1つの物語を2つの視点から描き、2つの舞台作品を交互に上演する冒険的公演企画が、今回の舞台「プロパガンダゲーム」。レジスタンスチーム視点から描く「side: Resistance」、政府チーム側視点から描く「side: Government」から成る。新宿のサンモールスタジオで上演中だ。
それぞれが独立した物語になっていながらも、反対サイドの内容と密接に絡み合いながら展開していき、両サイドの物語を体験することで大きな1つの物語が完結する構成となる。
主催者は、1作品だけを見ても十分楽しめる作品づくりがされる。「戦争賛成/反対」という誰もが自分の意志を持っているであろうテーマを扱うことで、観客は自分の考え再度向き合うきっかけにもなり、また両方の作品を見ながらそれぞれの登場人物に 共感していくなかで、自分の考えが変わる体験、自分の価値観が揺らぐ体験ができる仕上がりを目指されている。
<共通シーン:冒頭>
設定は大手広告代理店の最終選考。リクルートスーツに身を包んだ学生が一人、また一人入ってくる。入る前にお辞儀をする者、緊張のあまり、そそくさと席に着く者、肩の力が入った者、様々な学生が入室する。
それから代理店の担当やマーケティング局長が入室、面接ではなく、なんと「プロパガンダゲーム」を行うとアナウンス、一瞬学生たちの頭の上に「?」マークが。カードが配られ、そこでレジスタンスチームになるか、政府チームになるか振り分けられる。メンバーは各4人ずつ、男女の人数も同じ、ただ、それぞれのチームに相手チームのスパイが隠れている。もちろん、本人しかわからない。
11日のゲネプロは「side: Resistance」。舞台上はそのメンバー、そして”窓”を隔てて「side: Government」。
このゲームに勝つためには戦略と戦術を練らなければならない。命題は予め知ってたわけではなく、面接に訪れてその場で言い渡される、架空の国家パレット国は、隣国のイーゼル国とキャンバス島を巡る領土争い、その争いに勝たなければならない、そのためには戦争が必要なのか、いや、戦争回避なのか、ゲームなのでルールがあり、決められた時間内で広報アナウンスを行い、投票が行われ、勝たなければならない。そのためにはメンバーでの話し合い、意思疎通などはもちろん、相手チームに勝つための方法も考え、そのために有効な手段を使ってアピール。単純なゲームではない、大手広告代理店への就職がかかっている、もちろんいい結果を出せば、内定がもらえる。ある意味”崖っぷち”な面々、しかもチーム内にスパイもいる、そのスパイは誰なのか。宣伝、扇動、ゲームの国⺠として選ばれた一般人を相手にプロパガンダを行う。相手チームの発言を注意深く聞き、”分析”する。そして有効なアナウンスを考え出す。会話劇の面白さの他にスリルもあり、観客は舞台上の学生と共に考えたり、あるいは相手チームの出方を予測する、中間投票ではレジスタンスチームにとっては喜ばしい結果が出るも、そこからが”本番”、キリキリとする展開。ゲームであるはずなのに、ゲームという次元を超えて背筋が寒くなる瞬間があり、目が離せない。冒頭の部分で局長が「手段は選ばない」と学生たちに言うが、ロジックのみで戦うのではなく、”国民”がSNSを使ってすぐに情報発信をすることに着目し、あえて扇動する作戦も取ったりする。勝敗よりもメンバーのやりとりと表情、ボディランゲージをじっと観察するとそれぞれの個性や考え、思考回路も見えてくる。
「side: Resistance」
[ゲーム終了後]
12日は「side: Government」、「side: Resistance」と”リバーシブル”な関係。つまり、「side: Resistance」の時は「side: Government」の出演者は舞台の後方に、「side: Government」の時は「side: Resistance」の出演者は後方にいる。 共通のセリフは”広報タイム”、つまり、自分たちの考えが正当であるということを国民にアナウンスするセリフは全く同じ。そして、それぞれ、勝利するための話し合いのシーンは異なる、ということ。この2つを見ると8人のそのグループでの役割や性格、バックボーンも見えてくる、という仕組み。また、後方にいる俳優陣はSNSの”書き込み”も担う。よく映像で見せる演出もあるが、ここでは俳優陣が語る仕組み。ここも共通セリフ。
どちらのチームにも言えることだが、まず、メンバー同士協力し合わなければならないのは明白。その中での各々の役割、リーダーシップをとってまとめる役、分析し、有効な手段を講じる役、実務に長けて物事を処理する役など、自然発生的に役割分担をする。そこで性格やコンプレックスなどが少しずつ明らかになっていき、また、ゲームを通じて各々、成長を遂げたり、気付きを得たりする。 元々、たまたま最終選考に残っただけの、言ってみれば、偶然出会った8人。その中で絆も生まれる。同じ目的に向かって突き進む、チームワークが育まれ、赤の他人同士が、そうでなくなっていく。
「side: Government」
[ゲーム終了後]
実はゲーム終了後の展開がかなりシビアで衝撃も覚える。ここでは触れないが、シニカルで今日的。「side: Government」、「side: Resistance」、ゲーム後の広告代理店側のシーンは共通だが、学生達のその後のシーンは全く異なり、しかも時間軸も少し違う。両方観るとその繋がりはサプライズ、まさに21世紀らしい”連携”、ここは見所ポイントとなるであろう。そして代理店側の面々、局長は”いかにも”な人物だが、この最終選考の担当の2名は、ある意味、真逆な空気感を醸し出す。ここも注目。
ゲームの命題が「戦争が必要なのかどうか」。今、まさに戦争も起こっている最中であり、国家における広告代理店の役割というのも見逃せない。そして学生達のその後の行動、これは現代らしく「そうくるんだ」というエンディング。彼らのその後の人生も見たくなる終幕。
演劇的な面白さだけでなく、今の時代を考える、考えさせられる作品、片方だけでも十分楽しめる『読み切り』にはなっているが、時間が許す限り両方観たい作品だ。
<公式舞台写真>
「side: Resistance」
「side: Government」
あらすじ
大手広告代理店「電央堂」の就職試験を勝ちあがった大学生8名。彼らに課された最終選考の課題は、宣伝によって仮想国家の国⺠を戦争に導けるかどうかを競うゲームだった。
架空国家パレット国は、隣国のイーゼル国とキャンバス島を巡る領土争いで対立していた。戦争を行うかどうかの国⺠投票はゲーム開始から2時間後。それまでに「政府チーム」は戦争賛成に、「レジスタンスチーム」は戦争反対に国⺠を導かなければならない。
しかし単純なチーム戦ではなく、両チームには一人ずつ、相手チームのスパイが隠れているという。スパイを詮索しつつ、両チームはSNSによる”宣伝”と動画による”扇動”を利用し、ゲームの国⺠として選ばれた一般人を相手にプロパガンダを行っていく。
勝敗の行方やいかに、そしてこの最終選考の真の目的とは?
<キャスト全員集合>
概要
原作:根本聡一郎 『プロパガンダゲーム』(双葉文庫)
公演名:舞台『プロパガンダゲーム』
日程会場:2022年8月11日〜28日 サンモールスタジオ
脚本・演出 春陽漁介(劇団5454)
出演:
―side: Government― 松島勇之介/松田昇大/宮崎理奈/及川詩乃 ―side: Resistance― 白又敦/白柏寿大/出口亜梨沙/高嶋菜七
窪田道聡/榊木並/森島縁
チケット問合: 0120-240-540(受付時間 平日10:00〜18:00) https://www.confetti-web.com/support/qa_reg_1.php
製作 企画・制作:MMJ
公式WEB:https://mmj-pro.co.jp/propaganda-game/