、ここにやってきた、自信ありげな感じ。シャンデリアのジョーク、客席に向かって警告、「そのあたりの人は逃げた方がいいですよ」とか「安い席の人は心配入りませんね」とか(笑)、また、ラウルが楽屋の扉のところで聞き耳を立てているとピアノの調べ、彼の不安げな気持ちを一層そそるようなメロディを奏でていると、ラウルがピアニストに向かって「そのうるさいピアノやめてくれないか!」とキレる。こういうところは大いに笑っておきたいところ、舞台ならではの粋な演出。

怪人から手紙が…。

物語は有名すぎるくらいに有名、ロイド=ウェーバー版を観たことのある観客なら、描かれ方の違いなどをチェックすると面白さは倍増。また、キャラクターの設定も、例えば、マダム・ギリーは顧客係であるが、ロイド=ウェーバー版では厳格なダンス教師。また、ここではペルシャ人が登場するが、ロイド=ウェーバー版には出てこない。そういった多少の差異はあるものの、どちらもヒット。また、ロイド=ウェーバー版は恋愛軸を強調しているのに対して、ケン・ヒル版はファントムをやっつけるまでの過程を重要視している。新しい支配人・リチャードは幽霊話に無頓着で、マダム・ギリーの忠告をスルー、コーラス・ガールのクリスティーンがカルロッタの代役に乗り気ではない。そんな折にメフィストフェレス役が事故死。だが、観客は知っている、本当に事故だったのか…。不可解な出来事、怪人からの手紙、クリスティーンの部屋から聞こえる男の声、謎が謎を呼び、事件が起こる、スリリングな展開、だが、手に汗握ってばかりではない。細かい笑いが随所に散りばめられており、コミカルなシーン、やりとりには思わず「クスリ」とさせられるが、怪人が次々と殺人をするところはドキドキしてしまう。

父の墓の前で。
ダンサー、俳優、裏方の面々。
カルロッタのご機嫌をとる支配人。

舞台上にプロセニアムアーチ、シーンによっては二重構造、劇中劇もしっかりと。そして特筆すべきは楽曲、全て有名なオペラ、キャストの歌唱力の高さ。場面ごとにチョイスされる曲がその場面に相応しく、既存の曲をここまでうまく使うのはなかなか例を見ない。難易度の高い歌もあり、ここはしっかり鑑賞したいポイント。

怪人は知っている…2人が恋仲なのを。嫉妬に燃える。
2人の世界。
ここは聴きどころ。

ファントムのクリスティーンに対する想い、ラウルと彼女が恋仲になると嫉妬を隠しきれなくなるところは人間的、また、クリスティーンは最初は「音楽の天使」と言っていたが、その実体がわかるにつれて、恐れもあるものの、好奇心もむくむくと、やってはいけないことをやって怪人の怒りを買うも、ラストは怪人に対して憐れみの情を持つ。そして怪人、その寂しい心と孤独、ラストは哀れで観客は胸がつまる想いになるだろう。また、細かいところでは危機的状況にもかかわらず、支配人とマダム・・ギリーのハートが急接近。
この『オペラ座の怪人』、1916年に初映画化、その後の1925年のロン・チェイニー主演のが有名、特殊メイク原作をほぼ忠実に再現しているのが特徴。クリスティーヌへの愛も原作通りで今風で言うならほぼストーカー状態で狂気じみており、怪奇映画となっている。また登場人物を減らし、結末が異なるが、かなり原作に近い内容だ。これはサイレント映画だが、1929年には台詞が加えられたトーキー版が製作されており、これは日本でも公開されている。映画版、近年では2004年のミュージカル版、舞台のアンドリュー・ロイド・ウェバー版がベースになっている。
舞台版はこのケン・ヒル版を含めて3作品。劇団四季で上演しているのはアンドリュー・ロイド・ウェバー版、1986年初演。アーサー・コピット&モーリー・イェストン版は1991年上演、タイトルは「ファントム」。この3作品全て制覇したら「通」、もし、このケン・ヒル版、未体験なら、一度は観ておきたい、公演は28日まで。

概要
ミュージカル 『オペラ座の怪人』 〜ケン・ヒル版〜
日程・会場: 2024年1月17日(水)〜1月28日(日) 東急シアターオーブ
原作:ガストン・ルルー
脚本・作詞:ケン・ヒル
主催:キョードー東京、テレビ東京、ぴあ

公式サイト:https://operaza2024.jp/