ウォーリー木下 企画・作・演出 舞台『1995117546』インタビュー

「阪神・淡路大震災」から30年の今年。舞台『1995117546』は、企画・作・演出のウォーリー木下自身が大学時代に被災し、九死に一生を得た経験をもとに、1995年1月17日5時46分に起きた、未曾有の大地震自然災害と直面した時の恐怖と生き抜くことになった出来事を描く。12月に兵庫•東京で上演される。ウォーリー木下さんへのインタビューが実現、被災した時のことや、舞台化しようと思ったきっかけ、1995年という時代についてなどを語っていただいた。

ーー阪神淡路大震災を題材にして舞台を作ろうと思った理由や何か気持ちをお願いいたします。

木下:30年前僕は大学5回生で神戸灘区新在家の2階建てアパートの1階に住んでいました。1月17日、地震で2階が落ちてきて、それが寝ている自分の上に落ちてきて生き埋めになったんです。約6時間後に仲間に救出されたのですが、本当に九死に一生を得た体験でした。そこから先、その体験を演劇の題材にするというのは自分の中では無理でした。そもそも地震をモチーフに演劇作るという発想がなかったですし、そういうのをやることが求められているのかも分からなくて。もちろん、そういう作品があってもいいと思うんですが、自分自身が被災者だからこそ、僕が作るのは違うのかなと思っていましたね。それから何年も経ち、いろんな演劇を作る中で、演出家としてやり切ったと感じる瞬間があり、そこでふと、震災のことを書かずに終わっていいのかと考えるようになったんですね。2年、3年ほど前から別に誰に見せるともなく、上演したいという明確な目標があったわけでもなく、地震のときのことを具体的に書き始めたんです。
それは断片的なシーンだったんですが、その頃ちょうどプロデューサーの江口さんといろんなお話しをしている中で、兵庫県立芸術文化センターが2025年に20周年で、地震から30年という節目の年に阪神淡路大震災に関連した企画を計画しているというお話を聞いて、今なら作品として書けるかもしれないと思ったのと、自分にとっても意義のある形で震災をモチーフにした演劇が作れるんじゃないかと思ったんです。ここを逃すと、多分もう2度と震災で自分が遭遇したことを具体的に演劇にすることはないだろうなと感じて、このタイミングに乗って、書いてみようと思ったのが大きなきっかけですね。

ーー書くなら今でしょ、という感じですね。

木下:はい。30年という時間がとてもありがたかった。それだけの時間があったことで僕はようやく書けるようになりました。

ーータイトルは地震が起きた時間ですね。正確には1995年1月17日5時46分52秒。戦後最大の地震。まさにこの地震が起こった時間をタイトルにしようって思った理由は?

木下:当初は1995年という日本にとって大きな転換点になった年を描きたいと考えていました。地震だけではなく、地下鉄サリン事件もあり、バブルが崩壊して日本の政治もかなり変わった年でもある。
なので『1995』というタイトルでずっと企画は進めていたんですけど、『1995』は類似の作品がたくさんあり、じゃあこの作品じゃないと作れないタイトルはなんだろうと考えたんです。あれこれと考えた末に、地震発生の時間、まさにあの瞬間の前と後ろで自分の人生が変わったなと。この時間をタイトルに、つまり起点にすることで登場人物たちのドラマを動かしていきたいなと思ったんです。日本語で色々と足そうかとも考えたのですが、どうしても感傷的になってしまって、数字だけのシンプルでフラットなタイトルにしました。

ーータイトルがシンプルに、事実ですからね。

木下:そうですね。逆に言うと、これ以上の意味は何もない。

ーー結構クールなタイトルですね。

木下:そうですね。実際に作品もそう作りたいと思っています。『作家の人が体験した話だよね』と捉えられてしまうと思うので、感情をあふれさせすぎても良くないなと思って、このくらいクールなタイトルにしました。自分自身への戒めとしても、ですね。

ーー台本を1回読ませていただきました。暗い感じじゃないですね。地震の後のその体験している人たちの描写が結構リアルだなと感じたのですが。それはご自身が見たもの?

木下:僕は生き埋めにあって仲間に助け出されて、そのまま病院に運ばれ、それから3ヶ月間病院にいたので基本的には神戸の街で何が起こったのか直接は見ていないですね。重症の僕に、なかなかみんなそういうことは言わないし、テレビもやっぱり見る元気はなかったですね。退院してからニュースでこんなに高速道路が落ちてたんだとか、実はいろんな事件があったんだとか被害の状況を知りました。

ーー私は東京にいたので、その日のニュースをリアルに見てました。今の話をおうかがいして、逆に遠く離れている人間の方がテレビとかでリアルに感じてるのかもしれないですね。避難所や助け出されてる人たち、建物が倒れて人が生き埋めになって救援の人が呼びかけるのをテレビで見てますので、もしかしたら遠く離れてる人の方がその辺はリアルなのかも知れないですね。

木下:そうかもしれないですね。中にいる人たちにとっては、自分の半径1mのことしかわからないので、これが一体どういうことなのかは誰も判断できないまま、特に神戸で地震が起きるという想定がほぼほぼなかったので、戸惑いと恐怖みたいなものが漂っているだけで、彼ら自身は客観視をしないままどんどんどんどん月日が過ぎていったように思います。報道の仕方も何もルールが決まっていない中で、みんな一生懸命手探りでやっていて、ボランティアの方々もそうでしたね。遠くにいる人の方が実は、よく見えたのかもしれないですね。

ーー確かに遠くにいた人の方がリアルタイムでそういうところをみていますし。また1995年という年は確かにあの地震がなくてもある意味節目だったかもしれませんね。

木下:それまでは、こんなことが起こるなんて本当に想像をしていなかった。戦後50年の間でみんなが頑張って築き上げてくれた富の上に僕らはあぐらをかいて、特に20代前半の大学生なんてみんなそうで、極端な貧富の差もなかったし、ある程度安い物価の中で、マクドナルドが90円とかの時代、この平和はいつまでも続くと全員思っていたんですよね。でも地震と地下鉄サリン事件で、こんな平和は長続きしない、また戦争が来るかもしれないとか、当たり前のことが当たり前じゃないっていう認識が生まれた。それこそ、村上龍さんがその当時、割と予言的にそういうことを書いていたんですけど、確かに日本人は平和ボケしていんだなと今振り返ると思いますね。

ーー地震が起こるまで関西の人たちには『ここら辺は地震来ないよね』っていうような”神話”があった。

木下:あったと思います。震災をきっかけにまさに当たり前のことが崩れるっていうことがこれから先たくさんあるんだろうなって思いました。地震や地下鉄サリン事件は、そのきっかけですかね。

ーー21世紀に入って、東日本大震災がありましたし。

木下:話がそれますけど、3・11のとき、僕は東京にいました。当たり前なことはいつ崩壊するかわからないっていう前提が僕の中にはありましたが、関東の人は阪神淡路大震災からは教訓を実感としては得ていなかったんだと思います。だから、3.11は結構みんなハプニング状態、だいぶナーバスになっていたの見て、やっぱり地域差があったんだなと思いました。関東の人たちはこんなことが世の中で起こるんだっていう恐怖に初めて直面したんだと思うんですね。

ーー3・11の次の日になってテレビでこれはかなり大変なことなんだっていうことがわかってきて。スーパーに行ってトイレットペーパー買いました(笑)。そしたら次の日からなくなりましたね。

木下:ありましたね、それとコンビニから商品がなくなりましたね。

ーー最後のエンディングが希望と言い方はちょっと違うのかもしれないんですけれども、明るい…。

木下:そうですね。

ーーそういうエンディングですよね。

木下:いろんなバージョンを今、書いていて悩んではいるんですけど、明るくはしたいなという気持ちはあります。未来を感じるエンディングです。

ーー最後に観に来てくださるお客様、タイトルが気になっている方、世代的にわからない方もいらっしゃいますが、そういう方々に向けてメッセージをお願いします。また、演者さんの中には震災後に生まれた方もいらしゃいますし。

木下:はい。阪神淡路大震災が30年前にあった。それは本当に、歴史の教科書に出るような話で、今回はそのときのことをフィクションとして描いています。地震の日を描いているけれども、もっと大きい…人間は、ある日突然大きな抗いがたい何かに捉えられてしまうことがある。その中でも手を伸ばして、助け合うことができるとか、小さなことに幸せを感じることができるとか、いろんな解釈ができるお話になっているので、もしかしたら人によってはコロナのことを思い出すかもしれないし、人によっては自分の家の話を、家族のことを思い出すかもしれないし、もしかしたら将来について悩んでいる人は、そのことを考えるかもしれない。若い人にとっても、いろんな切り口がある作品になってますので、青春ドラマとして楽しんでもらえると思います。ぜひ見に来てください。若い俳優が本当にいろんな役を演じます。演劇の遊びを知っている6人なので、その演出は純粋に楽しい創作になると思うので、ただ観て面白いなと思ってもらえるものを作れるように頑張ります。

ーーありがとうございます。公演を楽しみにしております。

概要
日程・会場:
兵庫:2025年12月13日(土)~14日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
東京:2025年12月18日(木)~27日(土) 東京芸術劇場 シアターウエスト
企画・作・演出:ウォーリー木下
出演:須賀健太、中川大輔、斎藤瑠希、前田隆成、田中尚輝、小林 唯
企画・製作:シーエイティプロデュース
公式サイト:https://www.1995117546.com