今や、メディアミックスは常識の時代になっている。かつては人気が出たコミックなどをアニメ化、舞台化していたが、近年のコンテンツは多展開する前提となっている。ゲーム、アニメ、舞台はもはやスタンダードになりつつある。6月に上演の舞台『トワツガイ』も多展開。メディアミックスの歴史や効果、また意義などについて、原作となるゲーム『トワツガイ』のアートディレクターの関谷マコトさんとシナリオ監修と舞台版の脚本演出を担う松多壱岱さんの対談が実現した。
――ILCAとはどんな会社なのでしょうか。
関谷:もともと3DCGの制作をメインとした会社で2017年発売の『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』の制作を請け負ったあたりからゲーム開発にシフトするようになりました。今回の『トワツガイ』ですが、ILCAは原作・設定・シナリオ周りの文芸部分と、ビジュアル周りのアートディレクションを担当しスクウェア・エニックスさんがパブリッシャーとなります。
松多:『トワツガイ』のメディアミックス、『NieR:Automata』ファンフェスのコンサート演出とか『ヨルハ』であるとか、ライブや舞台演出の企画構成に経験があり制作を強化していきたいということで、僕が加わりました。
関谷:ILCAが関わったゲーム案件の舞台化作品として『ヨルハ』シリーズなどの舞台を制作しており、今後その流れはもっと大きくなるだろうということで、舞台演出家である壱岱さんに合流していただきました。
――メディアミックスは、実は戦前から行われていたんですよね。すでに田河水泡先生の『のらくろ』(※1)、それから時代が下って『サザエさん』(※2)など。
松多:『サザエさん』はアニメよりも断然前に、映画やドラマになっていたんですね。知らなかったなあ。この前、明治座で舞台もやっていましたよね。
――長谷川町子先生が実際に四コマ漫画を載せていたとき、それを新聞でリアルタイムでみていた人は年代的にも少ないでしょう。だから、メディアミックスによってコンテンツが生きながらえていると考えられますね。
松多:コンテンツと観客の接点を増やすことができますよね。いろんなターゲットを増やすという効果がありますよね。
――舞台化することによってさらに人気が高まった作品もありますね。『テニスの王子様』は連載開始が1999年、初ミュージカル化は2003年、『新テニスの王子様』の連載が2009年ですね。
松多:ミュージカル化されたことで、コンテンツが長生きしているような印象があります。
――ファンサービスでもありますし、認知度を高めるという点、一つのコンテンツをいろんな形でやることにより世代を超えられる。
松多:もうミュージカル『テニスの王子様』は1stシーズンから20年経ちますよね。ファン層もいろんな年齢の方なんじゃないでしょうか。
――『ゲゲゲの鬼太郎』(※3)もそうですね。調布市や境港市とかが町おこしに使っていて、今でも親しまれています。調布には鬼太郎の家があって、そこへ親子連れが遊びに来たり。
松多:それって全力でコンテンツに便乗しているような(笑)。とはいえそれも、形は違えどメディアミックスかもしれませんね。
――そして『トワツガイ』。6月に舞台化をしますね。でも、これまでのメディアミックスは「原作の人気が出たから」行われていましたけど、2010年あたりからメディアミックスありきのものが作り始められましたよね。『トワツガイ』も『滄海天記』もその流れを汲んでいる。その場合、何を重要視して作っているんでしょう。
松多:「トワツガイ 」は企画当初から携わることができました。その時点で舞台化の話も進行していたので、ゲームの打ち合わせでも、常に意識していた部分がありますね。「滄海天記」は舞台が先行だったのでゲームのプロットだけができてる状態でした。そんな中で舞台脚本をつくることになりました。舞台オリジナルの設定がゲームに反映されたりして、メディアミックスしてる感覚がありました。どちらもキャラクター設定に比重を置きました。トワツガイ の世界観は、言ってしまえばよくあるタイプですけれど。そこに百合的な要素が入ってくるのがオリジナリティとしてある。キャラ同士の関係性というのはお芝居にしやすいですし。舞台はそこに人が生きてやるものですから。
――年齢設定が幼い、若い女の子が手を取り合って……というのは、人気のパターンですよね。
松多:「尊い」ってやつですね。
関谷:そして、数あるジャンルの中でいちばんメディアミックスしやすいのが、舞台だと思うんですよね。今回「トワツガイ」はゲーム原作で、そもそもゲームは企画自体から数年かかるのですけれども。仮に漫画がスタート地点だと、漫画は作家さんと編集さんの二人三脚ですから、割とスピード感は早い。そこからメディアミックスが決まった場合、一番早く実現できるのは舞台化ではないかなと。アニメ化は放送枠や制作の兼ね合いでやっぱり4~5年はかかってしまいますし。今のソーシャルゲームって4~5年後にサービスしているかと言われると一握りという状況。となると一番スピード感を持って素早く世界観を展開できるのは舞台しかない。2.5次元舞台が多いのもそのせいじゃないかと思っています。とはいえ、舞台化の方向性を安易に決めるのは難しい部分がありますよね。なぜなら、観客と元々のユーザーがマッチしないこともあるからです。たとえ作品が素晴らしくても、そのアニメだったりゲームが好きだったりする人が観に来てくれないこともあります。2Dを好むファンが舞台に関心をもたないこともあるでしょう。
先日、某アニメの原作が舞台化されたんですが、みなさん「すごくよかった」とおっしゃる声をたくさん聞きましたし、役者さんたちも一生懸命に演じられてました。
松多:昨年アニメの評判がよかった作品ですね。
関谷:舞台版も素晴らしい出来だったと評判です。最初ビジュアルを見たときには、正直に言うと思っていたアニメのイメージと違ってました(某関係者のみなさん、ごめんなさい)。ところがゲネプロ映像見たら役者それぞれが原作キャラに寄せていて、関わるキャスとスタッフがちゃんと原作をリスペクトして作っているのが伝わってすごくよかったんです。そう言う意味でもアニメ放映からそう時が経っていないのにスタッフの弛まぬ努力があって短期間で完成度の高い作品を作り上げることができるのが舞台かなと。最短半年でできますよね、大変ですけど(笑)
松多:半年は急にしても 、一年単位で可能ではありますよね。
――たしかに、アニメやゲームは時間かかりますね。それに対して、舞台化のほうが早い。
松多:それに、舞台も今では映像とか照明などといったテクニカルな部分の進化がすごいので。そう言った意味でも舞台ならではの表現の幅が広がっている。昔は、舞台化といっても衣装やウイッグも原作とちょっと違う的なイメージがあったかもしれませんが、今は衣装やウイッグの再現性も高い上に、動きやすさなどもつきつめられている。だいぶ変わりましたよね。
――それはやはり、ミュージカル『テニスの王子様』や『サクラ大戦・歌謡ショウ』などの成功が大きいでしょうね。それが一般化した。今度は、コンテンツを初出しするタイミングや手法をどこにするかが悩みどころなのでは。
松多:そうですね。ひとつ成果として見せるという意味でも、オリジナルがプロットの紙切れ一つじゃわからない。それを物語として作り上げてみるとして、「まず舞台化してみる」というのも全然アリですよね。企画があって、どっちから見せようか、というときにスピード感のある舞台でまず見せたらどうか、というパターンが増えてきているような気がします。
――『トワツガイ』はゲームのリリース数ヶ月後に舞台化というタイムラグは考えられたものなんじゃないかと。
松多:ええ。ゲームのリリースが決まった前後に、ゲームの展開を考えて、舞台のスケジュールが決まっていきました。
――結局のところ「コンテンツを長生きさせる」というのが軸ということでしょうか。
松多:メディアミックスの効果として、様々な年代や、趣味も様々な人に触れてもらえることで、コンテンツが長生きできるってことはありそうです。
――あとは『爆剣』もあります。グルメを混ぜた異色作。
松多:ですねえ。コロナ云々があってから、グルメはできていないですけど。『爆剣』も、メディアミックスありえますよね。原作脚本が『NieR:Automata』のヨコオタロウさんですからね。
――それこそ30年くらい前は、舞台を観に来る人が漫画やアニメに親しみを持っていなかったし、小さな劇場でしかできなかったりもしましたけど。ここ5~6年はガラリと様相が変わりましたよね。今は50代以上でも漫画世代ですし。一部のシニア層でさえ2.5次元を楽しんでいる。
松多:そうかもしれないです。帝国劇場さんでもアニメや漫画原作を舞台化されていますし。
――それから、舞台オリジナルでも2.5次元っぽいのがちらほら。なので、ある意味舞台を最初に、それからゲームやアニメに行くのは時代の流れに沿っているのかも。
松多:僕は先出しパターンが多いからなおさらそう思います(笑)。とりわけ『トワツガイ』はいろいろできるだろうな、と考えていたり。
――話は変わりますけど演出された『バーチャル・リーディング』ゴーグルつけて観るんですよね。
松多:ああ、VR朗読劇「百合に挟まれてる女って、罪ですか?」ですね。そうなんですよ。VRをやりたい会社さんがいて、ちょっと朗読の演出をしてくれないでしょうか、と頼まれたのがこれなんです。朗読中に待っている人の表情も観られるというのが売りみたいですね。
――家にいながらにして、臨場感のある朗読劇が観られる。
松多:そうですね。昔なら考えられなかったことだと思います。丸いカメラの前で朗読していくだけ、という光景はすごくシュールでしたけどね(笑)。でも、これワンカットなんですよ。だから止まれないの。すごく緊張感を持って挑んでくれるから、それだけで面白い。
――これもバーチャル公演できそうですよね。最後になりますが、メディアミックス、5年後はどう様変わりしているとお考えでしょうか。
松多:5年後ですか……。そのころはグローバル化しているといいなと。いま、役者さんで集客しているものが、作品そのもので集められればいいですよね。ラスベガスのシルク・ドゥ・ソレイユみたいな感じで、2.5次元シアターがあって、海外からお客さんが観に来て、というようになっていればいいなあと思います。海外の人が配信やメディアミックスで作品もとい舞台を知り、リアルで日本に来てくれたり。まあ、でもみなさん考えてたんですよね。インバウンド向けということでやってきたのにコロナで潰れちゃいました。
関谷:そう、これからオリンピックに向けて複製ができないライブエンタテインメントに力を入れようってときだったんです。コロナのせいでぜーんぶ白紙に。
――コロナ前は、『セーラームーン』のショーのお客さんがほぼほぼ外国人みたいなこともありました。
松多:コロナ前はそんな時期もありましたね。私の演出した『キューティーハニー』もそうなればよかったな。三部作演出しましたがコロナ渦にはまってしまいました。はやく、コロナ前の状況に戻したいと強く願いますね。そのためにもメディアミックス、がんばっていかないとなって思います。
ーー長い時間、ありがとうございました。今後の展開を楽しみにしています。
※1田河水泡の漫画作品。1931年より『少年倶楽部』で連載開始。1933年に横浜シネマでアニメーション映画『のらくろ二等兵』が製作され、1934年には『のらくろ伍長』が製作。戦時下の1938年に『のらくろ虎退治』が公開。1941年に内務省の役人の指導が入り、連載が打ち切りに。戦後、昭和33年に『のらくろ自叙伝』連載、その後、本編の続編として昭和36年から昭和38年に連載、『のらくろの息子』という外伝をはさんで昭和42年から昭和55年にわたって連載、ちょうど満50年で全編完結。昭和50年にテレビアニメが半年間放映された。平成元年に弟子の「のらくろトリオ」が継承。現在もキャラクター商品が販売されている。
※2 1946年福岡の地方新聞『夕刊フクニチ』で連載開始。原作者の東京引っ越しに伴い、一旦連載打ち切り、東京の桜新町に引っ越し後、再び『夕刊フクニチ』で連載再開、それから東京新聞の源流となる『新夕刊』に移り、振興紙の『夕刊朝日新聞』を経て1951年から『朝日新聞』の朝刊に移る。1974年休載に入るが、その後は再開されなかった。話数は単行本収録分で6477話。
メディアミックスは1948年に東屋トン子主演で映画化、1950年に「ラジオ漫画」としてラジオドラマ化、1956年に江利チエミ主演映画、以後1961年までに10本が製作、公開。1966年に同じく江利チエミ主演で舞台化、以降1975年、1978年にも上演。アニメ化は1969年より。舞台は、近年では2019年に明治座にて藤原紀香主演で舞台化、2022年にその続編が上演。
※3 水木しげるの漫画作品。また、それを原作とした一連の作品群の総称。妖怪のイメージを世間に浸透させた水木の代表作であり、「妖怪漫画」を一つのジャンルとして確立させた作品。漫画作品は貸本を経て1965年から数多くのシリーズが描かれ、幼年誌から青年誌まで幅広く掲載された。連載当初のタイトルは『墓場の鬼太郎』であったが、アニメ化に伴い改題。怪奇色の強かった内容も鬼太郎と妖怪の対決路線へと徐々に変化、鬼太郎は正義のヒーロー然としての側面が強くなっていった。なお、「ゲゲゲ」の由来は水木が幼い頃に自分の名前を「しげる」と言えずに「ゲゲル」「ゲゲ」と言ってたことから着想したもの。
舞台『トワツガイ』
出演・配役:
―運命のツガイ
カラス
大西 桃香(AKB48)
ハクチョウ 渡辺 みり愛
―双子のツガイ
エナガ 星守 紗凪
スズメ 各務 華梨
―幼馴染のツガイ
フクロウ 小泉 萌香
フラミンゴ 長谷川 玲奈
―共謀のツガイ
ハチドリ 藤井 彩加
ツル 野本 ほたる
―正邪のツガイ
ツバメ 飯窪 春菜
―CAGE(特殊災禍対策本部)
司令 松田 彩希
副司令 倉知 玲鳳
カッコウ 堀越 せな
ミヤマ 梅原 サエリ
アンサンブル (50音順)
川嶋芙優 澁谷穂奈美 高野美幸
高見彩己子 PAO 増本祥子
盛一季美香 倭香
概要
日程・劇場:2023 年 6 月 16 日(金)~25 日(日) 全 13 公演 サンシャイン劇場
原作:白本奈緒(ILCA)
脚本・演出:松多壱岱
音楽:岡部啓一(MONACA)、瀬尾祥太郎(MONACA)
美術:松生紘子
衣装・特殊造形:早瀬昭二(マッシュトラント)
メイク:M’s Factory
映像:曾根久光(co:jin projects)
殺陣指導:門野翔
振付:松本稽古
舞台プロデューサー:小林諸生(ABC&SET)
制作:ABC&SET(株)
協賛:(株)スクウェア・エニックス
主催:舞台 トワツガイ製作委員会(ABC フロンティア、HIKE、サンライズプロモーション東 京)
舞台公式サイト:https://www.towatsugai-stage.com
舞台公式 Twitter:@towatsugai_st
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取材:高浩美
構成協力:佐藤たかし