音楽劇「李香蘭-花と華-」が開幕した。
日中国交正常化50周年・日中平和友好条約45周年を記念して上演する本作は、李香蘭役を初舞台の西内まりや、山口淑子役を安寿ミラが演じ、脚本・作詞を岡本貴也、演出・振付を良知真次が務める。
男装の麗人 川島芳子役は、宝塚歌劇団退団後初舞台となる飛龍つかさと、アーティスト・女優として活躍する玉置成実のWキャスト。
李香蘭のロシア人の親友・リュバチカ役は玉置成実と、アーティストとして活躍する黒崎真音のWキャスト。
他にもMANKAI STAGE『A3!』などの2.5次元ミュージカルで活躍する中村太郎、戦隊の主題歌を多数歌っている伊勢大貴、劇団四季出身の柳瀬大輔、「だんご三兄弟」で知られる8代目うたのおにいさんの速水けんたろう、TVアニメ「ポケットモンスター」の主題歌でも広く知られている松本梨香なども出演する。振付協力に名倉加代子、総合監修に横内謙介がクレジットされ、豪華キャスト・スタッフ陣で日本人と中国人が合作で作り上げる。
ゲネプロ前に演出の良知真次から挨拶「日中課題がある中で上演にこぎつけました。戦争がテーマですが、華やかなところは拍手してください」それから二胡の演奏、「夜来香」、甘い香りを持つ花、李香蘭が歌った有名な歌。新中国(中華人民共和国)建国の後は、中国政府により、聴くことも歌うことも禁止されたが、何十年もの長い時間を経て解禁され、『何日君再来』などとともに、全世界の中国人に好んで歌われるチャイナ・メロディーの代表曲。
開演前のアナウンスは日本語と中国語。日中国交正常化50周年・日中平和友好条約45周年を記念して制作された舞台。よってアナウンスも2ヶ国語。
映像、字幕で当時の日本と中国の説明をスピーディーに。そしてキャストの紹介、タイトルロール。
山口淑子(安寿ミラ)が登場、日中国交正常化20周年、サインをする山口淑子。場面が変わり、華やかなショーのシーン、20世紀のスターが歌い踊る。場面変わり、李香蘭登場し「夜来香」を歌う。山口淑子は言う「満洲国、国と呼べるのか…」と。映画、音楽、演劇全てが戦争に利用された時代。全て「お国のため」。
李香蘭こと山口淑子が生まれる、ここは奉天。優しい両親のもとで素直に、そして歌の大好きな少女に育った。そして中国の習わし、仲の良い家族同士、養子縁組をする。お相手は李将軍(加藤靖久)。ここで名前をもらう「李香蘭」。「いい響き」と大喜び、両親は歌う「健やかに、架け橋となって、そんな人になって」と。これがまさか後に彼女の運命を左右するとは思いもよらず。
伸びやかに育った淑子、歌手になりたいと思うように。ロシア人の友人・リュバチカ(玉置成実・黒崎真音Wキャスト)、そんな淑子の歌が大好き。ひょんなことでラジオで歌うことに、李香蘭の名前で。「これが全ての始まりでした」と山口淑子。
この頃、きな臭い出来事が、張作霖が爆死した。日本の関東軍が奉天軍閥の指導者張作霖を暗殺した事件で関東軍はこの事件を国民革命軍の仕業に見せかけ、それを口実に南満洲に進行し占領しようとしていた。この事実は戦後まで隠蔽されたという。学生たちは国を憂いていた。彼らに囲まれた李香蘭、「どうする?」と言われ「北京の壁に立ちます」という。彼女にとっては日本も大事だが、中国も大事、二つの国に挟まれて苦悩する。そしてあれよあれよと言う間にスカウトされ、満映へ。「お国のため」と言われて満映の映画に出演することとなる。山家亨(柳瀬大輔)、日本陸軍の軍人、大佐。奉天の満鉄社員の中国語教師をしていた淑子の父・山口文雄(速水けんたろう)の家に出入りするようになり、李香蘭を満映女優にスカウトした張本人。また、ここで川喜多長政(伊勢大貴)彼自身は中国との友好の掛け橋となりたいと思っていたそう。ここでも平和を好み、映画を愛した人物として描かれている。有名な日劇のリサイタル、1941年2月11日、東京・有楽町の日本劇場(日劇)で行われた「歌ふ(う)李香蘭」と題された歌謡ショー。10万人ともいわれる群衆が劇場を取り巻いたと言われている。ここで児玉英水(中村太郎)に出会う。東宝に入社、日劇の企画に配属、敏腕プロデューサーとして知られているが、公演期間中、彼女をエスコートしたのは実話。多くの実際のエピソードを交えながら物語は進んでいく。
観客は知っている、その後どうなるのか、波瀾万丈の人生を歌、ダンス、芝居で紡いでいく。李香蘭こと山口淑子は苦悩する。戦争、しかも日本と中国は争っている、2幕の幕開きはショーのシーンから。時は昭和20年8月13日、その2日後はどうなるのか、無論、観客は知っている。「新型爆弾」の噂、甘粕正彦(良知真次)に契約解除を申し入れる。また、マニラからきた児玉の手紙を受け取り、彼が行ったとされるフィリピンの日本軍は全滅したと聞いて涙する。その涙も乾かぬうちに「漢奸」で逮捕される李香蘭。「裏切り者が!」との怒号。その後は、結末は周知の通り。
ヒロインである李香蘭を主軸にしているが、脇を固める「実在の人物」たちのサイドストーリーもしっかり描かれていて、この時代に生まれてしまったが故に辿る運命は胸が痛い。甘粕正彦は1939年(昭和14年)、満洲映画協会(満映)の理事長となり、満映の経営立て直しをしたり、日本人と満人の待遇を同等にするなど社員を大切にした。ソビエトが新京に迫ってきたころ、「皆さんのお世話になったことを深く厚く御礼申し上げます」と挨拶、そのあとに身の回り品を形見として一人一人に配り、社内の預金を退職金として全額引き出したそう。
このようなエピソードもきっちりと描かれており、制作側の心意気や真摯な姿勢には感服。また、忘れてはならない人物・川島芳子。同じ「よしこ」という名前だが、彼女は中国人でしかも清朝の皇族・第10代粛親王善耆の第十四王女。本名は愛新覺羅顯玗(あいしんかくら けんし)。川島浪速の養女となり、川島芳子という名前をもらった。また、李香蘭のことを妹のように可愛がったと言われており、ここも舞台できちんと描かれている。
日本と中国の暗い歴史、だが、そこに生きた人々は両国が手を取り合うことを望んでいた。一瞬の煌めき、そして儚く散っていった人々。北京飯店での記者会見で語った彼女の言葉もそのままセリフとして生かされ、心動かされる。時代の荒波にもまれながらも生き抜いたこの時代の人々、その結末は様々だが、「生きる」ことに、そして己の道を信じた人たちの良質の群像劇のような形、感動必至の音楽劇であった。キャスト陣も初舞台の西内まりやは『お初』とは思えないような堂々たる歌姫ぶり、安定の安寿ミラ、そして歌のうまいキャストが勢揃いのクオリティの高い舞台。公演は22日まで。
物語
李香蘭。本名を山口淑子。
1920年、中華民国奉天省で日本人の父・山口文雄と母・山口アイの間に生まれる。
彼女は中国で生まれ育った日本人だった。
13歳の時、両親の友人であった李将軍の義理の娘として縁を結び、「李香蘭」という中国名を得る。
その後、歌う中国人女優・李香蘭として思いがけずデビューすることになり、日中戦争時には満映(満州映画協会)の専属女優として「白蘭の歌」「支那の夜」「熱砂の誓ひ」など数多くの日本映画に出演。
彼女が歌う「夜来香」「蘇州夜曲」などの歌はアジアで大ヒット。
世界大戦が開戦する直前の1941年には、日本劇場(日劇)で「歌ふ李香蘭」に出演。
大勢の日本人ファンが大挙して押し寄せ、日劇の周囲を7周り半もの観客が取り巻き、大騒動となる人気ぶり。
李香蘭は、戦争中の中国と日本を熱狂させたスターだった。
しかし戦争の激化とともに、対立を深める中国と日本。
祖国と母国。愛する二つの国に挟まれ、その人気を戦争に利用され、自分が日本人であることを隠し続けることに苦悩する李香蘭。
平和を願い続けた、歌姫の物語。
概要
日中国交正常化50周年・日中平和友好条約45周年記念公演
日中合作 音楽劇「李香蘭-花と華-」
期間会場:2023年1月13日(金)〜22日(日) 紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
スタッフ:
脚本・作詞:岡本貴也
演出・振付:良知真次
作曲:鎌田雅人
振付協力:名倉加代子
総合監修:横内謙介
キャスト:
李香蘭:西内まりや
川島芳子:飛龍つかさ、玉置成実(Wキャスト)
リュバチカ:玉置成実、黒崎真音(Wキャスト)
児玉英水:中村太郎
川喜多長政:伊勢大貴
山家亨:柳瀬大輔
甘粕正彦:良知真次
山口アイ:松本梨香
山口文雄:速水けんたろう
李将軍:加藤靖久
潘月華:明音亜弥
長谷川一夫:斉藤秀翼
山口淑子:安寿ミラ(特別出演) ほか
協力:ムーランプロモーション
後援:中国文化芸術センター、NPO法人日中映画祭実行委員会、一般社団法人日中協会、公益財団法人日中友好会館、日本中国文化交流協会、公益社団法人日本中国友好協会、北京語言大学東京校 (50音順)
特別協力:山崎誠子、寒川一郎
主催:World Code/ハピネット・メディアマーケティング
公式HP:https://worldcode.co.jp/rikoran2023
©音楽劇「李香蘭-花と華-」製作委員会