『パートタイマー・秋子』は、2003年に永井愛が劇団青年座に書き下ろし、再演を重ねた人気作品。このたび、作者の永井愛が自ら演出を手がけ、初の二兎社公演として装いも新たに上演。
初演から20年が経過、非正規労働者は増大し、格差が広がるばかり。組織の上層部が公然と嘘をつく昨今。ヒロイン・秋子は長寿ドラマ『科捜研の女』で知られる沢口靖子。二兎社への参加は、『シングルマザーズ』(2011)以来13年ぶり。“いかにも場違いな”新米パートとして、傾きかけたスーパーに波紋を起こす。また、二兎社初出演の生瀬勝久が、一流企業をリストラされ、慣れない仕事に四苦八苦するパート従業員を演じる。さらに、『ブレイキング・ザ・コード』で、2023年上半期読売演劇大賞男優賞にノミネートされ、NHK 連続テレビ小説『らんまん』の植物画家役でも注目を集める亀田佳明が新任店長に扮するほか、個性豊かな俳優陣が脇を固める。
物語の場所はスーパー「フレッシュかねだ」の事務所。整理整頓されているとは言い難く、物が雑然と置かれている。中古の冷蔵庫、小さいスーパーにはよくあるのだが、従業員の飲料など、ここで保管。休憩時間になるとここからお茶やらアイスやらを取り出す。まさに”生活感”丸出しの事務所。ここで大きな声で接客用語を復唱している従業員が。「いらっしゃいませ」「ありがとうござました」「少々お待ちくださいませ」誰もが聞いたことがある決まり文句。それを復唱しているのは新人パート・秋子(沢口靖子)。紺のスカートに白いブラウス姿。そこへ従業員が入ってくる。一瞬びっくり。
様々な立場の、そして皆、自分の担当がある。店長(亀田佳明)が入ってくる、秋子を紹介。この店長も人事異動でここにきたばかり。よって古株パートさんの方が店をよく知ってたりする、という状況。開店以来ここで働く小笠原(水野あや)、勤続21年、つまり「フレッシュかねだ」は21年目、相当古い店舗だと言うことがわかる(オープン当初は文字通り「フレッシュかねだ」!!だったのかな?と)。また、彼の部下になる副店長は店長よりかなり若い。秋子はチェッカーとして働くことに。秋子は夫の会社が倒産、それでパートに。だが、長年のセレブ生活、近所ではパートはできないので、ちょっと離れた「フレッシュかねだ」を選んだのだった。服装からしてセレブ感漂う秋子、同僚となる面々はすぐに秋子の状況を見抜く、家庭の経済事情でここにきたのだということを。ここには貫井(生瀬勝久)という従業員がいるが、店長、副店長よりずっと年長、白髪混じりの中高年。
彼もまた、勤めていた会社(世間的にいい会社)をリストラされ、ここで働いている。年下の副店長に怒られたりするも怒り返さない。そうしないとやっていけないからだ。秋子と貫井はある意味”似たもの同士”。働く意欲の無さそうな者、世渡り上手そうな者、自分の意見も言わずに静かに物事をやり過ごしたいと思う者etc.皆、どこかにいそうな人物ばかり、至って普通な人々。前の店長のやり方に慣れている面々は新しい店長に対しては一応「上司」。新しい店長は彼は彼なりに店の売り上げをアップする方法を模索中。1幕では、スーパの人間関係やヒエラルキーなどが見えてくる。ちょっと身につまされたり、「あるある」と思ったり。そしてなんとか着任した店で結果を出したい(本社にいい顔したい)店長、でも”今のままでいいじゃん”と考える従業員も実際にはいる、前途多難。秋子の想像を超えたディストピア。貫井はそれを通り越して、今の貫井がいる。このディストピアに慣れっこな従業員たち。そしてある意味、”やりたい放題”。商品をちょろまかすぐらいのことは日常、噂話も当たり前、秋子のセレブな空気感を察知してあーだこーだとわちゃわちゃと。また店長は細々と”改革”を試みたり。それに何気に反発する従業員、つまり現状の方が居心地がよかったり。店長の業務命令に不服そう。2幕は歌から始まる。店のテーマソング(替え歌)、ここは客席からもクラップが起きるほど、大盛り上がり!すったもんだな展開、スーパー「フレッシュかねだ」はどうなるのか???が大体の流れ。
最初はおっとりとした空気感の秋子がパートで働きに出たことで知る様々なこと。この”荒波”に揉まれながら、変わっていく秋子を沢口靖子が好演。哀愁漂うもどこかおかしい貫井は生瀬勝久、可哀想な貫井だが、ちょこちょこと客席を笑わせてくれる。店長の恩田は亀田佳明、コミカルな味付けで挙動も可笑しく、新任店長として奮闘する様は思わず応援したくなる、何気に”圧”がある青果担当・春日勇子(土井ケイト)。そのほか自信なさげな惣菜担当・窪寺(稲村梓)、皆と距離をとる副店長・竹内(小川ゲン)、すぐにソファーで寝そべる鮮魚担当の師岡(吉田ウーロン太)、カラオケ好きなチェッカー・星(関谷美香子)、自分の立ち位置を無意識に感じている風なチェッカー主任の新島(石森美咲)、地味目な精肉担当の小見(田中亨)。登場時間は短いが万引きする老人(石井愃一)、かつては「フレッシュかねだ」の近くで八百屋を営んでいたが…この日ふらっと。この老人の話はちょっと泣ける。「フレッシュかねだ」という”小さな世界”で起こる日常、だが、そこには普遍的なものが流れている、目先の利権が大事、そのために正義は”脇に置く”彼らだが、それを真っ向から否定できない昨今、そうしないと彼らは「フレッシュかねだ」にいられないからだ。ハッピーエンドでもなく、バッドエンドでもなく、ただ、この日常がきっと続いていくのだな、と思わせるラストシーン、そうやって「フレッシュかねだ」は続いていく。なお、ロビーのスタッフはスーパーのパートさんのごとくエプロン姿。芝居が始まる前から雰囲気を盛り上げる。公演は2月4日まで。
永井愛インタビュー記事
あらすじ
樋野秋子(沢口靖子)は成城でセレブな生活を送る専業主婦。だが、夫の会社が倒産したため、働くことを決意する。パートタイマーとして働く姿を近所の人に見られたくなかった秋子は、自宅から遠く離れたスーパー・フレッシュかねだを勤め先に選んだ。しかし、そこは秋子の想像を超えたディストピア的世界で、賞味期限の改ざんやリパック、商品のちょろまかし、 いじめなど、あらゆる不正が横行している。正義感が強く世間知らずでほかのスタッフから浮いてしまう秋子は、大手企業をリストラされ、この店で屈辱に耐えながら働く貫井(生瀬勝久)と心を通わせるようになるが……。
概要
日程・会場:2024年1月12日~2月4日 東京芸術劇場シアターウエスト
作・演出:永井 愛
出演
沢口靖子 生瀬勝久
亀田佳明 土井ケイト 吉田ウーロン太 関谷美香子
稲村梓 小川ゲン 田中亨 石森美咲
水野あや 石井愃一
美術:大田 創/照明:中川隆一/音響:市来邦比古/衣裳:竹原典子 ヘアメイク:清水美穂/舞台監督:澁谷壽久
共催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京芸術劇場
主催:二兎社
全国公演
日程・会場
2月7日(水) 宮城/えずこホール(仙南芸術文化センター)
2月10日(土) 滋賀/滋賀県立 芸術劇場びわ湖ホール
2月12日(月祝) 愛知/穂の国とよはし芸術劇場 PLAT
2月14日(水) 新潟/りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館
2月 17日(土)・18日(日) 長野/まつもと市民芸術館
2月21日(水) 愛知/パティオ池鯉鮒(知立市文化会館)
2月23日(祝) 埼玉/所沢市民文 化センター ミューズ
2月25日(日) 埼玉/富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ
2月28日(水) 福岡/大野城まどかぴあ
3月2日(土)・3日(日) 兵庫/兵庫県立芸術文化センター
3月8日 (金) 山形/東ソーアリーナ
3月10日(日) 山形/川西町フレンドリープラザ
3月13 日(水) 富山/オーバード・ホール
3月16日(土)・17 日(日) 石川/能登演劇堂
公式サイト:http://www.nitosha.net/index.html
舞台撮影:本間伸彦