「ニコニコ超会議 2016」で初上演し、歌舞伎俳優とボーカロイドキャラクターの共演という全く新しい歌舞伎の形を実現した「超歌舞伎 Supported by NTT」。7年目となる今回は、『永遠花誉功(とわのはなほまれのいさおし)』と題し、新たに創作された演目を幕張メッセ・イベントホールにて上演された。
今回の新演目の時代背景となるのは、645年、中大兄皇子(のちの天智天皇)が権勢をふるっていた蘇我入鹿を討った、いわゆる乙巳(いっし) の変(へん)。大化の改新の始まりとなった事件。
この歴史的大事件は幸若舞曲の『入鹿』『大織冠』を始め、歌舞伎、人形浄瑠璃の題材としても取り上げられてきたが、なかでも近松半二の 『妹背山婦女庭訓』は名作として繰り返し上演されている。今回の『永遠花誉功』は、こうした入鹿退治、中大兄皇子(後の天智天皇)が蘇我入鹿を討った「乙巳の変(いっしのへん、645年)」を題材に、cosMo@暴走Pによる楽曲『初音ミクの消失』をもとにして、書き下ろされたもの。
脚本は松岡亮、演出・振付は藤間勘十郎。悪に立ち向かう金輪五郎今国(中村獅童)の活躍、 ヒロイン太宰少弐息女苧環姫(初音ミク)が抱える秘密、 帝位を狙う蘇我入鹿(澤村國矢)の巨大な悪を主軸に、 苧環姫の母である太宰少弐後室定高(中村蝶紫)、 入鹿家臣である宮越玄蕃(片岡千次郎)や荒巻弥藤次(中村いてう)、中納言安倍行主(中村獅一)といった個性的なキャラクターが登場する。ヒーローショーさながらの迫力ある正義の味方の金輪五郎今国と悪人の蘇我入鹿の対決や、初音ミク演じる苧環姫の隠された真の姿とは、など見どころ満載。
さらに、ボリュメトリック技術を取り入れたダイナミックな映像や、NTTが開発した超高臨場感通信技術「Kirari!」を活用した“分身の術”などのわずかな色の違いでも被写体と背景を識別して、精度高く切り出されるNTTならではのデジタル演出技術も注目ポイント。
今年は幕張メッセで有観客上演とライブ配信の”二本立て”。遠方で行かれないファンも自宅で視聴できるように。
歌舞伎なので、まずは口上、中村獅童、出だしは歌舞伎の口上だが、立ち上がって、さながらロック・コンサートのトーク風に。「みなさまの心の声!ただいまー!!」と叫ぶ、ペンライトが大きく波打つ。初演前は「初音ミクと歌舞伎?」という空気感だったのが、始まったら!あっという間に話題になった超歌舞伎。「古典を追求しつつ、革新…これが100年続いたら古典だね。ミクさんは100年経っても老けない(笑)」と笑わせる。そして今年はこの超歌舞伎、新橋演舞場、博多座、名古屋の御園座etc.とツアーに回る。そして初音ミクの口上。それから始まる、会場は大盛り上がり!!オープニング映像が迫力&かっこいい!!初音ミク、可愛い!!
第一場、場面は蘇我入鹿の館。ここは、従来の歌舞伎っぽいところ。そして、入鹿は、父親の陰謀を利用し、自らが帝になろうと画策して、善人を装い、安倍行主を不意打ちに。雷鳴、ここはリアルな音で。そして場面変わり、太宰少弐の下館では、太宰少弐の未亡人である定高の前で桃の節句を寿ぐ舞、ここは一転して優雅に雅に。苧環姫(初音ミク)が華麗に舞う。入鹿からの上使として、 金輪五郎今国(中村獅童)が現れる。鎌足の家臣だったが、見限って蘇我入鹿に”鞍替え”。なんとまあ、変わり身の早いこと、と観客は思う(これが実は)。
そして苧環姫の母である定高に娘を入鹿様の妃にするようにと”命令”。ネット上では『ママ上』の文字が(笑)。金輪五郎今国は酒が振る舞われるも盃が小さいと文句。洗面器のような器で酒を一気飲み。そんなところへ…苧環姫が登場し、自分の秘密を告げる。「実は私は、 三年前に病で亡くなった姫の絵姿」と…金輪五郎への恋煩いで亡くなった姫の、“形代”であると語るやいなや、 屏風の中にあっという間に吸い込まれ、 絵に変身する場面が鮮やか!「ボクは生まれ そして気づく 所詮 ヒトの真似事だと 知ってもなおも歌い続く 永遠(トワ)の命 VOCALOID」……cosMo@暴走Pによる楽曲「初音ミクの消失」の歌詞からインスピレーションを得てつくられた役どころ。どんなにリアルな存在になっても、 人そのものにはなれないボーカロイドの“さだめ”を感じさせる歌詞、切なさと哀しみが滲み出ている。そして金輪五郎今国も自分の真意を告げる。
超歌舞伎なので、とにかく演出面では”超”がつくような最先端技術で!初音ミクが宙を舞う!それも普通じゃなく!また、物語の中盤で”息抜き”コーナー、入鹿家臣宮越玄蕃(片岡千次郎)と入鹿家臣荒巻弥藤次(中村いてう)がお笑いコンビのように登場、隈取りをよく見ると「NTT」の文字とマーク、超歌舞伎のマーク、それぞれ自己アピールが楽しい!カメラに向かって「こんにちは!!」と半分アドリブ。そして「さて、台本に戻るとしよう、超歌舞伎、サイコーだぜ!」と(笑)、そこから大詰へ。
ペンライトの応援、そして中村獅童演じる金輪五郎今国が登場するのだが、着ている衣装の紋が…なんと『超』と書いてある!!!もう着ているものから『超歌舞伎』。『妹背山婦女庭訓』をベースにした物語だが、今風な細かいやりとりがいきなところもあり、書き込みも賑やかに。最後の決着の仕方がスペクタクルかつアナログ、金輪五郎と入鹿が相撲をとるのだが、相撲自体はアナログ、そこにバッと土俵が組み上がるアニメーションがプロジェクションマッピング。瞬時にして土俵が国技館?が!!
また、大詰めのところで中村獅童Jr.登場!!あまりの可愛さに!!観客は目が釘付けに!実は最大のサプライズ、 獅童の長男・陽喜くん、演じるは金輪五郎の息子、幼き勇士、金輪小五郎陽国。見得を切るところはその懸命さが!獅童の眼差しが父親に。書き込みも中村獅童のことを『ちちお屋』と(笑)、そして『ジュニ屋』。ユーザーの創り出した大向こう、女流舞踊家には『花びら屋』、NTTの『電話屋』はすっかり定着。
この熱い戦いで入鹿家来は突然、ヲタ芸披露(笑)、初音ミク演じる苧環姫が!!入鹿を!!ここは見どころ。「誠の苧環姫が恋焦がれしあなた様のお役に立てるは、 わらわも本望」……後半に入鹿との壮絶な戦いによって手負いとなった金輪五郎のピンチを救ったのは苧環姫。不思議なパワーによって入鹿を屏風の中に封じ込め、姫が悪を懲らしめダメージを与える一騎打ちでは、空間を3Dデータ化し即時に3D映像を生成できる、「ボリュメトリック技術」を取り入れた迫力ある映像美は驚きの連続。次第に消えてゆく姫の姿は、 胸が苦しくなる切なさ。 金輪五郎が「(ミクのテーマカラーである)緑の色の灯火と数多の人の言の葉を」と呼びかけると観客は即座に緑色のペンライトを灯し、 画面もユーザーが打ち込む緑文字一色に。 金輪五郎が振るった大鎌で入鹿は首をはねられて悪は滅びた。
最後は獅童が、 歌舞伎ならではのケレン味溢れる退場方法である「六方」、 観客を煽るジェスチャーを織り交ぜた「煽り六方」で引っ込み。 この怒涛の展開、NTTが誇る最先端技術がこれでもかと『炸裂』。そして配信で見るとよくわかるが、初音ミクの表情が細やかで、特に目の表情が秀逸。技術の進化、初演とは格段に!!カーテンコールでは、獅童がライブコンサートのように客席を「もっと来い!」と煽る、煽る。父親の動きを真似、 陽喜くんが小さな手を揺らし、“煽り”のジェスチャー、大量の紙吹雪が降り注ぎ、最高潮の盛り上がりと熱狂の中、万雷の拍手で!!
※「分身の術」とは、舞台上で演じている歌舞伎俳優の姿だけを抜き出し、別の場所に立体的に投影させる「被写体抽出技術」を用いた演出であり、超歌舞伎お馴染みの演出。この 被写体抽出技術は、どのような背景、スピードに対しても、リアルタイムに歌舞伎俳優の姿を抜き出すことができるもの。
あらすじ
時は天智天皇の御代。蘇我蝦夷子は、自ら帝の位にのぼろうと陰謀を企てていた。だが父親の陰謀を知った蘇我入鹿は、翻意するように促すが、これを聞き入れないために、入鹿は父を討ち、謀反人である蝦夷子の首を安倍行主に差し出す。
その上では入鹿は、父の菩提を弔うために出家すると申し出るが、実はこれは入鹿の策略。父親が帝の位にふさわしくないと考えていた入鹿は、父親の陰謀を利用し、自らが帝になろうと画策して、善人を装っていたのであった。そして行主を不意打ちにすると、その大望を明かし、不敵な笑いをみせるのであった。
一方、太宰少弐の下館では、太宰少弐の未亡人である定高の前で、桃の節句を寿ぐ舞を、定高の娘の苧環姫が披露している。ここへ入鹿からの上使として、 金輪五郎今国が現れる。
金輪五郎は藤原鎌足の家臣であったが、鎌足を見限って、入鹿に主人を変えたことを明かした上で、入鹿が太宰家の息女苧環姫を妻にと所望していることを伝 える。この命を断るのであれば、苧環姫の首を打って差し出すようにという無理難題に、定高は途方に暮れる。
その時、奥に控えていた苧環姫がやって来て、金輪五郎に自らの素性に関してのある秘密を明かす。これを聞いて驚く金輪五郎は……。
入鹿が三笠山に造営した新御殿では、入鹿の家臣の宮越玄蕃と荒巻弥藤次たちが控えるなか、入鹿の即位式が始まり、定高と苧環姫も参列するが、妻に望んだ苧環姫の真の姿を知った入鹿は激怒して、定高たちを処罰しようとする。
ここに金輪五郎が藤原鎌足を討ち取り、その首を持参したといって駆けつける。喜ぶ入鹿の前で、金輪五郎が首桶を開けると……。
公演概要
演目名 : 永遠花誉功(とわのはなほまれのいさおし)
日時:2022年4月29日(金)13:00~/16:00~ 2020 年 4 月 30 日(土) 13:00~/16:00~
出演者 : 金輪五郎今国 中村獅童 太宰少弐息女苧環姫 初音ミク
太宰少弐後室定高 中村蝶紫 蘇我入鹿 澤村國矢 入鹿家臣宮越玄蕃 片岡千次郎 入鹿家臣荒巻弥藤次 中村いてう 中納言安倍行主 中村獅一 ほか
脚 本:松岡亮
演出・振付 : 藤間勘十郎
劇中曲 : cosMo@暴走 P 作詞・作曲『初音ミクの消失』 他
◇主 催 : ニコニコ超会議実行委員会
◇製 作 : 松竹株式会社/株式会社ドワンゴ
◇制作協力 : クリプトン・フューチャー・メディア株式会社
◇超特別協賛/技術協力 : NTT
公式サイト:https://chokabuki.jp
©超歌舞伎 Supported by NTT