幕末に来日し、長崎出島の地より多くの弟子を育て日本に西洋医学を広めたフィリップ・フランツ・フォン・シーボルト、来年はその来航から200年の記念年となる。
その業績は医学に留まるところなく世界に広がるシーボルトコレクションと共に様々な研究分野で活かされた。また、その研究とコレクションをもとに書き記された大著『日本』はベストセラーになり、ジャポニズムブームを引き起こした。だが、その研究分野はもちろん、日本を愛する蒼い目のサムライの遺志は2人の息子、 兄アレキサンデル、弟ハインリッヒに引き継がれ、彼らは日本の為に奉職する中で新時代に漕ぎ出たばかりの日 本を世界の一等国にすべく維新志士たちと共に数々の危機を乗り越えていったことはあまり知られていなかった
初演より≪99.9~刑事専門弁護士≫シリーズなどヒット作を送り出す木村ひさし監督を総合演出、主演脚本も担う鳳恵弥を演出に辰巳琢朗、石垣佑磨、市川美織、ペナルティヒデなどの新キャストを迎え再々演。
前説は楽しく、久々に「三瓶です!」が飛び出す(笑)、この前説、撮影OK、SNSで拡散もOK。ちゃんとサービスしてくれるので!「三瓶です!」は何度も(笑)。
それから始まる。好評につき再再演、物語は基本的に変わらないが、キャストを変えて繰り返し上演。出だしは現代、祖母が孫にシーボルトの話を聞かせる、という形式。
シーボルト兄弟が日本にやってくるところから始まる。渡航方法はもちろん、船、シケや嵐など危険を伴うが、それでも日本に行きたいと思う気持ち、特に弟のハインリッヒは日本には特別な思い入れがある。
父であるシーボルトから聞かされていた日本。父の話を聞くにつれて日本へ行きたいという思いが募り、そして日本の土を踏む。見るもの、聞くもの珍しく、団子の味に感動したり、トントンと進んでいく。そして運命の出会い、花という若い女性に一目惚れ、ただし、時は明治時代、いわゆる異人さんとの結婚なんて!しかし、そんな壁を乗り越えて二人は結婚する。
基本的にはハインリッヒの生涯が中心だが、彼を取り巻く人々のサイドストーリーも見逃せないし、激動の明治時代、列強国の思惑、国内の政治情勢、否応無しに巻き込まれるシーボルト兄弟。だが、それでもブレない二人。日本を愛し、家族を想い、夢に向かって邁進する。特に弟のハインリッヒ、熱い志、そして兄・アレキサンデルもまた熱い人物。
この二人は日本のために尽力した。
『シーボルト事件』、歴史の教科書に必ず登場する出来事、そしてシーボルトは安政5年(1858年)の日蘭修好通商条約の締結により追放が解除となり、安政6年(1859年)に長男アレキサンデルを伴って再来日し、幕府の外交顧問となった。明治時代、日本は富国強兵政策など、海外、特にヨーロッパ諸国から遅れまいと考える。隣国の中国、アヘン戦争などがあり、日本国内でも危機感があった。また、日本をアピールするために万博に参加、そんな史実を交えて進行していく。
ハインリッヒを演じる鳳恵弥は当たり役、青雲の志を貫く清々しさ。父・シーボルトに辰巳琢郎、優しい眼差し、兄・アレキサンドルは石垣佑磨、弟に負けないくらい熱い、熱い!ハインリッヒと結婚する花は市川美織、小柄で可憐な風貌、ハインリッヒが一目惚れするのも納得、後半は夫を支える良き妻として存在感を。ノリのいい楽曲、パッパラー河合、もちろんご本人も登場。
また、ハインリッヒの敵役としてのモース、三瓶が演じる。モースが発見する4年前にハインリッヒ・シーボルトは大森貝塚の存在を知っていた。モースが発見者として記されているのは、早々に「ネイチャー」に報告したことと、勤め先の東京大学を通して東京府に自分が大森貝塚の発見者であることと発掘の独占権を認めさせたことによると言われており、前回もそうだが、ここのエピソードはしっかりと描かれている。三瓶がヒール役、あんまり悪そうに見えないところが意表をつくキャスティング。
なお、ここ築地はシーボルトにゆかりのある場所、楠本イネがここで産院を開いた。彼女はフィリップ・フランツ・フォン・シーボルトの娘。日本人女性で初めて産科医として西洋医学を学んだことで知られる。
シーボルト来航から200年、その息子たち、アレクサンドル、ハインリッヒ。日本において、ハインリッヒが残した功績は数多く、兄が父の外交的才能を受け継いだのに対し、ハインリヒは父の研究分野においての才能を色濃く受け継いだ。
考古学の分野においては、大森貝塚を始め多くの遺跡を発掘。考古説略を出版し日本に始めて考古学という言葉を根付かせた。
兄と共に、父の大著「日本」の完成作業を行い、欧州王家の日本観光に随行し、彼らの資料蒐集に関わったことも後のジャポニズムブームの起点に。現在欧州に散らばるシーボルト・コレクションは数万点、その約半数はハインリッヒが蒐集したものだそう。
上演時間は2時間超えだが、長さを感じさせない。ところどころ、笑いも交えながら進行、サイドストーリーも充実。カーテンコールでは、主演の鳳恵弥が「千秋楽まで駆け抜けます」と挨拶。公演途中で中止になる舞台の話をあちこちで耳にする。最後まで無事に上演してほしい。
なお、ロビーではシーボルトオリジナルマスクが販売されているが、可愛い!また、物語に登場する紫陽花の花、シーボルトは日本の植物であるアジサイを愛したようで、彼の著書『日本植物誌(フローラ・ヤポニカ)』で、彼が日本で知り合った「オタキさん」という女性の名前からつけられたといわれる「Hydrangea otaksa(ハイドランジア オタクサ)」という学名でアジサイを紹介。
ただ、アジサイの学名はシーボルトが命名する以前に「Hydrangea macrophylla (ハイドランジア マクロフィラ)」という名前で発表されていたのでオタクサの名前は認められなかった。この紫陽花色の金平糖がおしゃれな瓶詰めで販売、観劇の記念に。
<2021年レポ記事>
概要
日程・会場:2022年8月10日~8月14日 築地本願寺ブディストホール
総合演出: 木村ひさし
演出&脚本: 鳳恵弥
演出補佐: 木之枝棒太郎
音楽: パッパラー河合(爆風スランプ)
衣装: 神波憲人
殺陣指導: 難波一宏
企画/原作: 関口忠相 (シーボルト子孫)
出演:
鳳恵弥 辰巳琢郎 石垣佑磨 市川美織 ヒデ(ペナルティ) パッパラー河合
武田知大/柴木丈瑠/山口賢人/内田智大/廣田琴美(11,12 日)/佐藤茜«誇»/みやでらみほ«誇»/ 亀吉/久保沙由李«誇»/重清もも子«愛»/蜷川まゆ«誇»/松浦プリシラ亜梨紗«愛»/竹野留里«愛»/
塩田舞子(13,14日)/岩切よしの«誇»/内村理沙«愛»/鳥羽瀬璃音花«愛»/渡辺優空«愛»/
佐藤豪/一之瀬岳/津下陽介/荒牧咲哉/旭類/宝田悠楓/今里まゆ奈/小川朋珠/辻村妃菜 他
プロデュース ACTOR’S TRIBE ZIPANG