劇団四季 新作ミュージカル『バケモノの子』開幕!人間の心の闇、親子の想い、絆

2015年に公開されたスタジオ地図制作の『バケモノの子』が劇団四季によって初ミュージカル化される。

細田守監督による4作目の長編劇場アニメ映画、オリジナル作品としては『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』に続く第3作。細田守が自ら原作・脚本も手がけているが、人間界の渋谷とバケモノ界の渋天街を舞台に、親子の絆を描いた「新冒険活劇」、テーマは「父と子」。また、それまで長野県や富山県と言った田舎の風景だったが、この作品は都市のど真ん中での冒険。

オーヴァーチュアー、華やかな楽曲、それから、流れるように次の場面、バケモノ界・渋天街、小さい無数の炎が揺れている、それがやがて一つになってタイトルロールが浮かび上がる。物語の始まり、長年バケモノたちを束ねてきた宗師、高齢なので、その役目を引退して神に転生したい、そのためには次の宗師を決めたい。歌で綴るシーン、コーラス、宗師になるには品格があり、しかも強い者にその資格が与えられる。

撮影:阿部章仁

それは今決めるのではなく数年後に試合で決めることに。最も有力視されているのは猪王山、弟子も多く、家族もいる。対する熊徹は強いことは強いのだが、自分勝手で弟子がいない。そんなわけで宗師から弟子を取ることを条件として突きつけられてしまう。ここで歌われる猪王山と熊徹の二人が歌ナンバーは聴かせどころ。ちょうど、その時の東京・渋谷。一人の少年がたった一人で歩いていた。彼の名前は蓮、両親は離婚、母親に引き取られるも、その母が急死、親戚に引き取られるところを嫌がって逃げ出したのだった。渋谷の街、単純な風景ではなく、映像、そして無機質なセット、照明で表現。センター街の入り口のゲートらしきものもあり、一目で渋谷とわかる。人々が行き交う、サラリーマン、流行ファッションに身を包んだ女性、居酒屋の客引き、「映画、遅れちゃうよ」との声も。その中でトボトボと歩く姿は、周囲の賑やかさとは反比例して孤独、そのもの。「俺は強くなる…大嫌いだ!」と呟く。電子音の音楽、この渋谷に熊徹が…。蓮はいつの間にか…渋谷ではなく、渋天街、賑やかな市場に。”強くなりたい”という蓮の思いがそうさせたのだった。

撮影:阿部章仁

そんなとき、些細なことで…早速戦うシーン、猪王山vs熊徹。ここも見どころ。蓮は9歳、今時の子、熊徹に名前を聞かれたが「個人情報」と言って教えない(笑)。9歳なので『九太』、この適当さが熊徹らしいところ。

熊徹の家に住むようになり、九太は修行に励む。ここの場面は稽古場でも披露されていたが、バケモノ達が様々な道具を使って音楽を創造、楽しい場面。また、熊徹の教え方、ここは原作でも描かれているが、抽象的で擬音が多く、はたから見てもさっぱりわからず(笑)、それを九太(蓮)に指摘される下りは思わず笑いが。しかし、この修行、九太(蓮)にとってはもちろん、熊徹にとっても良い修行、いつのまにか二人は親子のような空気感になっていく。

そしてこの物語、熊徹と九太が主軸なのは言うまでもないが、熊徹のライバル、猪王山親子の物語も見逃せない。二人の子供、長男は一郎彦、次男は二郎丸。一郎彦は尊敬する父のように牙が生えない、そのことを恥じて顔の下半分を隠している。コンプレックス、そして『もしかしたら自分は…』と薄々感じている。優等生気質故に素直になれないキャラクターだ。それと対照的なのが弟の二郎丸、食べるの大好きで少々、ぽっちゃり、屈託のない少年、兄さん大好き、九太と親友になる。その良いところそのままに成長する、観ていてホッとするキャラクター、”気のいい奴”。
原作を知っていれば、その後の物語の展開もわかっているが、これは舞台。アニメでの表現と舞台での表現の違い、ここが当然のことながら見どころとなり、ミュージカルなので歌唱シーンも要チェック。17歳になり、色々と考える年頃、ひょんなことで熊徹と不和が生じ、九太は元の人間界へ。そこで楓という同じ年頃の女の子と出会い、自分の力で”自分自身”を見つけようとする。一方の熊徹は心が不安定なまま、猪王山と戦うことに。そして怒涛のクライマックスへと突入していく。

 

俳優陣の熱演、観劇したのは熊徹役は伊藤潤一郎、あざみ野の劇団四季の稽古見学会の後の会見でもご本人曰く「父親役とか乱暴者とか気のいいあんちゃんとか、そういう役を多くやらせていただいてますが…」と語っていたが、猪王山との戦いのシーンや九太に刀の使い方を教えるシーンなどは、なかなか、イマドキな言い方をすれば『2.5次元』!、当たり役であることは間違いない。また、子役陣の活躍、一郎彦、二郎丸、特に主要キャラクターである九太、舞台でたった一人で歌唱する場面もあり、複数キャスティングされているが、皆、将来が楽しみ。また、青年九太役の大鹿礼生、若者らしい苦悩と潔さ、育ての父である熊徹への熱い思いをたぎらせ、また、歳の近い一郎彦への同じ人間同士、友情を超えた心を歌で聴かせる。そして一郎彦、演じるは笠松哲朗、屈折した難しいキャラクター、性根は真っ直ぐだが、自分が何者がわからなくなり、また父のようになりたいと願うも、見た目がそうはならない。人間ではないかと疑念を抱きつつ、一方で人間であることを隠さない九太に対してよく思わない感情がやがて憎しみに変化していく、闇を抱えるキャラクターを好演。また、凸凹感が楽しい多々良、韓盛治が演じ、百秋坊はベテラン味方隆司、この2人が出てくるとちょっとホッとする感でコンビネーションもGOOD。熊徹と九太を温かく見守っており、なおかつ指摘が的確。そして時折、登場する九太の亡き母、演じていたのは清水智紗子、済んだ歌声、永遠に子供を想う心が温かくも切ない。そして宗師、演じていたのは増山美保、兎顔のバケモノでこの舞台版ではちょっとコミカルな味付け、その気取らないキャラクターでバケモノたちに人気がある。しかも可愛い(笑)。
また、ビジュアル的な見せ場、クライマックス、一郎彦の膨らんだ”闇”が襲い掛かるシーン、照明、映像、パペットの三位一体、合わせるのに苦労したと思うが、映像が勝り過ぎることなく、調和、クリエイティブスタッフのチームワークの賜物。楽曲も多彩、キャッチーで耳に残る。特に『胸の中の剣』はパワーに満ち溢れた楽曲だ。一度観劇しただけでは見きれない(笑)。また、劇団四季では珍しい殺陣とアクション、こちらも見応えあり、特に長い武器は慣れていても扱うのが難しい。これは稽古の成果。
親子の愛、絆、それだけではない。人間の持つ心、光があれば、影がある、闇を抱えて苦悩する。それを全てひっくるめての”人間”である。原作のパワーと生ならではの迫力の融合、大人から子供まで楽しめるミュージカル、百聞は一見にしかず、だ。

伊藤潤一郎より
「細田守監督作品が大好きな私にとって、このミュージカルへの出演できるのは大きな喜びです。
心躍る音楽や迫力のアクション、鮮やかなバケモノの世界。原作映画が持つ壮大なスケールをそのままに、生の舞台ならではの熱量を肌で感じていただけるような作品になりました。
 私が演じる熊徹は誰もが好きになってしまうようなキャラクターだと思います。舞台上で熊徹として精一杯生き、観に来てくださったお客様に明日を生きるエネルギーをお届けできれば幸いです」

稽古場レポ記事

劇団四季史上最大!新作ミュージカル『バケモノの子』稽古快調!

物語
この世界には、人間の世界とは別に、もう 1 つの世界がある。バケモノの世界だ。
バケモノ界・渋天街では、長年バケモノたちを束ねてきた宗師が、今季限りで神に転生することを宣言。強さと品格に秀でた者があとを継ぐしきたりがあり、数年後に闘技場で催される試合で、次の宗師を決めることとなった。候補者は、とにかく強いが乱暴者の熊徹と、
強さも品格もあわせ持つ猪王山。次期宗師争いは、いよいよ本格的になろうとしていたが、熊徹は、宗師より、弟子を取ることを課せられてしまう。
その頃、人間界・渋谷。9 歳の少年・蓮は、両親の離婚で父親と別れ、母とも死別。ひとりぼっちの日々を送っていた。
行くあてもなく途方に暮れていたある夜、蓮は、弟子を探していた熊徹と出逢い、渋天街に迷い込む。独りで生きるための「強さ」を求めて、蓮は熊徹の弟子となることを決意。「九太」という名前を付けられることとなった。
当初はことあるごとに、ぶつかり合う2人だったが、奇妙な共同生活と修行の日々を重ねて互いに成長し、いつしかまるで本当の親子のような絆が芽生え始める。
一方、猪王山にも、九太と同世代の息子・一郎彦がいた。父の存在が、何よりの誇りであり、父のようになりたいと願う一郎彦。しかし、いっこうにバケモノらしいキバが生えてこないという悩みを抱き続けていた。
時は流れ、九太と一郎彦は青年へと成長。17歳の九太は、熊徹の一番弟子としてその強さを知られるようになっていたが、バケモノと人間のあいだで「自分は何者か?」と揺れ動いていた。ある日、偶然人間界に戻った九太は、高校生の少女・楓と出会って新しい世界を知り、自身の生きる道を模索していく。
やがて訪れた次期宗師を決する闘いの日。人間とバケモノの二つの世界を巻き込んだ大事件が起きてしまう。
皆を救うために、自分にできることは何か――熊徹と九太、それぞれに決断のときが訪れる。

概要
日程・会場:2022年4月30日(土)〜 JR東日本四季劇場[秋] 9月30日(金)公演分まで好評発売中。
原作:映画「バケモノの子」(監督:細田守)
脚本・歌詞:高橋 知伽江
演出:青木 豪
作曲・編曲:富貴 晴美
音楽監督:鎭守 めぐみ

公式HP:https://www.shiki.jp/applause/bakemono/