初日を5月29日に控え、稽古も始まった5月某日、三宅裕司と浅野ゆう子の合同取材会が行われた。
東京の笑い“軽演劇”を上演すべく2004年に「伊東四朗一座」を旗揚げ、そして伊東がスケジュールの都合で参加できない時も“東京の笑い”を継承すべく三宅裕司が中心となって2006年に「熱海五郎一座」を旗揚げした。2014年には新橋演舞場に進出、今年も新橋演舞場で上演。
今回の出演者は座長の三宅裕司はじめ、渡辺正行、ラサール石井、小倉久寛、春風亭昇太、東貴博、深沢邦之とお馴染みの面々、そしてゲストには2013年に出演し今回で2度目の出演となる浅野ゆう子と演舞場シリーズ初の男性ゲストA.B.C-Zの塚田僚一。
取材会では三宅裕司&浅野ゆう子、終始、楽しいトーク、そして東京の笑いについてなど、多くのことが語られた。
まず、挨拶。
三宅裕司(以下:三宅)「いろんな舞台が中止になるこの時代、生の舞台、エンターテインメントは無くしてはいけないとの思いで頑張ってきました。いろんなことを乗り越えて、みんなで一つのものを作ります。お客様にはたくさん笑って、感動していただき、日々の溜まったストレスを全部吐き出してスカッとして帰っていただきたいなと思います」
浅野ゆう子(以下:浅野)「9年ぶりに二度目のゲストとしてお声がけをいただき、座長のご指導のもと連日稽古に励んでおります。気付いたらきっと初日を迎えていると思います。それまで、できる限りの体力と年齢を注ぎ込んで頑張って参りたいと思っております。」
熱海五郎一座の魅力について、ゲスト出演2回目の浅野ゆう子は、
浅野「発端は11年前です。吉本新喜劇で育った関西出身の私が、『これからの女優人生、お客様に楽しんでいただけるお芝居ができるようになるには、どんな勉強をすればいいのだろうか・・・』と模索していた時に『熱海五郎一座』と出会いました。座長の、おしゃれで人情味のあるライトなギャグに一目惚れいたしました。座長のもとでぜひ勉強させていただきたいと思いました。そんなある日、ある番組でご一緒させていただき『これは神様がくださったチャンスだ!』と思い、三宅座長の楽屋を襲撃させていただきました(笑)。そこで「ぜひ!熱海五郎一座に出してください!」と直談判をさせていただき、その2年後に夢のゲスト出演が叶いました。その後も毎年、観劇させていただいています。そのたびに座長にご挨拶させていただき『また、よろしくお願いいたします』と言い続けて、念願叶い、このたび2回目のお声がけをいただきました。9年という時間が経ち、さらに!さらに!この一座が、硬く熱い結束で一つの芝居に、大真面目に笑いに取り組んでいらっしゃる姿が、本当に素晴らしいなという思いが私の中で大きくなっています。またこの一座に入れていただき、座長のご指導で動く、とても幸せを感じております。私の心はSET(三宅が主宰する劇団スーパー・エキセントリック・シアターの略称)の劇団員の一人のつもりです。と同時に、熱海五郎一座の座員だという誇りも持っております。今、連日座長のもとで稽古をかさね、更に『もっともっとお稽古したい。もっと座長とご一緒したい。
色々と教えていただきたい。』という気持ちが大きくなっています。9年年齢を重ねた分、お客様にもっともっと笑っていただきたいという欲も出てきました。とにかく、熱海五郎一座が大好きです」
少しリラックスしたところで、トークが弾みだした。その直談判について三宅裕司は、
三宅「楽屋でくつろいでいたら、ドアを蹴破って入ってきましたよ(一同、大笑い)。これだけの大女優さんから認められたということで非常に嬉しかったです。大体、1年前にゲストを決めますので、楽屋で直談判してからすぐに決まったということですね。今は笑いも非常に多様化しています。誰それの笑わせ方が好き、誰それのツッコミが好き、そういうのをお客様ひとりひとりが持っています。だから僕の笑わせ方、一座の笑いのカラーをきちんと出すことでお客様は選びやすくなるし、足を運んでくれたお客様もより楽しめると思うんです」
舞台や稽古については、
三宅「ストーリーについては重要なことを言っちゃうと面白くなくなってしまうので説明は難しいですが、浅野さんが長いキャリアの中でやってきたこと、塚ちゃんがジャニーズでのエンターテインメントの中で身につけてきたこと、そして一座のメンバーの笑わせ方、演じ方、やり方が違うみんなが熱海五郎一座の看板を背負って溶け合ってきているのがわかるのが凄く幸せです。浅野さんの長いキャリアを使ってギャグにしているところもあります。おそらく他の劇場ではやったことのないお芝居を表現をしなければならない。塚ちゃんもそうだろうし、これがこの一座(のカラー)なんだろうなと察してくれていると思います」
浅野「SETの皆さんとお稽古していて、安心して…皆さんはもちろん、私より若いのですが、一緒に楽しくお芝居させていただいております。一座の皆さんがものすごく面白いんですよ。これは絶対に舞台上で笑ってはいけない、というのがありますので、今はお稽古場でふんだんに笑わせていただいております」
三宅「だいぶセリフも覚えてきて(笑)」
浅野「私はわりと長めにこのお仕事をさせていただいておりますが、このセリフは他のところでは絶対に言えないだろうな。というセリフも頂戴しております(笑)これは座長・三宅裕司さんのアイデアで、演出ですので、座長の元でなら私は言える、私はできる、と自分を説得しています(笑)これは私の人生において、最大級のシャレだとびっくりしていただければ、笑っていただけましたなら嬉しいです。乞うご期待ですよ!これで私は恥ずかしがらずに言える(笑)」
三宅「物語はヤクザの世界で二つの組の抗争が中心になって進んでいきます。私が一つの組の若頭、浅野さんはそれに対抗する組の組長です。当然、敵対しているシーンで何度も出会うことはあります。男はみんなあの任侠のセリフを言いたくってしょうがないんですよ。気持ち良さそうにやればやるほど、その後のずっこけが活きる。任侠映画のシーンはお客様の頭の中にそれぞれあるもの。そう言う意味では共通の『振り』ができるわけです、任侠という世界だけで。それが怖いことになるかな?と思ったら失敗する、の連続で、でもストーリーのラストはちゃんと感動に持っていく、という。これは毎回そうなんですけどね。今回は任侠の世界なのでよりその落差が大きくって面白くなるんじゃないかなと思っております」
浅野「極道の妻ではなく私自身が極道、組長ですので、いろいろ想像してイメージをたくさん膨らませ、私なりの、熱海五郎一座の、任侠の女親分を演じることができるといいなと考えています。口調がかなり難しいんです。普段からこういった言葉使いで話していた方が、言い慣れた方がいいだろうと思い最近使ってみているのですが…私の周りのスタッフは私の口調に、多分迷惑を被っているんだろうなと感じます(笑)」
三宅「『お茶はまだなのかい?!』(笑)」
浅野「もしかしたら、私はヤンキーだったのかも(笑)。まだ自分の中ではそこがあやふやなので、ヤンキーではなく女親分なのだということをしっかりと打ち出せればいいなと思うのですが、なかなか難しい。平成、令和の人ではない、昭和の女親分、という感じを意識しています」
三宅「着物がすごくバチッと決まっていますし、あとは声が割と太い方ですね。低い、キーで言うとね。今回これが非常に合っている、作家の当てがきです。ある部分は浅野さん以外には言えないセリフですから(笑)」
浅野「サンシャイン劇場の時の熱海五郎一座に参加させていただきましたが、この度は新橋演舞場に進出してからの熱海五郎一座を初めて体験させていただくことができて、すごく嬉しくありがたく思っています。新橋演舞場さんはとても好きな劇場です。私の中でずっと、新橋演舞場に立ってみたいという夢を持ち続けていました。その夢が2017年に叶い、初めて立たせていただきました。やはり、なんて素晴らしい素敵な劇場なんだろうと思いました。その新橋演舞場に改めて、尊敬している大好きな座長のもとで立たせていただける、女優として夢を二つも三つも叶えていただくという気持ちでおります」
三宅「僕は東京生まれの東京育ち、学生時代におばあちゃん孝行で、おばあちゃんを新橋演舞場に連れてきたことがあります。その時は藤山寛美さんの喜劇だったんですけど。もちろん面白かったんですけど、ただ新橋演舞場でなぜ関西の喜劇なんだろう…と言うのはちょっと思いました。その時は作るとは思っていなかったのですが、自分が喜劇の劇団を作って、さらにこの東京喜劇の一座を新橋演舞場で上演できるって言うのは、振り返ると『すごいことなんだな』と思いますね。あの時にふっと思ったことが全部出来ている、東京喜劇を新橋演舞場で出来るようになったって言うことが不思議でしょうがない。浅草の時代からずっと続いている東京の軽演劇を伊東四朗さんと一緒に『無くさないようにしよう』と思い伊東四朗一座を作りました。その後熱海五郎一座を毎年上演し続け、どんどん人気が出て新橋演舞場さんからお声をかけていただきました。新橋演舞場は横に広くて3階席まである。横に広いってことはお客様との距離が近い、喜劇に非常に合っているんですね。距離が近いから、一度にどーんとウケてテンポの良い喜劇ができるんです。歌舞伎でずっと昔から使われてきた伝統的な劇場ですからそれを逆手にとったギャグも。演舞場シリーズ最初の公演では花道におしめを敷き詰めまして。あとは歌舞伎の宙乗りをやりたいなと…一座がやったのはヘリコプターが死体を運ぶ、そういう宙乗り。死後硬直でちょっと見得なんか切っちゃう(笑)。劇場のキャリアもフリにしていろいろとギャグを入れています。冒頭はいきなりそういった機構を使ったギャグもありますし、隙さえあればいろんなところを笑いにする。舞台装置から何から何まで。という意味では、この劇場はぴったりだと。うちの一座のために提灯飾ってくれたのかと思うぐらいの感じです(笑)。座付き作家といつも話し合いながら台本を作っていきます。今回は作家が任侠ものを書いたことがなかったのでなんとしてもこのテーマでと構想が出来上がっていきました。任侠ものってギャグを入れやすいっていうのもありますし、みんながイメージしやすい世界、映画とかで観て想像しやすいので、落としやすい。ギャップも大きくなる、喜劇の作家として任侠もの書きたいという気持ちもわかります。そこに極道の妻として着物の似合う大女優浅野ゆう子さんと歌もダンスもアクロバティックなアクションもすべてできる塚ちゃんがキャスティングされたんですから、作家も私も大喜び。
コロナ禍でいろんな舞台が次から次へと中止になってしまって…お芝居は準備に物凄い時間がかかる、1年以上前から準備してますから、それで稽古をやって中止になったら役者さんもみんな辛いです。生の舞台のエンターテインメント、中止中止ばかりでお客様も舞台に行って楽しむこと、楽しみ方を、オーバーに言えば忘れちゃうかも。そんな世の中になったら困るなという危機感を感じたことがあります。そうならないように部屋で一人でコントとかお笑いや漫才を見てゲラゲラ笑っている人も、何日も前にチケットを予約して、ちょっとおしゃれをして劇場に行って1,000人以上の人が一つのギャグで一緒いわーって笑った時の空気感。これがどれ爆発的に楽しいくて、幸せかを体感して欲しい。その1000人以上の人たちが一緒に感動を迎えた時の興奮!これは他では味わえないんだぞっていうことを、とにかくたくさんの人に伝えたい、忘れないでよっていうことを言いたい。コロナ禍だからこそ、面白いものをやらなきゃならないし、だからこそ溜まっている皆さんのストレスをどーんと笑って吐き出してスカッとしてほしい」
浅野「昨年出演させていただいた舞台が、ちょうど緊急事態宣言に入り、何公演か中止せざるを得なくなりました。また、感染者も出てしまい・・・、約半分の公演がなくなってしまったという体験をしました。観ていただく側としてとても悔しい、残念な気持ちになりました。だから本当に観たいと思ってチケットを買って下さって、楽しみに待っていて下さったお客様はどんなに残念な思いだっただろうと。時代がこうだから仕方がないとはいえ、本当に寂しいことだなと思います。たくさんの公演が中止や延期になったと聞き、この先どうなっていくんだろうって、私も不安になったことも確かです。でも、それが少しずつ前に進んで、こうして今年はなんの制限もなく、皆様に楽しんでいただける季節がやってきたのはとても嬉しいこと。皆さんこれまでの2年間のストレスがMAXピークに達していらっしゃるじゃないでしょうか。私もその一人です。『同じ空間で』と座長もおっしゃったように、一つの芝居で一つのギャグで、演じる側が観てくださる方々と同じ空間で同じ時間を一緒に楽しく過ごせる。演者にとってこんなに幸せなことはありません。もちろん真剣勝負で大切に取り組んでおります。だから楽しいと感じていただけましたなら嬉しいですね。」
三宅「喜劇っていうのは満席の劇場でやればやるほど、ドカンと盛り上がるんで、それがコロナ禍でちょっと少ないと、その興奮や役者さんのノリも当然違ってくる。なんとか満席でドカン、ドカンっていうのを早くやりたいんです。だから満席にしてください(笑)。僕が元々劇団SETを作ったのは、アングラが流行っていた頃で難しい芝居ばかりやっていた、難しいことがかっこいいという時代だった。だから、その真反対の劇団を作りたかった。誰でもわかる笑いがあって、音楽的な要素もあって、アクションシーンがあって、それだけでも感動できる。どこをとっても飽きない。ジェットコースターのような、そういうお芝居を作るべきだろう、作りたかった。どこが見どころなのか…作るときに見どころの連続になるように作ろうと。ゲストの方も毎回違っているし、この組み合わせ、この一座は誰と誰をコンビにしても、みんなプロですから面白くしてくれるので、ここでラサール石井とリーダーの渡辺正行が出てくる場合は、こういう感じので、それでここに昇太師匠と東MAXと深沢くんがきたらここはこういう笑い、小倉がボケたら三宅がつっ込む、塚ちゃんがきたから、ここは肉体的なギャグと、こっちは音楽的ギャグと…それでストーリーを感動に持っていく、と言うことです。SETも40年以上やってきた劇団ですから、いろんな人の組み合わせで成り立っている、メンバーもそう言うことがわかっている。今までの熱海五郎一座だと男ばかりの一座メンバーがいて、そこに女優さんのゲストが来て面白くしていく、この補佐をするのがSETのメンバー、と言う形だったんです。今回は作家がSETのメンバーにもギャグを全部背負わせて、SETのメンバーも新橋演舞場でギャグができると…全員が座長を務められるこれだけの一座メンバーがいますから、僕が言わなくても『ここはこう変えた方がいいよ』って言ってくれる。作家が見どころの連続で書いてくれたものを全員で作り、最後は感動に持っていく。しかも任侠ですから、見どころとしては、任侠のかっこよさとそのかっこいい人が失敗してずっこけるその落差。そこに任侠だからこその歌。任侠の人間がいくところっていったらキャバレーみたいなところ、そこで歌とダンス、しかもギャグもあって、おもしろみがある。もう一つあるのは浅野さんと塚ちゃんが実は大きな要素を持っておりまして、ここでは言えないんですけど、この2人の芝居が笑いだったものを感動に持っていく、っていうことになります。そこはすごく見どころといえば見どころ、浅野ゆう子さんとね、A.B.C-Zの塚ちゃんの笑いと感動の…どうなるんだ!っていうところがが見どころ」
浅野「私は熱海五郎一座ファンで、毎年観劇させていただいておりますが、今回の「任侠サーカス〜キズナたちの挽歌〜」はいつもの熱海五郎一座と一味も二味も違うぞ!と感じております。座長がおっしゃったようにSETのお一人お一人が本当に素敵なお芝居パートを任されていることや、いつにも増して笑ったり感動したりする場面がたくさんあると思います。男性ゲストが参加するのは新橋演舞場シリーズでは初めてのことだそうです。私と塚田さんはかなりの年齢の差があるのですが、『そういう組み合わせ』というゲストも多分初めてのこと。そして熱海五郎一座ファンの私がお稽古を見ていて、演じさせていただく私が言うと自画自賛?と言われてしまうかもしれませんが、素晴らしい脚本だと思います。もう!見どころ満載です。あと、芸風じゃないですが、塚田さんの特技のバク転があまりにもしなやかでびっくりしました、綺麗ですね。間近で見せていただいて、なんて柔らかい、綺麗なバク転なんだろうと。塚ちゃんのバク転も見どころではないでしょうか」
時間も押し迫り、ここでお開き。笑い、笑い、笑い、そして最後は感動、の王道、「熱海五郎一座」、今回もきっと劇場を大いに沸かせてくれることであろう。
概要
公演名:熱海五郎一座 新橋演舞場シリーズ第8弾
東京喜劇「任侠サーカス〜キズナたちの挽歌〜」
日程・会場:2022年5月29日〜6月26日 新橋演舞場
作:吉高寿男
出演・構成・演出:三宅裕司
出演:
渡辺正行、ラサール石井、小倉久寛、春風亭昇太、東 貴博(交互出演)、深沢邦之(交互出演)
ゲスト:浅野ゆう子 、塚田僚一(A.B.C-Z)
問合:0570-000-489 or 03-6745-0888