田中哲司, 安達祐実 etc.出演 赤堀雅秋プロデュース新作 『ボイラーマン』絶賛稽古中!取材会レポート

新作・赤堀雅秋プロデュース『ボイラーマン』が3月7日より本多劇場にて上演される。
時に無様な、時に滑稽な、そんな様をみせる人間たちの機微を独自の観点から描き出し、独特のユーモアを交えながら、あたかも観客が登場人物たちの日常を覗き見しているような不思議な空間へと誘う、劇作家・演出家・俳優であり、近年では映画の監督も行う赤堀雅秋が新作書き下ろし『ボイラーマン』を上演。只今、稽古中、その初日、取材会が行われた。登壇したのは赤堀雅秋、そして、田中哲司、安達祐実、でんでん。

ーー初日の稽古を終えて、今の心境や手応えを伺えますか。

赤堀:劇作家としては、いつも以上に迷走して勝機を見いだせない状況です。でも自分の名前を冠した芝居作りの場だからこそ、各所に迷惑をかけてしまうかも知れませんがきっちりチャレンジはしたい。狭いコミュニティ内での、ドロドロした人間関係を描こうとも思いましたが既視感があり、自分なりの挑戦をしたくて今回の設定に手を伸ばしました。「俺、どうなっちゃうんだろう……」という不安と、常とは違う期待やワクワクが同居している今。立っているだけで魅力がにじむ、何を託しても体現して下さる登壇の皆さんの力を借りながら、この先に何があるかを一緒に見届けたいと思います。

田中:今朝5時に起きたら台本冒頭部分が送られて来ており、「来てる!」とすぐに読み始めました。ページをめくるうちに「今までにないテイストだ……」とドキドキしました。これまでは、自分にとってご褒美だった赤堀作品への出演が、今回は大きな挑戦になるな、と。いわば「ザ・演劇」、演劇でしかできないことが書かれた戯曲です。赤堀君自身の挑戦する覚悟も感じれましたし、この困難を座組の皆さんと一緒に乗り超えた先には、素晴らしい景色が見えるのではないかと思っています。

安達:今日は、とても緊張していましたが、結果的には新鮮で楽しい稽古の時間を過ごすことができました。演劇の経験はまだ少ないですし、数多くの舞台にたっていらっしゃる皆様と共演させていただくことにプレッシャーも感じますが、間近で演技を見たり、赤堀さんの演出を受けることには、ワクワクや楽しさのほうが勝っていたんです。スキルもまだまだ足りませんが、稽古の今から自分のできることを全力で役と作品に注ぎ、日々一生懸命創作に邁進したいと思っています。

でんでん:朝、いただいた戯曲の自分の台詞だけでも稽古までに入れようとしましたが、やはり入らない。なので、初日の2週間前までには戯曲を完成させていただければ、半分は(頭に)入るかな、と(笑)。でも内容は演者の自分たちにとって非常に面白く、色々な入り方ができそうだとも感じました。また、それをやり遂げるスタミナも必要で、今日の稽古だけでもクタクタです(苦笑)。早く不安を乗り越えて、ワクワクだけの領域で芝居をしたいなと思っています。

ーー演劇でしかできないこと、その魅力についてどのようにお考えですか?

赤堀:稽古や上演を通して、つくり手側なりの完結した創作は必要ですが、演劇は観客と双方向のコミュニケーションを含めて初めて完成するもの。100人観たら100通りの感じ方、持ち帰り方をしていただくのが健全だと思っています。もっとも、それは映画に対しても同様で、その辺りを演劇だから、映画だからと自分の中で線引きする気持ちはありません。それは演じる時もつくる時も同じで、そこは自分にとって観る人に委ねている部分かも知れません。

田中:演技に関して、舞台と映像で大きな違いがあるとは思っていません。ただ舞台は声を大きく、映像はイイ感じで声を小さめに、というボリューム調整は必要かもしれません(笑)。あと、緊張の種類が舞台と映像は違うと思います。舞台は走り出したら止まれないので、始まる前の緊張が大きいですね。映像は撮り直しができますが、NGを重ねると周囲が明らかに気遣ってくれて、お茶を出していただいたり、食事休憩が早まったりする状況になることもあります。そういう時は申し訳なく居たたまれません(苦笑)。

安達:私は映像との違いがわかるほど、舞台の経験を積んでいないのですが、映像と違って舞台は、お客様が好きな時に好きなところを観ることができるという、「観方」は大きな違いだと思います。だからこそ、舞台の演技や表現にはごまかしがより利かないのではないでしょうか。もちろん、映像でのお芝居もごまかしてはいませんが(笑)。

でんでん:ノンストップで進行する舞台とカットがかけられる映像、という違いはあっても真剣に取り組む姿勢は変わらないし、終わった後にクタクタになるのも一緒です。それを楽しめるかどうかは(役者)本人の気持ち一つですが、最近の自分はクタクタになるばかりで、昼夜2回公演と聞くとめまいがするほど(笑)。でも同時に、クタクタになるほど全力でエネルギーを注げる作品、役に出会うのは役者としての幸せでもあるので、そういう出会いに恵まれることは、喜ばねばならないと思っています。

ーー俳優お三方の、この作品での役どころや、担う役割はどんなものになりそうですか?

赤堀:それを今、一番知りたいのが自分ですね……。今までの作品は、役名も職業や年齢も戯曲に明記し、関係性も設定してあるのですが、今回は別役実さんの戯曲のように「中年男」や「老人」など匿名性の強い登場人物になっているんです。それは、今の世の中の空気感を作品に映すために必要だと、今回は思えて。
不安や不満が蔓延し、一つ間違えば暴発しそうな状況、正義を振りかざし、“あるべき”を他人に押しつける風潮にも人間にも自分はうんざりしているんです。それらを描くため、劇作家として登場人物との距離感を今回は変えました。そういう意味では田中さん、安達さん、でんでんさんが演じる3人の登場人物は全員、何かしら「負」となるものを抱え、それが劇中漏れ出す瞬間があるはず。そこに、観客の皆さんが共感してくださればいいな、と思っています。
あとこの作品を書くに当たって画家・横尾忠則さんがY字路をモチーフにした絵を何枚も描いている、その絵画群と、劇作家・三好十郎の『夜の道づれ』という2人の男がひたすら甲州街道を歩く戯曲に触発されたんです。そんなあやしげで、さびしげな世界観を舞台に出現させ、目の前の現実に唾を吐きかけたいと思っています。

ーー赤堀作品の経験者であるお二人に、今、訊いておきたいことはありますか?

安達:稽古中はジャージがいいかな、と今日一瞬思いました(笑)。逆に何かアドバイスをいただけたら……(田中から「困った時は大声で」と。でんでんも「それに尽きます」と)わかりました! 心がけます(笑)。

ーーご自身の役柄について抱いているイメージはどんなものですか?

田中:爆発するかもしれないし、しないかもしれない。何か抱えていることは確かですが、他はまだ全く見えません。どの方向でも対応出来るように、とはいえ現状は目の前の台詞を覚えることで必死というのが正直なところです。ただ、冒頭15pで既に「ボイラーマン」は登場しています(笑)。

でんでん:その「ボイラーマン」を台詞で言うのは私で、「まさか自分が……」と思いました(笑)。どんな役でも自分で演じる限りは、どこかに魅力がある人物にしたいんです。人としての可愛げや面白み。そういう要素は入れて演じたいですね、「老人」がどんな展開を辿る人物であろうと。せめて「老人の中の老人」くらいにはしたいかな(笑)。

概要
作・演出:赤堀雅秋
出演:田中哲司 安達祐実 でんでん 村岡希美 水澤紳吾 樋口日奈 薬丸翔 井上向日葵 赤堀雅秋
日程・会場:2024年3月7日(木)〜20日(水・祝) 本多劇場
企画・製作:コムレイド
問合:boilerman2024@gmail.com

公式 HP:https://www.comrade.jpn.com/boilerman/

撮影:和田裕也