
劇団四季ファミリーミュージカル 『カモメに飛ぶことを教えた猫』が自由劇場(東京 浜松町)にて、7月26日に開幕。
本作は、1996年に出版されヨーロッパでロングセラーとなった、チリの小説家ルイス・セプルベダによる同名児童小説をもとに創作。
物語の舞台はドイツ・ハンブルクの港町。息絶え絶えの母カモメから卵を託された黒猫ゾルバが、彼女と交わした3つの約束を果たすため、個性豊かな仲間たちと力を合わせて奮闘する物語。
初演は2019年、5年ぶりの上演、8月29日まで東京の自由劇場での公演の後、9月20日より全国公演が始まる。
物語は基本的に初演時と変わらないが、衣装が初演よりポップにカラフルに。オリジナル作品ゆえ、衣装も”進化”。
冒頭はカモメたちのシーン、衣装は画一的ではなく、細かいニュアンスが皆、異なる。一羽のカモメがダークな”もの”に絡め取られる。そして場面は一変して、明るい街のシーン、ここはドイツ・ハンブルクの港町。ゾルバ始め、猫たちが楽しく、賑やかに歌い、踊る。

ゾルバは何かを聞きつけ、瀕死のカモメを見つける。汚れた波にのまれて息も絶え絶え。「私の卵を食べないで」「ヒナがかえるまで面倒をみて」「ヒナに飛ぶことを教えて」この3つの願いをゾルバに託し、息たえるカモメ。あまりの出来事に呆然とするもゾルバはその約束を果たそうと固く心に誓い…というのが大体の流れ。

個性的で仲間思いのゾルバの猫仲間たち、猫たちを快く思わないチンパンジーのマチアスとネズミたち、一風変わった博士がゾルバを取り巻く。マチアスはかつてはパイロットだった、時折空を飛んでいた頃に想いを馳せるが、今は酔っ払い、ゾルバたちとは敵対関係にあり、ネズミたちも猫たちに力では及ばない、いつもやられてばかり。彼らの妨害に遭うもゾルバは卵を温め、ついにヒナが誕生、“幸せになるように”という願いを込めて、「フォルトゥナータ(幸運な者)」と名づける。



もちろん、最後はバッドエンドにはならないことは観客は先刻承知。それでも、ちょっとドキドキしながら見入ってしまう。母カモメの死因、それは汚染された海、環境汚染、油に塗れてしまうのだが、そういう映像はテレビなどで見たことのある人も多いかと思うが、ここは環境問題を提起させてくれる。また、ゾルバ、気のいい奴だが、少々短気で粗暴なところもあり、マチアスが大事にしている思い出の品を壊してしまう。マチアスは大激怒、だが、ゾルバはそれを『大したことない』と捉える。側から見るとそうかもしれないが、本人にとってはとても大切でアイデンティティに関わったりする。この怒り、彼はネズミたちを扇動し、ゾルバを妨害する。単なる悪役ではなく、マチアスなりの”正義”がある。そんなところにも注目すると物語は俄然面白くなる。また、フォルトゥナータは生まれてすぐにゾルバを見て「ママ」という。生まれた直後に目の前にあった、動いて声を出すものを親だと覚え込んでしまう習性、ゾルバの後をよちよちとついていく姿は笑みが溢れる。
2幕では、フォルトゥナータに飛ぶことを教えるゾルバたちが描かれる。フォルトゥナータが可愛くてしょうがないゾルバたち、しかもフォルトゥナータは自分は猫と思い込んでいる。「猫だもん!」この姿にゾルバたちはメロメロ、フォルトゥナータを猫可愛がり(猫なだけに)。そしてラストは言わずもがな。


休憩15分を挟んだ2幕もの、上演時間は約2時間。公開ゲネプロではゾルバ役は厂原 時也、闊達で元気、ちょっと乱暴だが心優しいキャラクターを存分に表現。そして皆に慕われる大佐、秘書、劇団四季のベテラン俳優である志村 要、荒川 務がガッチリと。フォルトゥナータは東 沙綾、表情が豊か。ダンスシーンも”進化”、アンサンブル陣の活躍が光る。
思い切って新たな一歩を踏み出す、たかが一歩、されど一歩、作品に込められたメッセージ、心に刺さるセリフも。親子でしっかり楽しめるファミリーミュージカル、東京公演は、夏休み期間、8月29日まで、自由劇場にて。
コメント
ゾルバ役 厂原 時也(がんばら ときや)
ゾルバは、突然カモメの子フォルトゥナータの母代わりを任されますが、彼女との出会いを通して、自分の殻を破って成長していきます。「勇気を持って、一歩踏み出すことの大切さ」というこの作品のメッセージを、自由劇場、そして全国各地のお客様にお届けできるよう、精一杯舞台を務めてまいります。
<初演レポ記事>
概要
日程・会場:7月26日(土)〜8月29日(金) 自由劇場
※9月20日より全国公演