テレビや舞台を中心に数多くの名作を世に送り出してきた脚本家 倉本聰の代表作「ニングル」が新作オペラとして2月に上演される。
本作が書かれた40年前、環境問題が今ほど取り上げられていなかった時代、早くもこの問題に警鐘を鳴らしている意欲作、オペラ「ニングル」として新たな一歩を踏み出す。倉本作品初となるオペラ化。
作曲はテレビ、映画の劇伴で活躍し、オペラ「禅 〜ZEN〜」の作曲で高い評価を得た渡辺俊幸。 オペラ脚本は原作者・倉本聰の信任が厚い吉田雄生が担い、オペラ脚本家としてデビューを飾る。
金がなければ暮らしていけない。だが、森がなければ生きていけない。《ニングル》は、未来を思って現実に 破れ死を選ぶ⻘年と、現実の為に未来を忘れ生き残ったもう一人の⻘年…その二つの現実の間で苦悩する二人の若者の相克のドラマ。
村をより豊かにするために、村人たちは重機を購入し森の木を伐採し農耕地を拡げたところ、大雨で土砂 崩れが起きると村に土砂が流れ込み、作物は全滅。本作で語られる「森の木を大事にしろ、人類が欲望を満たすために切り開いた森を、種からもう一度呼び戻せ。生命を未来につなげろ」というメッセージは、2015年に国連で採択され 2020年にスタートした“SDGs”(持続可能な開発目標)と正に重なっている。
倉本聰は、40年ほど前のこの作品で、欲望のままに自然環境の破壊を繰り返す、行き過ぎた文明社会が招く悲劇を既に予告しており、取り返しのつかなくなる前にそのことに気付き、引き返す知恵と勇気を持つことの大事さを、この作品で訴えている。
あらすじ
富良野岳の山裾にピエベツという村があった。勇太や才三ら若者たちは森を伐採し、農地の新たな開拓を 計画していた。勇太とかやの結婚式の夜、勇太と才三は勇太の姪のスカンポを連れて森を訪れ、そこで不思 議な生き物と出逢う。15 センチくらいの小さな人間。かつてアイヌの先住⺠たちは彼らを「ニングル」と呼 んだ。ニングルは勇太と才三に告げる。「森ヲ伐ルナ、伐ッタラ村ハ滅ビル」。ニングルの言葉を信じる才三 とニングルの存在を否定してしまう勇太。才三は村から孤立してしまった。
しかし、やがて。村は大洪水に襲われ、豊かだった水が枯れた。増えるはずの収穫は思い通りにはいかず、 人々は借金に苦しめられた。ニングルの予言通り、村は破滅へと向かってしまったのだ。本当の豊かさとは、 本当の幸せとは何なのか、そして人間は、「生命の木」を未来に繋ぐことができるのだろうかーー。
概要
日程・会場:2024年2月10日(土)〜12日(月振) 14:00 めぐろパーシモンホール 大ホール
*13:15〜 会場にて解説
※上演時間:約2h30m(休憩1回)
指揮:田中祐子
演出:岩田達宗
出演
勇太(ユタ):須藤慎吾/村松 恒矢
才三:海道弘昭/渡辺 康
ミクリ: 別府美沙子/相樂和子
スカンポ:中桐かなえ/井上華那
光介:杉尾真吾/和下田大典
信次:⻩木 透/勝又康介
⺠吉:久保田真澄/泉 良平
ニングルの⻑:江原啓之/山田大智
かや:丸尾有香/⻑島由佳
信子:佐藤恵理(両日)
合唱:日本オペラ協会合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団