カルロス・サウラ監督が遺した「情熱の王国」「壁は語る」追悼上映 @渋谷ユーロ・スペース

スペイン映画界の巨匠カルロス・サウラ監督が、91歳で亡くなったのは、2023年2月10日。ゴヤ賞栄誉賞を受賞する前日のことだった。6月1日から東京・渋谷ユーロスペースで、同監督の最後の劇映画『情熱の王国』 (`21年)と監督自身が出演したドキュメンタリー映画にして遺作となった『壁は語る』(`22年)の2作が同時にロードショーされる。

『情熱の王国』のポスター

このロードショー公開を前に、、東京都内で『情熱の王国』の特別試写会が行われ、会場となったインスティトゥト・セルバンテス東京のハビエル・フェルナンデス文化部長と、この2映画作品を配給するアクションの比嘉世津子代表によるトークが行われた。

サウラ監督の日本での公開は、『カルメン』『血の婚礼』『フラメンコ』などと共に『カラスの飼育』や『歌姫カルメーラ』『タンゴ』『サロメ』などが続いた。そして`16年には、ホタ(JOTA)のドキュメンタリー『J:ビヨンドフラメンコ』が公開された。

サウラ監督作品について語るフェルナンデス文化部長と比嘉さん(右)

晩年、サウラ監督は短編やドキュメンタリー、オペラや舞台の演出にも活動の場を広げていた。そして、メキシコで撮影された『情熱の王国』が最後の劇映画、そして、監督自らが出演するドキュメンタリー『壁は語る』(2022)が遺作となった。

スペインや中南米の映画事情に詳しい比嘉さんは、サウラ監督について 比嘉さんは、「過去を振りかえったり、反すうするより、常に未来を考えることに力を注いでいた」と言う。

また、フェルナンデス文化部長は「『情熱の王国』では、映画のストーリーの中で、別の劇が進行するなどの仕掛けがあり、常に実験的手法を追求していた監督の生き方がうかがえる」と指摘する。

 今回のロードショー公開は、サウラ監督の常に未来を見て突き進んだ映画作りの姿勢を知るまたとない機会となる。

『情熱の王国』概要
演出家のマヌエルが次に考えている舞台は、ミュージカルを作るためのミュージカル。構想からキャスティング、完成までを描くには、振付師が不可欠だった。彼は元妻であり女優で著名な振付師のサラに助けを求める。ただ、マヌエルが書く脚本の中で、サラは交通事故にあい車椅子になった振付師だ。引き受けたサラが主導するキャスティングでは、何とかオーディションに受かろうとする若者たちの緊張感と競争心、そこから頭角を表す男女3人が生き生きと描かれる。その中の一人、イネスは父親と地元ギャングとの対立を心配しながら稽古に励む。メキシコの過去と現在を繋ぐために、独自の舞台を作ろうとする演出陣。数々の力強い伝統音楽がダンスとコラボレーションする中で、悲劇と虚構と現実が交錯する物語が生まれる。

メキシコ第二の都市、グアダラハラで撮影が始まった2019年、サウラは87歳、ストラーロは79歳。アナ・デ・ラ・レゲラ(NETFLIXドラマ『ビバ!メヒコ』)とマヌエル・ガルシア=ルルフォ(NETFLIXドラマ『リンカーン弁護士』)を主演に、メキシコ国立バレエ団ソリストのグレタ・エリソンドをイネス役に抜擢。20代の瑞々しいダンサーたちの熱い舞台を撮りきった。メキシコでも舞台の演出をしていたことから、編集が半年延期になり完成したのが2021年。撮影の9割を行ったグアダラハラの劇場の照明を気に入ったヴィットリオ・ストラーロが、それを最大限に活用し、サウラ監督も超小型マイクでライブ音を録音するなど、二人とも革新的な技術を使って新たな可能性に挑戦した作品。現実と虚構、舞台と映画が交差しながら、一つの物語を作っていく。 映画の最初と最後に出る絵コンテは、撮る前ではなく、編集中の週末や映画が完成してから描いたもので、舞台であれ映画であれ、冒険するリスクを犯して即興の醍醐味を味わいたいから絵コンテは描かない、と2021年11月のEl Español誌のインタビューで語っている。メキシコ音楽は50年代、60年代とスペインで大ヒットし、ホルヘ・ネグレーテやトリオ・ロス・パンチョスなど大勢のミュージシャンが、スペインでコンサートを行なっていたので、監督には身近な音楽だった。メキシコに行くたびにサンプリングし、伝統音楽の宝庫であるメキシコでなら現代と融合するミュージカルが撮れる、と確信して始まった、この企画が最後の劇映画となった。

監督・脚本:カルロス・サウラ/撮影:ヴィットリオ・ストラーロ/音楽:アルフォンソ・G・アギラール、カルロス・リベラ/美術:アレックス・アルベス/ 振付:エドガー・レイエス/編集:ヴァネッサ・マリンベル/製作:エウセビオ・パチャ
2021年 | スペイン=メキシコ | DCP | 99分 | カラー

『壁は語る』のポスター

『壁は語る』概要
芸術の起源についてカルロス・サウラが、監督と主演を務めながら探求するドキュメンタリー映画。先史時代の洞窟における最初のグラフィック⾰命から、最も前衛的な都市表現まで、創造的なキャンバスとしての「壁」と芸術との関係を描く。
⼈類進化の偉⼤な思想家フアン・ルイス・アルスアガや、現代アートを代表するアーティスト、ミケル・バルセロなど、個性的な人々が同⾏するパーソナルな旅。⾃らのことは多く語らないが、芸術に関しては饒舌で、まるで⼦供のようになるサウラ。アルタミラ洞窟の専⾨家と共にスペインの遺跡や洞窟をめぐり、人類の進化と共に、人はなぜ壁に描いたのか、を探っていく。そして、その視点は現代の若い世代、グラフィティ・アーティストのZeta、グラフィティ・ライターのMusa71、アーバン・クリエイターのSuso33、アーティストのCucoにも注がれる。サウラ監督自身が彼らに迫り、壁に描くようになった経緯を問いながら、現代と太古の壁画アーティストたちが時空を超えて、繋がっていく。撮影時、90歳。大学生の頃から映画を作り続けてきたカルロス・サウラにとって、『壁は語る』が生涯最後の作品となった。
監督・出演:カルロス・サウラ/脚本:カルロス・サウラ、ホセ・モリーリャス/撮影:フアナ・ヒメネス、リタ・ノリエガ/音楽:アルフォンソ・G・アギラル/ 編集:ヴァネッサ・マリンベル/製作:マリア・デル・プイ・アルバラード
2022年/スペイン/DCP/75分/カラー

公開劇場  ※2024年5月末現在
東京 ユーロスペース 6/1(土) 〜
神奈川 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 7/20(土) 〜
長野 長野千石劇場 6/21(金) 〜 7/4(木). ※1週目『情熱の王国』、2週目『壁は語る』
愛知 ナゴヤキネマ・ノイ 7月公開予定
大阪 シネマート心斎橋 6/14(金) 〜
京都 出町座 近日公開
兵庫 神戸元町映画館 6/15(土) 〜
鹿児島 ガーデンズシネマ 6/23(日) 〜  ほか

公式WEB:http://www.action-inc.co.jp/saura/