舞台『フートボールの時間』が開幕した。
岐阜県の可児市文化創造センターalaは、毎年質の高い演劇作品をアーティスト・イン・レジデンスで創作し、可児公演、東京公演、そして全国公演へと作品をala Collectionとして発信。今回は、全国高等学校演劇大会で最優秀賞作品、丸亀高等学校演劇部「フートボールの時間」。大正時代に丸亀高等学校の前身のひとつ丸亀高等女学校の学生らがはじける笑顔でボールを蹴っている一枚の写真がこの作品の基になっている。
約100年前に撮られたその写真から丸亀は「日本女子サッカーの発祥の地」といわれる。なでしこジャパンとして国民から愛される日本女子サッカー界、当時の女学生らには良妻賢母になることが求められ、男尊女卑が当たり前だった時代に、フートボール(サッカー)に魅せらた女学生たちに対して「女が足を広げてボールを蹴るなんて、はしたない」と先生や家族、婚約者などから大反対。自分の好きなこと、やりたいことが、ただ女性という理由だけで咎められてしまう。想い悩みながらも、明るく仲間と共に前へと歩みを進める女学生たちの姿が「観る者」の心を打つ。
ala Collectionは優れた戯曲に焦点を当て、リメイクして再提示する公演企画。今回の潤色・演出を手掛ける瀬戸山美咲さんは現実の事象を通して、社会と人間の関係を描くことに長けた劇作家。瀬戸山美咲さんがジェンダーという物語の主軸を大切にし、当時の社会状況や人々の生活に着目しながら、現代へと通じる伏線を盛り込むことで、より重層的な物語として提示する。
瀬戸山美咲(潤色・演出)
初日を終え、みなさんにやっとお見せすることが出来て、ほっとしております。この作品は2018年の全国高等学校演劇大会で最優秀賞を受賞した作品を潤色しています。元の作品の女学生のはつらつとしたやり取りを大事にしながら、大人の物語を増やしました。写真師を目指す梅子さんとそのお父さんは、今回からの登場です。作品のもとになったフートボールをする女学生の写真があるのですが、これがとてもいい写真で、もし、この写真を女性が撮っていたら、という仮定から妄想を広げました。当時、女性の写真師は本当に少なかったので、あくまでも妄想です。とはいえ、現代でも職業におけるジェンダーギャップはあります。女性を取り巻く状況は劇的に向上したとはいえず、100年経っても変わっていないことは多い。だから、この物語は現代の私たちの物語でもあると思ってつくりました。結果として、未来に対する祈りのような作品になりました。これから、この祈りを現実に変えていきたいと思います。
可児での長い滞在は今回が初めてでしたが、本当に素晴らしい所だと実感しました。劇場の環境や人たちも素晴らしく、市民サポーターの方もバックアップしてくださって、とても集中して創作することができました。演劇をつくるのに必要な豊かな時間と空間が可児にはありました。ここで育てた作品を全国に届けるのが楽しみです。
堺小春
無事に初日の幕が開いて本当によかったです。女性が主人公の作品で、自分も女性ですから、台本を読んでいるだけで苦しくもなりますが、とても感情が動かされる作品なので、観るお客様にも何か届けられるものがあるなと思っております。こういう人たちが存在していたからこそ、今の時代があるんだなと感じています。
井上向日葵
自分が思っている以上に緊張しましたが、無事に終えられてよかったです。
前半はサッカーの楽しいシーンも多いのですが、辛いシーンもあるなと思いました。それは大正時代の女性の気持ちをまさに描いていて、とても演じるやりがいを感じています。
おかやまはじめ
いくつになっても初日は逃げたいくらい緊張しますが、この緊張感がたまらないんです。いざ始まると稽古通り出来てとても楽しめました。この作品は「青春グラフィティ」だと思っています。どの時代でも悲しい別れやいい出会いがあって、青春時代の思い出は誰にでもあります。そんな女学生たちのはつらつとした姿を見て、うらやましさを感じてます。
概要
ala Collectionシリーズvol.14
作:豊嶋了子と丸高演劇部
潤色演出:瀬戸山美咲
出演:
堺小春
井上向日葵
おかやまはじめ
近江谷太朗
林田麻里
谷川清夏
庄司ゆらの
桜木雅
北原日菜乃
日程会場:
可児:2023年10月18日(水)~22日(日) 可児市文化創造センターala
東京:2023年10月26日(木)~11月1日(水) 吉祥寺シアター
丸亀:2023年11月7日(火) 丸亀市綾歌総合文化会館
四日市:2023年11月11日(土) 四日市市文化会館
豊田:2023年11月12日(日) 豊田市民文化会館
佐野:2023年11月16日(木)~17日(金) 佐野市文化会館
埼玉:2023年11月19日(日) さいたま市文化センター
WEB:https://www.kpac.or.jp/ala/event_event/ala-collection14football231018/
舞台撮影:服部貴康