1963年にベルリン・ドイツ・オペラ『フィデリオ』のこけら落とし公演で開場して以来、様々な舞台作品を上演してきた 日生劇場、2023年に60周年を迎えることに。
60周年を記念した主催公演、NISSAY OPERA 2023では、日本初演となる『メデア』、53年ぶりのヴェルディ作 品『マクベス』、東京二期会との共催公演『午後の曳航』の3作品、日生劇場ファミリーフェスティヴァル2023では、 初の舞台化となる音楽劇『精霊の守り人』と人形劇『せかいいちのねこ』、改訂演出・振付で贈る谷桃子バレエ団 『くるみ割り人形』を上演。またアニバーサリーイヤーということで記念ロゴも発表に。
登壇したのは栗山民也(オペラ『メデア』演出)、宮本亞門(オペラ『午後の曳航』演出)、一色隆司(NHKエンタープライズ/ 音楽劇『精霊の守り人』演出)、山田うん(舞台版『せかいいちのねこ』演出・振付・脚本)、髙部尚子(谷桃子バレエ団芸術監督・バレエ『くるみ割り人形』改訂演出・振付)、粟國淳(ニッセイ文化振興財団[日生劇場]芸術参与・ オペラ『マクベス』演出)、松山保臣(ニッセイ文化振興財団[日生劇場]理事長) ※順不同
まず、ニッセイ文化振興財団[日生劇場]理事長の松山保臣より挨拶があった。2023年に60周年を迎えるが、その歩みについて簡単に触れた。日生劇場はオペラと児童文化に力を入れてきた。1979年より、中学・高校生を対象に本格的なオペラを鑑賞できる機会を安価で提供する「日生劇場オペラ教室」 を開催、また、児童を無料で招待する公演も行っており、今年度には800万人を超えそうな勢いである。「60周年、大きな一歩を踏み出せる、これからも舞台という非日常の世界を」と語った。それから、ニッセイ文化振興財団[日生劇場]芸術参与である粟國淳も登壇し、ここで記念ロゴお披露目。
多くのフラッシュが焚かれた。60という文字の脇には日生劇場らしい階段をモチーフにしたデザイン。それから改めて粟國淳よりこの60周年のラインナップが発表された。
オペラ『メデア』、実はこれが日本初演。ケルビーニの代表作、原語はフランス語だが、現在ではイタリア語で上演されることの方が多い。この作品の復活に最も貢献したのは、1953年にヴィットリオ・グイの指揮で主役を演じたマリア・カラスのフィレンツェ公演である。演出は栗山民也、栗山の日生劇場”登板”は10年ぶり。芝居×音楽、ここがポイントとなるそう。それから三島由紀夫作品であるオペラ『午後の曳航』、作曲家ハンス・ヴェルナー・ヘンツェは、1986年に『午後の曳航』のオペラ化に着手。1989年に『裏切られた海』として完成させた。その翌年ベルリン・ドイツ・オペラで初演、その後、ゲルト・アルブレヒトの企画で日本語版の『午後の曳航』を作成、2003年に読売日本交響楽団が演奏会形式で初演。そしてこの日本語版をヘンツェが大幅に改訂、2006年にはザルツブルク音楽祭で初演されている。これをオペラ『金閣寺』を手掛けた宮本亞門が再び三島作品に挑む。以上がオペラ。
夏のファミリー・フェスティバルでは音楽劇『精霊の守り人』、舞台版『せかいいちのねこ』、そしてバレエ『くるみ割り人形』。『精霊の守り人』はNHKエンタープライズとのコラボとなる。『せかいいちのねこ』は『あらしのよるに』を手掛けた山田うんが、『くるみ割り人形』は谷桃子バレエ団が。なお、『くるみ割り人形』については、子供のオーデションを実施するとのこと。
それから、クリエイティブのエキスパートである、それぞれの演出家から挨拶、抱負などが語られた。
栗山民也「2か月くらい前でしょうか、ウクライナの劇場にミサイルが撃ち込まれました。ちょうどそのとき新宿の劇場である芝居の初日を迎えるところでした。ですが、私の頭の中はウクライナの劇場のことでいっぱいでした。劇場は人々が集うのが劇場、人間について世界について考え学び、夢を見る場所だと思っておりました。劇場はどういう場所なのか。ずっと考えています。この機会を大切にしたいと思います」と語り、また、ピカソの『ゲルニカ』に話が及んだ。2020年に『ゲルニカ』を上演したのは記憶に新しいところ。
粟國淳「『マクベス』(1847年にフィレンツェにて初演)は一回はやりたい作品、シェイクスピアとしても、オペラとしても。ヴェルディがメロドラマとして表現、これ以上のものはない。音楽、テキスト、ドラマ、2時間半ぐらい、お芝居とは違う舞台、作品。これはヴェルディの若い頃の作品ですが、オペラは『劇』であり、芝居、ドラマをちゃんと作らなければならない、美しい声だけで表現する作品ではありません。ただ、歌が歌えるという手法ではなく。歌い手にどれだけ芝居をさせるのか、です。演出家としてはチャレンジです。オーデションを行っていますが、早く稽古をしたい気持ちです」
宮本亞門「コロナ禍でなぜ舞台をやるのか、何を大切にしているのか、何をすべきか、舞台は意味があるのか、ないのか、それは喜び、感動、希望、だからやるべきだと。最高のものを作っていきたい。『午後の曳航』、壮絶な生き方、美しいものを出していく、やっとできるので興奮しています。2010年に上演されたとき、観にいきました。全ての音を生々しく出していた、できるのが嬉しい。内容は痛い、美しい、恐ろしい、今の現代人にはない、そのものといえるかも。大好きな日生劇場。60周年おめでとうございます。舞台を上演できることの喜びをかみしめております。上演できることが!嬉しいです」
一色隆司「60周年!(自分が)生まれる前から現役で!すごいことです。招いていただき、光栄です。日生ファミリーフェスティバル、名作劇場、伝統ある劇場です。この60周年で『精霊の守り人』、縁があります。この劇場で観て影響されたという方があまりにも多い。人生を変えてしまうほどのパワーが劇場にあります。そのパワーを届けたい。今の時代は何を届けるのか、何を届けたいのか、何を届ける意味があるのか。『精霊の守り人』、何者でもない人が運命に立ち向かい、世界を変える、人間のエネルギーの素晴らしさ、未来の世代へ、人間としてどうあるべきかを問われている時代、すべての世代に何か持って帰ってもらうことを目指しています」
山田うん「絵本ではなく、『絵物語』、言葉も独特で、本でもない、児童書でもない、世界観。開かなくても世界が広がる、動き、歌、音楽など舞台全体の躍動、独特の舞台を創り上げたい。劇場に入って階段登って、『ここはどこだろう』という不思議さ…ドキドキが止まらない作品にしたい。”ぬいぐるみの猫”が主人公です、人間はほとんど出てこないです。幸せとは?色々な眼差しが入っています。語り合えるような、心に残る作品を」
髙部尚子「谷桃子バレエ団を選んでいただき、光栄です。『白鳥の湖』『眠れる森の美女』、そして今回は『くるみ割り人形』、これはまだ日生劇場で上演されていないので。60周年は特別なこと、いつもロビーでワークショップをやっているのですが、子供たちにワークショップをやってから観ていただいています。『バレエを初めて観る人』というとほとんどの子供が手を挙げます。敷居が高いと言われていますが、日生劇場でバレエを見せているのはありがたいこと、バレエの素晴らしさを伝えていきたいです。今回は子供オーデションをして新しい『くるみ割り人形』を。心で踊る『くるみ割り人形』を」
会見は日生劇場のロビーで行われたが、隅々までこだわりがある空間。登壇者の背景にあるのは、岩田藤七が手掛けた「コロラート」。建築用ガラスとして、色ガラス組み合わせた平面作品で、当時の美術評論家・土方定一が「COLORATO(コロラート)」と名づけたそう。古色ただよう桃山屏風を連想して制作したそうである。
公演日程は「メデア」は2023年5月27・28日、「マクベス」は11月11・12日、「午後の曳航」は11月23日から26日にかけて上演され、「日生劇場ファミリーフェスティヴァル 2023」の「精霊の守り人」は来年7月29日から8月6日まで、「せかいいちのねこ」は19・20日に、「くるみ割り人形」は25日から27日まで。
年内は藤原歌劇団・NISSAY OPERA 2022 公演 『コジ・ファン・トゥッテ』 ニュープロダクション、日生劇場ファミリーフェスティヴァル 2022は東京シティ・バレエ団の『真夏の夜の夢』、物語付きクラシックコンサート『アラジンと魔法の音楽会』、ダンス×人形劇『エリサと白鳥の王子たち』、NHKみんなのうたミュージカル『リトル・ゾンビガール』、NISSAY OPERA 2022『ランメルモールのルチア』、こちらは2020年に翻案上演した作品を、全幕上演の「完全版」となる。
主催・共催:公益財団法人ニッセイ文化振興財団[日生劇場] 公式HP: https://www.nissaytheatre.or.jp/