大野裕之の脚本・演出で舞台化!『十五少年漂流記』に勝る感動の無人島漂流譚!
明治時代の実話を元にした舞台「無人島に生きる十六人」が2022年4月15日(金)~4月24日(日)までこくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロにて上演。
脚本・演出は音楽劇「スマイル・オブ・チャップリン」や「ライムライト」を手掛ける大野裕之、 作曲に鎌田雅人、 振付に良知真次、 主演は櫻井圭登と校條拳太朗の2人が務める。
原作は航海専門家の須川邦彦による日本の海洋冒険譚で、1899年(明治32年)に中川倉吉が体験した遭難と漂流、そして流れ着いた無人島での生存譚を須川邦彦が記した。月刊少年雑誌『少年倶楽部』に1941年(昭和16年)10月から翌年10月まで海洋事実物語として連載された作品(挿画:北宏二)で、最初の単行本は1943年(昭和18年)に「少国民の日本文庫」の一冊として発行され、その年の野間文芸奨励賞を受賞している。椎名誠が新潮社の編集者にこの本の話をし、2003年に新潮文庫の1冊として刊行、椎名誠の選ぶ漂流記ベスト1でもある。
字幕が出る。「大自然からの教えをしみじみと教えられる」原作からの言葉。1899年5月20日、帆船・龍睡丸は大嵐に遭遇、映像で荒れた海、激しい雨、雷鳴、そして船はロープ、乗組員と船が嵐に翻弄される様を俳優陣の動きで見せる。アナログな表現、ダンスのようなマイムのような動きで表現、舞台ならではだ。歌、登場人物は皆、男性なのでコーラスが力強い。そしてこれがオープニングも兼ねる。一人一人のソロパートでキャラクター名と俳優名が映し出される。船は座礁、小さな無人島に流れ着いた(実際はミッドウェー近海のパールアンドハーミーズ環礁)。とりあえず、船から投げ出されて海の藻屑となることだけは避けられたが、この島は無人島、水もなく、食べ物ももちろんない。船を修理したいところだが、樹木も生えていない小さい島だった。この先、どうするのか、人骨が出てきて、一同、ギョッとする。自分達もこうなるのか…そんな不安がよぎる。そんな乗組員の不安な心情を察してか、中川船⾧(中村誠治郎)が彼らにあることを約束させる。「16人が一つのかたまりとなって、いつでも強い心で、愉快に男らしく、毎日を恥ずかしくなく暮らしていくこと」。ここもメロディーに乗せて。雨が降れば「風呂だ!」と大喜び、皆で笑えば、喜びは倍増、暗くなりがちの無人島生活を一丸となって乗り越えようとする姿が描かれている。原作にも書かれているが、井戸を掘ってみたり(しょっぱくてうまくいかなかった)、釣りをしたり、ウミガメ牧場を作ってウミガメを食べたり、海鳥の卵を拾って食べたり、帆布をほぐした糸で網をつくる、そんなこんなの逞しすぎる無人島生活が描かれる。しかもフィクションではなくノンフィクション、というのが驚きだ。
2幕は力強い歌で幕開き、ここを劇団四季出身の柳瀬大輔が歌唱、流石。若手も負けじと歌声を披露、年齢幅の広い座組、芝居にも厚みが出る。また、歌、音楽に合わせて缶をリズミカルに打つ。ダイナミックで、アップテンポな場面も作る。無人島で生活するも最終目的は、助けに来てもらってこの島を脱出し、無事に日本へ帰ること、誰一人欠けることなく。さて、彼らは全員無事に島を出られるのか?が大体の流れ。
16人、キャラクターの設定がしっかりとしており、”その他”は存在しない。メインキャラクターは、櫻井圭登演じる国後孝夫。幼い時に両親を亡くし、誰かの役に立ちたいとこの航海に参加した心優しい青年。
無人島では生息するアザラシを”仲間”と思う。そしてもう一人のメインキャラクターは範多ウィリアム、小笠原諸島出身、両親はアメリカ人、英語力を生かして日本とアメリカの架け橋になるという夢を持っている。自分の意見を率直に言うのでしばしば周囲と衝突するが、実直な青年。多様なバックボーンを持つ乗組員たち。ジェネレーションギャップも生まれも育ちも違う16人、それを束ねるのは中川船長(中村誠治郎)、貫禄を滲ませ、皆のことを考え、リーダーシップを発揮する頼もしい船長を中村誠治郎がビシッと。”大人”キャストは柳瀬大輔と加藤靖久、ここぞという場面で締める。シンプルな舞台セット、プロジェクション・マッピングを使って海、空、嵐、こういったところは21世紀な表現しているが、描かれているのは文明から切り離された孤島。
舞台効果で使われているテクノロジーと描かれている世界観のギャップも面白い。また、こういった冒険譚は基本的にフィクション、有名どころでは「15少年漂流記」があるが、途中で仲間割れする。ところが、この作品では、考え方の違いで衝突することはあるが、仲間割れには至らない。中川船長の最初の”約束”を大事にしているからだ。オーソドックスな演出、ダンスシーンもあり、普通のストレートプレイにせずに音楽劇として仕立て、エンタメ性を持たせている。観客は若い女性が多いが、ファミリーで観劇できる内容で幅広い年齢層にアピールできる。どんなに困難なことがあっても仲間を信じ、希望を捨てず、諦めない、だから、この物語が語り継がれる。公演は24日まで。
あらすじ
明治31年、 帆船・龍睡丸は大嵐に遭って太平洋で座礁し、 彼らは無人島に流れついた!
脱出した乗組員たちを乗せたボートは、 珊瑚礁の小さな島に漂着。
そこは飲み水もなく、 食べ物もなく、 樹木も生えていない小さな小さな島だった。
中川船⾧はこう言った。
「今日からは、 厳格な規律のもとに、 16人が一つのかたまりとなって、 いつでも強い心で、 しかも愉快に、 ほんとうに男らしく、 毎日毎日を恥ずかしくなく暮らしていかなければならない」
再び祖国の土を踏むために、 乗組員は一致団結して無人島での生活を始めたのだった。
まずは水と火を確保し、 救助してもらうために見張りやぐらを作り、 食料である海亀牧場を作った。 この生活に慣れてきた頃には、 今後の航海に役立てるため勉学に励み、 海鳥やあざらしと交流し、 美しい自然と向き合った。
日々工夫して助け合い、 生き抜く日本男児たち。
果たして16人は、 生きて日本に帰れるのか。
概要
日程・会場:2022年4月15日(金)~4月24日(日) こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ
■スタッフ
原作:須川邦彦
脚本・演出:大野裕之
作曲:鎌田雅人
振付:良知真次
■キャスト
櫻井圭登 校條拳太朗
松田岳 井阪郁巳 田淵累生 小坂涼太郎 反橋宗一郎 佐伯亮 前田隆太朗 稲葉光 穴沢裕介 吉川大貴 寺島レオン
柳瀬大輔 加藤靖久
中村誠治郎
■公式HP:
https://worldcode.co.jp/mujinto-stage
■公式Twitter:
https://twitter.com/mujinto_stage
脚本・演出 大野裕之プロフィール
1974年大阪府生まれ。 脚本家・演出家・日本チャップリン協会会長。 京都大学在学中にミュージカル劇団とっても便利で演劇活動を開始。
大劇場では、 『音楽劇ライムライト』(石丸幹二主演、 2015年、 2019年再演)などの脚本から、 新歌舞伎座・御園座での商業演劇、 歌舞伎『蝙蝠の安さん』(松本幸四郎主演、 国立劇場)の脚本考証まで幅広く手がける。
映画にも活動の場を広げ、 『太秦ライムライト』(2014年。 福本清三主演。 第18回ファンタジア国際映画祭最優秀作品賞)、 『葬式の名人』(2019年。 前田敦子主演)、 『ミュジコフィリア』(2021年。 井之脇海・松本穂香・山崎育三郎出演)のプロデューサーと脚本を担当。
また、 チャップリン研究家として国際的に活動し、 著書『チャップリンとヒトラー』(岩波書店)で第37回サントリー学芸賞。 近年は「そこまで言って委員会NP」(読売テレビ)でコメンテーターとしての出演も多い。 2006年ポルデノーネ国際映画祭特別メダル受賞、 2014年京都市文化芸術表彰受賞。
企画・製作: World Code
(C)舞台「無人島に生きる十六人」プロジェクト