舞台「文豪とアルケミスト 嘆キ人ノ廻旋(ロンド)」、原作は「文豪とアルケミスト」、DMM GAMESより配信されているゲーム。近代風情の続く日本である時、文学書が全項黒く染まる異常事態が発生、同時にそれらの文学書が最初からなかったかのように人々の記憶からも消えていった。「本の世界を破壊する侵蝕者」によってもたらされた災いに対処すべく、「アルケミスト」と呼ばれる特殊能力者が図書館に派遣され、文学の力を知る「文豪」によって転生させて敵を討伐することとなった。これがイントロダクションストーリー。そして舞台・テレビアニメなどのメディアミックス展開作品では、ストーリーの補完や再現ではなく、オリジナルストーリーが展開される。
今回は第5弾、芥川龍之介と久米正雄を主軸にして展開、また、彼らの師である夏目漱石、また、エドガー・アラン・ポー、ハワード・P・ラヴクラフト、海外の文豪が舞台初登場。今回は夏目漱石の『こころ』が侵蝕される。このシリーズを第1弾から手がけている脚本のなるせゆうせいさんと演出の吉谷光太朗さんの対談が実現した。
なるせ:今まで芥川龍之介主体の話は出てこなかったのと、夏目漱石は出したいなっていうのはあったんです。
吉谷:『こころ』と『破船』についてはブレーンストーミングで話していたような記憶があります。
なるせ:夏目漱石は芥川が憧れていた存在なので、それで夏目を出そうと、夏目漱石の時代は幕末から明治に変わっていくところ、芥川より上の世代、夏目漱石や森鴎外、その世代が近代文学に入ってくる、そこにどうリンクしていくのか、その上、海外の文豪もうまいこと出し、海外文豪との対立とか軋轢、そんなところも含めた話にしましょうということに。
吉谷:なるせさんが夏目を出したいと強くおっしゃっていましたね。
なるせ:第1弾で久米の話には触れているけど、今回は芥川、久米の存在は欠かせない。この2人をピックアップして見せたいなと。
吉谷:そこら辺が狙い、そこが一番大きい。あとはお互いのライバル関係をどう表現していくのか、芥川の生き様やキャラクター性は主人公としては作りやすい。
――なるほど。今作は芥川と久米の関係が芯になっているのかなと。
なるせ:今回は久米の青春時代、赤裸々な過去をクローズアップしています。みんなで過ごした青春ですね。久米正雄の『破船』、元々、彼の作品は暗いのが多く、自分のプライベートなところを綴っている感じ。芥川にとってもその時代は久米と一緒に過ごしているから、そこの部分を掬い取ってあげたいなと。
――あと、海外の文豪が登場しますね。
なるせ:海外の文豪も色々と候補はあり、元々どこかで出したいというのはあった。第4弾の時も候補に上がってはいました。
徳田秋声とは…結びつけるのが難しい部分はありまして。明治時代は海外文学が入ってきて彼らに多大な影響があり、そこを絡めないと、と思いまして。今回は純文学の方をメインにして、その相反するところに大衆小説…エンターテインメントを打ち出しているのが特徴で、例えばラヴクラフトであったり…今回は江戸川乱歩も出しているので、そこで繋がりは出来るかなと。
吉谷:それはそれで面白いですよね。夏目漱石をめぐる物語、最終的には先生に対する思いと嫉妬、ある意味一本筋は通ってはいるとはいえ、そこで小説を書いているわけだから。久米のビジュアル見てもそうですけど。菊池を推すか久米にするか…。今回はこれならドラマとしても面白いんじゃないかとも思ったし、第1弾のときには久米との確執みたいなところにちょっとは触れてはいたんだけれども掘り下げていくには至らなかった。ちょっとだけ出てくる久米によって芥川が……みたいな。割と原点に近い部分を物語としてもう一回ブラッシュアップして、やりたいなと思いました。今回はそこらへんをきっちりやりたい。
――脚本を読んだ印象としては、人間の負の感情がキーワード。
今回潜書するのは『こころ』『破船』と公開されていますが、近代文学史に詳しくないお客様もいると思います。具体的には見どころは?
吉谷:そうですね、演出的にはエンタメチックであるといえば語弊はありますが。「純文学」をこの作品の中ではどうやるのか、というところよりも、いわゆる主人公としての生き様、エネルギーをどう再現するのか、若さとはっちゃけを前面に押し出すよりも、セリフなどで読み取った、そこで見たニュアンスみたいなものをそれぞれの文学性として表現しようかなと思ったりもしています。より自分自身が体感してきた中にある作品といったような…経験値を積んできた役者だからこそ、にじみ出てくるものもあるだろうし、そこが「純文学」とマッチングしていければいいな、今はそう思っていますね。
なるせ:負の要素がキーポイントである純文学は、その負の要素も物語の創作の根幹でもあり、夏目漱石…真骨頂は久米、負の要素があるが故の純文学、対極の大衆小説は物語そのものを面白くする、その中での違い、繋がり、その間を右往左往する芥川龍之介、ここが面白いところです。
――海外の文豪と他文豪も思わぬところで繋がっていますね
なるせ:繋がっていますね。
吉谷:本当にそうですよね。面白いのは海外の文豪、彼らが築いてきたことをスパン!と否定するという場面がありまして。今までの舞台「文豪とアルケミスト」で脈々と作ってきたことを1回ちょっと崩壊させてしまうような存在であるというか。
なるせ:そうですね、海外の文学者から見るとまた違う視点になり、それは今までにはあんまりなかったですね。
吉谷:僕はそれが個人的に好きだったりします。でも、今までと全く違うキャラクターを出すのってシリーズとして難しいところではありますね。僕なりに違った未来を作っていこうとは考えているんです。とはいえ、それがどこまで違っていいのか、どこまで踏襲するのか、これが初演だったら何も考えなくてすむものなんですが。やっぱりどうしてもね……。そこで一度ガラリと変えてくれる存在として「海外文豪」の存在はきっかけにしやすいし、対立っていう面でも描きやすかったりするし。作り手をすごく助けてくれているんですよ。
――4弾までとは違う、第5弾で新しい展開がある、そういう印象があります。最後に作品を見たことのない人にメッセージを。
なるせ:僕の中ではアベンジャーズなんですよね、それぞれの文学界のヒーローたちが出てきてその中で対立、軋轢、葛藤があって、それでいて自分達の文学を守るという展開はシリーズ通してありますが、この作品はアベンジャーズ的なエンターテイメントです。堅苦しい文学わかんない、じゃなくって、気軽な気持ちで彼らを観に来てくれれば嬉しいです。
吉谷:もちろん文豪の作品、彼らの生き様や作品を読み取る力などいろんな背景を知ってなくちゃいかないし、読み終える時間もかかるし、消費するものがいくつもあります。とはいえその先に面白さがあり、読み終えたときに見えてくる光と最終的にはゴールに向かう。作品の良さはもちろんですが、そこを超えた、面白い部分の美味しいとこ取り、生き様や作品の本質、そこを視覚化して別の入り口、物語として再構築する作り方をしています。文学は難しいと思われているけど、それがずっと消えずに残されているということは面白いと思っている人も大勢いらっしゃるわけです。それをより抽出している作品なので、全然堅苦しくなく、近代文学に詳しい人もエンターテインメントとして再認識できる、いわゆる“あるある”みたいな。知っている人はもちろん、知らない人にも楽しめる作品になっているので、ぜひ観に来てほしいなと思います。
――ありがとうございました、公演を楽しみにしております。
物語
文学作品を守るためにこの世に再び転生した文豪たち。
幾度となく侵蝕者と戦ってきた芥川龍之介は、同じ新思潮で親友の菊池寛らと再会。
そんな喜びもつかの間。なんと彼の師である夏目漱石の『こころ』が侵蝕される事態に。
一刻も早く潜書し、侵蝕を食い止めなければならない。
しかし同じ夏目門下である久米正雄が芥川との協力を拒みーー
概要
公演名:舞台「文豪とアルケミスト 嘆キ人ノ廻旋(ロンド)」
日程・会場:
東京公演:2022年9月2日(金)〜9月11日(日) 品川プリンスホテル ステラボール
大阪公演:2022年9月17日(土)〜9月19日(月・祝) 森ノ宮ピロティホール
出演
芥川龍之介 :久保田秀敏
菊池寛 :岩城直弥
江戸川乱歩 :和合真一
室生犀星 :椎名鯛造
エドガー・アラン・ポー:鷲尾修斗
ハワード・P・ラヴクラフト:小林涼
夏目漱石 :寿里
久米正雄 :安里勇哉(TOKYO流星群)
アンサンブル:佐藤優次 仲田祥司 町田尚規 多田滉 山口渓 田中慶 平澤佑樹 松崎友洸
原作 :「文豪とアルケミスト」(DMM GAMES)
監修 :DMM GAMES
世界観監修 :イシイジロウ
脚本 :なるせゆうせい(オフィスインベーダー)
演出 :吉谷晃太朗
音楽 :坂本英城(ノイジークローク)
主催 :舞台「文豪とアルケミスト」製作委員会
公式HP:http://bunal-butai.com/
©2016 EXNOA LLC / 舞台「文豪とアルケミスト」製作委員会
チケット一般発売中
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取材・文:高浩美
構成協力:佐藤たかし
なるせゆうせい撮影:金丸雅代