映画看板絵師のドキュメンタリー「顔さんの仕事」 秋田の映画館 御成座 看板絵師 仲谷政信 インタビュー

台湾の映画館「全美戯院」を飾る絵看板を50年以上にわたって描き続ける看板絵師 顔振発(イェン・ヂェンファ)さんに密着したドキュメンタリー映画「顔さんの仕事 」が新宿K’s cinemaでのロードショー後、全国で上映される。秋田の御成座でも10月4日〜上映されるが、この新宿K’s cinemaでの上映時に、絵看板を掲げる映画館、秋田県大館の映画館⟪御成座⟫で絵看板を描く仲谷政信が「顔さんの仕事 」を観に来館した際に、今関あきよし監督と、同作品でナビゲートする三留まゆみ(イラストライター)が、お話を伺った。

全国の上映情報は、この記事末に掲載。

「顔さんの仕事」予告編


御成座の様子

インタビューイ 御成座 看板絵師 仲谷政信
インタビュアー 今関あきよし、三留まゆみ 

今関:今回、わざわざ新宿まで「顔さんの仕事」を観に来ていただいて、ありがとうございます。秋田の御成座で上映が決まったところでしたが、なぜ、急に観に来ることになったんですか?

仲谷:いや、本当にこれはもう自分が、日本で一番観たい映画なんだって思ってですね。

三留:この映画のことをどうやって知りましたか?

仲谷:ネットで見ました。こんな映画が出来ているんだと、これは見なきゃいけないなとは思いましたよね。

今関:仲谷さんは、日本で一番に観てほしい人、この映画のカメラマンの三本木久城くんも台南で撮影してる時に、映画が完成したら、御成座でやりたいねってね、たまにボソッとつぶやくんですよ。

仲谷:自分も御成座で観れたらいいなと思いながらも、俺はすごく見たいども、看板師の映画を観たい人が、御成座のある大館にはどのくらいいるかと、、

映画「顔さんの仕事」より

今関:本当、いいタイミングで来ていただきました。ありがとうございます。続映が決まったタイミングで来ていただいて。もうラッキーです。あと、今度は僕が御成座に行きます。ぜひまた御成座で中谷さんとお話できたらと思います。

三留:仲谷さんがこの顔さんの看板を描くんですね。それがそれがすごいですね

今関:日本の顔さんでもある仲谷さんが「顔の仕事」の看板の絵を描いていただけるので、それを見るためだけでも御成座に行く価値があると。

仲谷:御成座は建物の作りが古いので、御成座の映画館の中でこの映画を見ると映えると思うんです。

今関:台南の全美戯院※も似合う似合わないでいうと「顔さんの仕事は似合うと思うし、御成座も似合うと思いますね。実際に手描きの絵看板を描いている仲谷さんから見て、この顔さんの仕事ぶりはいかがですか。
※ 「顔さんの仕事」の舞台となる台湾台南市にある映画館

御成座の様子

仲谷: 50年以上、手掛けられているだけあって、もう自分で描いててどうなるかが分かっていらして 基本的にかなりラフな感じであたりを付けてやっていて、、、自分はまだそこまで達していないですよ。

今関:顔さんは、描くのに迷いが無いんですよね。描くスタート時点から完成が見えてるといる。それはすごいなと感じました。

三留:何かもう、パズルみたいでした。どこから描き始めるのかと、これがこの次のパネルのここに繋がるって_

今関:縦横無尽に正対して描いてないんです。パネルを縦にしたり横にしたりして、描きづらいと思いましたけど、本人は全然関係な感じで_

三留:全く迷いなくその線が引けちゃう_

今関:看板の絵が大きい分、手が届かないので、絵を縦にたり横にしたりせざる得ない。仲谷さんはそういうことはないですか?

映画「顔さんの仕事」より

仲谷:自分の部屋で看板を描く時は、大きさがギリギリの大きさなので、人が逆向きの絵も描くこともありますね、

今関:画材の筆やペンキなど、自分と共通項がありますか?

仲谷:自分はペンキじゃなくて、耐色性ポスターカラーを使っています。多分、ペンキより乾きやすいと思うんです。自分とは全く違う感じで描かれていると思うんです。

今関:この映画「顔さんの仕事」が御成座で上映されるとことに、どう思われていますか?

仲谷:御成座で観られる方は、実際に看板を描かれている光景を生で見たことないですし、資料も無いので初めて見る事ばかりと思います。

今関:御成座によく来る方も、仲谷さんの看板は見るけど、映画の絵看板をを描き始めるところから終わるまでを見ることはないと思いますね。

仲谷:最初の頃はね、御成座で描いていましたが、それをずっと見てる方はいないですからね。今、家のアトリエは車庫を改造したもので、冬は温度がマイナスで、ダウンを着て描いています。ストーブを炊いても10度まではいかないですから(笑)。

三留:顔さんの映画の中に出てくる一番大きな看板(『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』) はパネル12枚の横長(横位置)のものですが、映画のポスターって基本縦位置ですよね。それを横位置にすると、オリジナルのままでは看板絵にならない。

今関:その場合、仲谷さんはオリジナルのデザインを組む訳ですか?

御成座の様子

仲谷:そうですね。小さなラフを描いて、それを大きなボードに描いていくんです。そこでまた多少レイアウトを動かしたりとか、例えば、繋ぎ目に顔が当たると顔に線が入るので、レイアウトを変えたりしてます。

今関:顔さんは基本的に、集中的に午前8時半頃から、12時過ぎまで一気に休みなく描かれていますが。どう描かれていますか?

仲谷:二、三時間はずーっと描いていますが、ずっと同じ体勢で描いていると、多分、力んでしまっているのか疲れます。目にもきますね。それで休憩を挟みながら描いてます。

今関:顔さんも集中して、ずっと、しゃがんで描いてるし、猫背体勢なるし、どうしても体勢がキツくなりますよね。今回、今回、顔さんの映画で三留まゆみちゃんに案内役をお願いしたのは、絵がちょっとじゃ分かる、「ORANGING’79」※の撮影していた頃も絵の学校に通っていて、その後も、同じ映画の世界のイラストも描いているんで、撮影していても説明できたり、描いている姿に反応してくれれば、観ているお客さんも分かると思いました。顔さんは描いていると、しゃべれないのだから、、、でも、まゆみちゃん、ちょっと騒ぎすぎなところもあったけどね (笑)。
※ 今関あきよし監督が三留まゆみを主演に1979年に撮影されたの8mm映画

映画「顔さんの仕事」より

三留:はい、私、ずっと喋ってましたね(笑)。

今関:顔さんには師匠がいたのですが、仲谷さんはいかがでしたか?

仲谷:そうですね、僕は看板、独学、自己流でした。御成座が2014年にオープンして、正月映画に「男はつらいよ」と「釣りバカ日誌」の二本立てを上映することになり、御成座の社長と映写の遠藤さんとお客さんで描かれていました。半日でラフな感じで描いたわけですね。その看板が映画館に掛かったのが最初でしたが1回だけで一旦終わりまして、その後、俺が描きたいと立候補して、今に至っている感じですね。

今関:仲谷さんは、元々絵心があったんですか?学校とか、、、

仲谷:自分も子供の頃から絵を描くのは大好きだったし、高校を卒業する頃に、アニメーターになりたいと思って、東京の専門学校の夏休みの体験入学に行ってみると、アニメでは、なかなか食べていけないとわかって、そこで、グラフィックデザインをやろうと思って、その学校に行ってデザインの勉強をしました。最初は雑誌の編集の仕事をして、その後、広告のデザイン事務所に入って仕事をしていました。

三留:最初に大きな絵看板を描かれた時はいかがでしたか?

新宿K’s cinemaでの「顔さんの仕事 」上映時に、仲谷政信(中央)が登壇の際に、今関あきよし監督(左)、三留まゆみ(イラストライター)(右)と_

仲谷:難しいと思いました。ジャン・ジャバンとアラン・ドロンが出ていた「地下室のメロディ」の看板だったんです。描いてみると、二人とも似てないんです(笑)。いや、描いたんですけど似ていなくて、こんだけ難しいんだと痛感しました。それでも皆さん褒めてくれて、でも、今、改めて聞いてみると「あの頃は下手だったねと」言うんですよね(笑)。自分でも良く描けたなとその時は思っても、今、見直してみると、なってないなと思うこともありますね。


作品概要
現在の台南市下営区に生まれ、幼い頃から絵を描くのが好きだった顔振発(イェン・ジェンファ)。絵に対する才能を感じた家族は、看板職人の陳峰永の弟子に送り出した。1970年代は台湾映画界が盛り上がり、顔は1ヶ月に100から200枚もの手描き映画看板を描き、台南の映画館「全美戯院」の看板を制作から設置まで一手に引き受けた。だが生涯にわたる制作は、視力に大きな負担をかけ、医師が何年も前に、彼の網膜がひどく傷ついていることに気付き、右目はほぼ見えない状態に。それでも、顔振発は今も描き続けている。

企画 / 制作 / 監督:今関あきよし
出演:顔振発 三留まゆみ  柏豪
撮影:三本木久城 録音・音楽:種子田博邦 制作:太田則子 / 杉山亮一 編集:鈴木理 編集助手:三宅優里奈 台湾地図挿絵・題字:ヤマサキタツヤ 協力:全美戯院 / 日本台灣新聞社 / 台湾師範大学 / Chingwen Hsueh / 国立音楽大学/ 山本周史
配給:MAP|配給協力:ミカタ・エンタテインメント
製作:映画「顔さんの仕事」製作委員会
2024/日本/カラー/64分/16:9

上映情報
東京:新宿 K’scinema 8/31(土)-9/13(金) ※上映終了
秋田:御成座 10/4(金)-
栃木:小山シネマロブレ 11/1(金)-
栃木:宇都宮ヒカリ座 12/13(金)-
愛知:シネマスコーレ 近日公開
長野:長野ロキシー 近日公開
大阪:シアターセブン 10/19(金)-
和歌山:シネマ203   9/28(土)-
和歌山:Kisssh-Kisssssh映画祭 10/12(土) 夜 野外上映

公式HP :https://mikata-ent.com/movie/1858
X: https://x.com/imazekifilm2024

©︎映画「顔さんの仕事」製作委員会

御成座 写真提供: 御成座