脚本・演出:モトイキシゲキ×主演:小出恵介 舞台「日本昔ばなし」 貧乏神と福の神〜つるの恩返し〜 トーク

誰もが知っている日本の昔話、そして誰もが耳にしたことのあるメロディー、「♪坊や 良い子だ ねんねしな♪」アニメの『日本昔ばなし』、市原悦子さんの語り、脳内にあのアニメーションが蘇るほど。その中から『鶴の恩返し』『貧乏神と福の神』『三年寝太郎』を舞台化するという。どの物語もメジャーだが、これをミックスして一つの作品として上演する。この作品の脚本・演出のモトイキシゲキさんと主演の小出恵介さんの対談が実現。舞台化への想いや作品にかける意気込み、見どころなどを語っていただいた。

――そもそも『日本昔ばなし』を舞台化しようと思ったきっかけは?

モトイキ:このアニメ自体は放映から50年近くなりますが、そのときはまだ僕は子どもでした。それから30年くらいたった頃、川内康範(※)さんとお会いすることがありまして。声の出演で出られていた市原悦子さんともお近づきになれたんです。何せ、すこぶる素敵なお話が『日本昔ばなし』には多い。いつか『日本昔ばなし』をやってみたいなと思ったのがそもそものきっかけですね。ところが悲しいかな、今はもともとある民話劇のお芝居が、時代の価値観とともにすっかり消えてしまっている。僕も作家をずっと志しながらいろいろなことをやりつつ、いつか機会があればやりたいなと思っていたところ、2019年に市原悦子さんが亡くなりましたし、いろいろな先人が同様に逝去されましたから、このままでは途絶えてしまう、残していくべきと強く願うように。アニメ自体は作品としてソフト化されていますから、そういうものも含めて向こうの製作スタッフの皆様方といろいろご相談させていただきまして。「なにかしたいよね」というお声もありましたけれど、僕は絵が描けません(笑)。なので、アニメではなくお芝居でやっていければと、原作をお借りした次第。実は、作品が1500くらいあり、しかも作家が1つひとつ違うんです。そういう意味でいうと、それぞれの想いが結集したものでもあるので、それならばそれぞれの作品をお借りして形にしていこうと…例えばシェイクスピアをやるような。これを日本になぞらえたようなものなんですが、意外とこういうことってやられていないんです。そういえば民話って書いたことがないから、舞台の方でいっぺん丁寧に書いてみたいなと思ったのもあります。もういっぺん見直してみると「おもしろいな」と思う作品が山ほどある。シリーズものとしてがんばっていきたい気持ちですね。

――それでは、主演のオファーをいただいての感想を。

小出:僕はかねがね「昭和俳優」という評判をいただいているので(笑)。『日本昔ばなし』で演じられるのは「ついに来たか」とうれしさでいっぱいですね。時代劇も何本かやらせていただいていますが、それとは違う方向性の話でもあります。僕は舞台では、それこそシェイクスピア、西洋の古典はやったことがありますが、日本の古典は『四谷怪談』のみ。なおさら興味が出ました。
『三年寝太郎』という作品だと聞いて調べたんですが、脚本を読ませていただいた段階では、いわゆる有名な『寝太郎』のビジョンとは少し違っていたんですね。脚本の中にかなり明確なキャラクター像があるので、迷いなくというんでしょうか、素直にできそうだなと感じています

――メインは『鶴の恩返し』『貧乏神と福の神』でありつつ、主人公は寝太郎。台本を拝読したのですが、うまくミックスされた作品、舞台では、セリフも今日的な印象を受けます。

モトイキ:現代の人にもわかりやすくするうえでのこと。『夕鶴』とか方言があったりして一般の方にはなかなかわからない人もいるでしょうし。また、現代的なエッセンスを入れること自体にやる意味がある。中身を伝えていくという大前提はありつつも、小出くんにとってのいいイメージ、持っている資質があるので、それらがちゃんと舞台に出せるようにしたいんですね。僕は当て込み、つまりその人、その役者に合ったものを作っているんですよ。江戸時代の歌舞伎でいうとシテが團十郎であれば、團十郎にあったものを作っていくのが通常で、すべてがそういうものだった。演劇はそれから脈々と続いているものですから、今回のこのスタイルは小出くんのイメージに合うんじゃないかなと思って作っています。
あとは、『鶴の恩返し』、ただ単に畑を耕している人の家に、仕事で使わないはずの機織り機がいきなりあるのは不自然。鶴さんと話をする、招き入れるときに「ものを作るとか、そういうことを一緒にやっていければいいんだね」とすれば、辻褄が合うし、主人公はいろんなことで稼いでいくということを考えていることを示唆したほうが早い。鶴さんにも「機を織る」ということをわざと言っているんです。『貧乏神と福の神』は、それとは違ったエッセンス…『貧乏神と福の神』だけを見るとものすごく単純。一緒に住むということはすなわち家族。貧乏であっても無病息災であればいい、貧乏神ってそういう側面を持っている神様。暗かったり、しんどかったりでも、それなりに頑張っていくという人に宿るんです。対して、福の神というのは何もないところからお金をもたらす神様ではなくて、お金ができた人に宿るもの。福の神が来るから儲かるのではなく、儲かった結果、福の神が宿るんです。お金がお金を呼ぶ、といったような。また、「疫病神」もちゃんと神様なんです。「八百万の神」ってそういうことなんですよね。そういうことが意外と忘れられているので、最終的にはそういうところも掘り下げたいですね。

――小出さんが演じられる今回の「寝太郎」、かなり「いい人」ですよね。

小出:そうなんです。「いいやつ」です(笑)。本当に、昔ばなしの要素を詰め込んだようなキャラクター。複雑な役は今までにも演じてきましたけど、今回はスパッと一直線というか、すんなり入ってくるというか。あまり余計なことを足したりせずにそのままできるという役柄にしていただいたと思います。寝太郎って役柄としては、機転をきかせて財をなすといったような狡猾なタイプではないかなあとも。

モトイキ:寝太郎は照れ屋ですけどいい人だと思います。「二枚目はたくさんいるでしょうけど、笑顔が素敵な人ってなかなかいないよ」って長谷川一夫さんもおっしゃっていましたしね。これが芝居で出せたら最高でもあると。笑顔が魅力的な小出くんにぴったりな役だと思います。

小出:ありがとうございます!

モトイキ:でもね、結構大きな口を開けてドヤッと笑うよね(笑)。二枚目は、どちらかというとそれはしないほうがいい。

小出:あらら、だめなんですね(笑)。二枚目ならどんな笑顔を……?

モトイキ:品を残すというかね、少し控えめなほうが二枚目にふさわしい。でも、僕が好きなシーンがあって、その雲の話をするところは、寝太郎の性格、小出くんの持ち味がよく出ていると思います。雲を常に見ていたらわかるんですが、天才が描く絵のようですよね。それが毎日毎日、二度と同じものは来ない。

――あとは「赤ちゃんのときからずっと笑っている」といった部分もありますね。

小出:ありましたよね。「なんでこの子はこんなに笑っているんだい」って。

――「笑う」、一本芯が通っていて貧乏神すらハッピーにさせてしまう。「笑顔」というのが物語の核になっていますね。

小出:「笑う門には福来たる」って言いますしね。

モトイキ:生まれたときに泣くか、笑うかというのは人間だけ。ほかの動物ではそれはなく、人間だけが「産声をあげる」、それが幸せの証でもある。そんなことを考えながら今までドラマを作ってきました。今はコロナ禍、こればかりはどうしようもない、かかる可能性については例外がない。だからこそ、つらいのはわかっているけれどそれを噛み締めて笑顔になることが、いかに生きていく上で大切かを知らないと。

――キャストさんについては、特に福の神がバラエティに富んでいる一方で、お母さん役に安寿ミラさん。宝塚時代ではカッコいい男役だったわけですが。

モトイキ:僕はどちらかというといわゆる「おばちゃん」のふうにしてね、と言っています。あとは、原日出子さん。鶴のイメージにぴったりな清廉潔白さが「いいな」と思いました。それから、仲本さんのことにも触れておきたくて。仲本さんはね、この舞台に出ることをすごく楽しみにしていらっしゃったんですよ。電話で久しぶりに御本人と喋ったんですけれども。「やりたい!」って。事務所にお話をしたところ、マネージャーさんから「舞台上で暴れまわるのはもうできないですし、年齢的に難しいかもしれませんよ」って言われていたんですけどね。本人はもう、やる気十分。あれもしてこれもして、と構想したりもしていました。ちなみに準備稿には、お得意の「ヒゲダンス」も入れていたんですよ。名付けて「貧乏ダンス」。それでもいいですか、と御本人に確認取ったらやっぱり「やりたい、やりたい」って話してくださって。そんなやり取りをしていたので、とても残念というほかありません。福の神に関しては、お誘いを芸人さん全員にしました。「笑い」がすなわち福になるので毎回同じ人がやると「ベタ」になってしまう。笑わせることで「勝つか、負けるか」にしたわけです。アニメのほうでは、相撲を取って、力があるなしで押し出す形になっているでしょう。あの表現は舞台では難しいと思いました。その昔『突然ガバチョ!』ってテレビ番組がありましてね。そこでは「にらめっこ」というものがあって、笑おうものなら筋肉マンに抱えられて追い出されるんですよ。もはや、その光景だけで面白かったんですけど(笑)。「意外と笑いをこらえるのって難しいんだ」と気づいたんですね。福の神は笑いをもたらす神様ですが、入る形として「何もわらわへん、俺の出番ないやないか」としたほうが…当然彼らはどういう手段を取ってくるのか、と楽しみがありますよね。でもね、たいへんなのは小出くんですよ。実際に芸人さんと絡まないといけないですから。

小出:そうですね。出演される芸人さんは稽古もちょこちょこいらっしゃるんですか?

モトイキ:いや、1回だけ。

小出:ということは、ほとんど本番だけ。これは「笑わない」という場面を作るのが難しいそう。お客さんは勝手に笑うと思いますけど。

モトイキ:貧乏神は出演される皆さんにとっていわゆる「味方」だから、笑うのを我慢してねっていう、そういうバラエティ的なノリって大丈夫なのかなと。

小出:いえいえ、全力でやらせていただきますよ。全然楽しみです。むしろ段取りを仕切る立場ですから、そんな人間が笑ったらいけません。

モトイキ:今の様子だと小出くんはたぶん「ゲラ」だと思います(笑)。

小出:おっしゃる通り(笑)。そう考えると、福の神は全員手強いですねえ。

モトイキ:ひょっこりはんは意外とまじめなのかな。子どもが生まれたって聞きましたし。いちばん手強いのはコロコロチキチキペッパーズでしょう。

小出:ですね。ナダルさんはビジュアルの時点ですでに笑えてしまう。

モトイキ:かなでちゃんもね。意外と面白いと思います。女性は必ず1人は入れたかったんですよ。七福神でいう弁天さんのポジションです。あとは、ほっしゃん。も面白そうだしね。今回は『日本昔ばなし』とはいえ教訓劇ではないので。お客さんには純粋に楽しんでもらいたいなと思います。

小出:何をされるのかわからないですし、やっている方も楽しそうだなと予想しています(笑)。以前、男5人の密室群像劇の映画『キサラギ』に出させていただいたんです。そこでもやっぱり、出演者の誰かしらが裏で笑わせにくるんですよ。そのときも僕がいちばん、弱かったんですよね。笑いの沸点が低すぎて……。

モトイキ:やっぱり小出くんが「ゲラ」なのは間違いなかったですね(笑)。笑うのを我慢するのって意外と大変なんです。とはいえ、現代劇でなく時代劇なんで、リアリティというよりもは純粋に楽しめるもの、ハッピーに終われるものにと思っています。

――小出さんは共演される方はほとんど初めてですね。

小出:はい。みなさんはじめてです。中村(ゆりか)さんはもしかしたら舞台は初めてでは。

モトイキ:朗読劇の経験はあるみたいですが、舞台は初ですね。

小出:安寿ミラさんは『マクベス』に出演していらっしゃったのを拝見したことはあります。

モトイキ:あと、丹羽貞仁さんは、大川橋蔵さんの息子さんですね。

小出:楽しみでしかないですね。本当にバラエティに富んだ方々ですから。稽古が楽しみです。

――それでは、最後にメッセージを。

小出:やはり『日本昔ばなし』の舞台化ははじめてということ。みなさんの記憶の片隅にある映像がどうなるか、ということを楽しみにして来ていただきたいですし、決してこねくり回したりとか、まったく変わった内容ではありません。「思ったままの」姿がそこにあると思いますので。安心して見に来ていただける内容になっていますし、何より「笑い」がちりばめられていますから。ぜひご家族と連れ立ってきていただければさらに楽しめるのではないかと思います。ぜひ、劇場へ足をお運びください。

モトイキ:どの世代の人にも通じる、笑いと人情ですね。そういうものを観る機会はなくなってきていますので。こういう、寒々とした世界の中で、少しでも心温まるつもりで来ていただけるとうれしいなと思います。「今日はちょっとしんどかったから、心を休めようか」というつもりで観に来ていただいたり。お子様がいらっしゃるお母様でも、家族でも。楽しんでいただけるようにしたいと思っていますので、その中身をぜひ。『日本昔ばなし』のエッセンスがつまった作品です。よろしくお願いいたします。

――ありがとうございました。公演を楽しみにしております。

※作詞家、脚本家、政治評論家、作家。1958年に原作と脚本を手がけた『月光仮面』は有名。また「骨まで愛して」「恍惚のブルース」「花と蝶」「伊勢佐木町ブルース」「おふくろさん」など数多くのヒット曲を送り出した。1975年から監修として携わったテレビアニメ『まんが日本昔ばなし』は1994年まで20年弱にわたる長寿番組となった。2008年没。

概要
日程・会場:2022年11月17日(木)〜11月27日(日) 東京芸術劇場 シアターウエスト
監修・原作協力:「まんが日本昔ばなし」 (愛企画センター)
脚本・演出:モトイキ シゲキ
出演(配役/役柄):
小出恵介(寝太郎/碧空村 百姓)
中村ゆりか(つる/庄屋の娘)
丹羽貞仁(俵屋長兵衛/碧空村の庄屋)
黒田こらん(お徳/庄屋の内儀)
大倉空人(新之介/町の豪商 白木屋)
中西良太(甚左衛門/碧空村の村長)
原 日出子(千羽鶴/鶴の妖精)
安寿ミラ(はる/寝太郎の母)
貧乏神. ※日替わり出演
星田英利 *11/17、21、23、24 出演
片岡鶴太郎 *11/18、19、20 出演
生島ヒロシ  *11/25、26、27 出演
お笑い福の神 ※日替わり出演
肥後克広<ダチョウ俱楽部> *11/17、20、26 出演
星田英利 *11/19出演
レギュラー *11/21出演
コロコロチキチキペッパーズ *11/25出演
ひょっこりはん *11/24出演
かなで<3時のヒロイン> *11/18出演
彦摩呂 *11/23、27 出演

主催: 舞台「日本昔ばなし」製作実行委員会(プロデュースNOTE/リズメディア)
制作: プロデュースNOTE/アオイスタジオ
運営: LIVE FORWARD
後援: ニッポン放送

公式サイト:https://mukashi-banashi.jp
取材:高浩美
構成協力:佐藤たかし