明治座150周年記念インタビュー 専務取締役 三田光政 「時代に合わせて柔軟に変えていけるのが、明治座の強みなのではないかと思っています」

明治座が2023年4月に創業150周年を迎える。前身は江戸時代末期に両国にあった富田角蔵・福之助・金太郎の「三人兄弟の芝居」よる薦芝居(こも(マコモを荒く編んだむしろ)を巡らしただけの芝居小屋)で、1873年(明治6年)の両国橋畔の興行禁止令により、久松町に移転し、喜昇座として創業。そこから数えて150年、ということになる。焼失と再建を繰り返しながら成長し、名称も久松座、千歳座と変わったが、1893年(明治26年)に初代市川左團次が千歳座を買収、座元となり、明治座と改称、今日に至っている。戦前から戦後昭和の一時期までは歌舞伎や新派の殿堂として知られていたが、その後は俳優や演歌歌手が座長となった芝居と歌謡ショーの2本立てになった形態の公演が中心となり、2000年代に入ると現代劇やミュージカル形態の公演も行われるようになり、時代が変わるにつれて常に「Up To Date」されている。2023年のアニバーサリー・イヤーを記念して、明治座専務取締役の三田光政さんのインタビューが実現した。

――2023年の4月28日に、創業150年を迎えると聞きました。

三田:そうですね。その前の江戸時代にはルーツとなる劇場が両国あたりにあったらしいですけど、喜昇座という劇場から数えてからですので明治6年から150年になります。

――明治座という名前になったのは、明治26年、1893年ですね。明治座という名前になって切符売り場の設置、電話予約の受付、座席番号付きの切符販売を行って。これは当時としては画期的な試みだったのではないでしょうか。

三田:当時はおそらくお茶屋さんみたいなところが取り仕切っていたらしいのですが、それからの改革で直営を始めたという形でしょう。初代の市川左團次さんという歌舞伎役者がそのときは一時的に座頭でありながら座元、経営も行っていたので、そういう中での改革だったと思います。

――戦前は歌舞伎や新派の公演が中心だったそうですが、戦後になってから、というより日本が落ち着いてきたから、いわゆる歌謡ショー付の公演もやり始めたんですね。

三田:ええ。とはいえ戦後すぐのときはそれまでのような歌舞伎、新派や新国劇の公演が中心でした。そのあとは時代劇映画のスターがたくさん出演されていました。ちょうど映画に人気が集まったころで、そのスターが出る演目をやっていたみたいですね。その後、昭和の末期から平成あたりになるとこういう座長公演が増えました。

――時代が進むにつれて、1993年あたりからミュージカルもできるように。

三田:1993年に現在の建物が新築新開場しました。歌舞伎から現代劇、ミュージカルまで幅広いジャンルに対応できるように設備を整えましたが、つい最近までオーケストラピットを使ったようなものは上演がありませんでした。オーケストラピットをはじめて使用する作品がミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』です。


©惣領冬実/講談社

――最近はいわゆる2.5次元系と呼ばれるジャンルの作品ですとか、昨年は新作アニメと舞台のコラボである舞台「擾乱 THE PRINCESS OF SNOW AND BLOOD ~陽いづる雪月花編」。

三田:もともとはブシロードさんと、なにかやりましょうというときに、ちょうど制作されていた『擾乱』が候補にあがったんです。アニメとゲームだとか、アニメと映画だとかでコラボするというのはよくあると思うんですが、“アニメのキャストさんがそのまま舞台を作る”というケースは珍しかったのでは?と思います。ブシロードさんもIPをライブにしたり、リアルバンドにしたりという試みはしていましたが、舞台はなかなかなくて、『擾乱』はアニメと連動したスピンオフの作品という位置づけで、舞台版のオリジナルの敵役を作りながら上演したんですが、これがなかなか評判良かったですね。


©擾乱製作委員会

――舞台「擾乱 THE PRINCESS OF SNOW AND BLOOD ~陽いづる雪月花編」は今までの治座さんとは違ったキャストが出演していた印象です。三森すずこさんとか、蒼井翔太さんとか。

三田:三森さんも蒼井さんも、舞台の経験はあっても、やはり自分たちが中心となって、時代劇に近いものを演じるというのは初めてだったようで、かなり気合がはいっていたと思います。

――客層も違ったと思いますが。

三田:そうですね、いわゆるアニメファンのお客様ですね。もともとのお客様をお迎えしつつも、新しい作品、時代に合わせたものを模索していまして。2.5次元系の舞台に出演して人気のある俳優さんのファン層を取り込んだ作品というのが「舞台サザエさん」や「舞台ゲゲゲの鬼太郎」でしょう。もともとの明治座のパッケージというのをプラスに捉えてもらえるようなお客様、すなわち、芝居とショーの2部構成のショーのコンテンツが理解されればいいなと思ってやってみました。


©長谷川町子美術館


©舞台「ゲゲゲの鬼太郎」製作委員会©舞台「ゲゲゲの鬼太郎」製作委員会

――たしかにここ最近は、非常にバラエティに富んだキャスティングが目立ちますね。いろいろなニーズに応えているようにお見受けいたします。実は、いわゆる特別公演のような2部構成って、2.5次元系舞台のスタイルに似通っているという面もありますよね。お芝居ではあんなに敵対していた登場人物たちが、ショーやレビューになると仲良く一緒に歌っていたり。一つのパターンというか、エンターテインメントとして作り上げられた結果なのだと思います。

三田:完成されたフォーマットなのかもしれませんね。演目だけではなくて、ショーなども楽しみたいという層に応えたような…お芝居だけ観て帰る、という作品とは一線を画した、もう少しエンターテインメント性が高い作品なのではないかと。親和性が高かったということなのかもしれません。

――座長芝居の伝統がある意味受け継がれているといってもいい印象です。あとは、明治座の年末恒例となったる・ひまわりさんとの「祭シリーズ」(※)がありますが。

三田:これはもう、かなり長いことやっていますね。

――今回は「家康」ですね。こちらもバラエティに富んだキャスティングですし、ほぼほぼみなさんお芝居の経験が十分ある方々ばかりです。

三田:芸達者なメンバーが多く、しっかり仕事ができる人が出演してくださっています。これはもう明治座フォーマットの公演をある種パロディ化してやらせていただいています。やはり年末の「祭シリーズ」を楽しみにしていらっしゃるお客様もいますから。それは本当にありがたいですね。

――る・ひまわりさんはもともとは演劇制作をやっていた方が立ち上げた会社ですので、そのあたりも相性がよかったんでしょう。また、演出の板垣恭一さんはお芝居からショーまで何でも手掛けられている方ですし。年末の定番としてふさわしい感じがします。

三田:劇場の形としては王道でしょうね。る・ひまわりさんにしても、明治座というものをよく理解されているので。やはり「明治座」というイメージを大事にしてくださっているがゆえに、ふさわしい作品を選んでくださっているのだと思います。

――コラボメニューもありますね。

三田:ですね。せっかくなら、きっちりとその作品の世界を楽しめるものにしよう、というのを念頭において作るようにしています。

――休憩時間が長めであったり、お芝居以外の、お食事なども余裕を持って楽しめるのが明治座さんならではだと思います。

三田:お食事は、食にこだわりがある方が座長の場合、メニューをご自身で考えられることもありますよ。演目にちなんだお弁当も含めて楽しんでいただこうという意図があります。創業当時明治座は歌舞伎をやっていましたから、そこで幕の内弁当を出していたわけですし。例えば、ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』はイタリアのお話ですから、イタリアを感じられるメニューをご用意しています。やはり「食事」ということもひとつのエンターテインメントですからね。

――「食事」は大事な要素、楽しみの一つですよね。1月から始まるミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』はイタリアが舞台、しかも時代的にも興味深い内容ですね。

三田:明治座としては結構新しいチャレンジも試みているんです。このミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』もそうですね。もともとは、海外に持っていける日本のミュージカルを作ろう、ということが発端なんですが。ヨーロッパを舞台にした作品は日本人も好きな人が多いけれど、イタリアを舞台にしたものってそういえば少ないなと。ちょうど惣領冬実先生が描かれた『チェーザレ 破壊の創造者』を読んで、これにしようと思ったんですよ。

――ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』はキャスティングも独特ですね。

三田:ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』は主要キャストが全員男性なんです。中川晃教さん、別所哲也さん、岡幸二郎さんに加えて、2.5次元系舞台で活躍されている方々やさらには今回はEXILEの橘ケンチさんにもご参加いただいています。様々なジャンルで活躍されている俳優さんたちを布陣するという考え方が功を奏したのか、ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』は手応えを感じているところですね。
それから今回、音楽も島健さんが53曲も作ってくれているんですよ。島さんは大ベテランの先生ですが、「ここまでの曲数を使ったフルミュージカルは初めてだ」とおっしゃっていました。
出演者の皆様の熱量は並々ならぬものがありますね。稽古場での台本読みの時点で歌まですでに完成されていました。全部バッチリ調整してできている。それゆえ気合は半端ではなかったですね。「絶対にやり遂げて見せる」という執念が。これはすごい作品になるだろうなと確信しています。

――上演が楽しみです。それでは、これから先、明治座10年20年の展開についてはどうお考えでしょうか?

三田:150年を機にかつての歴史を振り返ると、舞台というものがエンターテインメントの全てだった時代から、映画とかテレビとか、新しいジャンルのものが次々出てきて。そのせいで舞台は終わると言われ続けてきたわけですけど、いずれも共存する形で持ち直しました。最近ではインターネット、SNS、配信などですよね。この時代であっても実際に人と会い、熱意を受け取るということに関しては揺るがないというか(笑)。これからも変わらないんだろうなと感じています。ただ公演の形態とか、劇場がどうあるのかとかはまた別の話ではあるんですけど。ただ中身は変われども、お客様と一体になるということでは今後も、もう150年したとて変わらないと思っています。人が集まってなにかをする、ということは大きな力を持ちますし、1人じゃないところで観るというのも全然体感が違うので。
我々としても、固定概念にとらわれずにその時どきのお客様が観たいもの、ニーズにどう味付けして作っていけるか。実は、明治座って以前は単独で作ることが大半だったんです。でも最近は共同主催が多いですね。我々は劇場として、費用もある程度まかなえますが、テレビ局さんや制作会社さんなどといろいろ手を携えながら多種多様な形で生き残りをかけているところです。
明治座の今までやっていた1日2公演で2回休憩をとって、というのはお金の面でも利益率が高いビジネスだったりするんですけど、そこにずっと固執するわけにもいかない。2回休憩で4時間というのに今のお客様がついて来られるかというとそうでもない。短い公演で回数増やしちゃうとかね。そういうのも計画したりはしていますよ。なので「私たちはこれを作って守り抜く!」というプライドというよりは、時代に合わせて柔軟に変えていけるのが、明治座の強みなのではないかと思っています。

――ありがとうございました。明治座さんの今後の10年、20年先の展開に期待しております。

※ 祭シリーズは、2011年に誕生し、続いてきた人気歴史時代劇シリーズ。2021年で11年目を迎える本シリーズの累計集客動員数は延べ10万人を超える。2011年12月より明治座にて1回目の公演を行い、2013年より年末年始、明治座にて連続上演。

[過去記事]
舞台「擾乱 THE PRINCESS OF SNOW AND BLOOD ~陽いづる雪月花編~」

舞台「擾乱 THE PRINCESS OF SNOW AND BLOOD ~陽いづる雪月花編~」謎の集団、誘拐事件、そしてバトル!

「舞台サザエさん」
2022年

藤原紀香主演!明治座 舞台『サザエさん』あの10年後からちょい先の磯野家の物語、相変わらずの楽しい、ほのぼの一家!!

2019年

明治座9月 舞台『サザエさん』「みんな、家族だから支え合って生きていこうよ」「私っておっちょこちょいであわてんぼう」(サザエさん)

祭シリーズ
2022年

平野良主演 浅野ゆう子,原田龍二,山崎静代(南海キャンディーズ),藤田玲,菊池修司,大平峻也らが初参戦!『笑う門には福来・る祭 明治座でどうな・る家康』開幕


2021年

内藤大希,平野良etc.出演!シン る・ひま オリジナ・る ミュージカ・る「明治座で逆風に帆を張・ る!!」頼朝と義時、正反対の二人が手をとりあう


2019年

「明治座の変 麒麟にの・る」(通称:る変(るへん)) 「本能寺の変」の真実(?)が今、ここに!信長は?光秀は?

[2023年公演予定]

明治座創業150周年記念
ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』
日程:2023年1月7日〜2月5日
原作:惣領冬実『チェーザレ 破壊の創造者』(講談社「モーニング」所載)
原作監修:原基晶
脚本・作詞:荻田浩一
演出:小山ゆうな
作曲・音楽監督:島 健

出演:中川晃教
橘ケンチ(EXILE)
[スクアドラ ヴェルデ] 山崎大輝 風間由次郎 近藤頌利 木戸邑弥 (W キャスト)
[スクアドラ ロッサ] 赤澤遼太郎 鍵本 輝 本田礼生 健人 (W キャスト)
藤岡正明 /今 拓哉 丘山晴己 横山だいすけ/ 岡 幸二郎
別所哲也
山沖勇輝[スクアドラヴェルデ]稲垣成弥[スクアドラロッサ] 武岡淳一
『巌流島』

日程:2023年2月10日〜2月22日
脚本:マキノノゾミ
演出:堤 幸彦
出演:横浜流星 中村隼人
猪野広樹 荒井敦史 田村 心 岐洲 匠 押田 岳 宇野結也 俊藤光利 横山一敏    山口馬木也  凰稀かなめ
企画・製作:日本テレビ

福田こうへいコンサート2023
日程:2023年2月24日〜26日
出演:福田こうへい
明治座創業150年記念前月祭『大逆転!大江戸桜誉賑』(だいぎゃくてん おおえどかーにばる)


日程:2023年3月4日〜3月28日
脚本・演出:細川 徹
出演:松平 健 コロッケ 久本雅美 檀 れい
荒木宏文 / 田島芽瑠 / 丹羽貞仁 真砂京之介 / 上川周作 山崎銀之丞 梅垣義明 他

明治座創業百五十周年記念『壽祝桜四月大歌舞伎』

日程:2023年4月8日~4月25日
出演:中村梅玉 中村又五郎 中村芝翫 片岡孝太郎 松本幸四郎 片岡愛之助 他
製作 松竹

明治座創業百五十周年記念「市川猿之助奮闘歌舞伎公演」

日程2023年5月3日~5月28日(予定)
出演:市川猿之助 他
製作 松竹

明治座創業150年記念
梅沢富美男劇団 梅沢富美男・研ナオコ特別公演 三山ひろし特別出演
日程:2023年6月23日〜7月23日
出演:梅沢富美男 研ナオコ 三山ひろし

明治座創業150周年記念
明治座9月純烈公演

日程:2023年9月
出演:純烈(酒井一圭 後上翔太 白川裕二郎 岩永洋昭)

明治座創業150年記念
第2回 ももクロ一座特別公演

日程:2023年11月25日~12月3日
主演:玉井詩織
出演:百田夏菜子 高城れに 佐々木彩夏

明治座公式サイト:https://www.meijiza.co.jp/

取材:高浩美
構成協力:佐藤たかし