1974年に発表された萩尾望都作品『トーマの心臓』の舞台化。
スタジオライフでは、ウエストエンドスタジオでの初演(1996年)以来繰り返し上演を重ね、今回6年ぶりに、2022年版『トーマの心臓』として再構成しての上演となる。コロナ対策で2幕ものだっのを1幕ものに。
冒頭はモノローグ、それは有名な書き出し「ぼくはほぼ半年の間、ずっと考え続けていた……」ここはレドヴィ役がつとめる。そして衝撃的な事件、トーマの死。見せ方も印象に残る演出。トーマの死は大きな波紋を呼ぶことは想像に難くない。それから物語の主たる舞台、シュロッターベッツ学院に移動する。
原作を読んだことがあるなら、この舞台、まさに原作が立体化したような見え方、ユリスモールやオスカー、エーリクらがすぐそこにいるような感覚になる。冬の終わり、ユリスモールの元に一通の手紙が届く。それはトーマからの遺書だった。ショックを受けるユリスモール、無理もない。その半月後に転校生がやってきた。名前はエーリク、なんとトーマに生写しのようにそっくりだが、性格は割と言いたい放題タイプ。
だが、その姿に学校中の生徒はもちろん、校長もハッと息を呑む。そのくらい、そっくりなのだ。ここはギムナジウム、閉ざされた世界、抑えた照明が雰囲気を表現する。彼らの日常、年齢的にはちょうど中学生ぐらい、子供には違いないのだが、大人への階段を踏み出した危うい”季節”。
無邪気に見えるやりとりの中に彼らの友情とその真逆の毒も垣間見える。時にはストレートに感情を見せたかと思えば、グッと気持ちを内に秘めて自分を抑えたりする。時折スクリーンに映し出される“日にち”、や“独白”そして教会音楽が作品世界に輪郭を与える。原作もそうだが、言葉の一つ一つに重みがある。物語が進行するに従って様々な出来事が起こり、そしてユーリスモール始め、登場人物たちの心の変化、エーリクは愛する母が亡くなる、それも手紙で知る、その深い悲しみ。
ユーリスモールの家庭、祖母はいわゆる”金髪碧眼”が優秀な人種である、という考え、ユーリスモールはギリシア系ドイツ人の父親譲りの黒い髪、しかも事業に失敗し多額の借金を残して亡くなっている。それもあり、祖母は彼に辛く当たる。様々な辛いことを経験、品行方正で成績優秀、ぱっと見は非の打ち所のない少年だが、ある事件のこともあり、心閉ざす。ユーリスモールやエーリクに付かず離れずな不良っぽい大人びた少年・オスカー、同学年であるが1つ年上、斜に構え、タバコをふかす。クールで強がりに見えるが実は繊細、内に秘めた熱いものを感じるキャラクター。彼もまた、秘密を抱えている。
彼らだけでなく、登場する人物のほとんど全てが闇、傷、悩みを抱えており、それでも懸命に彼らなりに生きている。様々な経験、出来事、ほんの些細な言葉で彼らは少しずつ変わっていく。己の気持ちに気がつかないこともある、それがある瞬間気がつくことがある。ラストシーンは清々しく、一筋の光が見える。トーマはこの世にはいない、だが、トーマはそれぞれの心の中に息づいている。また1幕ものにしたことで、アンサンブル陣は掛け持ちの役が増えて、いくつかのシーンが省略されているものの、物語がグッと凝縮された感もあり、コロナ対策が良い方向に。上演時間は、かつては2幕で約2時間45分近くだったが、このコロナバージョンはおよそ2時間20分となっている、途中休憩はなし。
キャストはLegendeチームで観劇、メインキャラクター、ユーリは、この役を数えきれないほど演じている山本芳樹、オスカーは笠原浩夫、エーリクは松本慎也、アンテに宇佐美輝、レドヴィは青木隆敏、バッカスに船戸慎士、サイフリートに曽世海司。山本芳樹はユーリは当たり役、繊細で心閉ざしたキャラクターを細やかに演じ、笠原浩夫のオスカーは年長者らしく、そして不良っぽい笑みをたたえ、松本慎也エーリクは前半は言いたい放題キャラ、だが、母の死、そしてユーリのことを知り、そっくりなトーマのことを知るにつれて内なるものが変わっていく過程を好演、松本もエーリク役は何度も演じており、松本エーリク目当てで観劇するファンも多いことだろう。宇佐美輝、青木隆敏、船戸慎士、曽世海司らベテランがガッチリ。スタジオライフは2チーム制で行うが、チームが変わると空気感も変わる。公演は25日まで。
なお、今年最後の公演は12月音楽劇アルセーヌ・ルパン「カリオストロ伯爵夫人」、ウエストエンドスタジオにて。
物語
冬の終わりの土曜日の朝、一人の少年が自殺した。 彼の名はトーマ・ヴェルナー。 そして月曜日、一通の手紙がユリスモールのもとへ配達される。 トーマからの遺書だった。 その半月後に現れた転入生エーリク。 彼はトーマに生き写しだった。 人の心を弄ぶはずだった茶番劇。 しかし、その裏側には思いがけない真実が秘されていた。
概要
劇団スタジオライフ
『トーマの心臓』
日程・劇場:2022年9月15日(水)~25日(日) シアターサンモール
原作:萩尾望都「トーマの心臓」(小学館文庫刊)
脚本・演出:倉田 淳
出演:笠原浩夫 山本芳樹 松本慎也 曽世海司 青木隆敏 関戸博一 緒方和也 宇佐見 輝 牛島祥太 前木健太郎 伊藤清之 船戸慎士 大村浩司 楢原秀佳 藤原啓児
美術・舞台監督 倉本 徹
音響 竹下 亮(OFFICE my on)
照明 山﨑佳代
衣裳プランナー 竹原典子
衣裳 スタジオライフ衣裳部
ヘアメイク 川村和枝(p.bird)
ヘアメイクスタッフ 望月香織
演出助手 中作詩穂
宣伝デザイン 佃 美月
宣伝撮影 保坂 萌
票券 揖斐圭子
制作 持田有美 齋藤奈緒子 宮野風紗音
協力 小学館 東 容子 小泉裕子 松田絵麻
企画・制作 スタジオライフ
Twitter劇団公式: @_studiolife_
Twitter Studio Life THE STAGE: @GE_studiolife Facebook: https://www.facebook.com/studiolife1985/
撮影:保坂萌