池袋のサンシャイン劇場にて、ミュージカル「ジョン マイ ラブ 2023 -ジョン万次郎と鉄の7年-」が始まった。
この作品は、2021年9月2日から、人口 約3万4,000人の愛媛県東温市にあるミュージカル常設劇場「坊っちゃん劇場」で、1年以上ロングランで公演しているミュージカル。
歌やダンスで華やかに物語を紡ぐ、老若男女問わず楽しめる作品。カーテンコールでは、客席と一体になる楽しい演出も用意。
「坊っちゃん劇場」は、四国や瀬戸内圏の歴史・伝統文化や偉人を題材にしたミュージカル作品を愛媛から全国に発信する文化特使を目指している劇場。
国を閉ざし、心まで閉じていた鎖国の時代に、漂流の末、アメリカに渡りアメリカの文化、学問、航海術や造船技術を学び、命をかけて日本に戻ってきた偉人 ジョン万次郎。
よく知られている冒険家としてのジョン万次郎の姿ではなく、妻「鉄」と過ごした7年間で、激動の幕末に新しい文化を切り拓いていった姿を描いた作品。妻・鉄は剣術師範・団野源之進の次女。
ジョン万次郎の妻「鉄」は、AKB48 Team8 川原美咲、下尾みう、高岡薫が、トリプルキャストで挑戦する。
作・作詞・演出は、扉座主宰でスーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』等を手掛けた横内謙介。作曲・音楽監督は、『手紙』、『DAY ZERO』など、数多くのミュージカル作品の作曲で活躍する深沢桂子。振付・ステージングは、アニメ『妖怪ウォッチ』の振付など独創的な発想で 多くの作品を手がけるラッキィ池田と彩木エリ。
前説は団野源之進役の梶雅人、楽しく行うのでちょっと早めに席についておきたい。途中でおクニさん役の五十嵐可絵も登場し、客席を温める。それから始まる。冒頭は道場での稽古の場面から、威勢の良い声で稽古をしている。そこへ…「絶対にいやです!」と大きな声が。この物語のヒロイン・鉄がハチマキ姿で登場、道場の門下生を相手に木刀を振り回す。「嫁入り、絶対いや!」と叫ぶ。
どうやら縁談が持ち上がったらしい。もちろんこの時代、恋愛結婚などあり得ない、どこからか縁談が持ち上がり、それも家の関係で好き嫌い関係なく結婚するのが普通。道場を継ぎたい鉄、だが、女性なので継げるはずもなく。そこへある男がやってくる。その彼こそが結婚相手であり、ジョン万次郎、そう、アメリカへ渡って見聞を広げ、帰国してからは日本のために働いた、あのジョン万次郎である。英語が得意、ミュージカルナンバーで英語を披露(笑)。ここの楽曲は楽しいので!実はABCの歌はジョン万次郎が持ち帰ったとされていて、ここは”小ネタ”。鉄の友人・菊野は鉄とは正反対、お茶やお花を嗜み、江戸時代の模範的な良妻賢母になりそうな、いわゆる”大和撫子”な女性。鉄の結婚相手であるジョン万次郎は、封建時代の日本の思想とは真逆な考え方の持ち主で家より個人が大切、と言い、気持ちが大切という。ジョン万次郎は元気な鉄をひと目で気に入った様子。ジョン万次郎は鉄にデモクラシーを説き、鉄は「自由に生きる世界にすべきです」と言う。そんな2人、惹かれ合うのにそう時間はかからなかった。鉄はジョン万次郎の考え方や思想に共鳴、だが、彼の進んだ考え方は当時の江戸時代ではなかなか受け入れ難いものだった。当然、摩擦も起きるが、彼の思想に共鳴した若者が門下生となり、そんな姿が描かれる。2幕では子供が生まれてから鉄が病を得るまでが描かれる。ジョン万次郎宅ではパンを焼いている。また、鉄の友人が離縁させられて戻ってくる。理由は「後継ぎができないから」だが、菊野は「自由だ!」と喜ぶ。ここ2幕ではショータイムもあり、賑やか。華やかな衣装でエネルギッシュなダンスシーン、男性陣は後方で見てる、と言う構図がクスリと笑える。また、福沢諭吉が現れて英語を教えて欲しいと言う。彼がいうには咸臨丸に乗りたくて英語ができることにしたとか(笑)。
前回公演より
ここの下りは笑えるが、それだけ熱意があったという証。そんなこんなのエピソードがしっかりしていて、ジョン万次郎以外の登場人物たちの人生が気になるくらい。また、ミュージカルナンバーの中に「おお、スザンナ」が時々挿入されている。これもジョン万次郎小ネタで、咸臨丸での航海でアコーディオンを持ち帰るなど、歌が大好きだったらしく、小笠原開拓の際にはそのアコーディオンを弾き、「おおスザンナ」などのフォークソングも歌っていたと言われている。そんなことを知っておくとこのミュージカル、俄然楽しなってくる。ラスト、鉄は病を得て亡くなるが、この描き方が全く湿っぽくない。実は万次郎と鉄の結婚披露宴は3回もお色直しをしたらしい。そのエピソードを使い、タキシード姿と純白のウエディングドレス姿、皆で祝福、カメラを前にポーズ。短いが幸福で波瀾万丈の時間、そしてアドベンチャー。長きに渡った公演、いよいよフィナーレということだが、機会があればまた、やって欲しいと思える公演であった。また、最後にはペンライトを振って良い(むしろ推奨)場面もあるので!
ゲネプロ終了後に簡単な会見があった。登壇したのは、横内謙介と深澤桂子、鉄役の川原美咲、下尾みう、高岡薫。今回はトリプルキャスト。
横内謙介は「ほぼ毎日、1年半の公演…松山から離れた場所で毎日」と言うが、まさに超ロングラン、しかも大都市ではないところでの公演、ただ、客層はまさに老若男女、さまざまな世代から愛された作品であることがわかる。ちなみに初演は2021年9月、コロナ禍での公演で、さらに東京公演はあまりないこと、まさに貴重な公演だ。深沢桂子も「大きな未来、小さな未来、笑顔で過ごせるようになったらいいなと…観る人の心に残っていただけたら」とコメント。トリプルキャストの3人、「嬉しい」と喜びを口にする。オーデションで選ばれたキャスト、本作がミュージカルデビューというメンバーも。文字通り、体当たり、全力、もちろんゲネプロでも熱演。また「愛ある作品」という言葉も。激動の時代に生きた愛で結ばれた夫婦の物語、シンプルに感動できる作品だ。またジョン万次郎役の加藤良輔も「記念すべき東京公演」とコメント。
また、この作品について横内謙介は「主役は万次郎であるはずなんだけど、でも(万次郎を中心とした)作品はいっぱいある」と言う。そこで最初の結婚相手(実は3回結婚している)であった鉄の目を通しての万次郎、そして成長していく鉄を描いているので、そういう点では新しい”ジョン万”。よってジョン万次郎の漂流経験やアメリカでの物語は一切語られない。その代わり、この時代の日本が世界に向けて開かれていったように鉄の心や思想もまた開かれていき、成長していく。公演は29日まで。
なお、コロナ禍で、鑑賞機会を失った子供たちに、芸術鑑賞を提供する目的で、東京公演は文化庁の「子供文化芸術活動支援事業」として、客席の2階席は、18歳以下の子供たちを無料招待。
<26日舞台写真>
概要
ジョン万次郎漂流180周年ミュージカル
「ジョン マイ ラブ 2023 -ジョン万次郎と鉄の7年-」
日程・会場:2023年1月26日〜29日 サンシャイン劇場
作・作詞・演出、横内謙介
作曲・音楽監督 深沢桂子
振付・ステージング ラッキィ池田・彩木エリ
主演・AKB48
公式サイト:https://botchan.co.jp/production.html
TOP画像舞台写真:前回公演より