『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』上演中だ。しかも通し狂言、なかなかない稀有な公演。
会場は開演30分前、天気が良ければ、エントラス付近は賑やかなので、記念撮影をする観客が。スマホ片手に撮影会があちこちで。客席に入ると、オリジナルビジュアルがスクリーンに映し出されているので、こちらも撮影は自由、開演前に皆、スマホでぱちぱちと。
時間になり、前説を担う23代目オオタカ屋役の中村萬太郎が登場、大きな拍手。「世界を旅する商人」と自己紹介。会場とコミュニケーション、「歌舞伎初めて」結構手が上がった。そして初心者向けに歌舞伎の楽しみ方などを伝授。ツケ、見得、などの解説。見得についてはお客様も巻き込んで”ご一緒に”見得を!そして今回の『ファイナルファンタジーX』についての解説。それから始まる。
映像、中央に剣、モノローグ「最後かもしれない…全部話しておきたいんだ…」そしてタイトル。
通路から登場、客席のテンションがグッとアップ、クラップも。「いよいよ決着の時が来た」、そこへこの物語の主人公であるティーダ(尾上菊之助)、ひときわ、大きな拍手。先に舞台に上がっているキャラクターたちがティーダにいう「どうしたらそんなに強くなれるの?」「諦めないこと」それから本格的に始まる。
アーロン(中村獅童)やワッカ(中村橋之助)ら人気キャラクターが登場、歌舞伎らしく見得を切ったり。そしてこの物語のヒロインユウナ(中村米吉)登場、可憐で可愛らしい姿。ティーダとの出会い。
通し狂言で上演時間は長いが、その長さを忘れてしまうほど。
前編のブリッツボール、ワッカの張り切りぶりなど、なかなか楽しい。また、ユウナの異界送りは幻想的で、美しく、没入感もあって、FFの世界に入り込んだような感覚に。また、歌舞伎なのでキャラクターが登場すると大きな拍手。また、歌舞伎特有の大向こうの掛け声、コロナ禍でできなかった時期もあったが、今回は専門の方が発する。これがないと正直、寂しい。歌舞伎の中には、俳優が大向うの掛け声を巧く利用した演出がいつしか定着、「これがないと」というものもある。そこまでではなくても、やはり、この掛け声がないと「歌舞伎」という感じがしない。専門の方のみで一般の観客はできないが、これだけでも「前進」したように思う。
ティーダと共に旅をするキャラクター、個性的な面々で、作品を知っているファンなら大きく頷けるであろうが、知らなくても、それぞれのキャラクターの言葉、動き、そして活躍ぶりできっと「推し」のキャラも見つけられる、しっかりとした造形。頼り甲斐のあるアーロン、元気一杯のワッカ、頼り甲斐があって色っぽいルールー(中村梅枝)、おキャンで前向きなリュック(上村吉太朗)、いかにも強そうなキマリ(坂東彦三郎)、また、きちんとした歌舞伎テイストの衣装であるが、ちゃんとキャラクターの衣装にもなっており、また、細かいところでゴージャス!ここはしっかりと観ておきたい。
ティーダの父親で、ブリッツボールという競技の名選手だったジェクト(坂東彌十郎)、不器用、口がちょいと悪いが息子のことを誰よりも想っているも、息子への接し方がわからず、ちょっと傲慢にも見える。ティーダは「夢のザナルカンド」のブリッツボールチームであるザナルカンド・エイブスのエース、父親を毛嫌いしているようにも見えるが、彼もまた、父にどう接してよいかわからない、なかなかもどかしい親子。彼の母親もまた、ジェクトにかかりきり。そんな親子の状況も描かれる(幼いティーダを演じるのが尾上丑之助、反則的に可愛い!!)。
そしてジェクトから息子・ティーダの後見人となるよう託されているアーロン。ジェクトとは無二の親友であった。こういった関係性をきちんと描くことで、作品はグッと深くなる。
ティーダは戦闘で使用する武器は剣。剣に関しては旅の当初は素人であったが、水中格闘球技「ブリッツボール」で鍛えた身体能力と父親譲りの戦闘センスによって戦いをこなし、技を繰り返し繰り出すことで様々な剣技を習得していく。その過程、最初はへっぴり腰(失礼)だったのが、次第にカッコ良くなっていく様を尾上菊之助が魅せる。また、この物語でのヒール役、尾上松也演じるシーモアが貫禄!そのシーモアが歪んだ性格になった理由が描かれており、そこは哀しい。
2幕では彼らの運命が怒涛のような展開で進行、政略結婚のシーン、ウェディングドレスが美しく愛らしいユウナ、中村米吉が演じているのだが、今年早々に『オンディーヌ』のタイトルロールを演じたが、可憐で美しく純粋なキャラクターを演じさせたら右に出るものはいないのでは?というくらいのはまりっぷり。
そしてラスト近くの戦いのシーン、後半に登場するユウナレスカ、中村芝のぶが演じるが、正直怖い!照明と衣装の具合で怖さ倍増。映像演出、客席が回転、没入感がさらに高まり、ラスト近くにふさわしい盛り上がり。そしてラストシーンの清々しさに連なっていく。
とにかく上演時間が長いこと!それでも飽きない超大作。同じ演出は難しいが、続きがあるなら観たいと思わせる内容。ゲーム原作の歌舞伎化という前代未聞のチャレンジ、2.5次元という言葉が本格的に使われ始めておよそ10年弱、すっかり1つのジャンルとして確立された。多様多彩、エンタメ要素のみならず、芸術的にみてもレベルの高い今回の舞台。公演は4月12日まで。
前後編のあらすじ
前編 (開場11:30 開演12:00)
大いなる脅威『シン』に人々がおびえて暮らす、死の螺旋にとらわれた世界スピラ。そんなスピラへと迷いこんだ少年ティーダ。そこで可憐で気丈な召喚士ユウナと出会う。ユウナの目的はただ一つ。『シン』を倒すこと。そのための『究極召喚を手に入れること』であった。
ユウナの決意に胸をうたれるティーダは同じくユウナを援護する仲間たちと共に旅にでる。
水球競技ブリッツボールでの熱戦や、父の盟友アーロンとの再会により、一行は「真実」に近づくこととなる。
だがそこに立ちはだかるグアド族の族長・シーモア。「死の安息こそスピラの願い」というゆがんだ考えを抱いている男である。
その原因ともなった彼の幼き頃の悲哀に満ちた物語とは果たして……。
後編 (開場17:00 開演17:30)
グアド族の族長・シーモアの策略はティーダたちをますます追い込んでいく。
狡猾なシーモアは、ユウナを誘拐し、彼女を利用するために政略結婚を企てる。それに抗った一同は反逆者の汚名を着せられ、旅の中断を余儀なくされる。絶望し泣き崩れるユウナを見て、ティーダはなんとしても彼女を守りぬこうと決心。出会った頃から互いに惹かれあっていた二人は秘めた恋心に身を委ねるのであった。
一同は決意を新たに、再び『シン』を倒す究極召喚を手に入れるために立ち上がる。
だがそこに待ち受けていたのは衝撃の出来事……『シンの正体』『究極召喚と引き換えになってしまうユウナの命』
そして『ティーダの存在の真実』……
彼らはそれを乗り越え、自分たちの物語をつむごうとする。
【配役】
尾上菊之助/ティーダ
中村獅童/アーロン
尾上松也/シーモア
中村梅枝/ルールー
中村萬太郎/ルッツ、23代目オオアカ屋
中村米吉/ユウナ
中村橋之助/ワッカ
上村吉太朗/リュック
中村芝のぶ/ユウナレスカ
坂東彦三郎/キマリ
中村錦之助/ブラスカ
坂東彌十郎/ジェクト
中村歌六/シド
概要
木下グループpresents『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』
日程:2023年3月4日(土)~4月12日(水)
※休演日:3月8日(水)、15日(水)、22日(水)、29日(水)、4月5日(水)
前編11:30開場 12:00開演
後編17:00開場 17:30開演
劇場:IHIステージアラウンド東京(豊洲)
出演:
尾上菊之助 中村獅童 尾上松也
中村梅枝 中村萬太郎 中村米吉 中村橋之助 尾上丑之助 上村吉太朗 中村芝のぶ
坂東彦三郎 中村錦之助 坂東彌十郎 中村歌六 / 尾上菊五郎(声の出演)
※中村歌六、中村錦之助、尾上丑之助は後編のみの出演となります。
主催:『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーⅩ』製作委員会
(TBS/ディスクガレージ/ローソンエンタテインメント/博報堂DYメディアパートナーズ/木下グループ/楽天チケット/TopCoat)
後援:TBSラジオ/BS-TBS
原作・協力:スクウェア・エニックス
制作協力:松竹 特別協賛:木下グループ 協賛:再春館製薬所
製作:TBS
IHI Stage Around Tokyo is produced by TBS Television, Inc., Imagine Nation B.V., and The John Gore Organization, Inc.
公式HP:https://ff10-kabuki.com
舞台撮影:引地信彦
© SQUARE ENIX/『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーⅩ』製作委員会