昨年の2021年に再演予定だった音楽劇「Zip&Candy」が2022年6月、ようやく開幕する。この作品は『えんとつ町のプペル』で著名なにしのあきひろの作品で、2010年に2番目の絵本として出版された。コロナ禍でできなかった公演のリベンジ、主演など一部のキャスト以外は一新して上演。脚本・演出のなるせゆうせいさんのインタビューが実現した。
――そもそもこの作品を舞台化しようと思ったきっかけは?
なるせ:ずいぶん前の話ではありますが、もともと僕が絵本とか童話が好きなのもあって…『えんとつ町のプペル』がメジャーになったじゃないですか。で、それを舞台化しようかなとふと浮かんだんですけれど。きっとみんなやるだろうなと思って、被りたくないなって(笑)。『別のないかな』と思って見つけたのが『Zip&Candy』。『プペル』よりも前の作品ですね。これなら舞台に向いてそうだなとも思ったし、ボーイ・ミーツ・ガールのようなシンプルなストーリーを骨格として、舞台になったら面白いんじゃないかと思ったんです。
――このお話だったら映像を使う演出を使うんだろうなと予想していましたが、そうではありませんでしたね。
なるせ:そうですね。アナログですね(笑)。映像も考えたんですけれども、なんとなくレトロな感覚があったんですよね。とはいえファンタジーの世界観で映像を使うと、僕の中ではすごくやり過ぎになってしまうなと。想像力をかき立たせるために、余計なものを削ぎ落としたほうがいいのかなって。映像を使うと具体化されるじゃないですか。場所とかそういうものが。最近は精巧すぎてリアルになってしまうし。だからあえて使っていなかったりします。
――ジップとキャンディという二体のロボットが出会うという、シンプルな構造でありつつも二人は新型と旧型、対極にあるんですよね。それからまたロボットを作った博士のバックボーンが面白いのではと。風刺のような印象も受けますし……。
なるせ:絵本には、ジップとキャンディ、そしてサンドイッチ博士の3人しかそもそも出てこないんです。でもそれでは観た時にさすがに舞台として寂しい。そして、ジップを作ったのは誰なんだという自分の中での疑問があったので、登場人物そしてプラスアルファとして構築していった感じですね。
――エピソードの中で、キャンディが外に出たいと言ったら博士に怒られるところ、そこはいかにも過保護の親といった印象です。それから、ジップを作った博士、オリジナルキャラですけれど、寂しさからロボットを作ったという心情も理解できる。それぞれが出会って少しずつ変わっていき、それがいろいろな人を巻き込むあたり社会派な作品だったのか、とも。
なるせ:たしかにそれはありますね。過保護な箱入り娘。可愛い子には旅をさせろですよ。物語でいうと、キャンディが外に連れて行かれたからその後に巻き起こる変化が訪れるんですけれど。
――いいことも悪いことも含めて「気づき」があるのではないかと。それに、ロボットではあるけれどもロボットっぽくない。
なるせ:お互い、新型と旧型という違いはありますが、そこは演出面でうまいこと使い分けなきゃいけないなと思っています。もともと西野さんの意図としては、認知症のおばあちゃんがいて、そのことを思って書いたという話です。いろいろな記憶が消えていくという─。そこから、メモリが消えていく、すなわちの大切な思い出がなくなっていくということだから、絵日記として書き記すということをやっていたのが原点、ということでした。そこは物語でも軸になっているので、大切に描きたいと思っています。
――今の話をきくと納得できます。私も父が認知症だったんですけれど、新しい情報が入ってこなくなってしまうようなので、日記まではいかないまでも、その日のことを書いてもらっていました。
なるせ:そうなんですね。でも絵日記という発想はいいな、面白いなと思って。それもレトロな部分につながるんです。最新型のロボット、という触れ込みなのに手段がアナログ中のアナログである絵日記。それが出てくるのが昭和の私としては深いものがあります。そういえば、今の若い子にとって絵日記ってどうなんでしょうね?小学生の宿題くらいじゃないのかな(笑)。でも、僕は絵日記いいなって思っていて。すごく楽しいというか、思い出を絵と文で書き記すというのはすごく夢がありますよね。だから絵日記を使うというところは、西野さんのロマンチストぶりが現れているのかなと。
――それでは、西野さんの反応は?
なるせ:すごく喜んでくれましたね。結構こだわりが強い方だから、オリジナルキャラを出すことに怒られるんじゃないかと思ったんです。僕もキャラを増やすのは好きではないし。意味のあるキャラクター、さっきのサンドイッチの対抗馬であったり、土星に移住してきたけど地球に戻りたい人々だったり、あるいは最新型のロボットを欲しがる窃盗団がいたりとか。そこにいる必然がある人で構成しているから、割りとすんなり入っていけるんじゃないのかな、と。舞台って多重構造のほうが面白いんです。対して絵本は大きな軸がある。その軸がブレないようにしつつも、枝葉として多重構造があったりすると、より深みがでて面白いのではないかなと思ったんです。だからそういう意味ではいろんな角度からクローズアップするという手法を使いました。
――稽古についてはいかがでしょうか。
なるせ:やはり人が変わると空気が変わるなぁとしみじみ。僕はカチッとこうして、というタイプではなくて。なるべくその人に合わせてセリフや演出、動きも変えています。全然、新しいタイプの作品になっていると思います。舞台セットも違いますしね。
――ジップ役は、岩田さんと生田さん。女性ですね。
なるせ:(岩田さんと生田さんは)彼女たちはしっかりしていますね。すごく中性的というか。ジップは男の子型ロボットなので、そもそもキャスティングの時点で、女の子が演じることは決めていましたから。女の子で男の子に見えるような。今回に関してはさらにボーイッシュさが増した2人というか、エネルギーもパワーもあるので観ていて面白いですね。それこそ笑って泣いて叫んでいますよ(笑)。
――それでは、最後にメッセージを。
なるせ:西野さんの言葉を借りると、「ディズニーに対抗」というのがあるじゃないですか。僕ももちろん、ディズニーは大好き。誰もが楽しめる「王道」ですからね。そういったものを作りたいなと常日頃思っています。演劇ってやっぱりチケット料金もあって敷居が高いイメージを持たれがちなんです。誰でもが楽しめる王道の作品、それこそディズニーを超えるような……大きな声では言えないんですけれどね(笑)。誰もが観て楽しめる作品を作っていますので。ぜひ観に来てほしいなと思います。
――ありがとうございます。公演を楽しみにしています。
あらすじ
これは地球から遥か遠くの土星の裏側のお話。
ジップと名付けられたロボットは、カレルヤ博士と助手コケルの手によって誕生した最新型のロボット。ライトとレフトという左右のウイングを操り、どこまでも高速でひとっ飛び。
だが、ある日、その最新鋭のロボットを欲しがるビン・カン・ボトルという貧困民たちに撃ち落とされる。
ジップが墜落したのはサンドウィッチ博士の研究所。そこでキャンディという旧型ロボットと出会う。
その研究所から一歩も出たことがないというキャンディのため、ジップは外の世界に連れ出すが、それが予期せぬ展開に・・・。
土星の治安維持に努めるステイ区長、そのボンボン息子ヒア、はたまた、地球への帰還を企むカンバック一味ほか、個性豊かなキャラクターたちも巻き込むロボットファンタジー。
概要
日程・会場:2022年6月9日~14日 かめありリリオホール
原作:にしのあきひろ「Zip & Candy」(幻冬社)
脚本・演出:なるせゆうせい
キャスト:
ジップ (Wキャスト) 岩田陽葵/生田輝
キャンディ(Wキャスト) 岩立沙穂 (AKB48)/大西桃香 (AKB48)
ジアース 谷桂樹
カムバック 鷲尾修斗
ライト 上田悠介
ペット・ボトル 林明寛
ビン 白柏寿大
オーシャン 工藤大夢
スカイ 石綿星南(AKB48)
カン(Wキャスト)福岡聖菜 (AKB48) / 武藤小麟 (AKB48)
ヒア あやかんぬ
クイックル 高橋雄一
ママボ 小野由香
コケル あまりかなり
スライス 後藤紗亜弥
トリマキー服部ひろとし
レフト 青地洋
ステイ 吉田宗洋
カレルヤ博士 貴城けい
サンドイッチ博士 石橋保
公式サイト: http://zipandcandy-stage.com/
公式ツイッター: https://twitter.com/zipcandystage (@zipcandystage)
問い合わせ:キョードー東京 0570-550-799
主催:音楽劇Zip & Candy製作委員会
取材:高浩美
構成協力:佐藤たかし
なるせゆうせい撮影:金丸雅代