千葉哲也,村川絵梨etc.出演 作演出 鄭義信 『焼肉ドラゴン』凱旋公演開幕 消滅する町、記憶と営みと思い出と愛着

鄭 義信が日本の戦後史の影を描いた日韓合同公演『焼肉ドラゴン』が新国立劇場小劇場にて凱旋公演開幕。
2008年に新国立劇場が芸術の殿堂(ソウル・アーツ・センター)とのコラボレーション企画として、鄭義信に書き下ろしを依頼し制作された本作。
日韓の過去、現在、そして未来を、音楽を交えながら、おかしくも哀しく切なく描くこの物語は、2008年、2011年、2016年に続き、2025年、日韓国交正常化60周年を迎えることを記念しての上演。
開演前から始まっている。舞台上ではなんと!本当に焼肉を焼いている!美味しそうな匂い、煙もモクモク。キャストたちも嬉しそう。それから始まる。


飛行機の爆音、物語の設定は1969年、場所は関西のとある地方都市、バラックが立ち並ぶ。店のポスターなど、昭和世代には懐かしいレトロ感。屋根の上にいる少年が叫ぶ「こんな町は嫌いだ!」と叫ぶ。焼肉屋、常連がわいわいと賑やかに。この焼肉屋「ドラゴン」ここの店主は金龍吉、「龍」の名にちなんでつけられた。
彼は左腕がない。戦争に従軍して腕を失ったのだった。しかも四・三事件で故郷の済州島を追われて高英順と再婚。国有地を不法占拠した集落で焼肉店を営んでいる。それぞれに連子、龍吉は長女・静花と次女・梨花、英順は三女・美花。二人の間に生まれたのが長男・時生。屋根の上にいたのは時生、有名中学に通っている、という設定。
登場人物たちの会話、笑ったり、泣いたり、時には喧嘩もする。1955年頃から1973年頃までを高度経済成長期、実質経済成長率が年平均で10%前後を記録、そんなことも念頭に入れながら観ると興味深い。
男女関係のもつれや不倫、そんなこんなの人間ドラマがこの焼肉店で繰り広げられる。客席からは時折、笑い声が起こる。会話の中身が、もういわゆる”日常”的。だが、その会話の裏に潜む、悲喜交々。言葉は日本語(関西弁)と韓国語。時々字幕が出るのでわからなくても大丈夫。


ただ、彼らの住んでいるところ、不法占拠している集落ゆえ、立ち退きの通知を受けるが、さりとて、どこへ行けばいいのか、帰るところがないのが現実。また「外人登録」という言葉も。日本に連続90日を超えて滞在しようとする外国人(無国籍者を含む)は、一部例外を除いて、必ず登録する義務があった。つまり、”異邦人”。そんな彼らの哀しみ、言葉と言葉の間に見え隠れする。また、時生が不登校に、原因はいじめ。それでも時は過ぎていく。
『明日はきっとえぇ日になる』と龍吉は前を向く。
物語は1969年春から1971年春まで、移ろいゆく季節、地に足をつけて生きる人々、ラスト、店が取り壊される。ラストシーンは感涙、どんな未来が待っていようとも、生きていかなければならない。リアカーに荷物を乗せて龍吉が引っ張り、英順はそのリヤカーに乗っている。屋根の上には時生がいる。大声で叫ぶ「アボジ!オモニ!本当はこの町が大好きだった!」。

消滅する町、そこでの記憶と営みと思い出と愛着とが交錯する。楽しいこと、哀しいことetc.この「ドラゴン」という店の隅々まで染みついたそんな記憶と哀愁と愛着。散りゆく桜、今まで共にいた人々があちこちに散らばっていく、多分、二度と会うこともない。20分の休憩を挟んで3時間ほどの上演時間だが、長さは感じない。観客の心に刺さる彼らの生き様。終幕後、客席のほとんどの観客が立ち上がって大きな拍手。公演は21日まで。

あらすじ
万国博覧会が催された1970(昭和45)年、関西地方都市。高度経済成長に浮かれる時代の片隅で、焼肉屋「焼肉ドラゴン」の赤提灯が今夜も灯る。 店主・金 龍吉は、太平洋戦争で左腕を失ったが、それを苦にするふうでもなく淡々と生きている。 家族は、先妻との間にもうけた二人の娘・静花と梨花、後妻・英順とその連れ子・美花、そして、英順との間に授かった一人息子の時生……ちょっとちぐはぐな家族と、滑稽な客たちで、今夜も「焼肉ドラゴン」は賑々しい。ささいなことで泣いたり、いがみあったり、笑いあったり……。 そんな中、「焼肉ドラゴン」にも、しだいに時代の波が押し寄せてくる。

<製作発表会の様子>

千葉哲也,村川絵梨etc.出演 作演出 鄭義信「焼肉ドラゴン」制作発表会レポ @新国立劇場

概要
公演タイトル:日韓国交正常化60周年記念公演『焼肉ドラゴン』
日程・会場:2025年10月7日(火)~27日(月)新国立劇場 小劇場
公演タイトル:日韓国交正常化60周年記念公演『焼肉ドラゴン』 凱旋公演
日程・会場:2025年12月19日(金)~21日(日) 新国立劇場 中劇場
作・演出:鄭 義信
出演:千葉哲也、村川絵梨、智順、櫻井章喜、朴 勝哲、崔在哲、石原由宇、北野秀気、松永玲子
イ・ヨンソク、コ・スヒ、パク・スヨン、趙 徳安、チョン・スヨン
キム・ムンシクは、健康上の理由のため降板することとなり、この降板に伴い、趙 徳安が同役で出演。
芸術監督:小川絵梨子
主催:新国立劇場
WEB:https://www.nntt.jac.go.jp/play/yakinikudragon/

撮影:宮川舞子