新国立劇場 演劇 2024/2025シーズン ラインアップ発表会レポ

新国立劇場の演劇、2024/2025シーズンのラインアップ発表会が行われた。登壇したのは芸術監督の小川絵梨子。

2024 / 2025シーズンの幕開けは10月、小川絵梨子演出、マーティン・マクドナーの『ピローマン』(2003年)、アイルランド以外を舞台に芝居としては初めて上演作品、架空の全体主義国家を舞台にするもので、作家がグリム兄弟ふうの自作の短編の内容について尋問を受けるという内容、理不尽で残酷な世界における「物語」が持つ役割や意義、紡ぐべき希望について問いかける作品。「10年ほど前に一度やりまして、今回はコンセプトを一新した形で上演します」とコメント。さらに「コロナ禍で演劇が止まったときに、個人的な勉強会の場で『ピローマン』を取り上げまして…なぜ物語が必要なのか、物語の意義について考えました。今回の上演ではその点に重きを置いた上演になると」と語った。

(左から)成河、亀田佳明

11月は新作『テーバイ』、構成・上演台本・演出を手がけるのは船岩祐太。新シーズン唯一の新作、船岩は新国立劇場に初登場。「『こつこつプロジェクト』から上がってきた作品です」とのこと。「1年以上の“こつこつ”を続けてきた作品を、さらに稽古を重ねて上演いたします」と語る。原作はソポクレスの『オイディプス王』『コロノスのオイディプス』『アンティゴネ』現代まで作品が伝わる古代ギリシアの三大悲劇詩人の一人。また、多くのキャストが”こつこつ”からの参加となる。

(上段 左から)植本純米、加藤理恵、今井朋彦
(下段 左から)久保酎吉、池田有希子、木戸邑弥

12月は『白衛軍 The White Guard』演出は上村聡史、20世紀ロシアの作家ブルガーコフの作品、日本初演。ロシア帝国支配下のウクライナの首都キエフに生を受けた作家。この白衛軍 The White Guard』は内戦の体験をもとにした自伝的長編小説、「白衛軍への挽歌である」として当局より厳しく批判され、その後に書かれた作品を含め多くが発禁となったいわくつきの作品。「ソヴィエト政権誕生後のキーウを舞台に、ある一家の物語が描かれます。戦争や侵略などあらゆる名のもとで行われている破壊活動が、個人の思いや命を潰していくということを描いており、昔の作品ではありますが現代、今につながっていくもの」とコメント。ちょうど現代もロシアとウクライナの戦争は続いている、まさに今だからこその作品。

(上段 左から)村井良大、前田亜季
(下段 左から)上山竜治、大場泰正、大鷹明良

2025年、最初の公演は新しい試み「こつこつプロジェクト Studio公演」、三好十郎原作『夜の道づれ』。これまでクローズドで行っていた試演を小規模ながらも観客の前で上演、演出は新国立劇場初の柳沼昭徳。戦後の日本が舞台。「戦後日本で甲州街道を歩く、この歩みがキーワード」と語る。「このStudio公演も、第2期の『こつこつプロジェクト』の延長線上にある公演となり、普段の公演よりもやや小規模」と語る。敗戦後の混沌とした時代、人間存在の本質に向き合う作品、「日本はどう歩べきか」とコメント。主人公は2人、作家の御橋次郎と帰り道に出会う見知らぬ男・熊丸信吉、歩く道すがら、様々な人々に出会う、というもの。なお「少し格安なチケットでご覧いただけると思います」とのこと、舞台美術やデザインはやや簡素になる予定。

上段 左から)石橋徹郎、金子岳憲
(下段 左から)林田航平、峰 一作、滝沢花野

5月からはシリーズ「光景-ここから先へと-」、社会の最小単位となる家族が織りなす様々な風景から今日の社会を照らし出すシリーズとなる。「家族を描いた作品はたくさんありますが、登場人物が家族のみは珍しく、それが切り口の1つではあります」と語る。しかし家族がテーマではなく、「家族を通して社会の世相や問題と向き合い、未来に向けて何を考えていったら良いかということをテーマにしたい」と小川芸術監督。

その第一弾としてチェコのブルノ劇場からの多大なる協力を得ての招聘公演となる『母』、「もともとチェコの演劇が大好き」という小川、ブルノ劇場を訪れたことを振り返りつつ「現地ではブルノ劇場の芸術監督たちとお話しさせていただきました」と語る。「今後はチェコの作品を大事にしていきたいというお話をお伺いし、刺激を受けました。公演の際には芸術監督もいらっしゃる予定です」とコメント。なお、この作品は原作はカレル・チャペック、2022年初演、以来定期的に上演されている作品。夫と死別した未亡人の悲劇を描いている。夫はアフリカで戦死、長男は医者、次男はパイロット、だが、この2人も使命を果たして死に、双子の息子も内戦に巻き込まれて殺されてしまう。戦争のさなか残された母と末息子の元に幽霊となって現れるが…という内容。戦争という大きな暴力の中で個人の悲劇と人間性への葛藤が語られる。

『母』舞台写真 提供:ブルノ国立劇場

第二弾は『ザ・ヒューマンズ-人間たち』スティーヴン・キャラム原作、日本初演。トニー賞受賞後に作者のスティーヴン・キャラム自身の脚本・監督映画化。「家族であろうと共有し得ない、打ち明けられない個人のそこはかとない不安がこぼれ出すような作品」と小川監督。2015年に初演、映画はは2021年に公開。物語は感謝祭の夜、ブレイク一家は次女ブリジッドがパートナーと暮らすニューヨークの新居に集まる。一見仲が良さそうな彼らだが、夜が更けるにつれ、一家の会話は不穏さを増していき、それに呼応するように古びた建物は不気味な物音を響かせ、次々に明かりが消えていく…というのが大体の流れ。

第三弾は『消えていくなら朝』、2018年に蓬莱竜太が新国立劇場に書き下ろされ、当時の宮田慶子演劇芸術監督が演出した。今回の演出は蓬莱竜太自身が担う。また昨今話題の宗教2世問題にも斬り込んでいる作品で今の日本において切実な物語として再生される。なお本作のフルオーディションは現在進行中、キャストが決定次第、発表。
小川絵梨子は「これからも若手の作り手の積極的な登用を積み重ねていきたい、『こつこつプロジェクト』やフルオーディション企画、またプレビュー公演などにも引き続き取り組んでいきたい」と今後の抱負を語った。

最後に
「戦争や諍いにおいては強いイデオロギーが掲げられ、破壊行動への正当化も見られます。しかし、その深刻な結果を背負わされるのは一人一人の人間となります。一般化や功利主義から離れ、一つ一つの命、一つ一つの個の生に目を向けることには時に膨大な精神力を必要とし、もちろん限界も存在します。しかし遠く離れた地の、または目の前の、自らにとっての未知の他者を想像し、未知の視界を発見し向き合うための力、ひいて他者との共存への力が演劇には内在していると考えています」

2024 / 2025シーズン 演劇 ラインアップ 概要
『ピローマン』
2024年10月8日(火)~27日(日)
新国立劇場 小劇場

作:マーティン・マクドナー
翻訳・演出:小川絵梨子
出演:成河、亀田佳明、斉藤直樹、松田慎也、大滝寛、那須佐代子

『テーバイ』
2024年11月7日(木)~24日(日)
東京都 新国立劇場 小劇場

原作:ソポクレス「オイディプス王」「コロノスのオイディプス」「アンティゴネ」
翻訳:高津春繁
構成・上演台本・演出:船岩祐太
出演:植本純米、加藤理恵、久保酎吉、池田有希子、木戸邑弥、高川裕也、藤波瞬平、國松卓、小山あずさ、今井朋彦

『白衛軍 The White Guard』
2024年12月3日(火)~22日(日)
東京都 新国立劇場 中劇場
作:ミハイル・ブルガーコフ
英語台本:アンドリュー・アプトン
翻訳:小田島創志
演出:上村聡史
出演:村井良大、前田亜季、上山竜治、池岡亮介、石橋徹郎、内田健介、前田一世、小林大介、大場泰正、大鷹明良、今國雅彦、山森大輔、西原やすあき、釆澤靖起、駒井健介、武田知久、草なぎ智文、笹原翔太、松尾諒

こつこつプロジェクト Studio公演『夜の道づれ』
2025年4月
東京都 新国立劇場 小劇場
作:三好十郎
演出:柳沼昭徳
出演:石橋徹郎、金子岳憲、林田航平、峰一作、滝沢花野

シリーズ『光景-ここから先へと-』Vol.1『母』
2025年5~6月
東京都 新国立劇場 小劇場
作:カレル・チャペック
演出・上演台本:シュチェパーン・パーツル
字幕翻訳:広田敦郎
出演:ブルノ国立劇場ドラマ・カンパニー

シリーズ『光景-ここから先へと-』Vol.2『ザ・ヒューマンズ-人間たち』
2025年6月
東京都 新国立劇場 小劇場
作:スティーヴン・キャラム
翻訳:広田敦郎
演出:桑原裕子

シリーズ『光景-ここから先へと-』Vol.3『消えていくなら朝』
2025年7月
東京都 新国立劇場 小劇場
作・演出:蓬莱竜太
出演:2024年2・3月実施予定のオーディション合格者

『こつこつプロジェクト-ディベロップメント-』第3期
参加演出家:栗原崇、鈴木アツト、柳沼昭徳

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公式サイト:https://www.nntt.jac.go.jp