
愛知県芸術劇場ラインナップ2025の発表と劇場専属ダンスアーティストの会見が行われた。
まず、唐津絵理芸術監督より挨拶。
「劇場は世界への窓、県民の広場という基本理念を掲げ、ダンス、音楽オペラ、演劇といった多彩なジャンルで国内外の優れた作品をお届けするとともに、新たな創造普及、そして次世代の育成に取り組んでおります」とコメントし、続けて「ここで申しております世界への窓とは、単に海外の作品を招聘するという意味だけではありません。観客の皆様がこれまで知らなかった表現や価値観に触れご自身の感覚を広げていくというための窓であり、未知の世界と出会う開かれた場でありたいという意味を込めています」と語った。
それから作品の紹介。
アクラム・カーン『ジャングル・ブック』
「一つ目は、ダンスとアニメーションが融合した舞台作品ジャングルブックです。原作はノーベル賞作家のキプリングの有名な物語ですが、ディズニーが最後に手がけた同名のアニメーション映画でも広く知られています。この公演はロンドンオリンピック2012開会式の振り付けでも知られる世界的振付家アクラム・カーンさんが、子供から大人まで誰もが楽しめる。ダンスと映像による壮大なスペクタクルとして作り上げました。この作品は気候変動や自然破壊といった現代的なテーマを織り込みつつも、純粋なエンターテイメント性と高い芸術性を兼ね備えています。世代を超えて楽しんでいただける裾野の広い作品です。世界への窓として、多様な芸術を紹介すると同時に、1人でも多くのお客様に劇場へ足を運んでいただきたいという劇場のこれからの姿勢を象徴する作品とも言えます。そして嬉しいことに、今回、世界ツアーの最終公演がここ愛知で開催される予定です。この貴重な機会にぜひ多くの方にご覧いただきたいと願っております」
ネザーランドダンスシアター(NDT)
「ネザーランドダンスシアター(NDT)は、現代ダンスの最高峰として知られていますが、昨年、NDT1を招聘した際には各地で熱狂的な反響を呼び起こしました。そして幸運なことに今年もNDTを招聘することができる機会に恵まれました。今回は約20年ぶりにNDT2が来日いたします。NDT2は世界中から選び抜かれた才能あふれる若きダンサーたちと気鋭の振付家との共同により挑戦的な作品を次々と生み出し続けています。昨年のNTT1の招聘時と同様に今回も私が何度も本拠地のオランダでハーグに足を運びまして、瑠奈芸術監督とともに日本の皆様にご紹介したい振付家と作品を選定いたしました。気鋭の振付家アレキサンダー郁磨によるフィットマルコスモローによるポルカなど日本初紹介の振付家を含む計3作品を予定しています。3作品目につきましては、先日、オランダの世界初演を拝見してきまして直接交渉を行ってまいりました。
まもなく決定する見込みですので楽しみにお待ちください。最先端の振り付けと圧倒的な身体能力を持つのダンサーたちによるステージはきっと日本の観客の皆様にも新たな刺激と感動を与えてくれるに違いありません。世界最高峰のダンスをこの愛知で目撃できる貴重な機会です」
主な創造発信事業としての三つのプロジェクト
1)ダンス兼演劇作品
『ダンスの審査員のダンス』
作・演出:岡田利規
出演:中村恩恵、酒井はな、島地保武、入手杏
奈、矢澤誠
音楽:小林うてな
「この作品では私が統括プロデューサーを務め、愛知での初演後、全国ツアーを開催いたします。岡田さんは劇団演劇カンパニーチェルフィッチュを主宰し、オリジナリティ高い作品で国内外から高い評価を得ています。今回の新作では、昨年の酒井華さんとのジゼルのあらすじや2021年に初演し、大好評を得た瀕死の白鳥その死の真相で試みたダンスと演劇の越境をさらに推し進めた新たな舞台作品を創作いたします。出演者としては、劇場ダンスアーティストである酒井華さん、島地保武さんが参加します。バレエやコンテンポラリーダンスの第一線で活躍してきた実力派ダンサーたちの経験を岡田俊樹さんがテキストに取り入れながら、私達が持つ唯一の身体について再考する作品となります」
2)高槻城公園芸術文化劇場×愛知県芸術劇場
×Dance Base Yokohama
パフォーミングアーツ・セレクション2025
in Takatsuki
「このセレクションは2020年からダンスのためのレジデンス施設であるDanceBaseYOKOHAMADBと当劇場が連携し、同時代のコンテンポラリーダンスを中心とする舞台芸術を共同で創作し、上演し、そして各地での再演を行っているプロジェクトです。今年4月末には大阪の高槻市での再演も控えております。本年度は10月30日から11月2日までの4日間、劇場の小ホールや大リハーサル室さらにメニコンシアター青井といった複数の会場を使用し、フェスティバルフェスティバル形式で開催いたします。連日様々な弾作品を上演する予定です。ちょうどこの時期、愛知芸術文化センターを中心に国際芸術祭あいち2025が開催されておりますので、それに合わせる形で観客の皆様には劇場や美術館巡りながら一連のプログラムを楽しんでいただけることと思います。新進気鋭の日本人アーティストたちの競演をぜひ多くの方に体験していきたいいただきたいと思います」
3)公募プログラム
AICHI NEXT: Performing Arts Project
「これは若手アーティストの発掘と育成を目指した劇場独自の支援プロジェクトとなります。既存のジャンルにとらわれない斬新な作品や新しい発想で取り組んでいるパフォーマンスの企画を全国から公募し、同劇場が制作支援を行った上で上演の機会を提供するものです。昨年度の公募を経て、たくさんのご応募の中から厳正な審査を行いまして、今年度は敷地理さん、ハイドロブラストさんの2組が採択され、8月9月に当劇場の小劇場で公演が予定されています。
さらにチャレンジ枠として、愛知県にゆかりのある若手アーティスト4組も選出し多角的なサポートを行ってまいります。公共劇場として、次代を担う舞台芸術家が安心して創作に打ち込める環境を整えることは、私達の大きな使命です。愛知ネクストを通じて愛知を拠点に全国、そして世界へと飛躍できる新しい才能を継続的に応援していきたいと考えています」
続けて唐津芸術監督は「世界的に活躍するアーティストの共同制作から新人の発掘育成まで幅広い視点で舞台芸術の創造に関わってまいります。またこのような海外招聘や創造発信事業に取り組み、世界への窓となるとともに劇場は県民の広場として地域社会と密接に繋がり、あらゆる観客の皆様が安心して舞台芸術を楽しめる環境作りにも取り組んでまいります。劇場は作品を上演する場であると同時に、地域の文化拠点として人々が集い、交流する場でもあります。当劇場では従来より様々な地域連携を行ってまいりましたが、2025年度はさらにそれを発展させ、より開かれた劇場を目指してまいります。まず今月末の4月29日のゴールデンウィークには毎年恒例のオープンハウスを開催いたします」とアナウンス。
「オープンハウスでは、大ホールと小ホールを無料で開放し、普段は見ることのできない舞台裏や舞台技術の仕掛けなどを見学していただけます。加えて、本日ご参加いただいている劇場ダンスアーティストの皆様が総出演してパフォーマンスやワークショップを行います。劇場にダンスアーティストの皆様が勢ぞろいする大変貴重な機会ですのでぜひお越しいただければと思います。また劇場を全ての人に開かれた空間とするために、アクセシビリティやハラスメント防止への取り組みを強化いたします。字幕サービスや託児サポートの提供、バリアフリー化の更なる充実など、支援体制を見直し、拡充し多様な方々が安心して作品を完勝できるように努めます。ハラスメント防止については、スタッフの研修を行うなど、創作現場や劇場に関わる全ての人が対等に、そして快適に過ごせる環境作りを進めています。さらに経済的なハードルの低減策として500円で気軽に聞けるワンコインコンサートや経済的劇場や7万人プロジェクトと題した18歳以下無料の公演数を増やすなど、料金面での配慮も継続して行ってまいります。このように、劇場に行ってみたいけれども少し不安があると感じていらっしゃる方々にも扉を開き、誰1人取り残さない劇場を目指し様々な工夫を凝らしてまいります」と詳細を説明。
そして「専門性の高い事業も多く扱いますが、初めてご来場される方にも安心して楽しんでいただけるような環境作りを行ってまいります。現代社会においては、インターネットやテクノロジーが発達し、世界中の出来事を瞬時に感じ取れるようになりました。その一方で同じ空間と時間を、生身の人間同士がリアルに共有することができる劇場の価値はますます高まっていると感じています。舞台芸術は演じるものと見るものが直接的に交流できる未知の空間を生み出し、私達に生きているという実感をもたらしてくれる特別な存在です。こうした理念のもと劇場は誰もが気軽に足を運べる場としての公共性と、世界水準の舞台芸術を発信する表現の拠点としての役割を両立させたいと考えております」そのほか、夏休み企画にはCLUB ORIGAMI(クラブ オリガミ)、子供から大人まで楽しめる参加型、愛知県内7ヶ所のツアーを実施、劇場のコンサートホールが誇る日本最大級のパイプオルガンを生かしたオルガン・レクチャーコンサート、映像と解説を交えた初級者向けのコンサート。日頃から当劇場オルガニストとしてオルガンの弾き込みや企画に携わる都築由理江ならではの視点や知識を用いて、オルガンのことをもっと知りたい人に向けた演奏・解説を行う。東京二期会オペラ劇場『イオランタ/くるみ割り人形』字幕付言語(ロシア語)上演など多彩なプログラムが予定されている。
それから、劇場ダンスアーティスト、新設されたプロジェクト「Constellation(コンステレーション)」、初めて立ち上げた制度。「開館以来継続してきたダンス事業をさらに発展させるために設けた新しい制度です。日本を代表するダンスアーティストの方々に一定期間今回はまず2年間の任期となっておりますが劇場と密接に関わりながら活動していただきます」とアナウンス。Constellation(コンステレーション)とは星座のこと。「その名が示す通り、各分野で輝く才能豊かなダンサー振付家の方々が、あたかも星座のように集い、互いに変換しながら劇場拠点に創作発表、交流を行っていくという思いを込めています。劇場が単なる作品鑑賞の場にとどまらず、アーティストと地域を繋ぎ、新たな創造のプラットフォームとなることを目指しているプロジェクトです。さらに、副題に世界を繋げる愛知県芸術劇場ダンスプロジェクトというタイトルを掲げており、ここに愛知から世界に向かって国内外のダンスネットワークを紡いでいきたいという願いが込められています。私が昨年芸術監督に就任した際に、まず最初に考えたのが、この劇場をもっと密接な形でアーティストを迎えられないかということでした。そう。創造の現場と、観客がもっと近くなること、そこから新しい表現や地域の方とのコミュニケーションが生まれることを願ってこの1年間、準備を進めてまいりました」と解説。
さらに「今回就任いただきました劇場ダンスアーティストの皆様には劇場を拠点とした新作の捜索はもちろんのこと、地域の方々との交流の機会も多く設けていただく予定です。公開リハーサルやワークショップ、アーティストトークなどを通じ、観客の皆様が創作の過程に直接触れられる場を広げ、ダンス芸術を見るだけではなく、関わる体験するものとして社会と繋いでいくことを目指しています。さらにこの劇場ダンサーアーティストによって創作された作品は、国内のみならず海外への発信にも力を入れてまいります。国際フェスティバルへの参加や海外の劇場とのネットワークを活用した作品発表を通じて愛知から世界へと繋がる舞台芸術の展開を図ってまいります」と海外も視野に入れている。そして多様性、「バックグラウンドクラシックバレエヒップホップ、コンテンポラリーダンス、現代舞踊、大学のダンスなど日本の多様な文化芸術舞踊芸術の層の厚さも感じさせてくれています」とコメントし、「まさに劇場とアーティストと県民が一体となって紡ぐ星座コンステレーションのような関係性を築いていきたいと考えています」と語った。
選ばれたのは酒井華、島地保武、三藤瑠璃、岡田玲奈(Null)、黒田 勇(Null)。
それから一人一人の挨拶。
酒井華「(私は)ちょっと職人さんのようなところがあり、いろんな企画をしたり、劇場の皆さんと一緒に考えたり、また、県民の皆さんが、とっても楽しめるようなダンス、またはバレエそういう舞台芸術が身近に感じれるようなお手伝いというかことができたら、嬉しいなと思っています。やってみたいなと思っていることは健康になる。ようなダンス、バレエ、そういうのを県民の皆さんとやれたらいいななんて思っておりまして、そういうことをワークショップでできたらみんながハッピーになれる、そして劇場もすごく楽しい場所になっていろんなものが見えて、いろんな人たちと会えて、そういう素敵な場所になるのかなと。自分が気づかせてもらい、たくさんの挑戦をさせていただいたこの劇場でまた新たな私の活動ができるのではと…心を込めて携わらせていただきたいと思います」
島地保武「ダンサーになりたくてずっと自分の体と向き合ってきましたが、今こういう場にいることがとても嬉しいし、これが夢だったことでもあります。やる活動として掲げたいのが、やはり”フィジカルである”っていうことです。若い時は強く早く、そういうふうに思ってましたけれども今は繊細で、緩かったり鈍かったりしてもそれも一つの表現だなと思っています。つまり感度、よく感じることをよく受け取ることそして発信していくこと。自分の体が劇場だとした時、中のことをよく知ることが大切。皆さんと一緒にたくさん話して、議論をして、今、世の中でどういうことが起きてるかとか、そういうことを察知しながら自分たちでどういうことを発信していこうかということを親密にやっていきたいなと思っています。そのことから人を惹きつけるような魅力となれば、いいなと思っていますいわゆるトレンドを持ってくることよりも、みんなと考えて外に発信していくことができたらいいなと思ってます」
三藤瑠璃は残念ながら欠席、メッセージが読み上げられた。
三藤瑠璃「私はダンスに生かされています。ダンスはこれまでの様々な経験や感情、そして人と人を繋げてくれる、私にとってはななくてはならない存在です。だからこそ、1人でも多くの方にダンスを見ていただき、ダンスを通して生きる力を感じていただけたらと願っています。今やダンスには本当に多様な表現があります。私は緻密な構成と独自の身体表現を特徴とする作品を定期的に発表しています。ダンスは身体表現の可能性を広げてくれると同時に、私達が他者とどう関わるAIか関係性そのものを体現するものだと感じています。愛知県芸術劇場ダンスアーティストとして、愛知の皆様はもちろん、日本全国、そして世界とも繋がっていけるような作品をこれからも作り続けていくことが私の使命だと考えています」
岡田玲奈と黒田 勇は共に愛知にある至学館大学出身。
岡田玲奈(Null)「私は石川県出身ですが、地元で幼少期からモダンダンスを始め、テレビで夏の全国大会ダンスの全国大会を見た時『大会に出られるダンス部がある大学に行くぞ』と…愛知県のある至学館大学に入学しました。まだやったことのないジャンルのダンスをそこで学んだり、部活の仲間と切磋琢磨してコンクールに出ることを挑戦したり。部活動を通して、愛知県で活躍される。アーティストとの皆様との出会いがたくさんありました。同期である黒田とチームを組んでこの場になるとしていられること、愛知県で専属アーティストとして参加させていただくこと本当に嬉しく思います。自分が専属アーティストって決まったときに愛知の友達や知り合いの方が応援のメッセージ、お祝いのメッセージすごくいただいて。振り返ると、こうやって応援してくださる方がこんなにいるんだっていうのもすごく嬉しくてすごく力になります。自分の周り、そしてもっとその先、もっとその先って繋がりを広げていき、愛知県がダンスにすごく触れられる場所になれるといいなって思います。今回の活動を通してダンスにすごく精進してまいりたいと思います」
黒田 勇(Null)「僕は中ずっと中学校までサッカーやってまして、練習中に、友達に『ダンスしよう』って言われて、『やりたい』って言ってブレークダンスの動画を観まして、高校に行ったら絶対ダンス部入りたいと思い、ここからダンス始めたんです。ここではブレークダンスというよりもバーレッスンという…当時は『なんだこれ?』っていうものも…しかし、表現することにどんどん惹かれていき、大会とかも出まして、2年生の頃に唐津さんとも出会い、初めて芸愛知芸術劇場で踊らせていただきました…こうして今後、このような活動できることが何かまだふわふわしている感じですが、とてもありがたい機会をいただけたなと嬉しく思います。僕の両親がとても喜んでいて、それもすごい嬉しいなと。ダンスが大好きで、子供たちのところにに教えに行くとか…『ちょっとダンスってなんか恥ずかしい』とか、そういう感じのことがあるかもしれませんが、僕は歌を歌ったり、口笛吹いたりみたいな感覚で、ダンスもそうあっていいんじゃないかなと思っていまして。今回の機会を通して何か少しでも愛知の皆さんと何か一緒にやっていけたらなと思っております」
最後に唐津芸術監督が「こうして積み重ねていく一つ一つの取り組みが有機的に繋がり合い、劇場とアーティスト、そして地域の方々がまさに星座、コンステレーションのように結びついて繋がっていき、それぞれの輝きを増していくものだと思っております」と締めて会見は終了した。
そしてそれこそが私達愛知県芸術劇場の目指す姿です
©HATORI Naoshi