舞台『鋼の錬金術師』 W主演 エドワード・エルリック役 一色洋平×廣野凌大 トーク

発表されるやいなや、大きな話題を読んだ舞台『鋼の錬金術師』がいよいよ3月にが開幕する。原作コミックスの全世界でのシリーズ累計部数は8000万部を突破。通称「ハガレン」として数多くのファンに愛されてきた作品で、テレビアニメ、アニメ映画、ゲーム、ラジオ、実写映画と数多くのメディアミックスを繰り広げてきたが、今年初舞台化。演出はミュージカル 『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』を手がけた石丸さち子さん。そして主人公であるエドワード・エルリックを演じる一色洋平さんと廣野凌大さんのトークが実現。オーデションのことや稽古のことなどを語っていただいた。

――オーデションで役が決まった時のお気持ちをお聞かせください。

一色:すごく長期間で大勢の俳優さんが受けていました。同じ組になったエド候補が軒並み素敵な俳優さんばかりだったので、正直、誰が受かってもおかしくないし、「このシーンはこの人ピカイチだったなー」と思ったり、別のシーンをやった時は「あの人、魅力的だなー」と思ったり…正直「勝てねーな」と思う瞬間は何回もありました。その中で自分が選ばれたことが信じられなかったし、それがすごくプレッシャーでもあり……、が、自分が信頼を寄せる演出家の石丸さち子さんとプロデューサーチームが合格を出してくれたことをちゃんと信じないといけないな、と思いました。でも、それを自信にかえるのに何ヶ月か、かかりました。受かった時の嬉しさと不安、それから自信、喜び、そういう段階がありました。

――オーディションの時は手応えはそれなりに感じていたのでしょうか。

廣野:いや、僕に関しては石丸さち子さんにオーディションの時に喧嘩を売ってしまったので(笑)、フリースタイルで文句を言ってしまったので。「受からせろ!」みたいにね(笑)。今思えば、そんな負けん気みたいなものを買っていただいたうえでの決定ということだったのだと思うのですが、とはいえ、オーデションの帰り道では「やべー、やっちゃったかな」と。

一色:僕と凌ちゃんは、別の組でした。だからオーディションのときには会ってないんです。僕は逆にエドとアルの過去についての大事なシーンをやった時に「うん、面白かった」って一言、さち子さんに言われました。それを聞いて「あ、ダメかもしれない」って感じたんです、手応えとは逆に。「うん、面白かった」の言葉になんとなく不安がよぎりました。僕にはもっと上があるという意味の「面白かった」という風に聞こえて、ちょっとネガティブに捉えていたんでしょうか。でも、合格を聞いたときに、本当の意味で「面白かった」と言ってくださったんだなと感慨深かったです。

廣野:僕は「面白かった」と言ってもらえなかったんです。「もっとエネルギー、ちょうだい」って。「ちょうだい、ちょうだいお化け」と……「あの人すげーなー」って圧倒されてました(笑)。自分の演技をぶつけて、100パーセント以上を返してくれる、それで自分にも気づきを与えてくれる、石丸さんのパワーはすごいです。今も稽古していて感じます。普段だったら違和感を覚えるような、イラッとするようなことも、(石丸さんに言われると)スーっと入ってくる人です。ちゃんと落とし所があるというのでしょうか、そういう部分が彼女の信頼できるところでもあります。今回のオーディションでの出会いは必然だったと思っています。

――原作コミックはアニメでも映画でも大人気ですが、どのタイミングでこの作品と出会いましたか。

廣野:僕は、2作目のアニメがやっていた時は小学生で、視聴していました。その時は「エド、かっこいい。世界観素敵だな」とか、簡単な感想しかなくて。大人になってオーディションを受けてエド役に決まった時に改めて読んだら衝撃を受けました。題材としては結構、世界の核心を突いているみたいなものがある、差別とか戦争とか。そういう題材を取り上げて、エルリック兄弟も自分の母親を錬成するという禁忌を犯していて……それでも、いろんなものをエドとアルや人間たちが強く乗り越えていく、「すごい、これ少年誌でやるんだ」っていうのが改めて読んだ感想です。

一色:僕は小学校の高学年から中学1年ぐらいにかけて、親友に漫画を貸してもらったのがきっかけでした。当時は、僕も凌ちゃんと一緒で、キャラクターのかっこよさであったり、技を出すところがかっこよかったり、それを真似して戦いごっこをみんなでやったり。大人になってオーディションのために読み返すと、「おお、こうだったか」みたいな……スカーの恨みがあんなに根深いものであることに驚かされます。人種や、民族単位で持ち続けている、根深い恨み、怒り。それに対してマスタング大佐は、「スカーの恨みは当然である」というようなことを言いますが、エドは「当然なんてふざけんじゃねー」なんていうんです。でも、一読者として、当然であると思ってしまう。これは子どもの頃だとちょっと抱くことができない部分だった。そのあたりは大人になったので、そこはちゃんと演じたいなと思いますね。

――稽古に入っていらっしゃるということで、Wキャストですのでお互いのを見ている、あるいは相談なさっているのか、などお聞かせください。

廣野:お互いのは、毎日のように見ていますね。

一色:必ず見ていますねー。

廣野:エドとして統一すべきシーンの相談などは結構します。2人とも同じエドではありますが、作り方がまったく違うエドです。それを勝手に参考にしている部分はありますけど、お互いにどこかで「ここは負けたくない」というのもあります。それも見ていて面白いんですよね。

――アクションは?かなり激しいのでは?

廣野:アクションはもう多すぎて(笑)。そのシーンが来るたびに「なんだっけ?」って思いながらやります(笑)。それぐらい、盛りだくさんで。

一色:さち子さんの演出では、一個のアクションシーンが長いというよりも、意味のあるぶつかり合いの時間を大事にしていますね。なぜ攻撃するのか、何を目的として戦わなきゃいけないのか、長くなるだろうなって思う殺陣のシーンがすごく短かったりして。僕自身は「エンターテイメントとして長くアクションを見せなきゃいけない」という考えが心のどこかにあったんですけど、決してそうではない。ちゃんと必要なぶつかり合いが行われれば、それで十二分だと。

――お互い、ご覧になっていて、ライバル意識というのでしょうか、ここは差をつけたいとか意識されていることは?

一色:ガチガチのライバル関係ではなくて、正直言って差をつけたいというのはあんまりないんです。自分のエドを作るのでいっぱいいっぱいなところもありますので……たとえば、凌ちゃんがやって、さち子さんから演出があったとしても、凌ちゃんだけへの演出とは思えないんですよね。「廣野、もっとこうしてー」と言われても、僕は100%自分のこととして聞いている。多分、凌ちゃんもそう。僕に言われたダメ出しも「オレがやるときはこうしよう」と思っているだろうし。かつ、相手のいいところはすぐにパクるし。とはいえ、統一しなければならないところ、たとえば「このときのエドはどのくらい腕が破壊されているんだろう」というような部分は基準揃えています。でも、その表現方法はまちまち。ちなみに僕はWキャスト自体が初めてですが、初めてが凌ちゃんでよかったなと思わず一回だけポロッと言ったんです。

廣野:めっちゃはずかしかったです(笑)。

一色:自分がやっていることを俯瞰して観られるのが贅沢。俳優ってどうしても内向きになっちゃうので、相手がやっているのを見て拓ける時間があるのはうれしい時間です。

――廣野さんも同じWキャストでよかったなと思われていたりしますか?

廣野:思っていますね。だからこそ対抗心がある。「やり切ってやるぞ」みたいな…どっちかが潰れたとしてもね。お互いの芯の部分がすごく見えながらの稽古です。作品に対する想いを、二人でメラメラ燃やしている時間があり、そこは二人で、掛け合いながら、「負けないぞ」という心を持って稽古しています。

――今の話と繋がりますが、稽古が始まっている中でお互いに「ここがすごいな」というところがありましたら教えてください。

一色:細かいところはいっぱいあるけど、凌ちゃんのエドを見ていて、少年に見えるのがすごいことだと思います。俳優は幾つにてなっても役を当てられたからには演じなければいけないんですけど、子どもに見えることは、こんなに難しく、こんなにすごいことなんだなって、凌ちゃんの一挙手一投足を見ていて思いますし、と同時に、そこが一番、自分が憧れを抱いているところですね。

廣野:僕は洋平さんの、演劇に対する熱さがエドにも出ているところです。それは僕ができないところで。すごく真似したいなと思って真似をするのですが、そうすると石丸さんから「気合入りすぎだよ」ってつつかれちゃう(笑)。石丸さんが製作発表会のときにおっしゃっていた「怒りの廣野、愛の一色」は本当に的を射ています。常にエドのいい雰囲気、めちゃくちゃいいオーラを纏っていて、すげえなーと思うんです。本当に愛に溢れている人間だからこそできる……もちろん、役者としての技術とかも、彼はピカイチ。役者として心が洗練されているので、それが舞台に立った時に一気にシャープになる。見ている側の人間に情熱として突き刺さるんですよね。これは素敵な感覚だなあと、毎回勉強させていただいていますね。

――石丸さんの演劇にかける熱い思いっていうのが伝わってきます。石丸さんからお二人に向けての印象深い言葉などはございますか。

一色:印象深いと思うのは毎日。そうだよね。

廣野:(石丸さんについて)この人ってやっぱり愛がある人なんだな−って再認識したのは「私は演出家だから、演技のことも全部言う、厳しいことも言うよ。でも、逆になんかあったら全部私にぶちまけて」って。その仕事人としての意地と、舞台人としての意地と、人間としての優しさがもう溢れ出て「この人は愛おしい人だな」って思えて……そんな人間性が、すごい好きです。

一色:そうですね。「真っ直ぐな心でついてきてくれれば、あとは私がどうにかするから」っていう風におっしゃってくださる。そう言えるまで、どれだけ自分で高めて戦ってきたんだろうなって思うんですよね。「私がどうにかするから」って、この作品に携わるものすごい数の人の人生を全部をひっくるめて「私が」って言えちゃうんです。石丸さんの、全部背負う覚悟、強さをひしひし感じます。その言葉を言えるまでにどれだけのことを費やしてきたのかなと……その背景も含めて僕たちに言ってくれるから。なんか疲れそうになったり、悩みそうになっても石丸さんの言葉、声を聞いただけで「クッ!!」と持ち上がる瞬間があります。そういう演出家のもとでやれるのは、ありがたいと同時に、甘えてばかりではいけないな、とも思います。

廣野:本当に。こんな情熱を持った人にはなかなか出会わないです。

――この舞台のカンパニー全体の特徴、全体の雰囲気を教えていただけますか。

廣野:みんな同じように苦しんで、みんな同じように楽しんでいる感じ。そこに差はないと思います。「すげーなー」って思うのは当たり前だと思うのですが、誰も腐ることなく今日までひとつの目標に向かって、真っ直ぐに突き進んでいくところ。それこそ、石丸さんの言葉じゃないですが、真っ直ぐな心でついていけているのかなっていう自負がすごくあります。今の御時世だから一緒に食事行く、等はしてないですが、むしろ、だからこそ、稽古場で信頼関係がだんだん高まっている。芝居も違うものが毎回生まれてきて、すごくいいカンパニーだなって思います。その雰囲気を作っているバックアップが強力なので、僕らもそこに安心して従事できています。

一色:強豪校の部活みたいだなーって…選手(役者)それぞれのレベルもすごいわけですが、強い選手が集まるからこそ唯一無二のものができあがる。これって個々がいいだけではダメで、この集団での時間がよくないとだめなんですよ。僕は、陸上オタクだったので、強豪校が持っている空気が大好きだったし、舞台ハガレンチームは、なにか困難があっても前を向ける力があるチームです。「とりあえずやってみよう、前に進もう」みたいな。

廣野:令和の、今の若者っぽい心の折れ方する人なんか一人もいない。

一色:みんな強い。それは世界初演の舞台『ハガレン』を立ち上げるには必要不可欠だったんじゃないのかなと思っています。

――他のキャストさんについてもお聞かせください。特にスーツアクターの方が大変そうです。

廣野:想像通りです(笑)。

一色:一番大変かもしれないです。あれ、一人では着られないんです。何人がかりかで着用、稽古も暑かったりするのに、バリバリアクションやります。

――スーツアクターの方とのやりとり、掛け合いとかはいかがでしょうか。

廣野:意外と苦戦してないんです。

一色:そうですね。

廣野:稽古の時点でアルの衣裳が使えるようになっているので、実際にスーツアクターの桜田航成さんが着てくださっているんですけど。もう、アルが僕らと一緒に冒険しているような感覚なんです。本当に、素敵ですよ。稽古場から、実際の鎧としてのアルがいてくれるので、僕らとしても、エドを演じている中で、このかけがえのない兄弟の関係性が見えてきます。眞嶋君が声を当てて、それに合わせてスーツアクトをするんです。それも段々と稽古してくるに従って練度もあがってきていまして、阿吽の呼吸みたいになってきて、偉大だし、すごいですよ

――そこは見どころにはなりそうですね。

廣野:見どころですね。録音ではないので、実際に舞台袖や舞台の裏から声を出して、それに合わせてアルが動いている、二人で作っている。Wキャストである僕らも向き合って二人でエドを作っているんですが、アルも二人で作っている感じです。

一色:二人のマッチの度合いというのがすごいです。眞嶋君もアクションを全部覚えて、稽古では動きながら声を出していますし。立ったり座ったりのタイミングも完全にばっちりなので。声の当て方は100点満点を出し続けているな、という感じです。

――本作はテーマが重いと思うんです。作品に描かれている死生観、倫理問題。今は21世紀ですし、人工知能とかいろんなテクノロジーが発達してきています。今はもう「ハガレン」で描かれているテーマが身近になってきていると思いますが、そこについてはいかがですか。

廣野:正直、AIが進化しても人間様には勝てない。

一色:実際にAIが人工知能が人間を超える、みたいなことを科学的に証明して映画化しているものもたくさんありますけれども、確かに僕も凌ちゃんがいうように人間に勝てないところがあるんじゃないかっていうふうに思うんですよね。

廣野:感情が芽生えないしね。

一色:彼ら(エドとアル)が犯した禁忌は、単純にお母さんにもう一度会いたいという願い。頭が良すぎるが故に、禁じられたことに手を出してしまう、しかもそれを実行できてしまえた兄弟っていうところが、また一つ恐ろしいポイント。どちらかというと、クローンとかAIというよりも、人間が学び、学んだものをどう使うかが怖いかなと思います。

――今回劇中描かれるエピソードの中には感動的なものもあります。そこも見どころでしょうか。

廣野:そうですね。「ハガレン」自体が生と死に対するセンシティブな部分を取り扱っている作品です。どうやって「命は尊いもの」ということを伝えることができるか…僕らがエピソードを通して、どう伝えるかっていうのは課題ですね。生きる意味を僕らにわかりやすく教えてくれるのが「ハガレン」だと思います。

一色:原作ファンの方にも「ああ、このシーン、やってくれたんだな」っていうのは喜んでほしい。特に終盤の展開は…「こう終わるんだ」と僕らもすごく感動したので、その感動をそのまま新鮮に伝えたいです。

――最後にお二人から一言。
廣野:言葉で伝えきれないくらいの愛が詰まっている作品です。自信を持って、数ある舞台の中でも指折りに入るし、面白いと思われる作品だと言えます。退屈させないし、しないと思う。迷っているお客様も、迷っていないお客様も含めて全員、観にきてくださいって、心から伝えたいです。本当に後悔させない、という自信があるので。これはビッグマウスでもなんでもないので、とりあえず気になったという方は、観にきてくださると。僕らの舞台『ハガレン』にかける想いと、皆さんの心がリンクして、新しい人生のいろんな景色が見える、そんな作品だと思います。ぜひ、観にきていただけると嬉しいです。

一色:この春は面白い舞台がいっぱいあるんですよね。その中では圧倒的に1番を目指しています。そういうものが確実に出来上がりつつあります。稽古は(インタビュー時点で)残り2週間です。シリーズ8000万部のこの作品を舞台化する、まだまだ立ち向かっている僕たちがいます。まだまだもどかしい部分もありますが……でも光は確実に見えてきている。そこに向かって、いの一番に、僕ら舞台『ハガレン』チームが真っ先に旅路を歩んでいきます。お客様も、観客ではなく、旅の仲間として一緒に連れていくつもりです。「ああすごいものを立ち上げたなこのチームは」と、ご来場いただいたお客様には一緒に旅路を楽しんでいただけると思います。

――ありがとうございました。公演を楽しみにしています。

<製作記者発表会レポ>

一色洋平&廣野凌大W主演 舞台『鋼の錬金術師』23年3月初舞台化 製作発表会レポ

概要
日程・会場:
大阪
2023年3月8日〜3月12日 新歌舞伎座
東京
3月17日〜3月26日 日本青年館ホール
原作:荒川弘 (掲載「ガンガンコミックス」スクウェア・エニックス刊)
脚本・演出:石丸さち子
音楽監督:森大輔
作詞:石丸さち子
作曲:森大輔
出演:
エドワード・エルリック:一色洋平 / 廣野凌大 (Wキャスト) アルフォンス・エルリック:眞嶋秀斗 ウィンリィ・ロックベル:岡部 麟 ロイ・マスタング:蒼木 陣 / 和田琢磨 (Wキャスト) リザ・ホークアイ役:佃井皆美 アレックス・ルイ・アームストロング:吉田メタル マース・ヒューズ:岡本悠紀 ジャン・ハボック役:君沢ユウキ デニー・ブロッシュ役:原嶋元久 マリア・ロス役:瑞生桜子 ティム・マルコニー役:阿部裕 ショウ・タッカー役:大石継太 イズミ・カーティス役:小野妃香里  ラスト役:沙央くらま エンヴィー役:平松來馬 グラトニー役:草野大成 傷の男(スカー)役:星智也 ゾルフ・J・キンプリー役:鈴木勝吾 ビナコ・ロックベル役:久下恵美 グレイシア・ヒューズ役:斉藤瑞季 ニーナ・タッカー役:小川向日葵/尻引結馨(Wキャスト)
キング・ブラッドレイ:辰巳琢郎 他
アルフォンス・エルリック:桜田航成 (スーツアクター) ほか
※Wキャストは五十音順
協賛:DMM.com
主催:舞台『鋼の錬金術師』製作委員会
公式サイト:https://stage-hagaren.jp/
(C)荒川弘/SQUARE ENIX・舞台「鋼の錬金術師」製作委員会
取材:高浩美
構成協力:佐藤たかし
撮影:金丸雅代