2026年2月3日から、上野ストアハウスにて、俳優の橋本真一と輝山 立による共同企画・HKプロデュースの音楽朗読劇「夜明けの空を君に」-2026-が開催された。本作は、2025年に初演された同名作品を元に内容をさらに磨き上げ、シャッフルキャストで上演されたものだ。
出演者は、秋谷啓斗、新井雄也、石渡真修、YOSUKE、佐藤弘樹、鈴木祐大、内藤光佑、西岡諒佑、日向野 祥、松村龍之介、真野拓実に加え、演出も手掛ける橋本真一、輝山 立といった面々だ(当初予定されていた小笠原 仁は体調不良のため休演)。2025年の初演時はキャスト6名・全8ステージだったところから、今回の再演ではキャスト13名・全12ステージへとボリュームアップ。声優や俳優、音楽活動など多彩なフィールドで活躍する演者たちが、物語に魂を吹き込んだ。以下、ネタバレ無しで公演についてレポートしていこう。

ストーリーは、いつも人を笑顔にする17歳のハルキと、眩しいものから目を背ける同級生のショウジの出会いから始まる。正反対のように見える彼らだが、お互い誰にも見せられない弱さを心の奥底にしまい込んでいた。やがてショウジとハルキは、次第に絆を深めていく。
一方で描かれるのは、誰かの心に届けようと路上で懸命に歌い続けるHARUと、現実に打ちのめされ、深い失望の中にいる野崎の物語だ。先の見えない未来を追いながら進む2人の軌跡がふと隣り合う瞬間、世界は静かに動き始める――。





彼らを演じる役者たちは、台本を片手に舞台上を自在に行き交い、繊細なピアノの生演奏が彩りを添える。本作の原案は橋本のオリジナル楽曲「ハッピーバースデー」で、それを象徴するかのように、舞台の真ん中には1本のアコースティックギターが置かれていた。




声と演技、演出によって世界観に引き込む――それが朗読劇の真骨頂だ。役者の表情のひとつひとつがよく見え、呼吸音すら伝わるようなライブ感と緊張感。物語の展開に合わせて奏でられるピアノの旋律が、その時間、その場所だけに生まれる美しい世界観を作り上げていた。教室にいるクラスメイトたちの賑わいや、駅前の喧騒。大切な誰かと見るからこそ深く心に刻まれる景色など、観客たちは舞台上に存在しない音や風景を想像しながら観劇していたはずだ。そうした情景までしっかりと伝えることができたのは、役者たちの力量と、細部にまでこだわりぬいた作品づくりの賜物だろう。


あらためて驚かされるのは、本作がわずか1時間あまりの短い上演時間ということだ。そこに内包された熱量はすさまじく濃密で、物語がクライマックスに向けていくにつれ、驚くほどぐんぐんと引き込まれていく。構成や役者の動きなどの演出は、橋本と輝山が、シナリオが持つ感動を最大限に引き出すべく夜通しアイディアを出し合いながら徹底的にこだわって作ったものだそうだ。そうした取り組みが確かな形として結実し、序盤はコミカルなやりとりに笑いが起きる場面もあった会場に、終盤ではあちこちからすすり泣きが聴こえてくるほどの感動を生んでいた。
さらに、多くの人の心を動かしたのは、楽曲「ハッピーバースデー」の持つ意味だろう。この歌は、誰かが生まれたことを祝うだけでなく「君がいるから僕がいる」「ただ呼吸してそこにいるだけでいい」といった、送り手の深い愛情を伝えるものでもある。だからこそ、この歌が物語の中でどんな意味を持つかを理解した瞬間、目の前の霧が晴れ、あたたかい日差しに包まれたような喜びと感動を味わうことができる。
そうしてこの歌で歌われる言葉に耳を傾けるうち、これは登場人物どうしの想いを伝えるだけのものではなく、すべての人に向けた感謝と愛と祝福のメッセージだということに気付かされる。それぞれが大切にしている存在や自分自身を振り返って涙を流し、心が浄化されていく――「ハッピーバースデー」は、聴く人に優しく寄り添い、癒やしと愛をくれる歌なのだ。

もうひとつ特筆しておくべきは、本作のキャストが固定ではなく、同じ役者でも回ごとに違う役を演じる点だ。異なる性格と環境の登場人物たちだが、それを演じる役者によって見事に雰囲気を変える。しかも役者どうしの組み合わせも様々であるため、それぞれが持つ空気や演技が混ざり合い、また新たな世界を作り出してみせるのだ。ピアノの演奏も上演回によって異なる味付けをしており、まさに“生”ならではの贅沢さにあふれた舞台と言える。
平日が中心の上演期間にも関わらず全ての回のチケットが完売したことからも、観客が作品に寄せる期待の高さが伝わるが、本作はその期待を余すところなく受け止め、応えてみせた。

“線”は、人と人との間に境界を作ることもあれば、誰かとの関係を結ぶ絆になることもある。それは時として、音楽を生みだす五線譜にも、美しい音を奏でる弦にも姿を変える。「夜明けの空を君に」は、そうした線と線の交わりを丁寧に紡ぐ、小さくて美しい宝物のようにかけがえのない作品だ。
公演を終えたあと、心には感動の余韻と優しい旋律が残る。それは夜明けのように暗闇を溶かし、世界を静かに輝きで満たしていく。その光は観客の胸の中に生き続け、日常の中のふとした瞬間に足下を照らし、柔らかく心を包みこんでくれるだろう。
あらすじ
人生が交差する空の下。
忘れられない“時間”と“約束”を巡る物語が、今、始まる。
高台の下に広がる、ある街。
長い夜を生きる青年がいた。
いつだって眩しいものから目を背けるショウジ。
17歳の彼には、人を笑顔にできるハルキが眩しくて仕方なかった。
「同じ教室にいるだけで、きっと見てる世界は違う」
そう言い聞かせ、スポットを浴びたように輝くハルキから目をそらす。
喧騒が支配する、ある駅前。
野崎を包み込む長い夜は、明け方を知らない。
喧騒の中に、歌声。その声をかき消す喧騒。
誰にも届かず、HARUの歌は喧騒に紛れ込む。
喧騒が、夜を支配する。
「変わるなよ」
その言葉が、あの時間が、救いだった。
その時間がずっと続けと願っていた。
秘密を抱えた青年は友の前で、弱さを見せることなく、その時間に生きがいを見つけ、縋った。
夜明けを知った2人と、夜にとらわれた2人。
交わることのなかった人生が交差したとき、夜を生きる彼らの物語が動き出す。
概要
HKプロデュース
音楽朗読劇「夜明けの空を君に」-2026-概要
日程・会場:2026年2月3日〜8日 上野ストアハウス
原案 橋本真一『ハッピーバースデー』
脚本 若杉栞南
演奏 長谷川葵
演出 橋本真一 輝山 立
出演
秋谷啓斗
新井雄也
石渡真修
小笠原 仁
輝山 立
佐藤弘樹
鈴木祐大
内藤光佑
西岡諒佑
橋本真一
日向野 祥
松村龍之介
真野拓実
YOSUKE
(五十音順)
※小笠原仁はインフルエンザのため休演となりました。代役に全公演「輝山立」が出演いたします。
取材・文:玉尾たまお


