「自在化コレクション」 身体の可能性とその未来。

「自在化コレクション」、このタイトルを聞いてもピンとこないかもしれない。「自在化」とは「機械によって拡張された能力を、人が自らの身体のように自由自在に扱えること」、「自」と「在」、自らのままで存在すること、つまり、自由に自分の意志で、機械やコンピューターを駆使しつつ、もっと身近なところでは交通事故か何かで片方の足を失ってしまったとする。その失った足を義足で補う。パラリンピックでも目にするが、義足のアスリートが普通の健常者よりも早く走り、高く跳ぶ、言うなれば「自在化」。目の悪い人がメガネをかけることによって遠くの看板の小さい文字を読むことが可能になる、これも「自在化」。今回の「自在化コレクション」とは、その最先端のテクノロジーのいわば、見本市のような公演であった。

最初に登場したのは、再演を重ねているVR能「攻殻機動隊」。人気SFコミックでファンも多い作品だ。このコミックに登場する最先端技術がいつくかあるが、その中に「光学迷彩」がある。平たく言えば対象を見えなくする特殊な技術。それが消えるわけではなく、透明化、あるいは背景と同化することによって肉眼やカメラでは捉えることができなくなる。英語ではアクティブカモフラージュとも呼ばれる。2015年の舞台『攻殻機動隊 ARISE:GHOST is ALIVE』で初お目見え。このVR能「攻殻機動隊」でも、もちろん使用し、そこの下りを披露。ふっと素子が消える、世阿弥が刷新した能は、幽玄の美を目指しているが、ここのシーンはその世阿弥の能を21世紀らしい手法で提示。”自在に消える”、自在化を芸術面で駆使、テクノロジーの芸術面での可能性を感じる瞬間であった。
義足、義手、医療の世界では普通のことになっているが、そこから飛び越えて、もしも指が6本あったら、ただ、増えただけでは意味がない、使えなければただ邪魔なだけ。それを駆使するシーン。鍵盤を叩く、5本の指で弾くよりも多くの音を出せるはず。また、エアホッケーも披露、普通は対面で行うことを遠くの誰かと行う。これも「自在化」、一緒にプレイしてくれる人が近くにいなければできないようなこと、それができる。MC役を担っている南圭介が実際にやってみせたが、素で楽しそう。エアーホッケーだけでなく、それ以外のスポーツもやれそうな可能性。例えば、ある程度人数がいなければできないようなこともテクノロジーを駆使し、実現する未来もそう遠くない。また、バレエとテクノロジーの融合、ダンサー陣の中に義足の方もいらしたが、健常者のダンサーと比べても遜色ない。障がいは何かが欠落している、健常者と比べて不自由だ、そう思われるかもしれない。だが、この「自在化コレクション」では、不自由どころか自由に舞っている。映像とのコラボレーションでアートなダンスを魅せる、これも「自在化」つまり、今まで見たことのないパフォーマンスにするために先端技術を取り入れることによってかつて不可能だった表現も可能になってくる。
パフォーマンス終了後、この「自在化身体プロジェクト」に関わった面々が登場。「自在化」はテクノロジーの発達で今後、ますます「やってみたかったけどできなかったこと」が可能になる。表現がさらに多様化する、社会に貢献する、身体は何物にも縛られない、その自由の先にあるもの、未来。芸術分野のみならず、全ての分野で注目されるべき「自在化身体」。2022年、今、その入り口に我々は立っている。
 

インタビュー記事

先端技術によるステアラ3公演 11月に_ 映画監督・映像作家 奥秀太郎 インタビュー

概要
公演名:「自在化コレクション」SPECIAL EDITION!※終了
日程: 2022年11月4日(金)
内容:
“自在化身体”をテーマとしたプロジェクト
原作・脚本:冲方丁、演出:奥秀太郎、振付・舞踊監修:渡辺レイ(K-BALLET COMPANY 舞踊監督)により、「自在化身体」の最新技術と架空未来を融合した新作ダンス作品を上演! ダンサーには、日本を代表するバレエ団、熊川哲也 K-BALLET COMPANY 所属の期待の若手ダンサー、義肢のダンサーが起用。 VR~メタバース、実写~アニメーション、過去~未来までの映像技術を貫通する、劇場映画の未来形、「自在化コレクション」プロトタイプ版の上映。 日仏で研究が進む「自在化身体」の現在をメドレーで一挙紹介する「自在化コレクション」スペシャルランウェイ!!を予定

WEB:https://jizaicollection.com