藤原歌劇団は、日本オペラ振興会の西洋オペラを公演する事業部門であり、日本で最も歴史があるオペラカンパニー。今日まで80作品(うち日本初演30作品)を超えるオペラを上演、イタリア・オペラを主軸とする公演路線は広く親しまれている。
藤原義江を中心とする日本の代表的な歌手たちとスタッフによって、1934年6月日比谷公会堂においてプッチーニの「ラ・ボエーム」が上演され、藤原歌劇団が誕生。藤原義江は人気テノールとして主役で活躍するかたわら、初代総監督として38年間にわたり藤原歌劇団を統率し、日本のオペラ界の先駆者として偉大な功績を残した。今年、創立90周年、藤原歌劇団総監督を務める折江忠道さんの記念インタビューが実現した。
ーー藤原歌劇団90周年を迎え、お気持ちをお聞かせください。
折江:先ずひと口に90周年という言葉を発するのが憚れる程の重みを感じます。
あの悲惨な第二次世界大戦という荒波を切り抜けて尚、現在に至る活動の道筋を創り上げたのが他ならぬ「吾等のテナー」こと藤原義江先生である事に大きな誇りと共に重い責任を真摯に受けとめています。
天性の舞台人であった藤原先生は歌劇団創設当時から本格的且つ本物のオペラ上演を目指しており、その精神は今も尚、延々と引き継がれています。長い歴史のどんな時代においても一番大切なのは歌の「心」であり、舞台に対する「愛」です。この「心愛」を胸に秘めお客様に感動し喜んで頂けるオペラをお届けしたいと心から願っています。
ーー創立当時のことはもちろんご存知ではないかと思いますが、諸先輩方から聞き伝えられていること、あるいは資料等で、当時のオペラ上演のエピソードや伝説のようなものがあれば教えてください。
折江:1917年(大正6年)~1923年(大正12年)のいわゆる浅草オペラ黄金時代には田谷力三、藤原義江、町田金嶺、原信子、清水金太郎など錚々たる歌手達が名を連ねていて、オペラの内容自体も本格的な作品、オペレッタ的な作品、はたまたミュージカル的な作品と多種多彩を極め、日本語での上演と相まって大人気を博したと聞き及んでいます。
残念ながら生の歌声を聴くチャンスは得られませんでしたが、学生時代「田力」(でんりき)こと田谷力三、「吾等のテナー」こと藤原義江の放送をテレビで何度か見聞きする事が出来ました。お二人とも全くタイプの違うテノールだったのを記憶しています。
それはまさしく大正時代、関東大震災までの6年間しか続かなかった浅草オペラにも関わらず、お客様の多様性と溢れんばかりの活気を垣間見た、貴重な体験でもありました。
ーー今後100周年、200周年と続いていきますが、藤原歌劇団の未来への希望などをお聞かせください。
折江:約40年前頃の藤原歌劇団はバブル全盛時代で、舞台装置、衣裳、外国からの招集歌手、指揮者、演出家に至るまで今からは想像すらも叶わぬ夢の様な公演が続けられていました。
時代の流れというのは実に予測し難いもので、今現在、舞台芸術業界は決して良い状態だとは言えません。世界的な政情不安や経済不振は、即芸術関係業界に打撃を与えるからです。更に機械全盛の時代にあって劇場に直接足を運ばなくともパソコンやスマホからいとも簡単に音楽が聞け、オペラが観られる時代に突入しました。
一見便利で喜ばしい事の様に思えますが、実はオペラの醍醐味は現場にこそ、その価値があります。収録された映像などでは体験出来ない全身を震わす音響 、総体的な劇場の空間、耳のみならず肌から直接浸透する音楽など数々の奇跡的興奮と感動は生の舞台だからこそ生まれる貴重な実体験です。その点、現在におけるオペラは時代の流れに真っ向から反発しているのかもしれません。
そんな中、我々は400年に渡るオペラの伝統、技術を通して新たな方向性を模索し、実行して若い世代の方々に共鳴して頂くべく、オペラ公演を創って行かなければならないと切に感じ、深く望んでいます。
10年、20年先を目指し、古典音楽舞台芸術たるオペラに新しい息吹きを吹き込み、若い歌手達の台頭と共に舞台の革新に努めて行きたい、と固く心に決めています。今後ともよろしくお願い申し上げます。
<今後の公演スケジュール>
タイトル:藤原歌劇団創立90周年記念公演 G.ロッシーニ作曲「ラ・チェネレントラ」
日程・会場:2024年4月27日(土)・28日(日) テアトロ・ジーリオ・ショウワ
指揮:鈴木 恵里奈
演出:フランチェスコ・ベッロット
キャスト
アンジェリーナ 但馬 由香 山下 裕賀
ドン・ラミーロ 小堀 勇介 荏原 孝弥
ドン・マニーフィコ 押川 浩士 坂本 伸司
ダンディーニ 岡 昭宏 和下田 大典
クロリンダ 楠野 麻衣 米田 七海
ティーズべ 米谷 朋子 髙橋 未来子
アリドーロ 久保田 真澄 東原 貞彦
合唱:藤原歌劇団合唱部
管弦楽:テアトロ・ジーリオ・ショウワ・オーケストラ
主催:公益財団法人日本オペラ振興会
タイトル:創立90周年記念・NISSAY OPERA 2024 ピーア・デ・トロメイ
オペラ全2幕
ニュープロダクション(新制作)
日程・会場:2024年11月22日〜11月24日 日生劇場
総監督:折江 忠道
指揮:飯森 範親
演出:マルコ・ガンディーニ
キャスト
ピーア 伊藤 晴 迫田 美帆
ネッロ 井出 壮志朗 森口 賢二
ギーノ 藤田 卓也 海道 弘昭
ロドリーゴ 星 由佳子 北薗 彩佳
ランベルト 龍 進一郎 大澤 恒夫
ウバルド 琉子 健太郎 西山 広大
ピエーロ 相沢 創 別府 真也
ビーチェ 黒川 亜希子 三代川 奈樹
牢番 濱田 翔 (両日)
合唱:藤原歌劇団合唱部
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
主催:公益財団法人日本オペラ振興会
共催:公益財団法人ニッセイ文化振興財団[日生劇場]
タイトル:藤原歌劇団創立90周年公演G.ヴェルディ作曲「ファルスタッフ」
オペラ全3幕
ニュープロダクション(新制作)
日程・会場:
東京:2025年2月1日(土)・2日(日)東京文化会館
愛知:2月8日(土) 愛知県芸術劇場
指揮:時任 康文
演出:岩田 達宗
キャスト
ファルスタッフ 上江 隼人 押川 浩士
フォード 岡 昭宏 森口 賢二
フェントン 中井 亮一 清水 徹太郎
カイウス 所谷 直生 及川 尚志
バルドルフォ 松浦 健 井出 司
ピストーラ 伊藤 貴之 小野寺 光
アリーチェ 山口 佳子 石上 朋美
ナンネッタ 光岡 暁恵 米田 七海
クイックリー 松原 広美 佐藤 みほ
メグ 古澤 真紀子 北薗 彩佳
合唱:藤原歌劇団合唱部
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団(東京)
名古屋フィルハーモニー交響楽団(愛知)
主催:公益財団法人日本オペラ振興会
公式サイト:https://www.jof.or.jp
藤原歌劇団について:https://www.jof.or.jp/about/fujiwara