渡辺えりの古稀記念として『りぼん』『鯨よ!私の手に乗れ』の連続公演が決まった。
80 年代の小劇場ブームを牽引し、いまもエネルギーをそのままにひた走る渡辺えり。渡辺は寺山修司や唐十郎、蜷川幸雄といった戦後日本の演劇を築き上げた人々に大いに影響を受けながらも、確固としたオリジナリティをもった作品を上演。渡辺の徹底的に手作りでやっかいなことにこだわるその演劇を、これから演劇の迷宮に突入していく若い人に、そしてこの後の世界を生きるすべての人に届けるべく、激動の昭和から現在まで力強く生きる女性たちの群像劇 『鯨よ!私の手に乗れ』『りぼん』を2本連続上演。
渡辺えりは「歳をとったという自覚がない」と語る。古稀とは数え70歳。唐の詩人杜甫の詩・曲江(きょっこう)「酒債(しゅさい)は尋常行く処(ところ)に有り 人生七十古来稀なり」が典拠。「17歳から活動し続けてきた…ずっと頑張ってきたのですが、なかなか…。2作品連続上演、70歳ですのでいつまでやれるか分かりませんが…」と挨拶。
そして上演中の『さるすべり』について。上演が決まった経緯について「コロナ禍の頃にいろんな公演が中止になりました。こういう時こそ演劇が必要だと思うのにできない。そこで女性の力を発信しようと…一週間で書き上げたんです。ギリギリ、切羽詰まった状況の中で、稽古しまして」と語る。2020年8月に上演。今回は『喜劇 老後の資金がありません』(2021年)で共演した高畑淳子と。ちなみに渡辺えりとは同い年。「33年前の作品『女たちの十二夜』(1991年)をサンシャイン劇場で観まして、高畑淳子さん、白石加代子さん、汀夏子さんetc.女性だけの『十二夜』でしたけど、その時のサー・トービー役の高畑さんを観まして。お腹抱えて笑ってしまいました。松竹さんから『喜劇 老後の資金がありません』で『誰か一緒にやりたい人は?』と聞かれて『高畑淳子さん』と。稽古して、気が合っちゃって!演出家から何度も『静かにしてください』と稽古場で怒られるくらいに喋って。本当に面白い…高畑さんは毎回死ぬ気で演じている、人柄と演技力、それで『さるすべり』にお誘いして実現しました」と語った。また、『さるすべり』では高畑淳子が犬の鳴き声を披露。また、初日の感想ということで「今日、(開けて)4日目、自分が芝居を50年間やってきて、『よくやってきたな』と思います。色々思うことが多すぎて『演出ができてないな』とか、『もうちょっと…』と思いながらやってるので…高畑さんの芝居が面白くて。現実と非現実のグレーゾーンがいっぱい出てくる。上京してきて劇団のスタッフとして8年ほど演出助手をやってきまして、その時の経験を入れて芝居作りを最初から最後までやった中で…その果てのなさ、憧れ、平和、戦争…演劇を作るのを諦めない、どんな状況でも諦めないという気持ちと、毎日1本やらせていただいてるので、高畑さんとその気持ちがピッタリと合って。その時は本当に感動しますし、お客様が射抜くような眼差し、こちらも緊張しますし。毎日、微妙な感情で日々を迎えています。幕が開いて『よかったな』という思いはあります。キャスト・スタッフが色々な苦労を乗り越えて、初日を迎えてくださったこと、心から感謝しております」とコメント。
また2作品上演については、2作品とも反戦色が強く、フェミニズム色が強いもの。戦争中や戦後の様々なこと、渡辺えりは「その昔、当時新聞記事に本当に載ってたから本当だと思うんですけど、横浜で皇室の人たちとかが襲われるといけないから、一般の人を募集して、元経営者さんとか、未亡人とか…米軍相手の娼婦になったっていうこと…米兵から逃げた女性の1人が後ろから射殺された記事が出てまして。従軍慰安婦のことなど様々な理由で封印されてしまって…差別の問題や米軍の駐留…第2次世界大戦のすぐ後ですからそれが横浜で本当に頻繁にあったような記事を見つけて、こういうことが2度と起こしちゃいけないっていうふうな思いがありました。それから関東大震災のときに被服所跡地でみんなそこに逃げてきて、2万人?だったかと思います…そういうことをなんとか書きたいと思いまして…『りぼん』、青山円形劇場で初演をやりまして、その後吉祥寺シアターで上演してから、再演は横浜の赤レンガ倉庫。それもとても評判が良くて、横浜の方にも来ていただいたんですがそのときにそのさっきも言った取材をした場所が、もうその看板を外されてしまって、どういうことがあったのかってのはどう、役所とかまで行かないとわからないようになってしまったんですけど、でも資料を読みますと、今もその横浜の方にそういう場所がまだ今も残ってるんですよね。最近また山崎陽子さんが取材をして書いた『女たちのアンダーグラウンド』が今、発売されてますけども、過去の話ではないんです。女性の立場で描いた反戦のお芝居です。私が初めて東京に来たのが横浜で山形第6中学校の中学生。氷川丸が引揚船、満州からみんな帰ってきた。そのことも書きたかった…『鯨よ!私の手に乗れ』反戦色の強い老人介護施設の話、その鯨は国境なき医師団みたいな本当に平和を祈って、その鯨の形の大きなせえの潜水艦で子供たちを救うっていう、その幻想の平和へのシンボルとして鯨を出しています。それで今またやろうというふうに思ったわけです」と語った。
また来年古希を迎えるということで「70代のイメージ」を聞かれて「70って数字だけ見ると70ですけど、内面はもう本当に18歳で演劇に憧れて山形から出てきたときとあんまり変わってないんですね。以前は前はもう本当人と喋るのが怖くて。山形弁しか喋れなくて恥ずかしくて東京便とか喋りたくなかったってのが、こうやって東京便を喋ってますから、すごい成長したと思うんです。また、空想の物語で生きてきて、それでアルバイトとかも三つぐらい掛け持ちでやってるんですけど、夢物語をこう思いながらやってて、それで人とあんまり喋れなかったのが、こうやって喋れるようになりました」と語る。そして「自分が体の動く限り頭で理解できる限り旧作も、やっていきたいというふうに思ってます」とコメント。
最後に公演PR。
「これからそのシニア世代が活躍していく時代になると思うんですね。これから新しいことを始めたいって思う人もたくさんいると思うんです。それをやっぱり自己責任自己責任なんて言葉が流行ってますけど、お互いに支え合って、できないところはみんなでカバーし合いながら、とにかく元気生きていかなくちゃいけないって思います。だから、うちの母親を見てても、もう介護する人も大変ですし、介護される人も大変です。やっぱりその元気でいたい、生きてる間は元気に過ごしていきたいとお互いに思ってるので、お客さんと私と支え合いながら一緒に頑張っていきましょうっていうふうに言いたいです。それで、今回の『さるすべり』もう四国とか九州とか、山形、新潟から中央からわざわざ見に来てくださってるお客様がすごく多くて。やっぱり元気になりたいって、わざわざ飛行機に乗って見に来てくださってるみたいなので、私なんかいろいろもう自分で持ち込んだり、いろんな大丈夫だなとか思ったりしたこともあったんですけど、そのお客様が私が演技してるのを見て、すごく勇気をもらえるっていうふうにわざわざ言ってくださるんです。同年代の人たちだから、その人たちが頑張れるように頑張らなきゃなっていうふうに思いますし、それでそういう皆様からまた私も生きる勇気をもらってるなっていうふうに思います。号泣して泣いてくださってる若い方もいらっしゃる、もちろん同世代の人たちにも見に来てどんどん見に来ていただきたいんですが、若い人たちやこれからNPOを始めたいと思う人たちや、今なんかちょっと行きづらいなって悩みを持ってるなっていう若い人たちにも、ぜひ見ていただきたい作品だ思ってます。来年の1月で70歳。本多劇場でもう8回ずつしか公演できないんですよね。全編生バンドですよ。それで役者全員楽器もやります。みんな役者が楽器を弾いて演奏してると思います、『鯨〜』と『リボン』両方ともやります。ぜひそれも楽しみにお待ちください」
<『さるすべり』舞台写真撮影:加藤春日>
『りぼん』あらすじ
現代の横浜。「すみれ」、「百合子」、「桜子」3人は関東大震災後に建て られ、最近取り壊された「同潤会アパート」の同じ住人であった。彼女ら が住むアパートには、シベリアで抑留されていた夫を持つという「春子」、 影を背負う謎の老女「馬場」ら、過去に心の傷を負った女性たちが支え 合いながら暮らしていた。そしてそれぞれに「水色のりぼん」の記憶を 持っていた。
一方、欲情すると水色のりぼんを吐くという奇病を持つ青年「潤一」は、 母の遺骨を探す旅の途中、横浜で“浜野リボン”と出会う。リボンは、赤子であった自分の胸に水色のリボンを縫い付け、墓場に捨てた母の消息を求め、娼婦であった母を知る人物の目に留まるようにと、自らを娼 婦の姿に変え、横浜を徘徊している青年であった。母から体に水色のり ぼんを十字架のように背負わされる2人は、その謎を解くために鍵とな る「同潤会アパート」へと向かう。まるで水色のリボンが彼らを引き寄せるように……。
青山同潤会アパートで潤一たちと春子らアパートの住人達は初めて出 会い、皆の生い立ちと記憶の謎明らかになってゆく。住人の一人「春子」 は愛娘を夫に殺されたという過去を持っていた。戦後娼婦として働かさ れたという春子の境遇に逆上した夫が春子と娘とを見間違え、首をリボンで絞めてしまった。そして、実は愛娘の死体のお腹から産まれたのが 潤一であった――。
2003年に上演、2007年に再演された本作品。未だ混沌と尽きない悩みの最中にある現代日本で蘇る。バンドネオン・ピアノ・ギターの生演奏と 共にお送りする音楽劇。
『鯨よ!私の手に乗れ』あらすじ
架空の地方都市の町、山崎県山崎市にある介護施設に神林絵夢がやってくる。ここは母・生子が入所しているのだ。久しぶりに見舞いにきた神林絵夢。母・生子は認知症で、絵夢の弟・公男やその妻・美代子が世話をしているものの、二人が誰かはわからない。絵夢が60歳になるまで演劇を続けてきたのは母のおかげ。晩年ぐらいは自分のために自由に生きてほしいという思いとは裏腹に、時間や規則に縛られて暮らす母の様子を見て絵夢はショックを受け介護士たちに不満をぶちまける。
介護施設には元美術教師だった藍原佐和子、看護婦のように振る舞う吉川涼子ら入所者、ヘルパーとして働く水島貴子と生子と同世代の人々がいる。彼女たちは次々に語り出す。
彼女らは40年前に解散した劇団のメンバーで、主宰が行方不明になったため上演できなかった作品をいつかやりたいと約束をしていた。生子もその劇団のメンバーだった。
ところが彼らの持っている台本は、認知症の患者が認知症の老人を演じるというもの。悲しい結末を知った介護士が途中から破り捨ててしまっていた。その状況に絵夢は台本を書くと言い出すーー。
2017年に上演された本作品。『演劇』を通して人生を見つめる。人生の中に『演劇』がある力強さを今一度、現代に問いかける。
『鯨よ!私の手に乗れ』『りぼん』公演概要
日程・会場:
東京
2025年1月8日〜19日 本多劇場
山形(『りぼん』のみ)
2025年1月22日 山形市民会館
『さるすべり』概要 公演中
日程・会場:2024年4月6日(土)〜15日(月) 紀伊國屋ホール
作・演出:渡辺えり
出演:高畑淳子 渡辺えり /松井 夢(ダンス)
鈴木崇朗(バンドネオン)・川本悠自(コントラバス)
公演主催:オフィス300
問い合わせ:オフィス300 TEL:03-6450-8603
公式HP: https://office300.co.jp