桃太郎の物語の20年後を描いた海外上演作品『月の鏡にうつる聲』は2014年に桃太郎伝説を題材にして描かれた、劇団おぼんろ主宰・末原拓馬の代表作のひとつ。
桃太郎伝説の伝承地でもある岡山ルネスホールでのコンクールにて最優秀作品に選ばれた本作は、日本での数回にわたる再演の末、台湾でも上演。劇団おぼんろは、国内外で高い評価を得て、2023年6月にはモルドバ共和国で行われる国際演劇祭への招聘上演も。
劇団おぼんろとしては初上演となる本作では、劇団員4名に加えて、萩谷慧悟(7ORDER)、石渡真修、井俣太良(少年社中)、塩崎こうせい、松村龍之介の5名が出演。劇団おぼんろが描く、日本では誰もが知る“桃太郎伝説”の真実、儚くも美しい物語の世界。
歌で始まる、お囃子のような、日本の民謡のような歌詞、台詞、「雨の降り止まない村」、怖い鬼の声、人々は恐れ慄く、「たくさんの人が飢えて死んでしまった」と。なぜか客席からカニが(笑)、舞台上は賑やかに、そして作品タイトルは映像ではなく、大きな布に書いた文字で!
キャストは9人、役は固定されず、また、時間軸も行ったり来たり。鬼退治をしてから30年、雨が降り止まなくなってしまったという。語り部的な役割も固定されず、キャストは縦横無尽に変わっていく。中央に描かれた大きな顔、よく見ると…。
多くの日本人が子供の頃に読んだ「桃太郎」勧善懲悪で、桃太郎は犬、猿、雉をお供に鬼ヶ島に行き、鬼を成敗し、宝物を持って帰ってくる。だが、ここでは違う、本当に鬼はそんな悪者だったのか、鬼とは一体、なんなのか。おぼんろ独特の物語の紡ぎ方で目眩く”物語”の世界へ観客を誘う。
通路を使う演出もあり、劇場全体がこの世界観に包まれる。時折、冒頭の歌が出てくる。『桃太郎伝説』、当時、鬼と恐れられた百済の王子・温羅(うら)は備中国新山(現在の総社市)に居城「鬼ノ城」を構え、船を襲うなど、吉備国(岡山)で暴れ回っていたという。吉備津彦命が大軍とともに派遣され、見事、鬼を征伐、これが「桃太郎」の元になっているそう。この”伝説”をそのまま、ではなく、ファンタジックに展開。萩谷慧悟、石渡真修、松村龍之介、若手のゲスト出演陣、すっかり”おぼんろ”メンバーに!いろんな役をスイッチ!アクションは流石!
そして『瓶詰めの海は寝室でリュズタンの夢をうたった』にも出演していた塩崎こうせい、少年社中の井俣太良が存在感を放ち、いつものおぼんろメンバーがきっちりと盛り上げる。鬼を退治するシーンはどこか哀しげ、刺さる台詞も多く散りばめられている。物語の詳細は劇場or配信で確認して欲しいが、決して武勇伝でもなく、正義のヒーローが悪を倒す話でもない。どこか考えさせられつつ、ラストは大きな月が舞台上に輝く。
『月の鏡にうつる聲』、このタイトルの意味は最後で”なるほど”と思わせる。「響かせてください!」と言い太鼓を叩く。人々は踊る。和太鼓は日本を代表する和楽器の1つであるが、それだけではない。太鼓というのは古来より神様と交信するための祭具としての役割を持っていた。体を通して心まで響く重厚な音、花びらが舞う、「咲き誇っていますように!」、大きな月が照らす世界、それはとてつもなく大きく、懐が深い。
取材には全キャストが出席し、本番を迎えるにあたっての心境について、萩谷は「自分の人生もそんなに長くないんですが、この座組みに入って初めて経験することが多くて、末原さんや先輩方に教えてもらいながら、すごくいろんな挑戦をしている時間だなと感じています。ここから迎える本番は短い期間ですが、とても楽しみにしております。」とコメント。
今回の作品について考えたことについて、末原は「個人的には嘘をつかないということでした。劇団を長くやっていて、プロ意識としていろんなことにバランス感覚があることが自分の良さだと思っていたんですが、そういうものよりも今思っていることをそのまま嘘をつかないとか、過去の成功体験にこだわらず、9人で一つの劇団を作ると宣言して始めました。この場の9人で今起きたことに向き合いながら、自分がやりたいこと、自分がやるべきことをやろうと思いました。それは来る参加者の顔色も伺わなくなったというのも自分にとっては大きな変化で、俺らが今正しいと思うことはこれだよねということを重視して作品を作りました。伝えたいことは作品を見てもらえればわかると思うので作品をぜひご覧いただけたらと思います。」とメッセージを送った。
おぼんろ主宰・末原拓馬 開幕コメント
こうして初日を迎えられることに心から感謝します。10年前に描いた作品を、一度台無しにしようと心に決めて挑みました。
当時、賞もいただき、海を越えて上演もされた作品で、思い入れもある物語ではありましたが、10年前に自分が自分についた小さな嘘に気付き、衝動に身を任せて創りあげることにしました。
衝動に身を任せて作品を創り直すというのは実は多くの困難を孕む物で、恐怖に押しつぶされそうにもなりましたが、座組のみんなに包み隠さず相談したところ賛同して背中を押してくれました。
劇団員を含む九人の語り部を始め、スタッフ、製作委員会のみなさますべての仲間に感謝します。
参加者のみなさまにどう届くかはわかりません。いつになく、特定の感情を抱いて欲しいという思いを持たずに作品を用意しました。どうかこの物語があなたの物語となりますよう、心から願っています。
物語
岡山県、吉備の里には古くから温羅伝説というものが語り継がれている。
この伝説誰もが馴染み深い、かの桃太郎伝説のモデルとなったものとされ、温羅とは山に住む鬼、それを討つべく朝廷から派遣された吉備津彦は、桃太郎であるとされている。
ただの御伽話と思われていたこの伝説。
だが、近年、岡山県で実際に温羅が住んでいたとされる「鬼城」が発掘され、歴史学者たちの間に衝撃が走った。
『月の鏡にうつる聲』はこの温羅伝説を元に創られた物語。物語は、鬼退治から30年後、桃太郎が鬼の首を取って以来、雨が降り止まなくなった呪われた村から始まる。
武勇伝として語り継がれた鬼退治の裏に隠された残酷な愛の悲劇とは?
概要
劇団おぼんろ 第23回本公演 『月の鏡にうつる聲』
日程・会場:2023年8月4日(金)~8月13日(日) Mixalive TOKYO Theater Mixa
出演:萩谷慧悟(7ORDER)
石渡真修、井俣太良(少年社中)、塩崎こうせい、松村龍之介(五十音順)
さひがしジュンペイ、わかばやしめぐみ、高橋倫平、末原拓馬(以上、おぼんろ)
スタッフ
脚本・演出:末原拓馬
音楽:末原康志
舞台美術:松生紘子 衣装:村瀬夏夜 ヘアメイク:瀬戸口清香
照明:安永瞬 音響:前田規寛 演出助手:森菜摘 演出部:小枝真佑 舞台監督:清水スミカ
映像収録:オフィスクレッシェンド 収録監督:髙橋洋人
パンフレットスチール:MASA 舞台写真:三浦麻旅子 宣伝・グッズディレクション:大庭利恵
グッズ・パンフレットデザイン:門倉徳映 当日運営:佐藤奈々
制作:野元綾希子(toi project) 制作プロデューサー:小宮凜子
協力:イトーカンパニー / エースエージェント / 演劇ユニット『あやとり』/ 鮫島樹 / タイムリーオフィス / Birdman / polepole / ホワイトドリーム / ミュリアン / ロア (五十音順)
主催:劇団おぼんろ / 講談社 / ホリプロインターナショナル / ローソンエンタテイメント
製作:講談社 / ホリプロインターナショナル/ ローソンエンタテインメント
公演HP: https://www.obonro-web.com/tukinokagami
オンライン生配信
日程:8月11日(金)18:30の回
チケット:語り部9人のコメント映像特典付きチケット5000円/一般チケット3500円 (税込)
詳細: https://l-tike.com/tukinokagami/