この物語の主人公であるケビン・カーター、南アフリカ共和国の報道写真家。
本作は人種隔離政策「アパルトヘイト」が崩壊しつつあった激動の時期に、命懸けでシャッターを切り続けた男たちの葛藤の日々に迫る。カメラマンとしての最高の名誉であるピューリッツァー賞に輝きながらも、彼らが報道と目前の現実の間で苦悩する。W主演の馬場良馬と安里勇哉に加えて、高崎翔太、 伊勢大貴、石井陽菜、小笠原健、宮下貴浩と個性豊かな実力派が揃い、演出はテンポの良い舞台構成と役者の特徴を 引き出す手腕に定評がある扇田賢。
1993年、シャッターを切る一人のカメラマン、無精髭にボサボサの髪、彼の名前はケビン・カーター(馬場良馬)。それから数日後のニューヨークタイムズの編集部、南アフリカからある写真が届く。ここに勤務する若手記者のピーター・マクラウド(安里勇哉)が読み上げる、「撮影者、ケビン・カーター、バンバンクラブ」。「明日の朝刊、これでいきませんか?」と提案するピーター、ニューヨークタイムズはこれをセンセーショナルに取り上げ、世界中に配信され、これが大反響。ピーターは志があった「書いた記事で世界を変える」。その後、この写真でケビンはピューリッツァー賞を受賞、1994年のことだ。
アパルトヘイト、アフリカーンス語で「分離、隔離」を意味する言葉。南アフリカ共和国における白人と非白人の諸関係を規定する人種隔離政策のことを指しているが、数々の人種差別的立法のあった南アフリカにおいて1948年に法制として確立、1994年全人種による初の総選挙が行われ、この制度は撤廃されたが、この時代はまだ存在している。
ケビンは「アパルトヘイトは間違っている」と言い、「これを世界中に知らせたい」とも言う。ただのカメラマンではない、ジャーナリストでもある、写真を通して様々なことを世界中に発信。その使命感が彼を突き動かす。それはバンバン・クラブの他のカメラマンも同じ、常に死と隣り合わせな現場。ケビンが主人公であるが、群像劇的な要素もあり、バンバン・クラブの仲間であるケン・ウースターブルック(宮下貴浩)、グレッグ・マリノヴィッチ(高崎翔太)、ジョアオ・シルバ(横山涼)らの生き様も描かれる。マリノヴィッチは1991年に、インカタ自由党のスパイとされる男をアフリカ民族会議(ANC)派の支援者が殺害する場面をとらえた写真でピューリッツァー賞を受賞していた。
資料映像も使い、スピーディーに展開、そして観客に様々な問題提起を起こさせる。差別、戦争、飢餓、彼らはそれを”写真”に切り取り、世に問いかける。過酷な状況、酒場で酒を飲むシーン、ビールをラッパ飲みして呑んだくれる。それだけストレスが大きい証拠、明日死ぬかもしれない、それでも彼らはそこへいく、銃撃戦の中を、デモの中も、ところかまわずカメラを手にして行く。何が彼らを突き動かしているのか、名誉でもなく、金でもなく(ケビンは貧乏)、かっこいいからでもない。ただ、そこに”撮影したいもの”があるだけ、世界に知らしめたいことがあるだけ。
そしてケビンの撮った一枚の写真、世界中の人々が目にすることとなり、ケビンを取り巻く状況は一変する。ケビンもそうだが、危険、ストレス、恐怖から逃れるために酒はもちろん、マリファナも常習的に吸っていた。受賞は思わぬ波紋を。賞賛も多かったが同時に大きな議論も呼び起こした。
そんな折にウースターブルックが取材中に殉職、マリノビッチも重傷を負う。それでも「現場」はそこに存在し続ける。
ケビン・カーター役の馬場良馬の熱演、難しい、硬派な題材に挑むキャスト、クリエイティブ陣。ケビンは、そして彼らは何を感じ、何を思うのか、真の平和は何か、差別はなぜ、なくならないのか、なぜ暴力や戦争で解決しようとするのか、また自分は何者なのか「俺が俺であり続けること」とケビンは言う。自分が自分であり続けることの難しさ、自分を生きる、ということ、そして志。ひたすらシャッターを切るケビン。
休憩なしのおよそ1時間45分、この時間には多くのことが詰まっている。なお、7月22日、18時の回でカンフェティ Streaming TheaterにてLIVE配信も決定している。
あらすじ
1993年3月11日。スーダン南部コンゴール州アヨド村。カメラを抱えた男が、空き地に佇む一人の少女を撮影している。男の名前はケビン・カーター。その後ろ姿だ。写真を撮り終えたケビン、ふり返り、満足げな笑みを浮かべ──
──数日後。
アメリカ「ニューヨーク・タイムズ」編集部。そこに南アフリカの雑誌社「ザ・スター」編集部から封筒が届く。開けると、一枚の写真が入っていた。飢餓の少女が今にもハゲワシの餌食になろうとしている悲惨な瞬間が切り取られたその光景に、一同は言葉を失う。掲載するか否か……
社内で議論が上がるも、一人の若者の意見に皆が賛同する形で、到着から10日後、名もなきその写真は、NY タ イムズ紙の一面を飾ることになる。
そこから一年後。
「ハゲワシと少女」はピューリッツァー賞を獲得。真っ先に掲載したNYタイムズ社内は歓喜に包まれる。そんな中、若者記者に、受賞者であるケビン・カーターへの取材の命が下る。早速、南アフリカにある「ザ・スター」編集部まで足を運んだ若者だったが……
1994年にピューリッツァー賞を受賞したケビン・カーターとその仲間達で結成されたバンバン・クラブを独自の視点で描き、ジャーナリズムの本質に迫る──
概要
舞台「1993-The Bang Bang Club-」
日程・会場:2023年7月21日(金)〜7月30日(日) 俳優座劇場
脚本:鈴木智晴(劇団東京都鈴木区)
演出:扇田賢(Bobjack Theater)
出演
馬場良馬、安里勇哉(W 主演)
伊勢大貴
石井陽菜
小笠原健
宮下貴浩
横山涼
宮崎卓真
藤江萌
高崎翔太
アンサンブル 在原桂馬、佐藤祐亮、東井隆希、広瀬登紀江、花沢詩織
主催:De-STYLE(De-LIGHT/style office)