人間が持つ根源的な欲望を描いたスリリングな二人芝居『毛皮のヴィーナス』
世田谷パブリックシアターでは 8 月~9 月、シアタートラムにて二人芝居『毛皮のヴィーナス』が上演される。 本作は、「トラム、二人芝居」と称し、新進の演出家を起用し、実力派キャストによる二人芝居を上演する企画のうちの一作。
『毛皮のヴィーナス』は、“マゾヒズム” の語源にもなったオーストリアの小説家L・ザッヘル=マゾッホの小説から 想を得て、米劇作家デヴィッド・アイヴズが舞台用に戯曲を執筆し、2010年にオフ・ブロードウェイにて初演された作品。その後ブロードウェイでも上演、さらに 2013 年にはロマン・ポランスキー監督により映画化。 オーディションを受けに来た女優と演出家、さらに戯曲の登場人物も交錯するという二重構造を駆使しつつ、人間が持つ根源的な性的欲望をスリリングに描き出していく、ライブ感あふれる舞台て。
本作『毛皮のヴィーナス』の演出を手掛けるのは文学座所属の新鋭の演出家・五戸真理枝。上村聡史らのもとで演出助手として 研鑽を積んだ後、2016 年に文学座アトリエの会『かどで/舵』の『舵』で、初演出を果たし、、また、新国立劇場等の外部公演でもゴーリキーやチェーホフといった古典の名作を瑞々しい感性で演出。さらに、元々は劇作家志望だったということもあり、戯曲や小説からの脚色、童話の執筆にも積極的に取り組むなど、多彩な才能の持ち主。そしていよいよ本作で世田谷パブリックシアター主催公演の演出 デビューを飾ることになりました。
高岡早紀と溝端淳平が魅せる、理性と欲望渦巻く男女の駆け引き
女優ヴァンダ役を演じるのは高岡早紀。世田谷パブリックシアター主催公演へは 3 年連続の出演となります。三部構成の『愛するとき 死するとき』(21 年、演出:小山ゆうな)では 複数の女性像を巧みに演じ分け、世田谷パブリックシアター×東京グローブ座『エレファント・マン』(20 年、演出:森新太 郎)ケンダル夫人役では知的な演技と優美な姿で観客を魅了。その確かな演技力と美貌で、謎多き女優・ヴァンダをいかに演じるか大きな期待が。ヴァンダに翻弄されながらも惹かれていく演出家・トーマス役は溝端淳平。シアタートラムへは、繊細な演技が好評を博した『管理人』(17 年、演出:森新太郎)以来の登場。相手役の高岡とは舞台では3回目となる共演で、互いに信頼を寄せ合う「同志」のような二人のタッグが、本作の世界観をさらにパワーアップ。
あらすじ
演出家のトーマスは、彼が脚色した戯曲『毛皮のヴィーナス』のヒロイン役のオーディションをするも、これぞ!と いう女優は見つからなかった。帰ろうとしたところに、オーディションに遅刻したという無名の女優ヴァンダが現れ る。トーマスが求めるヒロイン像とは何もかもが違っていたが、強引なヴァンダに押し切られ、しぶしぶオーディショ ンをすることになった。しかし相手役を務めるトーマスは、次第にヴァンダの演技に惹かれ出し、3 ページで切り 上げるはずだった読み合わせは、いつしか……。
五戸真理枝コメント
『毛皮のヴィーナス』という作品は初めに映画版で知りました。二人の会話の濃厚さ、コミュニケーションの深さ、駆 け引きの激しさに魅了されて、戯曲を取り寄せてみました。戯曲で読むと、オーディションをしている現代と、劇中劇 の 1870 年と、さらに愛と美の女神アフロディーテがいたギリシャ神話の時代までがつながっている感覚――時代を 超えてずっと続いてきた男女の駆け引きを見ているような、途方もなく遠い奥行きを感じました。そしてそれが、レン タルスタジオという殺風景な場所で繰り広げられていることに、想像力の飛躍がダイナミックな作品だと思い、いつ か演出してみたいと憧れていました。
高岡早紀さん、溝端淳平さんは、お二人とも以前に演出助手としてご一緒させていただいたことがあります。高岡さ んは姉御肌でみんなをリードしていくような強さがあって、その上細やかな方で、人格的にも尊敬しています。役を 演じた時に発散される色気ともいうべき印象を強く舞台上に残す方だと思います。ヴァンダという役は、時間という概 念を超越した存在、時代を経ても変わらない、女性性そのものを感じさせる存在として描きたいと思っています。高 岡さんと一緒にシアタートラム版のヴァンダ像を探し、作り上げていくのがとても楽しみです。溝端さんは以前、森新 太郎さん演出の『管理人』(17 年、シアタートラム、演出:森新太郎)で演出助手としてご一緒しました。その時、溝 端さんの演劇に対する姿勢の真摯さ、ストレートさに驚かされました。「こんなに真面目な人がいるんだ。ルックスだ けでも存在感が十分なのに、こんなに一生懸命に稽古されるんだ」 と。今回演じていただくトーマスは、演劇に対 する熱意と野心が非常に強い男なのですが、溝端さんのエネルギーはトーマスと重なるところがあるんじゃないか なと思います。溝端さんの頼もしさを最大限に活かしたトーマスにしたいと思っています。
劇中劇で演じられる『毛皮のヴィーナス』は、男女の惹かれ合う力、その中でも特にマゾヒズムについて描かれてい ます。特殊性のある性的な欲求について、分析していく大人っぽい芝居です。また、お芝居を立ち上げていく二人 を見ているうちに、演劇で人間を描くことの功罪、虚構によって観客を酔わせようと企むことの功罪について考えさ せられたり、それをやめられない欲望に気づかされたりもします。一度ハマると抜けられない演劇の魅力がストレート に描かれた演劇です。恋愛感情や性的欲求について、細かく分析、分解して、演劇的に再表現することで、気楽 に観ていただける大人の芝居をつくりあげたいと思います。ぜひ劇場でお楽しみください。
高岡早紀コメント
私の演じるヴァンダという役は振り幅がすごく大きく、女優としても女性としても深いところがいっぱいあって、その未 知の部分を探っていくことが今の私の楽しみです。五戸さんは私がどんなに大胆な発想をして飛び出していっても、 ちゃんと受け止めてくれると期待していますので、稽古場ではいい意味で好きに暴れたいと思っています。溝端さん とは今回で3回目の舞台共演になりますが、年下とは思えないほどしっかりしていて頼りになるし、何でも気兼ねなく 話し合える間柄なので、彼なら安心してちょっと寄りかかってもいいかなと思っています(笑)。
この作品は、オーディションでセリフのやりとりをしているうちに、芝居の中の世界と現実の世界が重なりあったり、女 優と演出家ではなく女性と男性になっていくような構造がすごく面白い作品で、お客様もオーディションをのぞき見 しているような、濃密で息つく暇もないスリリングな時間を体験できると思います。どうぞ楽しみに観にいらしてくださ い。
溝端淳平コメント
トーマスは、人や世の中や自分に対しても不満を抱えているようである種いろんなものへの復讐心みたいなものが ある役なんじゃないかなと思っています。とても演じ甲斐を感じています。知的で柔らかく包み込んでくれるような印 象の五戸さんがこの、ある意味激しく刺激的な作品を選ばれたということは、違う一面を見られるのではと思いますし、 全力でくらいついて作品を創り上げていけるよう頑張りたいです。高岡さんはとても頼りがいがあり何でも相談できる 先輩なので、今回も胸を借りるつもりで精いっぱい向き合っていきたいです。
この作品は、どちらかが空間を支配したかと思うといつの間にか支配されて、というどんでん返しが続くスリリングな 作品です。また、ジェンダーについても描かれていて今の世の中を改めて考えるきっかけにもなるのではないかと 思います。テーマの一つであるマゾヒズムを直接的、身体的に表現するというよりは精神的な部分に踏み込んでい くところが、逆に深みがあって妖艶でもありますので、ぜひ劇場で体感していただきたいと思います。
概要
『毛皮のヴィーナス』
日程・会場:2022年8月20日(土)~9月4日(日) シアタートラム
作:デヴィッド・アイヴズ
翻訳:徐賀世子
演出:五戸真理枝
出演:高岡早紀 溝端淳平
公式Twitter:@SetagayaTheatre
公式HP:https://setagaya-pt.jp
問合せ:世田谷パブリックシアターチケットセンター 03-5432-1515 https://setagaya-pt.jp/
主催:公益財団法人せたがや文化財団
企画制作:世田谷パブリックシアター
後援:世田谷区