田中圭 西田尚美etc.出演 演出 栗山民也_ 松田正隆作『夏の砂の上』11月上演

1998年に初演された本作は、劇作家・演出家の松田正隆が生まれ育った長崎を舞台に描いた作品で1999年読売文学賞戯曲・シナリオ賞を受賞した松田の代表作の一つ。

長崎を舞台に、職をなくし妻に家出された主人公と彼を取り巻く人物たちの間で交わされる会話から、一見淡々と した日々に漂う、抗いようのない悲哀や心の乾きが滲みだす。
今回、演出を手掛ける栗山民也は、「涙の谷、銀河の丘」(2003年、新国立劇場)以来となる松田正隆とのタッグとなる。コロナ禍のこの時代に上演する作品として、栗山は、日々の生活に重く漂う閉塞のもとに生きる人々のやるせなさと慈しみを描き出したこの作品を選んだという。
栗山は、「CHAIMERICA チャイメリカ」に出演した田中圭を3年ぶりに起用、積み重ねられる会話から登場人物の心模様があぶり出される、俳優の力量が問われるこの「夏の砂の上」を。
主人公・小浦治を演じるのは田中圭。夫を捨て家を出ていく妻・恵子を演じるのは西田尚美。 さらに本作品が初出演の山田杏奈、バイプレイヤーとして評価が高い尾上寛之、 2020年に第55回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞した松岡依都美、豊富な舞台経験豊富な粕谷吉洋、深谷美歩、三村和敬と俳優陣が揃った。

演出・栗山民也
近頃、歳のせいか、静かにゆっくりと動くドラマに惹かれる。稽古の後半には、それまで積み重ねてきた飾りものを削ぎ落とし、最後に残された風景と言葉だけを見つめているような気がする。
世田谷パブリックシアターから新しい演出依頼があった。いつもより少し長い間、上演作品を考えた。こういう時 が実は一番幸せな時間で、自分の今までをじっくりと思い返すことができる。そんな時、松田正隆のセリフがちぎ れちぎれに聞こえてきた。風に揺れていたり、突然ピタリと止んだ乾いた沈黙のときだったり。
この「夏の砂の上」の風景の中を流れるジリジリとした熱い感情と、しかし静かに刻む時間の一刻一刻に身を任 せ、この荒涼とした現在から、そこにその時生活していた人たちを見つめてみたい。
栗山民也

作・松田正隆
「夏の砂の上」という戯曲を書いたのは、ずいぶん昔のことで、平田オリザさんから依頼があって、この戯曲は青山円形劇場で上演されました。1998年のことです。
思い出すのは、この戯曲を書くにあたって、まだ、プロットも固まっていない時に、さんざん夏の長崎を歩き回ったことです。汗をかいて坂をのぼりくだりしているうちに、次第に劇の輪郭が生まれてくるような気がしました。故郷の長崎を遠くから想像してつくるようなドラマではなく、石段に身体がへばりつく感覚でセリフを書いた覚えがあります。渇水の町で洪水にのまれ、閃光に焼かれるイメージを得られたのは、長崎をただひたすらに歩いた経験が もたらしたものでした。
カラダが立ち、歩く、座るという姿勢から、うつ伏せ、横たわり、挙句に蒸発し影となり流されるということ。生命の 水準についての劇は時代の重力に従順になるほど、露わになります。私は、「日常」の劇から「生と死」に直面する 劇へと変容するような戯曲を書きたかったのかもしれません。
それでも、おそらくは「作者の思い」などこえて上演されるのが演劇の面白さでしょう。上演を拝見するのがとて も楽しみです。
松田正隆

あらすじ
ある地方都市、坂のある街。 坂にへばりつく家々は、港を臨む。 港には錆びついた造船所。 夏の日。セミも暑がる午後。
造船所の職を失い、妻・恵子に捨てられた小浦治のもとに、家を出た恵子が現れる。恵子は 4 歳で亡くなった息 子の位牌を引き取りに訪れたのだが、治は薄々、元同僚と恵子の関係に気づいていた。 その時、治の妹・阿佐子が 16 歳の娘・優子と共に東京からやってくる。阿佐子は借金返済のため福岡でスナック を開くと言い、治に優子を押し付けるように預けて出て行ってしまう。
治と優子の同居生活が始まる。

概要
日程・劇場:2022年11月 世田谷パブリックシアター
※兵庫、宮崎、愛知、長野公演あり。
作:松田正隆
演出:栗山民也
出演:田中圭 西田尚美 山田杏奈 尾上寛之 松岡依都美 粕谷吉洋 深谷美歩 三村和敬
問合せ:世田谷パブリックシアターチケットセンター 03-5432-1515 https://setagaya-pt.jp/
主催:公益財団法人せたがや文化財団
企画制作:世田谷パブリックシアター
後援:世田谷区