ーー青空の下で野球がしたい、白い球を追いかけたい、友達と一緒に・・・・・・ーー
夏真っ盛り、球場では甲子園目指して白球を追う球児たちの試合が行われているが、劇場でも!舞台 「野球」 飛行機雲のホームラン ~ Homerun of Contrail、純粋に野球が好きで好きでたまらない若者たちの話だ。しかし、時代は戦争中、日本の敗戦が色濃くなった昭和19年のこと。今のように平和に野球をしているのとでは状況はかなり異なる。
いよいよ開演、審判が登場、「試合、開始!」の声、そこで鳴るのは野球の試合開始のサイレンかと思いきや・・・・・・。選手が2名登場、「選手が球を避けてはいけないってどういうことですか?」と。この頃、野球は敵国のスポーツとして野球用語はすべて日本語に置き換えられていた。信じがたいことだが、例えば「アウト」は「無為」、「セーフ」は「安全」、「三振」は「それまで」。また、今の時代では考えれないようなルールもあり、「打者は球を避けてなならない、球に当たっても死球にならない」、当時の突撃精神から来ており、選手交代も怪我以外の理由での交代はありえなかった。ちなみに戦争中の試合開始の合図は空襲警報と誤認されないように進軍ラッパだったそう。もはや想像しがたい状況であることがうかがえる。
ただただ白い球を追ってきた球児たちに赤紙が来る。受け取り、万歳をする。次の瞬間、彼らを重く暗い影が覆う。それはもう野球はできないことを意味するのである。そしてこの物語のテーマ曲が流れる。試合、一見、普通にやっているように見えるが、1球1球が彼らにとって最後になる。最後の試合だから勝ちたい、勝ちたいに決まっているのだが、勝者がいれば敗者がいる。
試合が進んでいくが、ところどころに登場人物たちのエピソードや軍の様子が挟み込まれる。会沢商業高校のピッチャーである穂積均(安西慎太郎)、対戦校である伏ヶ丘商業のエース唐澤 静(多和田秀弥)とは幼馴染、高校は違えど、同じ球児であることは変わりがない。
さて、舞台上でどうやって野球の試合を見せるのか?という素朴な疑問があったが、なんとリアル!ホームスチールすれば砂埃が舞い上がる、立ち位置で野球の試合を表現、本当に球を投げる。しかもきちんとミットで球をとる。さすがにバットで球は打たないが、すぐそこで野球の試合を見ているような錯覚にとらわれる。これは俳優、スタッフ全ての努力の賜物。打つ、投げる、球を拾って投げる、塁に出るなどの動きも練習の成果か、不自然とかぎこちないといったことはなく、ここは見せ場。遠巻きにして試合を見ている大人、一人は遠山貞明(藤木孝)、海軍中佐、彼の試合解説がプロ並!無類の野球好き。その隣にいる女性、唐澤 ユメ(田中良子)新聞記者で、野球をきちんと記事にしてきた。温かい目で球児たちの試合ぶりを見守っている。そのほかの大人たち、穂積 大輔(村田洋二郎)、海軍中尉であり、いかにも軍国主義に染まっている人物、平気で球児たちを殴る。当時の若者たちにとって軍人の言うことは絶対だ。殴られようと罵られようと耐えなければならない。会沢商業高校の監督である菊池勘三(林田航平)は海軍少尉、野球のことはいまいちわからないが、野球を喜々とやっている若者たちの姿に目を細める。当時、甲子園もなくなり、プロ野球(この時代は職業野球)は1944年に公式戦の中止を発表した。こう言った史実も随所に散りばめながらストーリーは進行する。また伏ヶ丘商業学校の中堅手(センター)の菱沼 力(小野塚勇人)は穂積 大輔に本名を明かされ、殴られるシーンがあるが、ここは胸が痛い。そして2幕では苗字でおおよそ察しはつくが、人間関係も明らかになる。
試合そのものはお互いに拮抗、これが最後になるかもしれない、皆、必死なプレーを見せる。リアル甲子園や地方大会の決勝などもそうだが、少しのミスが敗戦につながり、そして「次」はない。頑張ったけど、ミスってしまい、慟哭する会沢商業学校の二塁手(セカンド)早崎歩(白又敦)、平和なら「ドンマイ」で片付けられる。しかし、赤紙も来てしまった。明日はないのだ。試合も押し迫ったところで「アメイジング・グレイス」、イギリスの牧師が作詞したあまりにも有名な賛美歌である。「Amazing grace」、「驚くべき神の恵み」、「I once was lost but now I am found Was blind, but now I see.」この試合で彼らはある意味、各々の真実を見つける。この曲が流れることによってただ頑張っているように見える野球のシーンが深く、そして気高い、崇高なシーンに変わっていく。それから「蝉時雨」の歌に変わっていく。
本当に野球の白い球を追っている俳優陣、そして野球場を劇場に出現させたクリエイター陣、照明、効果音、全てがリアルな野球をクリエイト。きっと何度観ても涙する作品、ラスト近く「野球だーー」と叫ぶところがあるが、この言葉に全てが集約されている。皆、本当の球児のように煌き、その一瞬に賭ける。この夏の最高の群像劇であることは間違いない。
ゲネプロ前に囲み会見があった。主演の安西慎太郎は「この劇場、お客様、スタッフ・・・・・・全ての空間を表現しています。全力プレーを見て欲しい」と挨拶。多和田秀弥は「少年たちが大好きな野球に打ち込む姿を体感していただきたい。新しい演劇ができた実感があります」と自信をのぞかせる。永瀬匡は「いよいよ初日、毎日が最後というストーリーですので、毎日全力で!」と語る。小野塚勇人も「ついに初日。僕たちの熱量、ストーリーを感じて欲しい」とコメント。松本岳は「素晴らしい舞台です!以上です!」とシンプルに。白又敦は「頭、丸めて来ました!」と髪の毛まで!小西成弥は「1公演1公演、すべてを出し切って、いい作品を届けられるように」と語る。伊崎龍次郎は「『全員野球』と演出の西田さんがおっしゃっていましたが、その全員野球、楽しんでください!」と元気よく。松井勇歩は「1分1秒がかけがえのない作品です」と語る。時代背景もそうだが、たった1球に命を込める物語。永田聖一朗は「みんなをまとめていけるように」といい、林田航平は「野球を知らない教師役ですが、誰よりもプレーを楽しんでいます。温かく見守っていきたい」と役について言及。村田洋二郎は「かっこいい衣装も振り付けもないです。ド派手な歌もアクションも殺陣もありません!・・・・・・・全力で!」まさに役者の演技とパッションのみの舞台ならでは。田中良子は「稽古場で野球見て涙が出ました」と言い「それが伝わるといいなと思います」と挨拶。内藤大希は「めちゃめちゃ面白かった!」と一言。藤木孝は「野球を愛する中佐です。これは西田さんの大傑作です。演劇でしかできない演出が見どころです」と大絶賛。演出の西田大輔は「反戦というのをメッセージにするのではなく、そうではない、僕たちの伝え方、僕らなりのメッセージ。俳優陣の熱意、制作陣の熱意、1球1球が物語の中にある。演劇でしかできないことをしてきました。いろんな人に届けたい」と挨拶。それからフォトセッション、和気あいあいとポーズ、いい雰囲気で会見は終了した。
<配役・ポジション>
安西慎太郎:穂積 均(ほづみひとし)会沢商業学校 投手(ピッチャー)
多和田秀弥:唐澤 静(からさわしずか)伏ヶ丘商業学校 投手(ピッチャー)
永瀬匡:岡 光司(おかこうじ)会沢商業学校 一塁手(ファースト)
小野塚勇人:菱沼 力(ひしぬまちから)伏ヶ丘商業学校 中堅手(センター)
松本岳:田村 俊輔(たむらしゅんすけ)会沢商業学校 中堅手(センター)
白又敦:早崎 歩(はやさきあゆむ)会沢商業学校 二塁手(セカンド)
小西成弥:浜岡 喜千男(はまおかきちお)会沢商業学校 遊撃手(ショート)
伊崎龍次郎:佐々木 新(ささきしん)伏ヶ丘商業学校 遊撃手(ショート)
松井勇歩:堂上 秋之(どのうえあきゆき) 伏ヶ丘商業学校 三塁手(サード)
永田聖一朗:大竹 明治(おおたけあきはる)伏ヶ丘商業学校 捕手(キャッチャー)
林田航平:菊池 勘三(きくちかんぞう)海軍少尉
村田洋二郎:穂積 大輔(ほづみだいすけ)海軍中尉
田中良子:唐澤 ユメ(からさわゆめ)新聞記者
内藤大希:島田 治人(しまだはるひと)会沢商業学校 捕手(キャッチャー)
松田凌:島田治人(しまだはるひと)会沢商業学校 捕手(キャッチャー)
藤木孝:遠山貞明(とおやまさだあき)海軍中佐
【概要】
舞台 「野球」 飛行機雲のホームラン ~ Homerun of Contrail
出演: 安西慎太郎/多和田秀弥 永瀬匡 小野塚勇人 松本岳 白又敦 小西成弥 伊崎龍次郎 松井勇歩 永田聖一朗 林田航平 村田洋二郎 田中良子/松田凌(友情出演・Wキャスト)/藤木孝
※松田凌の出演は8月1日(水)~5日(日)の東京公演と25( 日)・26日(日)大阪公演となります。
公演日程:
東京:2018年7月27日(金)~8月5日(日) サンシャイン劇場
大阪:2018年8月25日(土)~8月26日(日) 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
※アフタートーク開催決定!詳細は公式HPにてチェック!
作・演出:西田大輔
野球監修:桑田真澄
音楽:笹川美和 (cutting edge)
企画制作: エイベックス・エンタテインメント/Office ENDLESS
主催:舞台「野球」製作委員会
公式サイト: http://www.homerun-contrail.com
公式twitter: @Contrail_St
文:Hiromi Koh