つかこうへいの命日にあたる7月10日、今年は十三回忌を迎える。最後の追悼公演となる今年「つかこうへい Lonely 13 Blues」と銘打ち、ホームグラウンドである紀伊國屋ホールで 「蒲田行進曲完結編 銀ちゃんが逝く」と「初級革命講座 飛龍伝」の連続公演を上演することになった。
「蒲田行進曲完結編 銀ちゃんが逝く」は、2020年にコロナ対策における緊急事態宣言の影響により上演中止となった。直後に朗読劇へと変更され、乗り切った。今年は、名作「蒲田行進曲」の完結編にして完全版の上演を目指す。また「初級革命講座 飛龍伝」は、90年以降上演され続けている「飛龍伝」の原作にあたる。今回はその復刻上演とともにOB、OG等によるトークショーを重ね合わせて開催する。その両方に出演、つか作品には欠かせない久保田創さんのインタビューが実現、つかこうへいとの思い出や作品について熱く語っていただいた。
――今回はつかこうへいさんの13回忌追悼公演ということで、2作品やりますけれども。つかさんへの思い出といえば?
久保田:いっぱいあるんですけど……。僕12期生なんですね。2004年に研究生で入って。2003年につかさんの『飛龍伝』を観て。青山劇場のしかも2階の一番後ろの席で。なぜだか知らないけど最後の方ずっと泣きっぱなしで、とにかく「この舞台に出たい」と思ったんです。演劇をやりたい、劇団に入りたい、とかじゃないんです。「この舞台に出たかった」んですね。そうしたら、ちょうど劇団の募集オーディションの告知を見かけまして、もちろん受けましたが。研究生のころは、つかさんはあんまり稽古にお越しにならなかったんですが、研究生卒業公演の直前、初めてお会いしまして。「稽古楽しいか、本番はもっと楽しいから」と声をかけてもらえたのがすごく印象に残っているんですよね。「本番やらないとだめなんだよ」とも。
で、チラシ3,000枚くらい刷って「これから駅行って手で配れ」って振られまして。一見、そんな無茶なって思えるでしょう。でも会社帰りの人とかが「つかこうへいなら俺、知ってるよ」って人がいっぱいいらして、結構来てくれたんです。
その後『蒲田行進曲』をつかさんが演出して、僕も出させていただきまして。それが大部屋中の大部屋で、一応配られた台本を見たら1つだけ僕のセリフがあったんですね。それが「はい」っていう、本当に一言だけ。でも、稽古場で「今日お前らで芝居作るから」って、ほとんど即興のような感じで作っていたのを覚えています。記者の人たちも呼んでね。みんなを笑わせる、じゃないけど、そこもエンターテインメントだなと。あんまり周りが笑うものだから、つかさんからとうとう「これ、誰が責任とるんだよ、このシーンはなし」となって結局全カット(笑)。
でも初日終わったときに、下手の袖にいたつかさんの周りに人が溜まっていたんです。なんでだろうと思ったら、ハケた役者1人ひとりと握手をしていたんです。つかさんが。僕にももちろんしてくれて。「ありがとうございました」って言っていただけたんです。しかも作品は『蒲田行進曲』ですし。今から17年前の出来事になりますけど、その瞬間は鮮明に覚えていますね。
あと2010年に、またつかさんが『飛龍伝』を手掛けるんですが。“ラストプリンセス”で黒木メイサさんが主演のときですね。僕も共演しました。でもつかさんはお身体のこともあってトータルで5回しか稽古場にいらっしゃらなかったんです。吸入器みたいなのをつけていましたが、いったん座ると誰よりも声が大きいんです。つかさんが来るといえば通し稽古をする日だったから、「よしやるぞ」ってなったにも関わらずつかさんから「カノンからやって」とリクエストがあって真ん中あたりから稽古を始めることに。今まで1カ月やってきたことを全部ぶち壊し。ダンスからセリフから全部総取っ替えです。しかもその時使った楽曲がメイサさんが自分で売り出していた曲。それをいきなり振り付けの人に有無を言わさず無茶振りするんです。聞いたこともない歌だからもちろんすぐになんてできるわけがない。一度は「できないならやっぱりいい」となったものの、振り付けの人はつかさんのところで長年やってきた人だから、プライドがあったのでしょう。即興で振り付けをしていたんですよね。
つかさんは5回くらいしか来れなかったけど、ほかにもその場でのやり直しや即興がいっぱいありました。とくに当時研究生から上がったばかりの役者を1人壇上に上がらせ、いきなり「脈を測らせる」という即興をやらせていて。つかさんが自分の腕を差し出し「ガンです」って言わせていたんです。もちろん、そのときつかさんがガンを患っていらっしゃったのは誰もが知るところでしたから。印象に残っていたし笑いが起きた。それで全員が次々に脈を測って「ガンです」というシーンが作られましたが、今思い返してもあのシーンが忘れられないんです。そんなシーンを1回の稽古場で作り上げてしまうというか、役者1人にその「人」として特別な場面を作ってくれる。それに、新人でも知らなくても必ず名前を覚えて呼んでくれるんですよ。それがうれしかったですし、覚えていることがとにかく「濃い」です。
――つかさん、亡くなってからもう13年経ちますがいろいろな方がつかこうへい作品を演出していて、脈々と受け継いでいますよね。
久保田:うれしいですよね。いろんな人がやってくれていてね。昔、つかさんはホームページに台本を載せていて「自由にやってください」「3000円以下だったらお金もいらないんで」「でもやりましたという報告だけはしてくださいね」というスタンスだったんです。そのときの想いが伝わったのか、今でもみんながやってくれるというのは本当に素晴らしいことなんだと、僕は思います。
――それでは、今回やる演目についてはどうお考えでしょうか。
久保田:『蒲田〜』はつかさんの作品で最初に出させていただいたもの。そのときは『蒲田行進曲』というタイトルだったんですけど。つかさんが何度もやられていた『蒲田〜』は『銀ちゃんが逝く』のテイストの銀ちゃんになっていたんですよ。似通る部分もあって。そこはだから、稽古をやっていて思い出すこともいろいろあります。
そして『初級革命講座』は僕がこの作品を、「出たい!」と言わしめた『飛龍伝』の元なので。こっちは化け物みたいにセリフが多くてね(笑)、そんな喋らなくてもいいんじゃないかってくらい。一回、先輩たち、吉田智則さんと神尾佑さんが劇団解散公演のときにやってくれて。それを劇場で観させていただいたんですが。そのときもお客様に媚びるのではなく、ガンガンパンチが飛んでくるような攻撃的な芝居。同時に音楽も攻めていて。最後はどういう気持でカーテンコールを迎えたらいいのだろうか、というくらいの終わり方だったんですよ。パワーがすごい。今、改めて台本を呼んでも内容が抽象的な分、広がりがすごいあるというか…狭い場所で話しているという設定なのに、一気に世界が広がっていくような。そういう想いが、つかさんの想いが、台本に詰め込まれている。とはいえ手強さもしかりで、セリフに久しぶりに溺れてしまうな、とも。高橋龍輝と一緒にやっていますが、2人ともまだ這い上がれないな、と。なんとかもがいて上に上がろう、とやっている瞬間もうれしいし楽しいんですよね。「とにかく声出せ」ってつかさんから言われた研究生時代を思い起こさせるんです。
どうしてこの2本になったか、というのは岡村さんのみぞ知るところではありますが。でも、2週間くらい稽古を終えた今では、13回忌にこの2本でよかったな、と個人的には思っていますね。
――この2本はやはり、つかさんの作品としては印象的に、鮮明に覚えていらっしゃる方が多いんじゃないかと。ただ、2つやるとなるとお稽古も大変だと思いますが……。
久保田:同時進行ですね。だいたい、日中に『初級革命講座』で、日が落ちたころに『銀ちゃんが逝く』をやる流れ。実は『銀ちゃんが逝く』は一回やっていますが、そのときコロナの件があって朗読劇スタイルだったんです。なので、人との距離を遠くしなくてはならなかったですが、今回はそうではないので。また作り直しをしています。バッと芝居をやるというよりも、みんなでどうやって作ろうか、という方に重点を置いている時期ですね。一方で『初級革命講座』は台本がすでにありますから、とにかくやる!みたいな。岡村さんの力も借りつつ。とはいえこの作品はあまり返し稽古ができないんですよね。1回やるだけでも相当時間がかかりますから。今はとにかく「1回で何ができるか」ということを考えながら進めています。そのおかげでこの1週間は喉をずっと使っている状態。ただでさえセリフ、多いですからね。1カ月ぶんくらい喋ったのではないかと(笑)。この時間だけでも。
――観る側はお得感はあるんですけどね(笑)。
久保田:やっている方はたいへんなのがたぶん、楽しいんですよ。たいへんな状況でやったほうが面白そうだなと。
――しかも場所は、紀伊國屋ホール。
久保田:観る方もやる方も思い入れがある場所ですしね。とくに今回は7月10日をはさみますからね。(7月10日はつかこうへいがこの世を旅立った日)ちょっと客席の雰囲気が違うこともわかったりするし。とはいえ、そういう人たちも初めてみる人であっても、つかさんのお芝居は間口が広いと思うので。来てくれた人が楽しんで帰って「今日来てよかった」と純粋に思ってもらえたら、いちばんいいなと思っているんです。舞台自体が足を運ぶのにハードルが高いと思っていたり、つかさんのお芝居は難しいだろうな、と思っている人もまず、騙されたと思って一度来ていただきたいなと。ダメだったら僕らのせいなので(笑)。この種の舞台って、手を抜いているのは誰もいないので。役者たちが本気になる姿を観るだけでも、価値はあると思いますし、誰が観ても楽しめると思います。1人でも多くの人につかさんの作品を知っていただければ、うれしいですね。
――ありがとうございます。公演を楽しみにしております。
概要
「蒲田行進曲完結編 銀ちゃんが逝く」
日程会場:2022年7月8日(金)~7月18日(月祝) 紀伊國屋ホール
作:つかこうへい
演出:岡村俊一
出演
倉岡銀四郎:味方良介
ヤス:石田明
小夏:北野日奈子
中村屋喜三郎:細貝 圭
ケン:中本大賀 (円神)
高橋龍輝
佐久本宝
河本祐貴
監督:久保田創
「初級革命講座 飛龍伝」
日程会場:2022年7月23日(土)~7月25日(月) 紀伊國屋ホール
作:つかこうへい
演出:岡村俊一
出演
山崎:高橋龍輝
熊田:吉田智則
小夜子:佐々木ありさ
久保田創
※「初級革命講座 飛龍伝」は全公演終演後にゲスト・トークショーあり
提携:紀伊國屋書店
制作:つかこうへい事務所
企画・製作:アール・ユー・ピー
問合:03-6265-3201(平日 12:00~17:00)