東京二期会オペラ ワーグナー『さまよえるオランダ人』深作健太 演出 上岡敏之 指揮 開幕

東京二期会『さまよえるオランダ人』が開幕。演出は『バトル・ロワイアルII』『僕たちは世界を変えることができない。』で知られる映画監督・深作健太、指揮は上岡敏之。
『さまよえるオランダ人』は「オランダ人船長が神を罵った罪で永遠に海をさまよい続ける」という幽霊船伝説をもとに書かれた、ワーグナー初期28歳のオペラ。大オーケストラによる有名な序曲、オランダ人のモノローグ、ゼンタのバラードetc.聴きどころが多く、3幕ものではあるが、休憩なしでスピーディーに見せる。
舞台セット、中央に”絵画”、ドイツの画家、カスパー・ダーヴィト・フリードリヒの『氷海』、19世紀初頭のロマン主義を代表するドイツの画家。凍てつく海、事故に遭った船をモチーフとして、フリードリヒの空想上の世界観が油彩画で描写、これが『さまよえるオランダ人』とシンクロする。そして物語が展開するにつれてこの額縁の絵画は場面に応じて変化していく。

嵐のシーン。

悪魔に呪われたオランダ人船長、孤独を抱えた存在、しかも死ぬこともできない。愛を誓う女性が現れれば救われるという。
有名なオペラなので物語自体、よく知られているし、今年に入って、新国立劇場、兵庫県立芸術文化センターにて上演、日本でも人気演目の一つ。他のカンパニーを観劇したなら、演出やセットなどを比べてみるのも一興。テーマは「孤独と救済」孤独なオランダ人、海を彷徨っている孤立無援な状態。そしてラストにはゼンタの愛によって救われる。

現代でも、孤立してはいないが孤独、それは特に珍しいことではなく、むしろポピュラーかもしれない。SNSが発達し、コミュニケーションをとって賑やかな状態になったりするが、それとは裏腹に皆、寂しかったりする。孤独や孤立は今も昔も変わらず、皆、抱えているのかもしれない。そしてゼンタ、オランダ人船長を運命の人と認識し、限りない愛を捧げる。その愛によってオランダ人は救われる。

東京文化会館の広い舞台を目一杯使った演出、ダイナミックなフォーメーション、2幕冒頭の糸紡ぎの合唱のシーンなど、印象に残る。力強い歌唱、ラストは、劇的な幕切れ。上演時間はおよそ2時間半ほど。また、12日はバックステージツアーも用意されている。アジアにおけるオペラのハブ都市を目指しての 「Tokyo Opera Days 2025」の後半の目玉がこの『さまよえるオランダ人』、公演は15日まで。

物語
18世紀のノルウェー。嵐の航海中、悪魔に呪われ、死ぬことができず海をさまようオランダ人船長。7年に一度だけ許される上陸の時、愛を誓う女性が現れれば救われるという。その幽霊船に出くわしたノルウェー貿易船の船長ダーラントは、オランダ人の財宝に目がくらみ、娘ゼンタを彼に引き合わせることを約束する。
ゼンタはオランダ人と運命的な出会いを果たすが、すでにゼンタには恋人エリックが。エリックに責められるゼンタ。それを知りオランダ人は絶望し出航。ゼンタは彼を追って海に身を投げる……。

概要
『さまよえるオランダ人』
《上岡敏之×東京二期会プロジェクト II》
オペラ全3幕
日本語及び英語字幕付原語(ドイツ語)上演
日程・会場:
2025年9月11日(木)、13日(土)、14日(日)、15日(月)  東京文化会館
指揮:上岡敏之
演出:深作健太
台本・作曲:リヒャルト・ワーグナー
出演:
[9月11日18:00/9月14日14:00]
ダーラント:山下浩司
ゼンタ:中江万柚子
エリック:城 宏憲
マリー:花房英里子
舵手:濱松孝行
オランダ人:河野鉄平
[9月13日/9月15日14:00]
ダーラント:志村文彦
ゼンタ:鈴木麻里子
エリック:樋口達哉
マリー:川合ひとみ
舵手:与儀 巧
オランダ人:斉木健詞
管弦楽:読売日本交響楽団
合唱:二期会合唱団
主催:公益財団法人東京二期会

公式サイト:https://nikikai.jp/lineup/hollander2025/

舞台写真提供:公益財団法人東京二期会
撮影:寺司正彦