テレビや舞台を中心に数多くの名作を世に送り出してきた脚本家 倉本聰の代表作「ニングル」が新作オペラとして2月10日より開幕する。
本作が書かれた40年前、環境問題が今ほど取り上げられていなかった時代、早くもこの問題に警鐘を鳴らしていた意欲作が、オペラ「ニングル」として新たな一歩を踏み出す。作曲はテレビ、映画の劇版で活躍し、オペラ「禅 ~ZEN~」の作曲で高い評価を得た渡辺俊幸。 オペラ脚本は原作者・倉本聰の信任が厚い吉田雄生が担い、オペラ脚本家としてデビューを飾る。倉本聰は、40年ほど前のこの作品で、欲望のままに自然環境の破壊を繰り返す、行き過ぎた文明社会が招く悲劇を既に予告しており、取り返しのつかなくなる前にそのことに気付き、引き返す知恵と勇気を持つことの大事さを、この作品で訴えている。開幕直前、総監督の郡 愛子さんのインタビューが実現した。
ーー今回のオペラに「ニングル」を選んだ理由をお願いいたします。
郡:近年、海外のオペラの傾向は、母語による自国独自のオペラが盛んになりつつあります。とくに若年層のオペラファンにそれが顕著です。
世界の若者の傾向は同様の方向を目指しているので、日本オペラ協会もオペラのファン層を拡大するために、現代社会を反映し、 なおかつ普遍的な価値観を擁するオペラの発掘に努めております。そのような折に江原啓之さんから「ニングル」をご提案いただき、オペラ化へと動き出しました。
ーーオペラ化に際して気をつけたことや心がけたことなどお願いいたします。
郡:原作者の倉本聰先生が長年に亘り改稿を重ねて来られた大切な戯曲のオペラ化ですので、先生のご信任の厚い吉田雄生さんに先生からオペラ化のご承諾を得ていただき、吉田さんにはさらにオペラ脚本を手掛けていただきました。
ーーズバリ、見どころを教えてください。
郡:まさに現在世界が抱えている自然環境の破壊がもたらす、“人災”を巡ってのドラマですから、他人事ではなく皆さんが身につまされる筈です。
ストーリー展開はもとより、とにかく圧倒的なスケール感のドラマティックな音楽、そして感動的なアリアのオンパレードです。すべてのシーンにおいて選び抜かれた歌い手たちによる歌と演技に惹きこまれること間違い無しです。
ーーありがとうございました。公演を楽しみにしております。
あらすじ
富良野岳の山裾にピエベツという村があった。勇太や才三ら若者たちは森を伐採し、農地の新たな開拓を計画していた。勇太とかやの結婚式の夜、勇太と才三は勇太の姪のスカンポを連れて森を訪れ、そこで不思議な生き物と出逢う。15センチくらいの小さな人間。かつてアイヌの先住民たちは彼らを「ニングル」と呼んだ。ニングルは勇太と才三に告げる。「森ヲ伐ルナ、伐ッタラ村ハ滅ビル」。ニングルの言葉を信じる才三 とニングルの存在を否定してしまう勇太。才三は村から孤立してしまった。しかし、やがて。村は大洪水に襲われ、豊かだった水が枯れた。増えるはずの収穫は思い通りにはいかず、人々は借金に苦しめられた。ニングルの予言通り、村は破滅へと向かってしまったのだ。本当の豊かさとは、本当の幸せとは何なのか、そして人間は、「生命の木」を未来に繋ぐことができるのだろうかーー。
概要
日程・会場:2024年2月10日(土)~12日(月・振) 14:00 めぐろパーシモンホール 大ホール
*13:15~ 会場にて作品解説あり
※2月10日・11日は、公演終了後アフタートークあり
※上演時間:約2h30m(休憩1回)
台本:吉田雄生(オペラ脚本)
作曲:渡辺俊幸
指揮:田中祐子
演出:岩田達宗
出演
勇太(ユタ):須藤慎吾/村松恒矢
才三:海道弘昭/渡辺康
かつら:佐藤美枝子/光岡暁恵
ミクリ: 別府美沙子/相樂和子
スカンポ:中桐かなえ/井上華那
光介:杉尾真吾/和下田大典
信次:黄木 透/勝又康介
民吉:久保田真澄/泉良平
ニングルの長:江原啓之/山田大智
かや:丸尾有香/長島由佳
信子:佐藤恵理利(両日)
合唱:日本オペラ協会合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団