劇団スタジオライフ 手塚治虫 原作「アドルフに告ぐ」開幕

手塚治虫の代表傑作「アドルフに告ぐ」が開幕した。
第二次世界大戦前後の日本とドイツを舞台に、アドルフという名前をもつ3人の男がたどった数奇な運命と、国家という枠組みの中で翻弄される人間たちの悲劇を描く。初舞台化は1994年、俳優座、その後スタジオライフにて2007年に舞台化、2015年に再演。同年、神奈川芸術劇場で栗山民也演出で上演。スタジオライフでは今年、2023年、三度目の上演。なお、峠草平役は曽世海司、2007年から持ち役にしており、アドルフ・カウフマン演じる山本芳樹も2007年から演じ続けている。また、歴史的有名人物の3人目のアドルフ。ヒトラーの甲斐政彦も三度目、持ち役にしている。

舞台上には何もない。1人の男が登場する、名前は峠草平(曽世海司)、ここでは狂言回し的な立ち位置。この物語の説明をするので、作品をよく知らなくてもここで概略は掴める。1936年当時の映像、ベルリン・オリンピック、ヒトラーがオリンピックの開催を決めた後は、オリンピックを「アーリア民族の優秀性と自分自身の権力を世界中に見せつける絶好の機会」と位置づけた。ドイツは金メダル33、銀メダル26、銅メダル30、合計89個のメダルを獲得した。彼はベルリン・オリンピックの取材でドイツにやってきた。弟が留学中、弟に電話、懐かしい声、だが、彼は不安に怯えていた。胸騒ぎ、弟は殺された。兄である峠草平はその真実を追求するも彼もまた狙われてしまう。

映像で年が映し出される、1936年、場面が変わり、少年たち、1人をよってたかっていじめる。いじめられている少年の名はアドルフ・カウフマン(山本芳樹/松本慎也)、そこへ!もう1人の少年が現れて、いじめられている少年を助ける、彼の名はアドルフ・カミル(申 大樹/三上陽永)。「友達だね!」と2人のアドルフ、無邪気で楽しそう、だが、時代が2人を引き裂くことになるとは、もちろん当人たちは知らない。だから哀しい、観客はその末路を知っているから。父親のヴォルフガング・カウフマン(船戸慎士)は表向きは神戸の駐日ドイツ総領事館職員、その正体は目的のためなら殺人や拷問も厭わない非情なスパイ、反ユダヤ主義者。息子に「アドルフ・カミルとは付き合うな」「劣等民族」と言う。そんなある日、カミルは「ヒトラーがユダヤ人である」ということを盗み聞きしてしまう。カミルの残した告解メモからこのことを知ったカウフマンは、父ヴォルフガングにそのことをうっかり訊ねてしまう。おりしもナチス最大の機密であるその情報を追って阪神大水害真っ只中の街中に出て体調を崩していたヴォルフガングは激昂する。だが、まもなく病死、アドルフは父の遺言に従い、ドイツに帰国、アドルフ・ヒトラー・シューレに入る。当初は違和感を感じていたが、次第に反ユダヤ主義に染まっていく。

そんな折に、不法入国者として逮捕されていたカミルの父・イザーク・カミルを任務で射殺することになった。顔を見て愕然とする。「頭を狙え」と言われ、震える手で撃つ。一回で決められなかったことを上司に罵られるアドルフ・カウフマンだが、そこから何かが吹っ切れたように簡単に人に銃を向け引き金を引くようになる。だが、その一方でユダヤ人の少女・エリザ(松村泰一郎/伊藤清之)に好意を抱き、ユダヤ人狩りから逃れさせるために、親友カミルが住む日本に亡命させる。人間の二面性、やがて、アドルフ・カウフマンは筋金入りのSD(親衛隊保安部)幹部に…。もう1人のアドルフは、自分の信念を貫き通す、何事も簡単には諦めない。流暢な関西弁で喋る姿は”漢”。そして、歴史的有名人の3人目のアドルフ、言わずと知れたアドルフ・ヒトラー(甲斐政彦)、彼に関しては説明は不要であろう。

3人のアドルフとヒトラーをめぐる秘密文書が軸ではあるが、その軸を彩るサイドストーリーも見逃せない。夫が亡くなってから、峠草平と再婚する由季江(松本慎也/山本芳樹)、久しぶりに息子が帰ってくるもナチズムに染まった息子の考え方は許容出来るものではない。そして機密文書をめぐる攻防、終戦近い1945年、ようやく秘密文書を手に入れたアドルフ・カウフマン、だが、号外を手渡されて愕然とする。ヒトラーが亡くなってしまったからだ。
史実と虚構が入り混じり、人間関係を緻密に描いた原作、手塚治虫後期の傑作と評されている。単行本にして5巻、それをおよそ2時間20分ノンストップの舞台に仕上げているので、展開はスピーディー、時折当時の映像が映し出され、その歴史の残酷さを視覚的に感じる。白人と日本人、ドイツ人とユダヤ人と日本人、民族主義、国籍、そして正義と狂気。ベルリンオリンピック、ゾルゲ事件、第二次世界大戦、ドイツの敗退、日本の無条件降伏、イスラエル建国、ラスト近く、2人のアドルフはお互いに銃を向け合う、銃声。公演は11月5日まで。なお、この公演はDVD化が予定されている。

演出・倉田淳より
劇団スタジオライフは、手塚治虫氏の「アドルフに告ぐ」を来る10月26日から11月1日に東京芸術劇場シアターウエストにて上演致します。2007年に舞台化初演(銀河劇場)、2015年に再演(紀伊國屋ホール)、そして今回が3回目の上演となります。
第二次世界大戦を舞台に、同じ名前を持つアドルフ・カウフマン、アドルフ・カミル、そしてアドルフ・ヒトラーが辿った人生を、氏ならではの緻密な運命の巡り合わせの中で描いています。物語は1936年のベルリンに始まり、1973年のパレスチナで幕を閉じています。
物語の終焉から50年、世界はまた新たな火種を抱えています。混迷に突入しつつある今だからこそ、氏が遺してくれたメッセージを舞台という生身の感情を通して強く噛みしめたく思っています。
9月半ばにからスタートした稽古も佳境を迎えました。初演から物語の語り部である峠草平を演じる曽世海司、同じく三度目のアドルフ・ヒトラー役、甲斐政彦を中心に、劇団のベテラン、若手、また客演の皆さんと、座組一丸となって作品世界に取り組んでおります。
スタジオライフ版『アドルフに告ぐ』をぜひ多くの方にご覧いただきたいと思います。

STORY
1936年、ベルリンオリンピックの取材でドイツへ渡った峠草平は、ドイツに留学中だった弟を何者かに殺される。やがて弟がヒトラーに関する重大な秘密を知ったことにより口封じの為に殺され、さらにその秘密文書が日本へ向けて送られたことを知る。
一方、神戸ではドイツ総領事館員のカウフマンも本国からの指令を受け、文書の行方を追っていた。熱心なナチス党員である彼は、一人息子のアドルフを国粋主義者として育てようとするが、アドルフは強く反発する。同じ名を持つ親友のアドルフ・カミルが、ナチスドイツが忌み嫌うユダヤ人だったから・・・・・
時はヒトラーという独裁者が支配する暗黒の時代。
運命は二人の少年の澄んだ友情をも残酷に引き裂いてゆく—————

概要
タイトル:『アドルフに告ぐ』
原作:手塚治虫
脚本 演出:倉田 淳
期間会場:2023年10月26日(木)~11月1日(水) 東京芸術劇場シアターウエスト
CAST  ※一部Wキャスト
曽世海司 山本芳樹 松本慎也 大沼亮吉 前木健太郎 伊藤清之
申 大樹(深海洋燈) 三上陽永(ぽこぽこクラブ) 松村泰一郎(えりオフィス)
ミヤタユーヤ 山形敏之(劇団銅鑼) 馬場煇平(1カラット) 高尾直裕
船戸慎士 楢原秀佳 甲斐政彦
スタッフ
美術デザイン:乘峯雅寛 舞台監督:浦 弘毅(ステージワークURAK) 映像:倉本 徹 照明:山﨑佳代
音響:竹下 亮(OFFICE my on) 衣裳:竹原典子 ヘアメイク:川村和枝(p.bird) 宣伝写真:保坂 萌
宣伝デザイン:佃 美月 宣伝ヘアメイク:木村真弓 制作・票券:三國谷 花 企画協力:手塚プロダクション
企画制作:劇団スタジオライフ

WEB:https://studio-life.com/stage/adolf2023/

舞台撮影:保坂萌