デヴィッド・ラング&笈田ヨシがタッグ_ 新作オペラ『note to a friend』上演。芥川龍之介の『或旧友へ送る手記』『点鬼簿』をベースに。 

アメリカで注目を浴びる作曲家 デヴィッド・ラングと、演出家 笈田ヨシが初タッグを組み、
芥川龍之介の『或旧友へ送る手記』『点鬼簿』がベースとなった新作オペラが日本初演。

デヴィッド・ラングは『note to a friend』を⼿掛けるにあたり、芥川⿓之介の『或旧友へ送る⼿記』『点⻤簿』をベースにしており、「芥川⿓之介の作品は、映画『羅⽣⾨』を通して知り、10代の頃に読んでいた」というデヴィッドは、「⽇本との懸け橋という意味でも、これはぴったりかもしれないと思った」と⾔う。
新作オペラ、とは言っても一般的なオペラのイメージのようにドラマチックに歌い上げる、という形式ではない。

舞台上のセット、テーブル、椅子、テーブルの上には燭台、果物の入ったボウル、雑然としてデスク(絵筆がある)、帽子、ジャケット、舞台中央には紗幕のようなもの。この紗幕がほのかに明るい。男が1人、絵を持ってくるが、幕がかけられており、どんなものかは見えない。ボトルのウイスキーを注ごうとすると、テーブルからものが落ちて大きな音を立てる。箱を開けると中に手紙、ペンダント、ネックレス、それを燭台にかける、男(アクター)は無言。弦の音色、シンプルながら、奥深いメロディー。燭台に蝋燭、火を灯す。男は祈っているのか、何かを考えているのか、紗幕の向こうに家、人のシルエットが浮かび上がる。自殺について語るように歌う。そしてもう1人の男(ヴォーカル)が登場する。舞台上は、この2名だけ。

芥川龍之介の『或旧友へ送る手記』、『点鬼簿』が元になっており、それぞれの作品の言葉がクロスしている。テーマはずばり”死”である。だが、弦が奏でるその音やメロディーは決して暗いものではない。むしろ、幻想的で、聴く人の心を穏やかにしてくれるのである。「自殺しない者は絶対の自殺する者のことを理解できないと思っているのだろう」と歌い、ヴォーカルは時にアクターに抱きついたりする。『或旧友へ送る手記』の冒頭は「誰もまだ自殺者自身の心理をありのままに書いたものはない」と始まる。そして『点鬼簿』、点鬼簿とは、死者の姓名を書いた帳面、過去帳のこと。ここでは芥川龍之介の父、母、姉のことが語られている。複雑な生い立ちの芥川龍之介、「ぼんやりとした不安」彼が自殺した際に遺した有名なフレーズ。「死ぬことばかりを考えていた」と言う。

発せられる言葉一つ、一つがどこか憂いを帯び、そして深く響いてくる。音楽と歌が一つになって聴こえてくる。
会見時、ラングは「そして私自身、この詞を書くことは自分へ問いかけるような、そんな過程をたどることとなりました。自分に問いかけるだけでなく深く、自分がいったい何者であるのか。何を感じているのか何を知りたいのか、私はいったいどこへ向かっていくのだろうかという、非常にパーソナルなテーマをより深く掘り下げ、そして見つめ直していくことを求められました。そういう意味ではとても厳しく、そして難しい、自分は何者なのかということを問いただす、そんな過程をたどった歌詞作りでございました」とコメントしている。内省的、原作は芥川龍之介の作品であるが、作曲・台本のデヴィッド・ラングの感じる、考える、”死”と”己”、それをどう解釈するかは聴衆に委ねられている。
映像演出、布に覆われたキャンパス、少女の映像、花柄の可愛い服を着ている、「僕はその服を切り刻んだ」、芥川の姉は溺愛されていたそう。この”絵”が刻々と変わり、大きな瞳の映像、印象的な演出。父母のこと、芥川の母親は精神を病んでおり、彼が11歳の時に他界、父親はビジネスで成功したようで息子の龍之介を食べ物で気を引こうとする。当時珍しいバナナ、アイスクリームのエピソードが出てくる。そして龍之介が28の時に他界。そう言ったエピソードも歌詞にする。

ヴォーカルとアクターを分けている手法、アクターは現実を生きている男なのか、あるいは”象徴”なのか、そしてヴォーカルが担う男はアクターの想像の男なのか、はたまた幻なのかどうなのか、「僕はすでに死んでいる」と歌う。この2人の立ち位置、これも解釈は自由だ。哲学的であり、また、”死とは”人間の抱える永遠の問いかけ、タイトルの『note to a friend』、直訳すれは「友人へのメモ」、その友人とは誰のことなのか、それは我々観客なのか、あるいは世界なのか、深く考えれば、考えるほどに深淵な作品。見るたびに景色は変わるだろう。

概要
オペラ『note to a friend』(全1幕/原語(英語)上演 ・日本語字幕付)
原作:芥川龍之介『或旧友へ送る手記』『点鬼簿』
作曲・台本:デヴィッド・ラング
演出:笈田ヨシ
出演
ヴォーカル:セオ・ブレックマン
アクター(黙役):サイラス・モシュレフィ
ヴァイオリン:成田達輝、関朋岳
ヴィオラ:田原綾子
チェロ:上村文乃
日程会場:2023年2月4日(土)開演15:00、2月5日(日)開演15:00

東京文化会館公式サイト:https://www.t-bunka.jp/
舞台写真提供:東京文化会館
撮影:飯田耕治