マルチ・クリエイター 末原拓馬 インタビュー 

「 物語は世界を変える」をモットーとした普遍性のあるファンタジー作品を作り出す劇団おぼんろを主宰する末原拓馬。脚本家、演出家、役者だけでなく、絵描き、ミュージシャンなど様々にクリエイティブ活動をしている。今年2024年も様々な活動が控えている末原拓馬さんに演劇をやろうと思ったきっかけや演出のこと、これからのことを大いに語っていただいた。

ーー演劇をやろうと思ったきっかけは?

末原:いわゆる、「中高演劇部でした」とか「小さいころから演劇観てました」とかそういうのではなくて。大学になってからですね。突然始めたものだからみんなが驚いちゃった(笑)。クラスも演劇部門じゃなかったし。テレビとかも興味がないから、なおさら。とはいえ父がミュージシャンなのもあって、アートをやるのかなみたいなのは漠然とありましたよね。自分の人生はそっちなんだろうなと。ちなみに、小中高は運動部、バスケでした。大学行くとプロになるかならないか、みたいになるじゃないですか。でも自分はスポーツの世界にいかないだろうなと思っていて、そのときポロッとはじめたのが演劇だったというわけ。そのきっかけも、受験勉強の帰りに、中野にある劇場の扉を開けたこと。で、誰もいない舞台に立ってみちゃった。そのとき「いろんな景色が見える」と思ってね。それでです。

ーーそんな、ささいなことでも入っていったのに、もう20年以上も演劇を続けていますよね。

末原:我ながらすごいですね、そう考えると。そんなに続いていたとは。

ーー演出までやるのと、出演だけなのと、なにか違いはある?

末原:最初はやっぱり、たまたま三役から始めていたから。周りの先輩たちからは「1個に絞らないとダメだ」って言われていたんですよ。自分としては、自然に思いついたものだし、なにも問題はなかった。それこそ音楽家のイメージがあって。自分で曲作って自分でアレンジして自分で歌って、みたいな。ここ10年くらいかな、「三役やるの板についてきたね」って言われるようになったのは。

ーー確かに、先輩たちが言った「1本に絞る」というのはわからなくもないですけどね。たいへんそうだなという印象があるから。

末原:海外とかだと、演出家が俳優やってたりとかあるんですってね。でも個人的には座長芝居的なのは抵抗あってやりたくなかった(笑)。三役やりはじめた最初の方は、わざと自分の出番を減らしたりはしてましたけど、その後自分だけで一人芝居やりつづけて、自分なりのスタイルを見つけた感じ。

ーー末原さんは、舞台もそうですけど絵も描いていますよね。舞台と絵と、カテゴリーは異なる?

末原:いや、同じですね。美術作るとか、そういうのも実績がないと。僕の場合は一人芝居、俳優をやることと脚本を作ることは当然やっていたわけですけど、餅は餅屋みたいに、絵はプロに頼まないといけないのかなと。全部自分でやったら死んじゃうから、これくらいは頼んだほうがいい、という先輩たちのアドバイスなんですけどね。でも、慣れるもので、長く続けてきた今では美術も音楽も自分で作ったりしてます。

ーーおぼんろの公演だけでも相当な数やってますよね。

末原:それでも、本公演はなるべく数を減らすようにしてます。番外編とかをちょこまかやってるから、数え切れなくなってるんじゃないのかな(笑)。

ーーそういえば近頃、はじめて海外公演をしたようですね。

末原:はい。2023年に、モルドバ共和国に行きました。

ーー海外の方の反応は、やはり違うのでしょうか。

末原:そうですね。ありがたいことに、とてつもない盛り上がり方をして。どちらかというと、やはり海外に向いていたというか。路上で演劇をやっていたようなところですし。最初はカメラの撮影も自由にしていい、と言っていたんですね。楽しければ楽しんでもらいたいし。ルールもいらないし。僕はもともと、日本で観る舞台の「静かにしないといけない」というのがすごく嫌だった。とはいえ自分も中堅どころになってきましたから、そういう先人たちの作り上げた「日本の舞台文化」にももちろんリスペクトはしていますけど。でもやはり、海外行くと違うんですよね。みんなちゃらんぽらん(笑)。声を上げるのはもちろん、酒は飲むわカメラは撮るわ、まるで友達に観せてるみたい。でも、このほうが自分としては性に合っているんですよ。もしかしたら、国によるというか、モルドバ共和国だけなのかもしれませんけど(笑)。

ーー確かに、海外だとお客様のノリが違いますよね。ロンドンのオペラもそうだったし……。

末原:違うよね。お客様がコスプレとかしてたり。でもそういうことなんですよね。全身で楽しむみたいな。路上でやってたときも、対話があるし、本編中もお客様にものを渡したりとかしていて。それ、今は「ファンサ」になっちゃうんですよね。客層が変わったから。でも僕としてはそれに少し傷ついたんですよ。だってなにかをいただきたくてやってるわけじゃないのに、遊んでるだけなのに「サービスがいい」ってなるのはおかしいかなと。それからは観客側と距離をおいたこともあったっけ(笑)。でも、海外に行って、久しぶりにファン目線じゃない反応が返ってきたから「これこれ!」とうれしくなりました(笑)。

ーーとはいえ、少しずつ日本も変わってきていますよね。ステーキやワインが出てくる舞台もあったし……。

末原:でも、そのぶんチケット代を上げざるを得ないということも出てきちゃった。だから逆行したイメージなのかもしれないけど、安ビール片手にガハハと笑いながら観る、僕が始めたときの演劇ってそんな感じだった。「言い値公演」ってあるじゃないですか。僕としてはそっちが当たり前となるといいなと思っています。それに、みんなコロナをきっかけに「新しい切り口を」ってなったけれど、どこもかしこもそれを模索してちょっと変わり種の舞台をやってみたりして。それを見てると逆に「スタンダードで行くわ」ってやりたくなる(笑)。

ーーなんだかんだ20年やってきて、今後やってみたいこととかある?

末原:うちは大きいテント作ったり、建物借りて歩き回ったりしてて。でもそれもイマーシヴっていうのが出てきちゃいましたけれど。変わったものをやるというよりかは、お金がないから路上でやってたわけで(笑)。それをみんなが喜んでくれたからこそここまで来られた。だから奇を衒いたい気持ちはあんまりないんですよ。演劇にさえみんな慣れている、感動しなくなっているのであれば記憶に残る公演をしたいと思うし。演劇の間口って微妙な言葉だと思うんだけど、なぜなら今いる人たちも大事だしね。個人的には、もっと自然な、「パンを食う」くらいの雰囲気でいいと思ってます。あと、劇団を大きくするというのが自分のモチベーションであったわけですが、最近は規模よりもエネルギーの純度を高めたいというか。今は作ることにどんどん集中力が高まっていて。舞台の絵も、台本もいくらでも書けるし、時間が足りなくて足りなくて。もっとスケジュールを細かく詰めたいくらい。でないとやりきれないし、もどかしいんですよ。仲間もどんどん増えてきてますしね。毎回出会うたびに「また絶対、次もやろうよ」って言うんだけど、次にはもう呼べるチャンスがなくなったりしている。次は3年後でないと、とかね。

ーーそうなってくると、なかなか難しいですね。

末原:本当に。芝居は本当に時間がかかるね……。

ーーいわゆる外部出演も増えてきてますよね。刺激を受けているのでは。

末原:ですね。結構、求めてもらえるようになってきたかな。ただ、悪い現場も多くて。演出に「えーっ」って思うものもあるし。今で言うハラスメントっぽいのもあったりして、ちょっと嫌なんですよね。たぶん、一部の人は僕には脚本と演出だけやっててもらいたいんじゃないかな。どんどん卵を生んでほしいみたいな。でも、自分で出ないと作れなかったり、発動しないものもあるから。10月にシェイクスピアをやらせてもらったんですが、「人」の言葉を吐いて、「人」とやって、という感覚が鈍るとダメな気がするんです。特に、僕は芝居以外のプライベートにそれほど興味がないけれど、とはいえ本を作るには体験が必要じゃないですか。だから物語の中で演じていないと「自分の体験」ができない。この前もモルドバからチェコ、ドイツに行ったのに、建物や景色を漠然と見ても感動が薄い。なぜならその原因は「僕の物語が乗ってない」からで、やっぱり演じてるときでないと、と思うんですよね。

ーー2月にも公演を控えていますが、今後はどんな感じ?

末原:本当に自分のことを深めてみたくて。絵の個展もやりたいなと考えてたり。書きたいものもあるし。日本独自の、1回だけやったら終わり、というのがどうもなじまないんですよね。書いている身からすると、たった1週間程度で終わるっていうのがどうもね。新作作るにしても、それが古典になるような、もっと大きく、長くあちこちやれるシステムになってくれたらなと思うんです。以前は、自分の劇場を持ちたいなと思っていたんですが、そうなると運営に必死で、ほかのことが雑になりそうだから(笑)。だから、運営側の社長になりたい気持ちは今はないかな(笑)。現状、日本の劇場自体が、どんどんなくなっていってますけど……。個人的には、自分のプロジェクトがずっと回っていくのが理想でしょうか。そうそう、全国各地の子どもとやるのも楽しいから、それも続けていきたいですね。

ーー子どもの反応って素直ですものね。

末原:素直だよね。つまらないものはつまらないって顔に出しちゃう。大人はそうではなくて「自分にメリットがあるか」を考えるんです。自分の勉強になるか、とか泣ける、とかね。そういう差し引きがないところでやりたいから、子ども相手にやるのは自分に合っている気がします。やるたびにいらない要素がわかるから、より磨き上げられますし。ある意味文化に縛られることなくやれるのが、いいですよね。

ーーはい。また、楽しい舞台をお願いしますね。

末原拓馬今後の予定
<出演>
舞台『ロッカールームに眠る僕の知らない戦争』
日程・会場:2024年2月2日(金)~2月4日(日) 草月ホール
脚本・演出:なるせゆうせい
出演:
東拓海、相楽伊織
伊万里有、佐藤祐吾、倉知玲鳳、磯野亨、末原拓馬
あまりかなり、丸尾聡、久下恵美、柊木智貴、青地洋、舛田大樹  他
企画:オフィス・インベーダー
主催:「ロカ僕2024」製作委員会
公式サイト:https://www.rokaboku-stage.com/

<脚本・演出>
剣劇「三國志演技~孫呉」
日程・会場:2024年4月5日(金)~ 4月16日(火) 明治座
脚本・演出:末原拓馬(おぼんろ)
出演:
周瑜:荒牧慶彦 孫策:梅津瑞樹
孫権:廣野凌大 程普:富田 翔 ⻩蓋:高木トモユキ 韓当:郷本直也
劉表:冨田昌則 太史慈:早乙女友貴
⻩祖:玉城裕規 孫堅:松本利夫(EXILE)
企画:荒牧慶彦
主催:剣劇「三國志演技~孫呉」製作委員会
公式サイト: https://kengeki-sangokushi.com

末原拓馬オフィシャルサイト:https://www.sueharatakuma.com

撮影:金丸雅代
取材:高浩美
構成協力:佐藤たかし