
あの「万博ササニシキ」で華々しいデビューを飾って以来、演歌ひとすじ 50 年――。近年では、演歌と J-POP の架け橋的存在としての活動も行っている大物演歌歌手の水谷千重子。芸能史に前例が見当たらない6年間に渡り4度目となる『水谷千重子 50 周年記念公演』を東京・明治座、福岡・博多座、大阪・新歌舞伎座という格調高い三座で開催。8 月 22 日から 10 月 5 日までの全 42 公演を締めくくる大千穐楽を迎えた。観客動員5万5千人で完走。
第一部は、お芝居ステージ「CAKUGO(カクゴ) 愛と憎しみと追憶と沈黙のミス・フローレンス」を上演。原案は千重子の師匠である・二葉菖仁。二葉森乃介脚本、二葉慶太郎演出と、二葉一門が手掛けた。『水谷千重子 50 周年記念公演』にしては珍しく洋モノで、完全新作オリジナルかつミュージカルなエンターテインメント作品だ。
時は 1962 年、シカゴから792マイルを隔てたニューヨーク・ブロードウェイを舞台に、千重子演じる謎多き伝説の女性ダンサー、フローレンスが 63 年間の沈黙を破った追憶の物語。ショービジネスの世界の光と闇を軸にした笑いと涙、愛と感動にあふれるヒューマン・ハートウォーミング・コメディー・サスペンスで沸かせた。
千重子は 19 歳でブロードウェイの名門ウォーターバレー劇場に飛び込んだ少女と、晩年の隠せぬ迫力を纏う老婆という 60 歳以上年齢の異なるフローレンスを熱演。長年培った幅広い演技力と、舞台に立つだけで場を支配する存在感を見せつけた。
さらに芝居を盛り立てるのは、的場浩司・高橋ひとみ・YOU・生駒里奈・バッファロー吾郎 A・川西賢志郎・神里優希・ハリセンボン・ガンバレルーヤという千重子座長お墨付きの強者揃い。闇の歴史と逃れようのない運命を背負ったフローレンスの一人芝居に惹き込まれた次の瞬間、全キャストによる華やかでダンサブルなミュージカル舞台に圧倒される。そして寄せては返す真剣芝居とアドリブ劇の波に観客は大いに湧き、さらには劇団俳優役である高橋・YOU・生駒・川西・神里が、アメリカの権力と裏社会に翻弄されるショービジネスの渦中にいた者たちの生き様を迫真の演技で魅了。
クライマックスは的場演じるマフィアの武士道香るアクションで、舞台に渦巻く熱気を最高潮へと導く。そしてフローレンスが息絶え絶えに波乱の人生を語る最期の場面に、物語序盤から大爆笑していた観客たちは涙する。
この 2 時間のステージは、演劇、ミュージカル、アクション、そして随所にコメディー要素も詰め込まれた作品で、すべてを本物に仕上げるという覚悟のもとに構成され演じられた贅沢なエンターテイメントショーであった。
第二部は歌謡ステージ「千重子オンステージ」。お芝居の大感動フィナーレのあと、驚き、笑い、泣いた、その感情の整理がつかないまま歌謡ショーに突入…改めて彼女はそう、水谷千重子だ。のびやかな歌声と「バカ言ってる」のトーククッションで観客をまた夢のフルコースへと導く。
メインディッシュのあとの、またメインディッシュ!でもそれでも胃がもたれることはない。自身のオリジナル曲、そして最新カバーアルバム『LOVE昭和SONGS』から千重子お気に入りの名曲を、さらに豪華ゲストとのデュエットを軽やかに歌いあげた!千重子の 50 周年を祝いに駆けつけたのは、島津亜矢、麻倉未稀、岩崎宏美、はいだしょうこ、杉山清貴、水森かおり、麻倉未稀、山崎育三郎、MyM、数原龍友、根本要、玉城千春(出演日順)という実力派アーティストたち。
アンコールでは人生の応援歌『人生かぞえ歌』を熱唱。観客がまた一つとなった。
何よりも、敢えてこの表現をさせてもらうが…「水谷千重子」であり「友近」でもある彼女の板の上で戦ってきた芸人としての生き様、覚悟をまざまざと見せつけられた作品であった。こんなにも沢山の老若男女、世代も価値観もバラバラの人々を彼女の作り上げてきた世界観によって一つにしてしまう。この世界に訪れたほんのひと時に感動と笑顔で劇場を充満させる彼女は、この芸能界においてまさに唯一無二の存在だと改めて実感した。誰も真似できない、生の舞台を観劇したものだけがそれを確信する。
歌謡ステージにジョインしたおなじみ二葉ファミリーの面々。見事なまでにこの猛獣達を泳がせたり突き放したり、時には心の底から尊敬したりと、水谷千重子の猛獣使いっぷりにも感心した。そんな歌謡ステージのレポートも到着。
御崎進
今回のショー出演のために東欧ニデーンから緊急帰国した御崎進。客席が自然と総立ちになる圧巻のパフォーマンスを披露し、ステージ上でじゃこ天4枚を平らげるお茶目な一面も見せた。千重子に御自慢の襟足を触れられて激昂する場面もあったが、藤井一子『チェック・ポイント』のデュエットで途端に朗らかになり円満に和解。
萬みきお
芸歴76年。50 周年を数える千重子にとって唯一の先輩となる超大御所。昭和世代には懐かしい大ヒット移動曲『契り』を披露し今なお衰えぬ歌唱力を見せつけた。歌唱以外でのトークでは現代社会に蔓延る様々なコンプライアンスを軽々と飛び越え、記録厳禁の門外不出ステージを繰り広げた。
倉たけし
千重子とは同期。二葉ファミリーの絶倫番長こと倉たけしも大暴れのステージングを見せた。過去の黒い交際スキャンダルを払拭するために持ち歌である『感謝』を歌い上げ、偶然客席にいた組長に捧げる一幕も。独自のマイク楽器“倉ンペット”演奏では千重子と『はがゆい唇』のジョインを決行。新曲デュエット『時のリボン』も初披露し、歌謡ショーを荒らしに荒らしては忍者音楽と共に舞台を後にした。
まさとし先輩
沖縄の音楽シーンを賑わしていたまさとし先輩を千重子が慧眼のピックアップ。さしたる目的もなく終始ステージ上を徘徊する黒ジャージ姿のまさとしに千重子が圧倒される珍しい一幕も。三線での弾き語りで大入りの客席を沖縄色に染め上げたかと思えばカラオケ名曲『STAY WITH ME』のデュエットでは千重子との抜群の相性を見せつけた。

明治座、博多座、新歌舞伎座と、各劇場で満員御礼となった『水谷千重子 50 周年記念公演』。千重子を慕う有名人も観劇に訪れ、そのうち歌手の平原綾香が、こんなメッセージを自身のSNSに綴った。
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2025年9月4日 平原綾香オフィシャル Instagram
https://www.instagram.com/p/DOLazWKkp5q/
1970年に、二葉菖仁にスカウトされたことを機に、演歌の世界へと足を踏み入れた水谷千重子。1972 年に歌手デビューを果たして以来、50 年。いまやその活躍は演歌界にとどまらず、日本のエンターテインメント界をも牽引する存在となった。そのパワーはいまだ衰えを知らず、多くのエンターテイナーに刺激と感銘を与え続けている。今回、千重子が熱演したミス・フローレンスもまた、かつて世界的なアーティストたちにインスピレーションを与えた伝説の人物。舞台上で重なる千重子とフローレンスの姿は、決して偶然ではなかったに違いない。
公演概要
公演名:水谷千重子 50 周年記念公演
お芝居ステージ「CAKUGO (カクゴ) 愛と憎しみと追憶と沈黙のミス・フローレンス」
原案:二葉菖仁 脚本:二葉森乃介 演出:二葉慶太郎
出演:水谷千重子
生駒里奈 バッファロー吾郎 A
川西賢志郎 神里優希
ハリセンボン(近藤春菜・箕輪はるか、ダブルキャスト)/ガンバレルーヤ(よしこ・まひる、ダブルキャスト)
高橋ひとみ(ダブルキャスト※)/YOU(ダブルキャスト※)
的場浩司
※…高橋ひとみは明治座と博多座、YOU は明治座と新歌舞伎座の出演となります。
歌謡ステージ「千重子オンステージ」
出演:水谷千重子
日替わりジョインゲスト:
<明治座>
島津亜矢、麻倉未稀、岩崎宏美、はいだしょうこ、杉山清貴、水森かおり(出演日順)
御崎進、萬みきお、倉たけし、まさとし先輩
<博多座>
麻倉未稀、山崎育三郎、はいだしょうこ、水森かおり、MyM、数原龍友(出演日順)
御崎進、倉たけし、まさとし先輩
<新歌舞伎座>
水森かおり、根本要、玉城千春、はいだしょうこ(出演日順)
倉たけし、まさとし先輩
※全公演終了いたしました。
東京公演
会場:明治座
公演期間:2025 年 8 月 22 日(金)~9 月 7 日(日)
福岡公演
会場:博多座
公演期間:2025 年 9 月 13 日(土)~9 月 22 日(月)
大阪公演
会場:新歌舞伎座
公演期間:2025 年 9 月 27 日(土)~10 月 5 日(日)
公演公式ホームページ: https://www.bakaitteru.com/
公演公式 X: @ChiekoM_Meijiza
千穐楽ライブレポート/岩本和子
公演レポート/鈴木ユカ