
松田凌、橋本祥平、有澤樟太郎の3人が共演する映画『舞倒れ』が池袋HUMAXシネマズにて公開中だ。
佐渡ヶ島を舞台に、鍍金流(能をベースとした本作オリジナルの舞踊)という島で古くから伝わる舞踊に青春を懸ける青年たちの葛藤と衝動を描いた本作。公開を前に数多くの映画祭に出品し、ドイツのハンブルグ日本映画祭2025で特別賞を受賞するなど、高い評価を得ている。
そこで、吾潟(あがた)役の松田、下戸(おりと)役の橋本、硲(はざま)役の有澤が鼎談。舞に魅入られ、時にもがき悩む彼らの姿に何を感じたのか聞かせてもらった。
二人と作品をつくれた日々は、僕にとって宝物のような時間でした
ーーこの3人が揃うのは久しぶりですか。
松田:おのおの久しぶりじゃないかなと思うんですけど。
有澤:二人は会ってるんですか。
橋本:(松田を見て)めちゃめちゃ久々。今年初めてくらいかもしれない。
有澤:え。じゃあ結構一緒かもしれない。
橋本:こういう機会がないとなかなか凌さんに会えないんですよ。
松田:レアキャラなんですかね(笑)。会いたい気持ちはあるんですけど。
有澤:僕は事務所を辞めるときに一緒に食事に行って、会うのはそれ以来なんですけど、凌さんは会うたびにどんどんワイルドになっていってる(笑)。
松田:だって二人と出会ったのは、まだ僕が20代前半のときでしょ。それが今は樟太郎も30(歳)になったんだっけ?
有澤:なりました。先月に。
松田:おめでとう! ついに三十路?
有澤:三十路です。
松田:この3人、みんなもう30代。そこはやっぱりみんな大人になったというか、年月の積み重ねを感じますね。
ーー旧知の3人で、ひとつの映像作品をつくれたことに対して、どんな思いがありますか。
松田:この作品の撮影が行われたのが2年前。当時はまだあまりふれていなかった映画という世界で共演できたことが自分たちにとっても良かったんじゃないかなと思います。タイトなスケジュールの中での撮影で、気持ちの面で切迫したものはあったけど、逆にそういう状況でないと得られない養分みたいなものがあったし、あの時間が自分を救ってくれたな思う瞬間もあった。そんな作品がこうしてみなさんに観ていただける日が来たということに特別な思いがありますし、観てくださる方にとってもこの作品と出会う日が特別な1日になってくれたらうれしいです。
橋本:凌さんのおっしゃる通り、演劇がフィールドの僕らが共演するなら演劇という選択もあったと思うんですけど、やっぱりそこは映画を撮るということに意味があったんだと思います。フィルムは、残り続けるもの。あの頃の僕らがずっと残り続けるのって、それだけで素敵だなと思うし、同じ事務所だからとか関係なく、いち役者として尊敬する二人と作品をつくれた日々は、僕にとって宝物のような時間でした。
有澤:事務所でイベントや配信をやるたびに、ずっと一緒に何かやりたいねという話はしていたんです。それがこうして映画という形になって。しかも作風にこだわりを感じるというか、挑戦的なところをすごく感じる作品で。僕にとっては、こういうものがやりたかったんだという集大成のような作品です。スケジュールであったり大変なことはたくさんあったけど、それ以上にやって良かったと思う瞬間がたくさんある撮影の日々でした。
僕が抱いた憧れは間違っていなかったんだと答え合わせができた
ーーでは、そんな本作の魅力をみなさんの言葉でご紹介ください。
橋本:この物語に登場する鍍金流は、能が島独自の文化と溶け合って生まれた本作オリジナルの舞なんですけど、伝統を受け継ぐという意味では、今人気の映画と重なるところがあって、タイミングがいいなと(笑)。これを機に日本の文化にふれてもらえたらうれしいし、命を懸けてがむしゃらに踊り続けたシーンは映画館の大画面だからこそ感じられるものがあると思うので、ぜひ劇場で観ていただければと思います。
有澤:僕は3人それぞれの関係性を見てほしいですね。それぞれの役が演じる僕たち本人とリンクしているかといったら、そうでもない気がして。物語の本筋とはまたちょっと違うところですけど、3人それぞれが挑戦的な役柄に挑んでいる姿や、映画というものにもがきながら取り組んでいる姿に注目してもらえたらと思います。
松田:中心人物となる役を演じさせてもらった自分がこんな答えはよくないと思うのですが、まだわからないというか、この作品の魅力をお伝えするのに最適な言葉が僕の中でうまく出てこないんです。この作品には、青春とはとか、舞いとはとか、あるいははざ兄を通して描かれる命を賭すみたいなことであったりとか、いろんなイメージの集合を我々俳優が背負っていて、どういう意図なのか監督と最初にお話をさせていただいたくらい、わからないことが多かった。でも、各俳優陣とスタッフのみなさん、そして監督の力が合わさることで、ちょっとSFの混じった設定ではありますが、こんな世界絶対ないじゃんとは言い切れないリアリティが生まれた。その中からみなさんが、こんな魅力があるぜというものをそれぞれ見つけてくださったら僕としては御の字ですし、それが自分の耳にも届いたらうれしいなと思います。
ーー3人で一緒にがっつりお芝居をやってみての感想を聞かせてください。
松田:もっとやりたいな、と思いましたね。そう思えるってすごいことだと思うんですよ。それは間違いなくこの二人のことを尊敬しているからだし、ご本人にしかない魅力を感覚的に感じ取ってしまっているからだと思うんですね。二人のことをもっと知りたかったし、もっと芝居を交わしてみたかった。僕にとってもっとお芝居をしてみたいと思わせてくれる相手でした。
有澤:年下の僕が言うのもアレですけど、お二人とも人間味に溢れていて素直。感じたことが全部表現としてにじみ出ているんです。僕は初舞台(舞台「K」第二章 -AROUSAL OF KING-)で凌さんとご一緒して。その次(ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」)で祥平さんと同じ舞台に立って。当時から僕にとってお二人はとても魅力的で、自分もこうならなければいけないと刺激をもらえる存在でした。それから月日が流れて、僕なりに経験を重ねた上で、改めてご一緒してみて。あのとき、僕が抱いた憧れは間違っていなかったんだと答え合わせができたみたいで。お二人とお芝居ができた時間は僕にとってすごく素敵なものになりました。
橋本:僕は常々「いい役者ってなんだろう」と考えていて。その答えはもちろんまだ出ていないんですけど、結局は「本番でいい芝居をする」ことが一つの答えかなと思っていて。そのいい芝居に行き着くまでの過程が役者にとっては大事で、お二人が役に向き合う姿から学ぶものがいっぱいありました。樟太郎は年下なのにお兄ちゃん役をやっていても違和感がない華と色気がある。凌くんは、先ほど作品の魅力は何かという質問に対して、わからないと答えていましたけど、わからないことを誤魔化さずにちゃんと言える強さがある。そんなところも含めて、僕にとってお二人はいい役者さんであり、ご一緒できて本当に良かったです。
“才”に右往左往しながら生きる毎日に俳優らしさを感じている
ーー才能であったり、選ばれる者/選ばれない者の残酷さを感じる映画でもありました。表に立つ者として、映画の中で描かれたこれらのことについてどう感じたかお聞かせいただけますか。
有澤:この世界って上手いからといって上に行けるわけじゃないし。すごく技術があるのに、どうして前に出られないんだろうと思う人もいる。しかも、硲たちが身を置いているのは鍍金流という伝統芸能の世界。家柄とか、より抗えないものがある気がして。エンタメをやってる人間としてはすごく共感できるし、リアルだなと思いました。
松田:僕はずっと“才”というものに囚われているし、囚われなきゃいけないのかなと思っています。すごいものを目の当たりにして、これが“才”かと思う瞬間が人生でいくつものあるんですね。でもそれと同時に、自分もそういうものを持っているんだと信じたくて生きている。カッコつけた表現になっちゃいますけど、“才”に右往左往しながら毎日を生きていることに俳優らしさも感じて、そういうカタルシスの中をずっと彷徨っている気がします。天から与えられた“才”に唯一抗う力は、己の努力で培っていくしかなくて。今はみんな手を取り合っていくことがよしとされる時代だけど、きっと仲良く肩を組んでいるだけじゃ、個の力は鍛えられない。時に孤独になっても、自分で自分を磨いていく覚悟がないと選ばれる側にはいけないんじゃないかなって。僕は“才”という膨大なものに食われたくないんですよね。死に物狂いで“才”と抗い、選ばれる俳優でありたいです。
橋本:僕らがいるのは、隣の芝生が青い世界ですからね。
有澤:祥平さん、思うんですか、隣の芝生が青いって。
橋本:めちゃめちゃ思う。
松田:祥平も誰かからはそう思われてるだろうしね。
橋本:そう思ってくれているならうれしいですけど。隣を見たときに、自分で自分のことを何もないと感じてしまうんですよね。
有澤:周りからは恵まれていると思われているのに、自分は何もないと思っちゃう。
橋本:俺って何を持ってるんだろうって思う。ただ、今回の撮影中に、草が生い茂った一本道を走るシーンがあって、道路の真ん中に大量のミミズが死んでたんですよ。きっとこのミミズは道路をまたいで向こうに行こうとして途中で力尽きたんだなと思って。命懸けで何かを得ようとすることも大事だけど、何かを羨んだ結果、無理をしても身を滅ぼす危険性があるんだなとミミズから学びました(笑)。
松田:“才”という太陽に焦がれちゃったわけだ。
橋本:そうなんですよ。だから、このミミズは俺だなと思いながら走っていたんですけど(笑)。羨ましい人がいっぱいいる世界だからこそ、ちゃんと自分を持っていないと、いつか嫉妬とか羨望という圧に押し潰されちゃうんじゃないかなって。しっかり自分を持って、自分を信じていこうって思いました。
ーー今、自分を信じるという話が出ましたが、すごい人がたくさんいるこの世界で、みなさんは何を信じて芸の道を突き進んでいくのでしょうか。自分を信じるとしたら、自分の何を信じるのかというところも含めて聞かせてください。
松田:これだけ散々“才”について話させてもらっておいて、数分前の自分にアンチテーゼを投げるみたいですが、正直知ったこっちゃねえと思っている自分もいるんですよね。確かに僕たちは選ばれる職業だけど、僕は選んでこの世界に来ているというのもあって。ミミズのように朽ち果ててしまったとしても本望だとさえ思う。知ったこっちゃねえと心を強く持てた瞬間、世界が広がるというか、こんなにも世の中は広くて、こんなにも面白いものが無数にあるんだということに気づけたんです。そしてその瞬間、もっと俳優として、一人の人間として、面白く生きたいと思った。そんな自分の心の強さが、今僕が信じているものの一つです。
橋本:僕は基本的に自分に自信がないんですけど、一つ確固たる信じているものがあって。それが、これまでの出会いとご縁です。今の自分の芝居の土台をつくり上げてくれたのは、今日までご一緒してきたすべての人たち。自分を否定したら、その人たちまで否定することになってしまうのが嫌なんです。自分はいい人たちと出会って、その中でお芝居をさせてもらってきたという自信だけはある。だから、その人たちとの出会いを僕は信じています。
有澤:僕も同じですね。二つ信じてることがあって、自分の好奇心と、人に恵まれているということです。僕はすごく影響を受けやすい人間で、新しい作品に出会うたびに、たとえばその作品の時代背景を調べて、こういう時代があったんだとか、こういう人たちがいたんだと刺激を受けたり。現場で新しい人と出会うたびに、何かしら新しい発見があって、もっといろんな人とお芝居がしたいな、今度はこういう作品でこういう人とご一緒してみたいないうモチベーションが湧いてくる。祥平さんが言う通り、僕も今まで出会って影響を与えてくれた人たちを信じているし、自分は本当に人に恵まれているなって、きっとそういう星のもとに生まれてきたんだろうなと思っている。だから、たとえ自分に自信がなくてもやっていけるんです。これからも何かあるたび、その都度悩むと思う。でも、周りに信じられる人がいると思うだけで、何があってもやっていける気がします。
上映館・公開情報
池袋 HUMAX シネマズ 10 月 10 日(金)より
ほか全国順次公開
出演:
松田凌、橋本祥平、有澤樟太郎、川添野愛、田村一行、黒沢あすか、新田健太、榎本純、秋山皓郎、菊池宇晃、相澤莉多、滝川広大、伊崎龍次郎、深澤大河、本西彩希帆
監督:横大路伸
脚本:下浦貴敬
主題歌:笹川美和「青海原」
公式サイト:http://officeendless.com/sp/movie_maidaore
X(旧Twitter)アカウント:@maidaore_2024
企画:キャストコーポレーション/OfficeENDLESS
製作:OfficeENDLESS
宣伝・配給:OfficeENDLESS
©映画「舞倒れ」製作委員会